36日目:こどもの日のぶすくれわらし③

 そして、今日である。


 朝から片付けを開始し、なんとか飾れるスペースの確保だけはできた。

 そうスペースの確保だけ。


 何を隠そう、蓋を開けてみたらこのセッティング、意外と面倒なのである。


 まず、飾るための台がない。

 流石に床置きって訳にはいかないだろうし、テーブルに置いたらどう考えても高すぎる。

 というか最悪、「史たん」がテーブルの下にもぐり込んで連れ出すのに一苦労なんてことも。。。

 非常に悩ましい。


 そして、何よりも問題なのが「史たん」がまだ座れないとうことだ。

 そうすると必然的に座るスペース+背もたれになる何某かを置くスペースが必要となり、かなりの広いスペースを捻出しなければならない計算になる。

 マジでどうしたものだろうか?


 そんな、色々を考えているボクをよそに、不貞腐れ「おかたん」は「史たん」を寝せる、と言いおいて寝室に引きこもってしまった訳で。。。

 まぁ、まず間違いなく、一緒に寝るだろう。

 戻ってきて一緒にセッティングなんて甘い考えは捨てたほうがいい。

 

 くそぅ、戦力が足りない。

 だが、嘆いていても仕方がないので一人で、まずは模様替えに着手である。

 段ボールの山から小机を探し出し、テレビをどかして、場を整える。

 これがまぁ、腰痛持ちにつらい戦いである。

 それでもどうにかこうにか、セッティングを終えたころには二時間が経っていた。


 と、


『ふぇぇ、ふぇぇ。』


 「史たん」の鳴き声が聞こえ始める。

 本当にタイミングのいい、2時間の男である。


 そして、寝ぼけ眼をこすりながら、寝室から「おかたん」が登場(「おかたん」の特性として、睡眠リセット、というものがある。これは寝るとすべての精神的ダメージが帳消しになるという、本当に優れた自分本位の特性なのである。)。

 そんな、かなり平静を取り戻した「おかたん」が扉を開けて開口一番に一言。


『わー凄い、ちゃんと出来てる~』


 え?何その初雪見た時みたいな軽い感想は?

 もしかして寝てる間に靴を作ってくれる小人さんがきて、セッティング終わらせてくれたとでも思ってる?

 自然現象じゃねぇっての!

 と、ボクが自分の心の中で何かと戦っている隙に、気付くとミルクタイムは終わっている。

 

 あれ?大分段取りよくなってね?

 そんなボクの驚愕をよそに、いそいそと「史たん」を着替えさせ始める「おかたん」。

 どうやらお祝い事用に取り置きをしていたベビー服があるらしい。

 見た目、袴のようなそれは、確かに「史たん」にはよく似合っているように見受けられる。

 当人もそれがわかっているのかいないのか、機嫌よさそうに手足をパタパタさせている。

 いや、こいつ絶対なんも考えてないな。


 そんな愛らしい「史たん」の奪われていた心を、

 

 『じゃぁもう、写真撮っちゃおうね~』


 という「おかたん」の言葉が現実に引き戻す。

 何という余計なお世話を。

 だが、まぁ、「おかたん」の機嫌がそこそこいいようだからいいか。

 

 ここで写真を撮られるために抱きかかえられる「史たん」。

 ゆっくりと、鎧飾りの横、白いふすまを背景にしたポジションに据えられる。


 と、それまで機嫌よさそうにパタパタしていた「史たん」の表情に急な変化が訪れる。

 ゆっくりと、抱き下ろされ、ふすまに背を預け、胡坐のようなポージングになった「史たん」。

 その顔は、、、超ブス。

 もう、重めの反抗期?ってくらいに目じりは下がり、口はへの字。

 なんならあんなにぷにぷにの頬っぺたも、重力に逆らえず、垂れ下がってしまった重度のぶすくれ顔。


 ・

 ・

 ・

 

 まぁ、そらぁそうだよね?


 だって、まだ座れないんだもん。

 重力、重すぎるよね?

 

 それからの「史たん」はまぁ、偉かった。

 ぶすくれ顔を晒しながらも、『ふぇぇ』の一言も言わずに座り続けた。

 もう「おかたん」の気に入ったショットが撮れるまで、そらぁ、延々と。

 見ているこっちが可愛そうになるくらいの、

 

 座らせられれる

 ↓

 ぶすくれる

 ↓

 一瞬止まる

 ↓

 倒れる

 ↓

 座らせられる


 の繰り返し。

 「史たん」よ、お前はもうその歳で男の中の男だよ。

 そう、ボクは肩をたたいてやりたい衝動に何度かられたことか。

 ボクはあふれ出る涙が止められなかった。


 なんてことはなく、「おかたん」の後ろから、その光景を眺めつつ、

 

 あー準備頑張ってよかったわ~

 これ巻き込まれなくてホントよかった~

 ってか、これいつまで続くんだろ?

 マジで凝り始めると止まらんのよねぇ、この娘。

 南無~「史たん」。


 と心の中で思う「おとたん」であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る