転生したら激レアな龍人になりました

翠雲花

第一章

第1話 転生しました



 目が覚めたら、肉食獣の口内が視界いっぱいに広がっていた。



「ッ……」



 しかし、僕が食べられる事はなく、ペロンと顔を舐められる。



 な、ななな……え!? どういう状況!? 僕、犬は飼ってなかったんだけど……あれ? ここ何処?



 僕はバイトから帰ってすぐに、疲れて眠った筈だったが、何故か森に居て、視力も落ちているのかハッキリとは見えないが、大きな白い犬のようなものに包まれていた。



 ん? 体がなかなか動かな……えっ! なんか手が小さい!?



 僕は試しに声を出そうとしたが、残念ながら喋る事はできなかったが、「あー、あー」という声は出た。そんな僕を心配したのか、また顔をペロンと舐められ、鼻でツンツンと優しくお腹を押される。



 僕、赤ちゃんになってる? しかも、周りに人の気配もしない。まさか寝てる間に何かあって……僕、死んじゃった? これって、流行りの転生? こんな大きい犬? も知らないし、異世界だったりする?



 大学生だった僕、卯月ウヅキ 雨瑠ウルが、赤ん坊になって森の中に居るのだ。死の記憶はなくても、死んでしまって転生していると考えてしまうのは、日本人のオタクとしては当然だろう。そうなると次に気になるのは、今世での自分の両親の事だ。前世では早くに両親が事故で亡くなり、僕は祖父母に育てられた。しかしその祖父母も、僕が高校を卒業してすぐに亡くなってしまった。



 僕って、前世に心残りがあるほど大切な人って居なかったんだなぁ。それに、友達も居なかった……あれ? こう考えると、僕って頼れる家族も友達も居なくて、唯一仲良くしてたのは……野良猫……すっごい寂しい奴だった? ワァオ、こりゃビックリ。僕、今まで気づいてなかったよ。自分がこんなに寂しい奴だったなんて……なんて言ったって僕の心の友は、僕の心だったからね! 仕方ないでしょ? 僕、五歳の時に両親が目の前で死んじゃったんだよ? それがショックで、声が出なくなるのは仕方ないと思う! だから、友達が居なくても仕方ない!



 両親の事故は、反対車線の居眠り運転をしていたトラックが、僕達の乗っていた車にぶつかってきたからだった。僕は奇跡的に助かったが、それでも両親は目の前で息を引きとった。その光景は、五歳児にとってショックがあまりにも大きすぎたのだ。今では記憶もかなり薄れているが、それでも眠ると夢に出てくる時がある。夢にさえ出てこなければ、喋れるようにもなっただろうが、僕はその夢が出てきた後、過呼吸になり数日は寝込んでしまう。



 今の僕は喋れるんだ。でも僕が僕である限り、また声が出なくなる可能性はあるよね。



「クーン、クーン」



 僕が考え事をしていると、僕を心配したように犬の鳴き声が聞こえてきて、一生懸命舐められてしまった。



あーう、あー大丈夫だよ



 そう伝えたいのに、声が出ても喋る事ができない。赤子の手では手話すらもできない。暫く僕が喋っていると、突然大きな犬は僕を優しく地面に下ろし、気配がなくなってしまった。



 えっ! 僕、このまま放置!? 嘘でしょ! 流石に転生してすぐは死にたくないよ! 一回でいいから喋りたい! 喋ってから死にたい!



「ふぇ……ふぇぇええん」



 赤子だからなのか、不安になった途端に精神が肉体に引っ張られて、泣き出してしまい、一度泣いてしまえば止める事ができなかった。あまり大きな声が出ないのか、僕はか細く泣き続けていると、突然モフモフしたものが僕の手足に触れ、お腹の上には小さな生き物が乗ってきた。



 な、何!? リス? んー、よく見えない。他にもいっぱい居る?



 僕が少し泣き止むと、さまざまな動物達の声が聞こえてきて、まるで泣き止んでとでも言うように、僕に触れてくる。その触れ方は、僕が壊れやすい赤子だと理解しているようで、ここの動物達は知能が高いのだと思った。



「ワフッ!」



 あ、この気配……あのワンちゃんだ!



 大きな犬が帰ってきてくれたのか、ひと鳴きすると周りの動物達が少し離れ、代わりに犬が僕を包み込み、何かが宙に浮いているのを確認すると、口の中に甘さ控えめの雫が入ってきた。



 これって、まさかミルク? 僕が喋ってたから、ミルクが欲しいと思ったのかな? 僕、見捨てられたわけじゃなかったんだ。良かった……本当に良かっ───



あぅあー溺れる!」



「ッ!? クーン、クーン」



 雫がどんどん口の中に降ってくるため、僕はミルクで溺れそうになり、急いで声を上げると、やはり犬は知能が高いのか、宙に浮いていたミルクの元を何処かに吹っ飛ばすと、僕をうつ伏せにさせてミルクを吐き出させたいのか、鼻でグイグイと押してくる。



 えっ、待って待って! 僕、まだ首もすわってないから、うつ伏せになったら窒息しちゃう!



 僕は必死で転がらないように力を入れると、刺激されたからか、うまくゲップが出て、それと同時に苦しさもなくなった。



「ワフッ、ワフッ!」



 僕が大丈夫だと理解したのか、犬は嬉しそうに舐めてきて、睡魔に襲われた僕を、優しく包み込んでくれた。

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