第5話 繋がり
不思議だった。前にもここに来たことがあるような気がする。ふわふわしたような変な気持ちになった。
足元を見ると、どうやら僕は雲の上に座っているようだ。眩しいなと思いそちらに目を向けると、少女の背後からお月様が現れた。
お月様は優しく微笑んで、僕と少女を交互に見つめるとこう言った。
「ようこそ。夢の世界へ。ここは君の頭の中。君の考えていることがそのままこの世界に反映されるのですよ」
……お月様が喋った。その事実に唖然とする。いや、でも夢なのだろうか……。
僕は混乱した。けれど、ここにいるといつもより素直になることができて、僕じゃないみたい。
「何だか難しい顔してるね。どうしたの?」
少女が僕に話しかけた。
「そうかなあ。なんだかここは不思議な世界だ。現実じゃないみたい」
「まあ夢の世界だからね〜。君が笑えばこの世界は黄色に包まれる。そして妖精がワルツを踊る。君が怒れば世界は赤色に包まれて、あちこちから湯気がでる。君が泣けば世界は青色に包まれて、妖精も涙を流し始める。この世界は君の心の中と連動しているんだよ。だから君が我慢をしていてもバレバレ。気楽に生きなさいってこと」
少女は周りを見渡しながらそう言った。その表情はどこか大人びていた。まるでこの世界のことを全部知り尽くしたかのように。
羨ましかった。僕もそんな顔をしてみたい。
「今は紫色に包まれているね。妖精も困ったような顔してる」
振り返ると妖精たちが首を傾げて立っていた。妖精の中にはきょろきょろと周りを見渡している者もいた。そして空は一面どんよりとした紫色が覆っていて、心に重いものがのしかかったような気持ちになった。雲も多く、何かを隠している、という風にも捉えられる。
「僕は今動揺してるってことかな。空と妖精の様子を見れば、そんな気がする」
「まあ無理もない。急に夢の世界だとか気楽に生きろって言われて動揺しない人はいない。君の反応は正しいよ」
少女はそう言うと、ふふっと笑って空を見上げた。
お月様はさっきから笑みを崩さず、今もそこに姿を見せている。
「こういう時に世界に光を照らすのが私の役目でございます。どうぞ安心して過ごしてください」
お月様はまたにこっと笑った。その笑みはさっきの発言を裏付けるようにして、僕を安心させた。
その時、目の前の景色が歪んだ。かすみがかかり、ぐにゃぐにゃと粘土のように形を失う。やがてマーブル模様の景色が僕を誘う。さっきまでいた少女とお月様はもうそこにはいなかった。
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