第5話 身の危険
あれから、父さんは暫く走り続けていて、魔物であろう変わった生物達が、道を開けてくれる。
父さん、もしかして森のヌシか何か? 怖そうな魔物がみんな頭下げていくけど……
「(ホオヅキ、父さん凄いね。ここのヌシなの?)」
「キュウ? キュン、キュン! キュキュン!」
え、違うの? 森の番人って何? ヌシとは違うの?
「ワゥ……ワゥワン、ワンッワンッ」
仕事? この森は違うって? じゃあ上の森の事? あの森の番人をしてて、仕事としてやってるだけって事なのかな。だとしたら、なんでここの魔物は頭を下げるんだろう。この氷のせいとか? 流石ファンタジー……謎が多すぎる。
それからもずっと父さんは止まる気配がなく、禍々しかった森がだんだんと普通の森に変わっていき、魔物より動物が多くなってきた。
なんか、凄い遠くまで来た気がする。父さんの走るスピード、早すぎるし……って、あれは! 父さん、父さん止まってー!
僕が父さんの毛を思いっきり引っ張ると、父さんは痛みなどないのか、普通の顔をして振り返った。
「(湖!あれ、湖! 止まって!)」
すると、父さんは仕方ないと言わんばかりに溜息を吐き、湖の方に行ってくれた。僕は、ちゃんと父さんの許可を得てから下り、服を脱いで湖に入った。
ふあぁぁ、気持ちいい。
僕がスイスイと泳いで水浴びをしていると、父さんは突然立ち上がり、周りの様子を見てくる、と言って何処かに行ってしまった。一瞬で父さんの姿が見えなくなり、僕は不安になってホオヅキのそばに寄る。
「キュゥ、キュン?」
「(大丈夫じゃない。僕、知らないとこで……父さん居ないの駄目)」
僕は取り敢えず服を着て、ホオヅキを抱きかかえるが、それでも不安な事には変わりなく、どんどん涙がこぼれ落ちてきた。
父さん、早く帰ってきて。僕、ここ知らない。みんな居ない。
「キュゥ……キュッ! キュンッキュンッ!」
えっ、危ないって……ッ!
僕はすぐに振り返ると、二足歩行の豚が鼻息を荒くして、こちらに物凄い勢いで走って来ていたのだ。
む、無理無理無理無理! 何あれ、気持ち悪い! あ、駄目だ。僕死んだ……腰抜けちゃって動けない。
ホオヅキは必死で僕を引っ張るが、それでも移動する事ができず、僕はホオヅキを突き飛ばした。
「(逃げて)」
その瞬間、僕は背後から豚に鷲掴みにされ、服だけを破かれると、ドリルのような気持ち悪いブツに目がいってしまい、僕はこれから自分におこる未来を悟った。
あぁ……僕、こいつに犯されて死ぬんだ。どうせ動物もどきにヤリ殺されるなら、あの森のみんなが良かったなぁ。さよなら、今世の僕……神様、次に生まれ変わる時は、僕に声を返して。
涙が溢れる目をギュッと瞑ったその時、「ブヒィイイイ」という叫び声と「大丈夫か!?」という、聞き慣れない人の声が間近で聞こえてきた。
「ワゥ! ワンッ、ワンッ!」
と、父さん?
僕は恐る恐る目を開けると、僕に覆い被さるように居たのは父さんではなく、とてつもなくイケメンの、銀髪の男性だった。
父さんじゃない! だ、誰!? やだ、父さん!
「ッ……ッ……!」
暴れた僕は、男性の大事な部分を蹴りあげてしまい、男性が痛そうにしているのをいい事に、四つん這いで男性の下から抜け出して、出ない声で父さんを呼んだ。
「ワゥ!」
父さ……父さん、父さん!
「(怖かった)」
「クゥーン、クゥーン」
謝ってくる父さんに、僕がしがみついて泣いていると、ホオヅキも泣いて謝ってきた。そして父さんは、そんな僕を水の中に入れると涙を舐めとって、それ以上は泣くなと言ってくる。
「妖獣様、その子は……」
復活した男性が僕の方に寄ってくると、父さんは念話を使っているのか、耳だけピクリと動かし、僕を見ながら黙った。そして僕の方は父さんではなく、先程は気づかなかった、男性のケモ耳と尻尾に目がいってしまう。
モフモフ! なんだ、あのモフモフ具合は! 犬? オオカミ? よく分からないけど、あの尻尾触りたい!
男性は、髪と同じ銀の耳と尻尾をもち、赤い瞳は強さの象徴と言ってもいいほど、見ていると恐怖を感じてしまう。
「妖獣様、その子に話しかけても?」
父さんは話し終わったのか、僕の顔に擦り寄ると、男性が僕に話しかけてもいいかと、父さんに訊いているが、何故父さんの許可が必要なのか分からない僕は、首を傾げた。
「ウルでいいかい? 私は、獣人国のシリウス・シェスティアという。辺境の地、ベスティクスの領主であり、身分は伯爵だ……と言っても、分かるだろうか。妖獣様から許可をいただいたので、いくつか質問したいんだが、こちらの言葉は分かるかい?」
シリウスと名乗った男性は、僕が父さんに育てられ、動物の言葉が分かる事を知っているらしいが、逆に人の言葉が分からないのではと思ったようだ。
「(大丈夫です。伯爵様、何を知りたいんですか?)」
僕の指文字を、父さんが訳してくれているのか、シリウスさんは父さんに目を向ける。そして、僕の言葉をそっくりそのまま伝えたのか、シリウスさんは苦笑いで僕に言った。
「伯爵様とは言わなくていい。シリウスか……まあ、これは後からでいいかな」
僕が首を傾げると、何故か口元を手で押さえ、バッと目を逸らされてしまった。
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