【短編】もういない君を想う

奏流こころ

もういない君を想う

「はぁ…」


 放課後、1人で手紙を書いている。

 ここにはいない君に送る手紙だ。

 溜め息ばかりついてしまうのは何故だろう。

 10回は溜め息をしている気がする。

 幸せが10個分減ったのかもしれない。

 またペンを走らせる。


 本当にはいない。

 転校するなんて思わなかった。

 嘘だろうと思っていたから。

 今思うと、タラレバになるが、いろんな事を一緒に経験出来た事はあるはずだ。

 グループだって、一緒になれば良かったな。

 もっと話せば良かったな。


 連絡先、聞いとけば良かった…。


「はぁ…」


 11回目になるであろう溜め息が出た。

 心の中はもやもやだ。

 淋しさが靄になっている感じ。


 その人は、大人しくて落ち着いていて、所作が綺麗だったからおしとやかに見えて、髪は丁寧に手入れがされていて艶々しく見えた。

 雪のような白い肌は柔らかそうで、恥ずかしがっている時に頬が少し赤くなると可愛らしかった。


 また、会いたいなー…。


 時間が経つと彼女の事は鮮明に覚えていても、小さな出来事は記憶が薄れてしまうのだろう。

 それは、秋の知らせを告げる、朝霧のように。


 儚いな…そう思いながら、手紙を完成させた。



 あれから4年…。


「「あっ」」


 キャンパスですれ違った時に、何かを感じて振り向くと。


 


 心にずっとあった思い出に掛かっていたあの朝霧は一瞬で消えて、美しく輝く目の前の彼女を、太陽が優しく照らしている。


「久しぶり」

「久しぶり、元気だった?」


 あの頃の2人に戻る。

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【短編】もういない君を想う 奏流こころ @anmitu725

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