第3話 花開く

「あ、初めまして……」


 しどろもどろとしている僕に、女の子は笑みを浮かべて口を開いた。


「久しぶり」


 ……ん?久しぶり?

 久しぶりということはどこが出会っていたということ……ってえ!?


 頭を抱えてぶんぶんと振っては首を傾げている僕の姿を見て、女の子はぷっと吹き出す。


「動揺しすぎー笑」


 僕は固まる。本当に昔……会ったことがある?だとしたら、いつ、どこで?


「私は竹内 初音はつね改めてよろしくね」


 僕の気持ちを無視するかのように女の子は自己紹介を始める。竹内初音……うーん、聞いた覚えは無い。


「僕は藤田悠里。こちらこそよろしく」

「この後一緒に部活動見学行かない?」


 お誘いだ!僕は心の中でガッツポーズをする。僕も見学に行きたかったから尚更嬉しい。


「うん。僕も行きたい」

 

 勇気を出して、僕も声を発する。こんな風に友達……と話したのはいつぶりだろう。

 僕の中で動かなくなっていた歯車が少しずつ動いているような気がした。


「興味ある部活とかある?」


 僕は少し考え込む。興味のある部活か……。


「うーん。中学の頃は美術部に入ってたんだ。運動能力低いから……笑」

「えっ!私も美術部だった!」


 初音が目を輝かす。同じ美術部同士だ。


「初音はどんな絵描くの?」


 自分から話しかけることが出来たことに内心驚くも、自分自身の成長にちょっぴり嬉しくなる。


「私は、空とか自然を描くよ。心が浄化されるような感覚が大好きなんだ」

「素敵だね。僕も自然が好きだよ」


 小鳥がちゅんと鳴き、葉は風に揺られてざぁーっと音を立てる。今日も自然は生きている。

 太陽の日を浴びて、それに感謝するように自然は、僕らは生きている。


「じゃあ、美術部見に行く?」


 初音が提案する。


「いいね。見に行こっか」


 僕らは教室を出ると、渡り廊下を歩き、一階分階段を上って美術室に向かった。


 ドアが開いていたので教室に入り込む。微かに油絵具の匂いが鼻をくすぐった。

 そこには美術部員が何人か、それぞれキャンバスに向かって真剣な表情で筆を走らせていた。その風景に懐古の念を抱いた。


「この風景好きなんだよねー」

「僕も好き」


 その声で部員がこちらに目を向ける。大事なものを見つめるようにして、手を止める。


「部活動見学?来てくれてありがとう」


 部長らしき人が話しかける。その問いかけに初音が応える。


「はい。私も、悠里くんも中学の頃美術部だったんです。それで、来ました」

「よろしくお願いします」

 僕も後に続いて応える。


「ゆっくり見学して行ってね」

「ありがとうございます」

 二人で声を揃えてお礼を言った。


 壁に飾られている絵を見つめる。やはり美術は心を揺さぶられる。ここに居ると落ち着くし、何も考えないでいい。この時間が僕は大好きだ。その気持ちは昔から変わらない。


 僕は絵が好きだ。ここでまた絵を描きたい。


 私は絵が好きだ。ここでまた絵を描きたい。

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