第8話 養子になります



 暫く待つと、シリウスさんが戻ってきて、僕の為に買ってきた服と、養子縁組の書類を持ってきた。



「ウル、似合ってる! 可愛いぞ」



「ワフッ!」



「キュゥ、キュン!」



 僕が高そうな服を着ると、三人とも可愛いと言って褒めてくれるが、僕は可愛いよりかっこいいと言われたかったため、少しシュンと俯いた。



「ウル、この紙に血判を押してほしい。これは君が私の養子になる為の物だ。私は君の父親になる。しかし、雨瑠にとって妖獣様が父親なのも知っている。少しずつでいい……私を父と思って甘えてくれないか?」



 父さん以外の父親……うん、まだ受け入れられる年齢だ。僕の父親が二人できるって事なんだよね? シリウスさんは、なんとなく信用できる気がする。森のみんなに似てる? のかなぁ。



「(……父様?)」



 僕の言葉を、父さんが通訳してくれた途端、シリウスさんが手で顔を覆い、プルプルと悶え始め、しまいには呼吸が止まり、父さんが尻尾でシリウスさんの背中を叩いた。



「ブハァ……し、死ぬかと思った」



 ……大丈夫かな、この人。なんか残念なイケメンさんだけど……父様呼びはしない方がいいのかな。



 僕が父様呼びをやめた方がいいのか訊けば、父様呼びを全力でお願いされ、ついでに僕が書類の文字を読める事が分かると、文字を使って僕の指文字を教えてほしいと言われた。どうやら、父様は僕と話したくて仕方ないらしい。



 会ったばっかりなのに、いい人だなぁ。この世界って、もしかしていい人しか居ないとか? だとしたら、めちゃくちゃいい世界に転生できたって事だよね? 僕、恵まれすぎてる! まさかこれは……声を代償にした結果!? 神様、そんなに僕の声が欲しかったのかな?



「それでは血判を……妖獣様、ウルの血判は……は? いやいや、私がウルを傷つけるなんて無理です! 妖獣様にお願いします!……いや、まあ私も父にはなりますが……くッ……私がウルの指を傷つけるのか?」



 父さんと父様は、僕の指を傷つける事に抵抗があるらしく、僕を傷つける役目を押し付け合っているが、父様の方が立場が弱いため、震える手でナイフを取り出し、僕の手を取ってチクリと刺した。



「ウル! 早くこの部分に血判を押して! そしたらすぐに治そう」



 指定された場所に血判を押すと、僕の血判は血文字に変化し、雨瑠という僕の名前になった。そして、父様は僕の指に手をかざすと、父様の二の腕に嵌めてあるアームレットが緑色に光り、僕の指の傷が一瞬で治った。



 ふぉおおお! 凄い! 痛みもなくなった! 父様の媒体はアームレットなのかな? 僕もかっこいいのがいいなぁ。



「ふっ、ウルは魔法に興味があるのか?」



 あるある! 興味ある! すっごいファンタジー!



 僕がコクコクと頷き、尻尾をブンブン振ると、落ち着けと言わんばかりに、父さんに咥えられて背に乗せられてしまい、父様は僕のツノを触らないように頭を撫でてきた。これは本能的なものだが、僕はツノを特別な人にしか触られたくないし、おそらく獣人も耳は触っては駄目なのだろうと思う。父さんも、森のみんなも、絶対に僕のツノには触らないようにしていた。



「では行こうか。私の部下に伝えてあるので、妖獣様がいらっしゃっても、すんなり入れるはずです。ウルはあまり目立たないよう、このコートを羽織ってフードを被っておいて」



 僕は尻尾まで隠れるほどの長めのコートを羽織り、フードを被ると父様は流石獣人というべきか、かなりのスピードで走り始め、父さんは氷を出さずに余裕でついて行く。どうやら、父さんの氷はスピードを出す為のものだったらしく、ここに連れて来られた時よりも景色が見やすくなった。



 それから少しの間走ると、森が開けて大きな門が見えてきた。門の前には、父様と同じような格好の獣人達が居て、なぜか全員跪いていた。



「ウル、この獣人国では、妖獣様は憧れの存在なんだ。だから、ああやって跪いている。竜人国であれば古竜様が、妖獣様と同じ扱いだな。まあ、ウルを竜人国にあげるつもりはないから、これは覚えなくてもいい」



 でも、僕の種族ってどっちかといえば竜人に近いよね? 獣人国で僕って受け入れてもらえるのかな。



 そんな不安を抱えた僕は、門の前まで連れて行かれると、部下の人達とともに僕の入国手続きと、養子縁組の手続きをする。父さんのことは、妖獣だという理由で、僕の付き添いという事にできるが、ホオヅキは僕の契約種とするようで、ホオヅキ自身も僕が大人になった時に契約したいと言っていた。



「では俺は、後から挨拶に伺います! 領内の者達には、妖獣様がいらっしゃる事は知らせてありますので、騒ぎにはならないと思いますが、ウルくんについては……シリウス様と妖獣様にお任せします!」



 そう言って、手続きをしてくれた犬の獣人さんは、僕にバイバイと手を振ってくれ、僕も手を振ると周りの部下さん達が、何故かその場で崩れ落ちてしまった。



 あれ? 僕、もしかして手振っちゃ駄目だった? この世界の手を振る意味が、前世と同じような意味だったらいいんだけど……あとで訊いてみよう。

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