第7話 実は知らない事ばかりでした



「ウル、君は龍という存在がどういったものか分かるか?」



 突然、シリウスさんは、僕にそんな事を訊いてきた。勿論、僕がそれを知っているわけもなく、父さんも僕に難しい事を教えても、言葉が伝わらないと判断したのか、そういった事は全く知らなかった。



「(知らないです。僕、龍じゃ駄目?)」



「そうか。知らないならば、教える必要があるな。ウルは森以外の事をどれくらい知っているんだ?」



 森以外の事……あれ? 僕、何も知らないかも? いやいや、五年も生きてるし、少しくらいは……魔法は、今日知った。人が居る事も今日知った。魔物が居るのも……今日知った。あれれ? 僕、実は何も知らない?



「(父さん、僕……何も知らない?)」



 僕が首を傾げると、父さんはコクリと頷き、シリウスさんは口元を手で押さえ、プルプルと何かに耐えていた。



 なんと! 僕は五年間何をしてたんだ! 食べて、寝て、みんなのブラシがけをして、水浴びして、モフモフして、水浴びして、またモフモフして、水浴び……僕、モフモフと水浴びしかしてない!



「(父さん、父さん! 僕、水浴びしすぎ?)」



「ワゥ、ワンッ」



 父さんが、僕はそのままでいい、と言うと、シリウスさんに通訳してくれたのか、シリウスさんが「ウルは水浴びが好き?」と訊いてきた。それに対して、僕がコクコクと何度も頷くと、シリウスさんが突然、地面に頭をつけて悶え始めた。



 うぇっ!? だ、大丈夫!?



「よし、庭の噴水を改造しよう! ウル、君さえ良ければ、うちの子にならないか? 妖獣様、ウルをうちの養子にし、しっかりと学ばせた方がいいです。ウルの為にもなるはずです」



 シリウスさんの養子? でも僕……



「(父さんと離れたくない。森のみんなに会えなくなる?)」



 しかし、父さんは僕の頬に擦り寄り、シリウスさんに目を向けると、少し尻尾が揺れている事から、父さんはシリウスさんの提案に乗り気なのだろう。



「ワゥ、ワゥワンッ」



 え、僕と一緒に来てくれるの? でも、父さん……



「(森の仕事は? してるって言ってたでしょ?)」



「ワンッワンッ」



 だ、大丈夫なの? 本当に?



「ウル、妖獣様が、森を護るのは離れていても出来ると言ってる。そもそも、あの神域の森には、誰も手が出せない。あそこに辿り着く前に死んでしまうからな。それに、魔物もあの森には手を出さない。大丈夫だ」



 そうなんだ……本当に、大丈夫なんだ。それなら僕、いろんな所に行ってみたい。父さんが一緒に居てくれるなら、いろんな事してみたい。



 前世の僕はゲームや小説や漫画も好きだったが、お金がなかったために、勉強をする事で暇潰しをしたりしていた。しかし、いろんな場所に行ったり、誰かと遊んだりという事ができなかったため、今世では前世でできなかった事をしてみたいのだ。



「(父さんが居るなら、いろんな所に行って、いろんな事をしたい。でも……森のみんなに会えなくなる)」



「クゥーン、ワンッワンッ」



 戻りたい時に戻ればいい、と言う父さんは、他の説明をシリウスさんに任せるのか、シリウスさんの方を見た。



「ウル、あの場所に居たのは、殆どが妖らしい。妖ならウルが呼べば会いに来てくれるそうだ。それから、そこの管狐の子供も妖だ」



「キュキュンッ!」



 えっ! ホオヅキって管狐だったの!? だって、管狐って竹筒に入ってるものでしょ!? 違うの?



「(ホオヅキ、竹筒は? 要らないの?)」



「キュキュキュン! キュンキュン!」



 ん? なんて言ってるの?



「管狐の説明ですか? そうですね……ついでに魔法についても話しましょうか。ウル、管狐は幼少期まで、他のキツネの妖に育ててもらい、大人になれば管狐となって、自分の筒を探しに行き、筒を媒体にする事で魔法を使う事が出来る。どの種族も魔法を行使するには、基本的に媒体が必要だけど、妖獣様やジン達のように、神の力を分けていただいてる方は、媒体を必要としないんだ」



 ふえぇ~、そうなんだ! なんか凄い!



「妖獣様、ウルの着る物がありませんが……このまま行きますか? それとも、一度森にお戻りに?」



 僕……森に帰りたい。でも、ここまで来るのも大変だし、みんなは呼べば来てくれるみたいだから……このままお世話になった方がいいのかな。



「はい、我が家は問題ありません。私が服の用意と、養子縁組の書類をお待ち致します」



 そう言ってシリウスさんが何処かへ行ってしまい、僕は森には帰らず、このまま行く事になったようだ。しかし、そこで僕が疑問に思ったのが、ホオヅキはどうするのかという事だったが、父さんはホオヅキも連れて行く気だったらしく、ホオヅキは喜んで僕の首に巻き付いた。



 父さんは、いつも僕の首をホオヅキに護らせている。なんで護らせているのかは、言葉が理解できないため分からないが、それでも僕には逆鱗があり、そこには触れられたくないという本能のようなものがある。勿論、ホオヅキも僕の逆鱗には触れようとせず、どちらかと言えばうなじの方を護られているのだ。



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