第2話 五歳になった僕は龍人でした



 僕が転生して五年後、ちょうど僕が声を失った歳に、今世の僕も声を失った。それでも、僕は元気に育っていて、僕を育ててくれた犬は、犬ではなく真っ白の綺麗なオオカミで、その大きさは車くらいあり、かなり大きなオオカミなのだが、オオカミと一緒に僕を育ててくれた、他の動物達もかなりの大きさだった。そして僕の友達は、泣いていた時に乗って来たリス……ではなく、キツネだった。あの頃はまだ子供だったようで、今では普通のキツネと同じ大きさだが、五歳児の僕の首に巻き付いて離れない。



「キュン、キュウゥ」



「(ホオヅキ、どうしたの?)」



「キュン、キュン!」



「(父さんが、僕を呼んでるの?)」



「キュン!」



 そっかぁ、じゃあ行かないとだね。



 僕は赤子の頃から育てられたためか、動物達の言いたい事が、なんとなく理解できるようになっていた。この大きな生き物達を、動物と呼んでいいのか分からないが、僕にとっては大事な家族なため、そんな事は気にしていない。そしてこの動物達も、僕が喋れていた頃に癖で手話をしながら喋っていたためか、僕の手話や指文字をしっかり理解してくれていて、僕は主に指文字を使っていた。



 はぁ……それにしても、僕ってなんで声出ないんだろう。もうあの夢は見てないのに……しかも五歳でなんて早すぎるよ。やっと流暢に喋れるようになってきてたのになぁ。



 僕は父さんこと、育ての親である白オオカミの元へ行くと、服を咥えた父さんが僕に擦り寄って来た。



 父さん、また僕に服を持ってきてくれたんだ。でも、その服っていつも何処から持ってきてるのか分からないんだよね……襲ってないといいけど。



 父さんは僕の成長に合わせて、何処かから服を持って来てくれる。毎回、僕のサイズにピッタリの物ばかりで、僕にとってはありがたいが、父さんが人を襲っているのではないかと思うと、そのうち父さんが殺されそうで怖かった。しかし、父さんは無傷で帰ってきて、綺麗な毛にも血などはついておらず、血の匂いもしなかった。



「(父さん、ありがとう。でも、いつも危険じゃない?)」



「ワフッ、ワフッ!」



「(父さんが強いのは知ってるよ。でも父さんに何かあったら、僕が嫌だ)」



「ウゥー……クゥ」



「(僕も次からは連れて行って。連れて行ってくれないなら、僕は服を受け取らない)」



「ッ!? ワンッ! ワンッ、ワンッ……グルルルル」



「(怒っても駄目。僕だって父さんが心配なんだよ)」



「ウゥ……ワフッ」



 やった! 次から連れて行ってもらえる!



 僕は、父さんに連れて行って貰える事になり、テンション高めに父さんに抱きついて、モフモフを堪能していると、ホオヅキが父さんと何かを話しているが、明らかに僕の文句を言っている。



「ワゥ……」



「(なぁに? 父さん)」



 父さんは、僕の名前と前世の記憶がある事を伝えた時から、僕を名前で呼んでくれるようになり、他のみんなも僕を名前で呼んでくれる。なんとなくでしか分からない言葉も、僕の名前だけは雨瑠と呼んでくれているのが、ちゃんと分かるのだ。



 それから父さんが言ってきたのは、「明日行く。ホオヅキを首に巻いておくように。地面には決して下りるな」というものだった。



 父さん、心配症だなぁ。わざわざ父さんから離れるような危険な事はしないよ。僕だって命は惜しいからね!



「(分かった。危険な事はしないよ)」



「……クゥーン」



 過保護な父さんは、疑わしげに僕をジト目で見てくるが、僕はそんな目で見られるのは、もう慣れていたため気にせず、それよりも人に会えるかもしれない事に少しワクワクしていた。



 うーん、やっぱり人に会うかもしれないなら、ちゃんと綺麗にした方がいいよね? みんなの毛をとかす用に作った櫛……は、大きすぎるから、僕用のも作って、あとは水浴びと……



「キュゥ……キュン」



「(楽しそうだねって? うん、ちょっと楽しみだよ。僕、森から離れた事ないし、誰かに乗せてもらわないと、散歩に行っても途中で体力も尽きちゃうから)」



「キュン、キュン」



「(子供って……ホオヅキだって子供でしょ?)」



「キュキュン!」



 ホオヅキは僕の肩から下りて目の前に来ると、胸を張ってドヤ顔をしてくる。「僕は強いからね!」とでも言わんばかりだ。



「(僕、水浴びするけど、ホオヅキはどうする?)」



「キュゥ……キュキュッ」



「(だよね……分かったよ。僕一人で水浴びするね)」



 ホオヅキは僕とは水浴びをしてくれない。ホオヅキだけでなく、みんな僕とは水浴びをしてくれず、父さんですら僕とは水浴びをしてくれない。しかし、みんな僕が溺れないように見守ってくれてはいるのだ。



 僕は水浴びが好きだから、みんなと一緒に水浴びしたいんだけどなぁ。だって僕、一日の半分は水の中に居るんだよ? それを見守られてるだけって言うのは寂しい。



 僕が着ているワンピースを脱げば、腰のあたりから太い尻尾が出てきて、体にはキラキラとした青い鱗が所々に散らばっている。そう、僕はまさかの人間ではなく、龍と人間が混ざった龍人だったのだ。何故竜ではなく龍だと分かったのかと言うと、僕の頭が痛痒かった時に、突然木の枝のようなツノが生えてきて、ドラゴンじゃないのかと父さんに訊いたのだ。そうしたら、父さんは尖った爪で地面に龍の絵を描いてくれて、「雨瑠は龍だ」と教えてくれた。



 それにしても、相変わらず前世と顔が一緒だなぁ。変わったのは髪色と瞳の色くらい? こんな平凡顔に、龍って合わなすぎるよね。残念だね、雨瑠……せめてもっとイケメンさんだったら良かったのにね?



 そんな事を思いながら、水面をベシンッと尻尾で叩きつけ、自分の顔が見えなくなると、水に潜ってスイスイといつものように泳ぎ始めた。




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