第4話 初めての森の外



 今日は、初めて森から出る日だ。父さんは、僕を乗せてゆっくりと歩いてくれ、ホオヅキは僕の首に巻きついて眠っている。



 うーん……父さんに乗せてもらうと、僕が話しても見れないから退屈だなあ。この森は綺麗だけど見慣れちゃったし……前世の自分に戻った気分。こういう時は自分と喋るのが一番だよね! 僕、こういうのには慣れてるし!



「ピロロロロ」



 僕が一人退屈していると、突然上空からやってきた大きな鳥が、僕達の周りを一周すると、父さんの目の前で止まり、父さんと何か喋りだした。僕は残念ながら、父さんの言葉しか分からなかったが、その父さんの言葉ですら、僕をチラ見した途端になくなってしまい、鳥とオオカミが見つめ合ってるシーンを見せられていた。



 僕は何を見せられてるんだろう……ハッ! まさか、これは恋の始まり!? だとしたら貴重なシーンだ! 僕ってここに居ない方がいいんじゃない? お邪魔だから、告白できないのかもしれない!



 そう思った僕は、シュタッとかっこよく父さんから下りて着地しようとしたが、それを父さんのモフモフの尻尾に邪魔されてしまった。



「ワウゥ……ワンッ! ワンッ!」



「(怒らないでよ。僕は父さんの恋を応援したいんだから)」



「ワフッ!? ワンッ! ワンッ、ワンッ!」



「(え、違うの? てっきりそうだと思ってたよ。見つめ合ってたから、恋の始まりなのかと思って)」



「ワンッ! グルルルル……ワフッワフッ」



「(え? その言葉、僕分からない)」



 父さんから下りようとした事で、案の定怒られてしまったが、どうやら恋の始まりではなく、ちゃんと喋っていたらしい。しかし、その方法がなんなのか、初めて聞いた言葉で僕には分からず、父さんは僕の顔をジッと見た後、額にベチョベチョの鼻をくっつけてきて、それと同時に温かい感覚が頭に広がる。



『念話だ』



 ッ!? 何これ! 頭に知らない人の声が……もしかして……



「(……父さん?)」



『あぁ、そうだ。雨瑠にはまだ早いと思ったが、少しずつ魔力が作られ始めているようだからな。私がこうして雨瑠の魔力に干渉すれば、少しは念話を使える』



 魔力! ファンタジーだ! 凄い、凄い! て事は魔法もあるんだよね? 僕も使えるようになるのかな? 魔力が作られ始めてるって事は、大きくなれば使えるようになるって事でしょ?



「(父さん、僕も使えるようになる?)」



『念話は魔物やあやかし、ジンや神しか使う事は出来ない』



 ん? じゃあ、父さんは魔物? それに妖ってこの世界に居るの!? ジンもなんかよく分からないし。



『そろそろ雨瑠の魔力が限界だな』



 すると、父さんはビチャビチャの鼻を僕から離し、いつもの犬語に戻った。どうやら、いつの間にか居なくなっていた鳥は魔物だったようで、言葉が分からなかったと父さんに伝えれば、魔物と動物では使う言葉が違うらしい。



「(妖は? どんな言葉を使うの?)」



 そう訊いたのだが、父さんは何故か溜息を吐き、再び歩き始めてしまった。



 うぅ……僕も念話使いたかったなぁ。



 その後も暫くの間、父さんがゆっくり歩き続けていると、突然森が開けたかと思えば、まさかの断崖絶壁になっていた。



 うぇっ!? な、ななな何これー! こわっ! なんか真下の森も禍々しい……



「ワゥ、ワォンッ!」



 掴まってろってまさか……え! 嘘だ! 嫌、嫌、嫌だぁああ!



「……ッ!」



 声が出なくても、息だけはめいいっぱい吐き、普通に落下していく父さんは、シュタッと綺麗に着地した。



 こ、怖かった、怖かった、怖かった! 着地の衝撃とかも全然なかったから良かったけど、それでも怖かった!



 安心すると、ポロポロと自然に涙が出てきて、そんな僕を見た父さんは、僕を地面に下ろすと、ウロウロと忙しなく動き回る。僕はそんな父さんの足に抱きついて、落ち着くまで少しの間待ってもらった。



「ワゥ……クゥーン?」



「(大丈夫。ありがとう、落ち着いた。でも……怖かったから、次からはちゃんと言ってほしい)」



「クウゥ……」



 父さんは、申し訳なさそうに謝ってくると、僕の顔をペロンと舐め、顔をスリスリとしてくる。そして、こんな状況でも全く起きる気配のないホオヅキは、なんの為に来たのか正直分からなかった。



 それにしても……どうやって戻るんだろう。ものすごい高さだけど、父さんは毎回ここに来てるんだよね?



 落ち着いた僕を、父さんは口に咥えてから、ヒョイッと自分の背に乗せると、上の森では歩いていたのが、急に走り出した。



 うわっ! はやっ!



「ワオォーンッ!」



 父さんは、ビリビリと空気が震えるほどの大きな遠吠えをし、その空気が急に冷たくなり始める。



「キュン! キュキュン」



「(ホオヅキ? 尻尾あっためてくれるの?)」



 流石のホオヅキも起きてしまったのか、僕の首から尻尾に移動し、温めるように巻きついてくる。そして、父さんの足元からパキパキと地面が凍り始め、後ろを振り向くと、氷の道ができていた。



 ふぇっ!? と、父さんが……やってるんだよね? ファンタジー……まさか、魔法がこんなに凄いとは思わなかった……この世界では普通の事なのかな?

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