47日目:舐り怪獣
子供の成長は早い。
つかまり立ち(?)に一度成功してからというもの、「史たん」は日々自己研鑽に励んでいる。
立つことにより筋力を増したせいなのか、ズリバイをする足のキレも日々キレッキレになっていく。
もうさ、最近目が離せないのよ。
気づくとそのキレッキレのステップでテレビガードの柵まで行き、立ってプルプル震えてる。
最初のような転倒はしなくなりつつあるものの、へたり込むのに失敗すれば、そりゃぁ顔面強打するよね。
いくらほっぺぷにぷにガードがあってもさ、痛いのは痛いらしく、ガード脇で蹲って、
『びえーーーー』
としていることなんてザラである。
ホント、飽きないのかしら?
そして、そんな「史たん」の成長と共に、増えたボクの遊びがある。
その名も腹上フラダンス。
つかまり立ちをするのなら、実際立ってみてはどうだろう?
そんな思いで始めたこれ。
世の中で一番安全に立てる場所はどこだろうかと考えたところ、そうだ、ボクの上なら!と思いついたわけだ。
試しに仰向けになり、ボクのお腹の上に「史たん」を乗せる。
するとどうだろう、ボクが両手を離しても、、、1、2、おおっと!というくらいの間、ちゃんと立ち姿をキープできるではないか!
しかも、この不安定な土台(ボクの3つに割れた腹筋の上)でである。
踏まれれば自在に形を変えるボクのスリーパック(因みに縦線はない)の上でなんとも器用にフラフラと真剣な表情で踊る様はもう、可愛いとしか言いようがない。
重心が崩れるのも腹筋を通してすぐにわかるので、抱き留めるのも簡単だ。
そして、当の「史たん」も大分この遊びが気に入ったようで、乗せると
『へげぇ!』
といいながら、涎をまき散らし、両手を上げて気合十分に。
実力も回を重ねるごとに、3秒、4秒と徐々にではあるが立てる時間が長くなってきている。
立つ感覚を覚えて、まだ2週間程度とは思えない成長振りだ。
しかも、広げた両手で、ちゃんとバランスをとっている風なのだから偉い(というか、ここまで安定しない土台というのは、生きていてもそうお目にかかるものではないのではなかろうか?ボクでもこんな土台では立てるかどうか?この安定しなさといったら、トランポリンか元祖トトロくらいのもので、、、ってうるさいわ!誰が見た目もトトロじゃ!)。
と、そんなこんなで、遊びの幅が徐々に増えるのと合わせて、「史たん」のできることもどんどんと増えていっている
親としては嬉しい反面、少し寂しかったりもする。。。のだが、できることが増えると、当然危険も増えるわけで、、、
とある土曜日の昼下がり。
その日もお家でのんびりしているボクだったが、暖かな陽光にまどろみつつ、ふと周囲を見やれば、先ほどそこに転がっていた「史たん」がいない。
『(おや?)』
と思い、首を巡らせてみても、やはり見当たらない。
ただ、どこからか、ごそごそという音だけは聞こえてくる。
『(ん~~?どこいった?)』
そう思いながら、寝ぼけ眼をこすりつつ立ちあがり、あたりを見回す。
寝室、座布団、ベビーベット、そしてテレビ横、、、そこまで見た時に気が付いた、いや気が付いてしまった。
この家で最も高価といっても過言ではない一角から、薄青のお尻が生えていることを。
ボクは、
『っ~~~~~~!(いやーーーーーーーーーー!)』
思わず声にならない悲鳴を上げながら、その一角に走り寄り、
『ふ、「史たん」っ!』
と大きな声を上げるのだった。
我が家のテレビ横、その奥まった一角にはボクの趣味としているPCが置いてある。
何用のPCかって?
そらぁ、今のご時世一人一台くらい必要でしょ?
情報収集にしたって、動画見るにしたって、もちろん小説書くにしたってさ。
え?ボク?ボクの場合はそらぁ、ゲームでしょ?
学生時代、ちょっとしたインターネットのゲームをやっており、その影響で、PCはそこそこ良いものをそろえたと自負しているそれである。
ネットゲームはスペック命で、それが伴っていないとラグやらなんやらで、非常に不幸なことが起こるのは日常茶飯事。
だから、普通以上の快適性を求めるなら、やはり気合が入るというもの。
ただ、社会人になってからはなかなか時間が取れず、やれてはいないというのが、悲しい事実ではあるのだが。
そう、いつの日か復帰をと思い、このスペースだって引越し後、テレビとかの設定そっちのけで整えたものなのだ。
そんなボクの憩いのスペースは地べたに座って、PCを操作できるように、スチールラックを組み、その下に置いたちゃぶ台を引き出せば、キーボードとマウスが現れるようなちょっとしたギミックまで携えたボク自慢の空間となっている。
ちゃぶ台の下は本来足、くらいしか入らない程度の広さしかないはずなのだが、その狭いスペースに今は蠢く薄青色の丸みを帯びたものが生えている。
叫び近寄るボクの気配に反応してか、ゆっくりとその丸が後ろに下がってくる。
『(その先にあるのはデスクトップPCの本体くらいなはず。悪戯しようったって、電源の入り切り位だけ。そうそれだけだ。)」
そんなボクの心の平静を装う声は、お尻の先の丸が何かを咥えているのを見て吹っ飛んだ。
『(っいっっっっや~~~~~~~~~~~~~~~!やめて~~~~~~~~)』
振り向いた笑顔の「史たん」。
その口に咥えられているのは、まさしくデスクトップ用の電源ケーブル!
走り寄り、ほっぺをぶにっと潰し、無理やりに口を開かせる。
『あぅあ。』
『あぅあ、、、じゃありません!何してんの「史たん」!』
言葉なぞ通じるはずもないのだが、それでもどうしても言ってしまう。
その声を聞いてか、「おかたん」も台所の方からのっそりと出てくる。
『どうしたの?』
『あぅあぅあ。へげっ!』
『あわわわわ。』
もう会話にすらならない。
そして、何故か誇らしげな「史たん」。
若干、首に巻き付けかけたコード(完全に巻き付いてたら、これはこれでやばかった)を外してやりながら、無言で「おかたん」に手渡す。
『あーう』
『このこ、危ない!』
『そ、そうだねぇ。』
『首に絡まったら大変よ!』
『あぶぅ。(何を言ってんだい、「おとたん」よ。長いものに巻かれまくって生きてきたやつが、今更長いものの一本や二本。俺様なら、そんなもんに巻かれるよりもまずは全部舐ってやるよ!)』
名残惜しそうに、両手足をパタパタさせながら、怪獣は遠ざかっていく。
その満面の笑顔が、邪悪なものに見えたのはこの時が初めてだったであろう(ていうか、ブラック「史たん」、そんなこと思ってたんかい!やべぇな。)。
とまぁ、そんな訳でこの日以降、ボクの神聖な趣味スペースは「史たん」という怪獣に脅かされる日々を過ごすこととなる。
幸い、まだ歯が生えそろっておらず、噛み切られる心配はないのだが、怪獣の通った後はもう涎でべとべと。
しかも、配線なんて掃除しないものだから、埃まみれのそれをねぶる「史たん」のお腹の方が心配。
そんな訳で、結局掃除の後程なくして、出禁(ちゃぶ台を立てて固定し、ボクが使う時だけそれらをどける仕様)となるのだった。
だって、その日から毎日のように忍び込もうとするのよ?
こうしてこの日から、「舐る」が「史たん」スペックに追加されるのでした。
っていうか、もうほんとになんでも舐る。
そのうち、外の石まで舐り始めて、「おかたん」の絶叫が鳴り響くことになるのだが、それはまた別の話。
因みに、ボクは4歳の時に、じ様の電動髭剃りの使用中の有線コードをハサミでぶった切ったことがあるんだとか(青白い火花が散ったのは今でも結構覚えていたり)。
血、、、なのかなぁ?
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