お礼参りさせていただきます。

その頃、地下の鉄格子で囲まれた部屋では……。



「ぁあ゛あ゛あ゛っ」

「耳がっ、鼓膜がっ……。」

スピーカーから聴こえる大音量に顔をしかめる。


それに、聴こえる大音量は、歌でも、曲ではない。



🔊「残ってる人が可哀想だから。千、もっと楽しもうよ。千って、苛めてるらしいよ。千って、山田くんと付き合ってるんだって。マジで似合わないわ。千をハブいちゃえ。それでも、学校来るんだ。暗い。千の弁当まずっ。消えればいいのに。死ねば。死ねよ。死ね。キモい。学校辞めろ。針本さん。死ね。うざい。死ね。死ね。死ね。うっわ。暗いのが来たよ。マジ暗い。顔もヤバい。てか、ブスじゃん。チビ。ガリガリ。骸骨。

クラスで嫌われてるのに、よく学校来るよね。

アタシだったら学校来れない。

一人で辛気臭い。幽霊じゃん。

生きてんじゃねぇよ。マジ自殺してくれればいいのに。死んでないんだ。マジ死ね。針本さん、死んでください。」



『スピーカーから聴こえるこの言葉……。』



「何なの?」

手錠されている両手を耳を塞ごうと指先を動かす。



ガチガチに縛りつけられているせいか、指先がほんの少しだけ耳に触れるだけだった。


絶えることなく大音量で聴こえるこの言葉。


🔊「残ってる人が可哀想だから。湯瀬さん、もっと楽しもうよ。湯瀬さんって、針本 千のことを苛めてるらしいよ。湯瀬リサコって性病持ちのクソビッチ。マジで汚ないわ。湯瀬リサコを殺っちゃえ。それでも、生きてるんだ。暗い。歯茎剥き出しで笑うな。湯瀬さん、消えればいいのに。湯瀬さん、死ねば。湯瀬さん、死ねよ。湯瀬さん、死ね。湯瀬さん、キモい。湯瀬さん。死ね。湯瀬さん、うざい。湯瀬さん、死ね。湯瀬さん、死ね。湯瀬、死ね。湯瀬さん、顔も性格もヤバい。てか、歯茎剥き出しのブスじゃん。デカ女。痛いぶりっこ。デカオンナ。

私から嫌われてるのに、よく生きていられるわね。

私だったら生きられないわ。フレネミーの湯瀬さん。湯瀬さん、生きてんじゃねぇよ。湯瀬さん、マジ自殺してくれればいいのに。湯瀬さん、死んでないんだ。湯瀬さん、マジ死ね。湯瀬リサコさん、死んでください。 」


スピーカーから聴こえるこの言葉の声は、針本 千の声だった…。


🔊「残ってる人が可哀想だから。千、もっと楽しもうよ。千って、苛めてるらしいよ。千って、山田くんと付き合ってるんだって。マジで似合わないわ。千をハブいちゃえ。それでも、学校来るんだ。暗い。千の弁当まずっ。消えればいいのに。死ねば。死ねよ。死ね。キモい。学校辞めろ。針本さん。死ね。うざい。死ね。死ね。死ね。うっわ。暗いのが来たよ。マジ暗い。顔もヤバい。てか、ブスじゃん。チビ。ガリガリ。骸骨。

クラスで嫌われてるのに、よく学校来るよね。

アタシだったら学校来れない。

一人で辛気臭い。幽霊じゃん。

生きてんじゃねぇよ。マジ自殺してくれればいいのに。死んでないんだ。マジ死ね。針本さん、死んでください。」

🔊「残ってる人が可哀想だから。湯瀬さん、もっと楽しもうよ。湯瀬さんって、針本 千のことを苛めてるらしいよ。湯瀬リサコって性病持ちのクソビッチ。マジで汚ないわ。湯瀬リサコを殺っちゃえ。それでも、生きてるんだ。暗い。歯茎剥き出しで笑うな。湯瀬さん、消えればいいのに。湯瀬さん、死ねば。湯瀬さん、死ねよ。湯瀬さん、死ね。湯瀬さん、キモい。湯瀬さん。死ね。湯瀬さん、うざい。湯瀬さん、死ね。湯瀬さん、死ね。湯瀬、死ね。湯瀬さん、顔も性格もヤバい。てか、歯茎剥き出しのブスじゃん。デカ女。痛いぶりっこ。デカオンナ。

私から嫌われてるのに、よく生きていられるわね。

私だったら生きられないわ。フレネミーの湯瀬さん。湯瀬さん、生きてんじゃねぇよ。湯瀬さん、マジ自殺してくれればいいのに。湯瀬さん、死んでないんだ。湯瀬さん、マジ死ね。湯瀬リサコさん、死んでください。 」


一瞬たりとも絶えることのないこの言葉。

この言葉がアタシの耳元でありえないくらいの大音量でエンドレスで聴こえ続ける。



「ぁあ゛あ゛あ゛」

自分の声で、その言葉を掻き消そうと大声で叫ぶのだが、そんな叫び声は全くの無意味だった…。



アタシは、茫然として、からだの力を抜いた。



「ゥヴヴッ……。」

耳が…痛い……。

足も痛い…。

縛られている体も痛い…。

手錠も痛い……。

手首にはうっすらと血が滲んでいる。



『ハァ……。』

大きなため息をついた。



「アタシ…、殺されるのかな……。」

ぽつりと話す。けれども、その声すら、大音量で言葉を話す針本 千の声に掻き消された。


時刻は、AM9:00。

『ん……。』

目を開けると、私は、喫茶店『ZERO』のバックヤードのベッドで寝ていたようだった。


『ん~。』

手を上げて伸びをした。


私は、喫茶店『ZERO』の扉を開けた。



マスターは、カウンターで焙煎豆を挽いている。



「あっ。マスター。おはよう。」

私は、微笑んだ。



「おはようございます。」

「良く眠れましたか?」

マスターは、焙煎豆を挽いている手を止め、深くお辞儀をした。



「ええ、いつの間にか寝てしまったようだわ。」

「ベッド借りてしまったわ。」

「ありがとう。」

マスターに向かってお辞儀をした。



「いいえ。」

「良く眠れたのなら、ワタクシも嬉しい事です。」

微笑んだマスターは、また焙煎豆を丁寧に挽き始めた。



私は、いつもの場所のボックス席に座る。


『カチャ。』

マスターが、淹れたての珈琲を置いた。

「どうぞ。」

マスターは、微笑んでお辞儀をした。


「ありがとう。」

私もマスターに微笑んだ。


「ん~。」

「いつも、マスターの珈琲、とっても美味しいわ。」

一口啜って、マスターに微笑んだ。



「そう言ってくださると、ワタクシも嬉しいです。」

マスターは、私にいつもの笑顔を見せた。



「マスター!」

「俺にも珈琲を煎れてくれないか?」

私が座っているボックス席に向かう、若くて首に龍があしらわれた刺青が入っている青年。



若くて首に龍があしらわれた刺青が入っている青年は、ボックス席のテーブルに腰掛けた。



「あれから、様子はどうかしら?」

私は、珈琲を一口啜って、若くて首に龍があしらわれた刺青が入っている青年に問いかけた。



マスターが、若くて首に龍があしらわれた刺青が入っている青年に、珈琲を差し出す。



若くて首に龍があしらわれた刺青が入っている青年が、淹れたての珈琲を一口飲んだ。



「あれから、ずっと見ていたんだが、様子は変わらずだ。」

「体を動かしながら、ずっと叫び続けてたよ。」

「もう、耳がおかしくなるくらい。」

「で、暫くしたら、そいつ疲れたんだろうな。」

「何も叫ばなくなったよ。」

その様子を呆れたように話す。



「そう…。」

「ありがとう。」



「でもな……。」

「ひとつも、謝る言葉は出てこなかったんだ。」

「最低だよな。アイツ。」

ギロリと、若くて首に龍があしらわれた刺青が入っている青年は、憎ましい女が居る地下の扉を睨んだ。



「そう…。」

「ありがとう。」



「皆さんも、お疲れでしょう?」

「ずっと、監視映像を見ていて。」

「少しお休みになってください。」


カウンターにいるマスター、

カウンター席に、眼鏡をかけた男性、ボックス席の女子高生、ボックス席の母親と父親らしき男女、男子中学生、サラリーマン姿の男性、若くて首に龍があしらわれた刺青が入っている青年に、ぐるりと見渡して優しく声をかける。



「いえいえ、アナタの為なら休憩など必要ありません。」

若くて首に龍があしらわれた刺青が入っている青年が話す。



「ウチなら、大丈夫だけど。」

「前から昼夜逆転してるし。」

ボックス席の女子高生が、コーヒーカップを触りながら話す。


「僕も…。」

男子中学生が小さく手を上げる。


「まぁ、皆で協力して体を休めていますので……。」

「ご心配ありがとうございます。」

若くて首に龍があしらわれた刺青が入っている青年が、深くお辞儀をした。



「そう。」

「それなら良いですけれど…。」

皆の顔をぐるりと見渡して、微笑んだ。




時刻は、AM11:00。


「今日も、始めさせていただきます。」



地下へと続く扉を開けた。



私は、湯瀬リサコがいる地下へと向かう。


『コツ…コツ…コツ……』

地下へと続く階段を下りる。


『コツ…コツ…コツ…』

湯瀬リサコがいる鉄格子の部屋へと向かう。

私が声をいれた言葉は、廊下まで聴こえ続けている。



『ギィー』

鉄格子の扉を開けると嫌な音を立てる。



『コツ…コツ…コツ…』

椅子に縛り付けられている湯瀬リサコの周りをゆっくりと観察するように歩く。



こんなに大音量で聴こえるのに、湯瀬リサコは、船を漕いでいるように寝ていた。



『フッ………』

「どこまでも図太い女だわ…。」

「呆れてしまうわ…。」

湯瀬リサコの周りをゆっくりと歩きながら、冷たい目をした。



『ピッ。』

スピーカーから大音量で聴こえる音を止めた。



湯瀬リサコの耳元で、大きな声を出した。

「湯瀬さん!」

「起きてくださるかしら。」

「もう、睡眠の時間ではありませんよ。」



その瞬間に

『ビクッ』と体を動かす湯瀬リサコ。



目を開けた湯瀬リサコから、『サッ』と距離を置いた。



「起きました?」

「よくも、こんな状態で眠れましたね。」

「普通では考えられないわ。」

呆れたようにため息をつく。



「あ……ぁ……。」

掠れた声で何かを訴えている。



「何かしら?」

『フッ……。』

「その声、どうかしたのかしら?」

「汚ない声だわ。」

「聞きたくないから声を出さないでもらえるかしら?」

冷静に淡々と話す。



『……。』

じっと黙ったまま、両手の手錠を『カチャカチャ』と動かした。



「どうですか?」

「今の気分は、最高でしょう?」

冷静に淡々と話す。



『……。』

顔色ひとつ変えない針本 千に恐怖を感じる。



「どうかしら?」

「訴えたくても声が出ない、うんん、声が出せないこの感じ。」

「分かってもらえたかしら?」

冷静に淡々と話している様子だが、目が睨んでいるのが分かる。



「あ……ぁ……。」

「いつ、ここから、出して…くれるの?」

掠れた声で、途切れ途切れに訴える。



『ん~。』

「その様子では、無理ですね。」

顎に指先を置きながら、憎ましいこの女の周りをゆっくりと歩く。



『へっ……。』

無理という言葉に、アタシは固まった。



「言葉遣いは悪いですし、あの環境で寝ていますし、反省の色が全く見えていないですからね。」

『フッ……。』

「しょうがないですね。」

冷静に淡々と話している針本 千がピタリと止まった。



アタシの目の前に、針本 千が立ってアタシを見下ろしている。


「しょうがないですね。」

「しょうがないですよ。」

「だって、ひとりの人生ぶち壊したのですからね。」

「ねっ?」

冷静に淡々と話す。

「アナタのせいで。」

声がいきなり低くなり、目つきを変える。

針本 千は、アタシを睨んでいる。



『あっ……。』

声が出なくて体が固まったまま目が離せなかった。



「さっ。」

「あら。ランチタイムだわ。」

大袈裟に手を叩いた。


「私ね、湯瀬さんにお弁当作ってきたのよ。」

「あの時、学食ではなくて、教室で食べていたでしょ?」

「その雰囲気を味わってほしいのよ。」

私は、作り笑いをする。



「では、持ってくるわね。」

私は、監視カメラに、目で合図

する。


遠くの方からガラガラと騒がしい音が近づいてくる。



鉄格子から見える。

アタシを押さえつけて、ここに連れてきた、この男たちが…。



この男たちが、キッチンワゴンを持ってきた。

キッチンワゴンに、何か大きなものが乗っている。

布で被せられていてよく見えない。



「お待たせ致しました。」

この男たちが、針本 千に向かって深くお辞儀をしている。



『どういう関係……。』

その様子を見てアタシは、不思議に思った。




「ありがとう。」

私は、眼鏡をかけた男性とサラリーマン姿の男性に微笑む。



「それでは、失礼いたします。」

この男たちは、針本 千にお辞儀をして、足早に鉄格子の部屋から出ていった。



「えぇ。ありがとう。」

眼鏡をかけた男性とサラリーマン姿の男性に声をかけ、鉄格子の扉を閉めた。



シーンとした空間に、鉄格子の扉を閉める音が響いた。



そして、私は、キッチンワゴンをゆっくりと動かして、振り向いた。



『フッ……。』

針本 千がアタシに向かって不気味に笑う。



そして、ゆっくりとキッチンワゴンを動かして、アタシに向かってくる。



キッチンワゴンのタイヤが軋む音が響いている。


アタシの目の前に、キッチンワゴンを停めた。


「さぁ、湯瀬さん。」

「ランチタイムですよ。」

「思う存分、食べてくださいね。」

「沢山、作ったのよ。」

「湯瀬さんのために…ね。」


そう言って、ワゴンにかかっている布に手をかける。



『バサッ。』

ワゴンにかかっている布を勢いよく取った。



ワゴンに掛かっている布が取られて現れたのは、大きなステンレストレーの上に、大量の唐揚げが山積みに乗せられている。

そのステンレストレーがもうひとつある。

同じようにそのステンレストレーにも大量の唐揚げが山積みになっている。


出来立ての唐揚げの匂いが、この暗い鉄格子の部屋に漂う。



『ドンッ。』

何かを置く大きい音が鉄格子の部屋で響く。


机の上に唐揚げが乗せられているステンレストレーをひとつ置いた音だった。

机の大きさくらいあるステンレストレーだ。



『フフッ。』

机の上にステンレストレーを置いた針本 千はアタシの顔を見て不気味に笑った。



「さぁ、湯瀬さん。」

「思う存分、食べてくださいね。」


「ほら、手を合わせて、『いただきます。』」

「しないと、お行儀が悪いですよ。」



「あぁ。お行儀悪い人でしたね。」

「人のものを勝手に奪う人ですからね。」

湯瀬リサコに近づき、顔を覗いて首をかしげる。



「でも…、今はランチタイムです。」

湯瀬リサコから離れ、湯瀬リサコの周りをゆっくりと歩き始める。


「何があっても全部食べるまでランチタイムは終わりませんよ。」

「ここは、いいえ、湯瀬さんは、高校生でも大学生でもありませんからね。」







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