42日目:5秒で捕まる自信あるぜ?
修行を終えてから暫く経ち、夕餉も終えた「史たん」はコロコロと機嫌よさそうに寝転んでいる。
そんな子豚を横目に、こちらも夕餉を終え、さて何を?と考えたところで、「史たん」と目が合う。
あ、いや、多分あっちはそんなこと全然思ってない。
そんなことは知ってるんだけど、ついつい構って欲しいちゃんのボクの心がうずうずと蠢き始める。
結果、
『お?どうした「史たん」?そうかそうか、「おとたん」に遊んでほしいんだな?』
なぞと独り言ちながら、「史たん」のもとに歩み寄る。
そんなボクを見たからか、「史たん」の方もたるんたるんのあごを引きながら、
『へげっへげっ』
と応じる。
まさか意思の疎通が取れている???
そんな妄想をしつつ、抱き上げる。
両手をわきの下に差し入れながら、目線高まで持ち上げると、元気よくバタバタと手足を揮う「史たん」。
まさか、 拒否、、、ではないよね?
そんな一抹の不安を覚えながら、
『さて、何しようかねぇ?』
と、声に出してみる。
「おかたん」はご飯の後片づけ中なので、お部屋を出たり入ったりとせわしなく(?動きは常人の0.3倍!)動いている。
ご飯の後だし、あんまり激しい動きは…そう考えつつ、ボクが寝転ぶ。
仰向けになり、伸ばした両手の上の「史たん」を飛行機さながらに動かしつつ、思案に暮れる。
『へげっへげっ』
笑い声とも鳴き声ともつかない奇声を上げながら「史たん」がボクの上を飛び回る(まぁ、操ってるのはボクだが)。
と、ポタリ、ポタリと何かがボクの顔に…
『うわっ』
気づいた瞬間、「史たん」をお腹の上にうつ伏せで乗せて、慌てて裾でごしごしとかをお拭う。
『どしたのぉ?』
ボクの声を聞いて、「おかたん」が台所からひょっこりと顔出す。
『雨が降ってきたの』
『え?』
『「ふみたん」から』
『え?』
状況がわからない「おかたん」。
どうやらコ〇ン君にはあれそうにない。
説明するのも面倒になったボクは、顔だけあげて「おかたん」を見ていた姿勢からまた天井を見上げる格好に戻りつつ、
『なんでもなーい』
と一言。
「おかたん」は全然納得しない体だったが、そのまま台所に引っ込んだ。
それを見送るともなしに、またお腹の上の「史たん」を持ち上げる。
『まったくぅ、キミはほんと涎と鼻水から出来てんじゃないかってくらい、水分多めだねぇ。』
そういって、「史たん」の顔をボクの顔にくっつけるくらいまで持ってくると、おでことおでこを合わせてぐりぐりとする。
楽しいのか楽しくないのかはわからないが、相も変わらず、
『へげっへげっ』
とする「史たん」。
と、ここでボクはとある光景を思い出す。
それはボクが幼少期からファン(あ、といってもガチのやつじゃなくて、出たら映画館に見に行く、、、程度のやつですが)をさせていただいている国民的アニメ映画のワンシーン。
ひらめいたら即実行!とばかりに、「史たん」を少しボクの顔から話して、一言。
『あなた、ト〇ロっていうの?』
「史たん」の代わりに、少し裏声チックにいったボクの顔を「史たん」はきょとんとして見つめる。
そして、そんなことはお構いなしに、その顔に向かって一言。
『ト~~〇~~~ロ゛ォォォ~~~』
最後の一言と同時に、ふぅ~~~~っと思いきり「史たん」の顔に息を吹きかける(って、誰がト〇ロそっくりじゃ!もう少し、丸みはおびてな、、、)。
と、「史たん」は顔をくしゃっとゆがめたかと思うと、次の瞬間目を見開いて舌をちろっと出した状態で、わしゃわしゃと暴れ始める。
なにこれめっちゃ楽しい。
あまりの楽しさに、何度か同じような遊びを繰り返していたその時、不意に「史たん」の動きが止まった。
『(やべっ!泣いちゃうか??)』
そう心の中で焦った刹那。
『(ブヒッ!)』
大人顔負けの盛大な音が響いたかと思いきや、直後に異臭が。
『(こいつやりやがった!)』
そう思う余裕すらなく、匂いはどんどんと充満する。
『(くっさ)』
最近、ちょっとずつ離乳食を食べさせている所為か、臭さのランクもうなぎのぼりのそれをあろうことか、この至近距離で放ったようなのである。
ただまぁ、大げさに書いては見たものの、もう慣れたもの。
臭いに不平を述べながらも、粛々と処理を進めるボク。
しかし最近本当に、粘性も出てきて、人間に近づいてきたなぁとおしりをふきながら感慨にふける。
『(ふきふきふきふき)』
いやぁ、ホントとれねぇなぁ。
こんな感じで、ふきだけではなかなか拭ききれなくなってきたので、処理の仕方が変わってきた「史たん」。
今日も今日とて粗方拭いたくらいのタイミングで「おかたん」が登場する。
『あー出たねぇ。いっぱいだねぇ。じゃぁ待っててねぇ。』
『いや、まぁまぁ拭いたから、、、』
『ダメなのよ、色々くっついちゃってるんだから、ちゃんと洗わなきゃ。かゆくなったらかわいそうでしょ?』
という訳で、いったん引っ込んだと思いきや、すぐにバケツを片手に戻ってくる「おかたん」。
『ちょっともってて。』
いうが早いか、「史たん」をボクに持たせ、ロンパースをたくし上げる。
そうして、
『じゃぁ、奇麗にしようね』
と、ボクから「史たん」を奪い取って、バケツにじゃぼん。
そのまま、お尻やらなんやらをジャバジャバと洗われる。
ボク的には正直そこまでせんでもなぁと思いながらも、「おかたん」の方針には逆らえず、おむつの処理をすることに。
さて、そんな下半身真っ裸の「史たん」であるが、最近出すものだけでなく、足腰も人間のそれに近くなってきている。
ズリバイの成果もあるのかもしれんが、筋が見えそうになるほどのなかなか肉付きのいい太ももに成長したその様を、ボクは少し離れて見守る。
すると、「史たん」は「史たん」で楽しくなってしまったのか、急に足踏みを始める。
『(ぱしゃ、、、、ぱしゃ、、、ばしゃ、ばしゃばしゃ、ばしゃん!)』
見る間に大きくなる足踏み。
その激しさときたら、バケツの水がしぶきとなって外に飛び出すほどである。
見慣れ始めたその光景ではある(まぁ、床をふくのはボクなんだが)が、見るにつけてつい、思ったことが口をついて出てしまう。
『いやぁ、それにしたって、「史たん」の太ももいい太ももだなぁ。他の子もこうなんかなぁ?一丁前に筋肉の筋見えてるし、力も結構なもんだよなぁ。』
それを聞いた「おかたん」も、
『そうなの。もうこの子を片手で押さえながら、う○ちの処理するの、一人じゃ大変になったもの。ほら、こうやってお湯につけると、あわわわ。』。
「おかたん」の拘束が緩んだとみるや、すかさず今日一の足踏みを始める「史たん」。
慌てて、ボクもフォローに入る。
『待って、待ってね、「史たん」!』
『しっかし、この太ももは誰に似たんだろうね?やっぱり「おかたん」家の血筋かなぁ?「おとたん」の血筋ならバンビみたいなすらっとしたカモシカのような足になるはずだし…』
懸命な「おかたん」を横目に、ボクはぽつりとそんなことを口走ってしまう。
すると、「おかたん」がフクロウもかくやというような勢いで首をグルンと回転させると、信じられないものを見たような顔押して、こちらも今日一の暴言を浴びせかけてくる。
『え?何言ってんの?どうみたって、「おとたん」の血筋でしょ?見てこの太もも!普通の子こんなにぷんぷんな太ももしてないよ?ベビーダンスとかで見る子はもっとぷにぷにの可愛い足してるよ?どう見たって鹿じゃないでしょ?例えるなら、そう、熊だね、熊、子熊だね。っていうか、「おとたん」も見た目、熊の○ーさんなんだから、もう熊の親子やん!』
ボクはそれを聞いて一瞬意識が遠のくのを感じた。
『(くまの〇ー、、、だと?誰が、裸ベストの熊やねん!何なら、その格好で外を歩いてやろうか?5秒で捕まる自信あるぜ?)』
とまぁ、こんな感じで今日も今日とて微笑ましい日が過ぎていくのであした。
めでたしめでたし。
因みに、ボクと「おかたん」どちらの言い分が正しいかというと、もちろんボクである。
例え、ボクの太腿周りと「おかたん」のお腹周りがほぼ同じ長さでも、160cmの身長しかないくせに、75kgオーバーの体重だとしても、ボクはバンビで、ティンカーベルの可愛い系三十路男子なのである。
ぐすん。
そして、この暴言を皮切りにボク=熊が我が家で定着してしまうのはまだもう少し先の話(「おかたん」曰く、可愛いよね、愛だよ愛、ということらしい。あいあい)
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