22日目:アイドル「史たん」
3日目の朝である。
今朝も同じくお風呂から始まる優雅な合宿生活。
そして、6時には、
『 おはよー』
の「おかたん」メールも定例通り。内容も案の定ではあるものの、
『 昨日は「史たん」寝せに行った後、魔力に負けて寝ちゃってて、愚痴が言えなかった~くそぅ』
というもの。
まぁ、B型女性は一晩寝るとすべての感情がリセットされるらしいので、きっと愚痴はそんなにないのだろうなと思いつつ、
『しゃーないねぇ』
と返す「ボク」。
まぁ、この反応は仕方がないものなのだ。毎回、毎回、
『 たまっている愚痴はいっぱいあるので、覚悟しておいてくださいね!』
という脅し文句を使うくせに、「おかたん」の愚痴は30分以上続いたことがない。世の女性は平気で数時間でも話し続けられるらしいので、それに比べたら随分可愛いらしいものである(あ、別に「ボク」は世の女性を敵に回すつもりは毛頭ない。当然、『そんなことはない!』というご意見もあろうとは思うので言っておくが、あくまでこれは「ボク」の妹’sを見て得た感想なだけで、女性が一般的にそう、という偏見ではないので悪しからず!ああ、でも女性経験ほぼ0の奴が何言ってんだという声はお静かに願いたい。いや、マジで)。
まぁ、そんなこんなで、「おかたん」の
『 なにそれ、反応薄っ!』
という返しにも、
『 まぁまぁ、お疲れ様。何はともあれ、今日も一日頑張れ~あ、あと「史たん」を宜しくね。んじゃ。』
とさらっと返し、朝食に向かう。
朝食はバイキング(結局、一週間そうだったが)。
当然、一日の活力のため、がっつり頂く(「ボク」の食事量はどうやら、普通の人より多いらしい。この日もおかず全種類にご飯を二杯朝から食べていたら、一緒に行った同室さんからちょっと驚いた眼で見られた。解せぬ)。
そして、朝寝からの講義へと続く。
眠気と腰痛との激闘もあと一日と思えば、気も大分楽になるというものだった。
で、昼ご飯。
今日も変わらず、班員との楽しい会食である。
因みに、昨日得意の人間観察等で得た情報をまとめると、Sさん(寡黙な県内出身者、Hさんと同じ学校(?)だったらしい)、Kさん(社会人経験者、Uターン者、2児の父)、Fさん(明るい県外出身者、勤務地が海の方らしい)、Hさん(Sさんに右に同じ)という班編成である。
そして、「ボク」を除いた男性陣はご飯を食べるのが早い。
結果として、女性陣と「ボク」だけが多少遅れることになるのだが・・・その時間が、まぁ、気まずい。黙々と端を進めながら、心の中では『ごめんなさい』の連呼である。
そして、今日も今日とていつもと変わらぬお昼ご飯が黙々と進む。当然、和気あいあい、キャッキャウフフなどといった要素は皆無である。
『 あー帰りたい。』
なんて思いながら、箸を進め続け、ようやっとご飯が三分の二をきった頃、唐突にFさんから話を振られる。
『 そういえば、昨日は見れませんでしたけど、「おとたん」さんのお子さんってどんな感じなんですか?Kさんのお子さんはとってもかわいかったんですよ!』
とのこと。そんなん振られたとしても、昨日の憤怒の念冷めやらぬ「ボク」は、
『 ははは、嫌ですよ?ウチの子をそんな安く見ないでもらえます?』
なぁんてことは言えず、
『 ウ、ウチの子はあんまり見ても楽しくないと思いますけど・・・』
と若干挙動不審になりながら、昨日チョイスしていた写真を素早く表示し、診せる準備をする。内心では
『 来た~とうとう「史たん」のお目見えタイムだ!見て驚け!ウチの子だって負けてないぞ!きっと!多分?』
である。
そして、適当に見繕いましたの風を醸し出しつつ(実際には、厳選に厳選を重ねたベストショットをだが)、今見つけたであろう気軽さで
『 あんまり写真は撮っていないのですけど・・・新しめのやつだとこれですかね~』
と、言いながら、スマホの画面をFさんに見せる。すると、、、
『 え?なにこれ?すっごい可愛いじゃないですか!何歳ですか?ホント癒されるんですけど!』
とのこと。もちろん、シャイな「ボク」は
『 そうですか?まぁ、子ザルに毛が生えたようなものですよ。夜も泣き喚きますし、なかなか大変ですよ。』
と返す。だが、内心は
『 っおっしゃぁぁ、とうとう「史たん」お披露目できた~でしょ?でしょ?そうなのよ?分かる人にはわかったちゃうよねぇ?そう、めっちゃ可愛いんすよ!丸さがね、愛嬌あるでしょ?それにね、最近は『へげへげ』言いながら、手足をバタバタさせるんですよ?頭と背筋だけで寝がえりをうとうとしてみたりもするし。見ていてホント飽きないんですよ。あ、そうそう、こんな写真なんかもありますよ?どうです?きゃわいいでしょ?も、もしタイミングが合えば、うちに抱きに来ます?きますよね?こんなに可愛いんだから、来るしかありませんよね?ねぇ?はぁはぁ。』
とまぁ、なかなかにヤバい状態ではあった。
目は、、、多分ギリギリ血走っていなかったとは思う。
そんな状態の「ボク」には気が付くわけもなく、社交的なFさんは、
『 またまたぁ、そんなこと言って~ほかの写真はないんですか?』
と、フレンドリーに返してくれる。しかも、「ボク」が渇望していた催促をしてくれるできた子であった。
そんなこんなで、「史たん」ブロマイドを数枚みせては、『可愛い!』と絶賛(?)され、すっかり有頂天になったまま、お昼休みは過ぎていくのだった?あれ?楽しい??
そんなお昼休みを経て、本日も無事に終了の運びとなる。
今晩もまた有志の飲み会が開催されるそうだが、「ボク」は今日こそいかないぞ!と固く心に誓いつつ、講義室を後にする。。。が、まぁ、結局、同室さんにあっさりとつかまり、、、行く羽目になってしまう。もうさ、学習できないの?このおじさん?
そして、今日も今日とて一人静かに壁際で飲んでいる。と、、、なんと、昨日はいなかったFさんがニコニコしながらやってくる。
ターゲットは「ボク」、、、らしい。
な、なんで?え?え?ど、ど、ど、どうしたの?「ボク」の後ろに何かいます?いないよね?いたらいたで怖いけど?それとも、「ボク」何か悪いことした?お昼に心の中で、我が家に誘ったのがまずかった?うら若き女性を自宅に誘った罪で公開処刑ですか?いや、実際は誘ってはないんだけど、思うだけで罪ですか?そうですか、ごめんなさい。そう言われるともう、「ボク」としては腹を切ってお詫びする以外御座いません。さぁ、やれ!もう好きなようにしやがれ!
と心の中で、悲壮な覚悟を決めている間に、Fさんはずんずんと近づいてくる。。。そして、ボクの手前で立ち止ると、
『 「おとたん」さん、お疲れ様です!今からみんなでゲームするんですけど、人数足りなくて、、、一緒にやりません?それか、お知り合いの方で参加してくれそうな人いません?』
と声をかけられる。
え?あ?なぁんだ、ゲームね?ゲーム。あー良かった。「ボク」に話しかけるのが罰ゲームとか言われたら、もうすぐそこの人造湖に身投げするかどうか考えるレベルだったよ、あ~よかった。でもね、おじさん、若い人のゲームなんてわかんないから、、、と考えながら、
『 あ、あ、そうなんですか?いいですよ、ちょっと声かけてみますね~』
と、和やかに受け答えをする。
『 はい、宜しくお願いしますね~』
そういって、彼女は彼方へさってしまう。若干の名残惜しさを感じていると、向こうで
『 そうそう、「おとたん」さんのお子さんて、とっても可愛いんだよ!お昼に写真見せてもらったんだけど。。。』
とFさんの声。もうにやけが止まらない。ってか、「史たん」最早アイドルやん!そして、Fさんは本当にええ娘や。
こうして、中々の上機嫌で会場を後にする「ボク」。もうこれ以上、「史たん」を褒められたら、多分大変なことになる。そう察して、参加者を探すふりをして会場を抜け出す。
部屋に帰る途中、巻き込んでくれた同室さん(10代)を見かけたので、ゲームに参加するように誘導しておく。え?「ボク」?行くわけないじゃん?だって、Fさんは誰かっていったんだよ?「ボク」じゃぁない。というか、おっさんメンタルを舐めないでもらいたい。急に初対面の人たちの輪の中に入り込んで、あまつさえ盛り上れるなんて、そんな自信はない。というか、「史たん」を大勢に見せて、参だろうが非だろうが、どちらの評価を受けるにも「ボク」のメンタルは強くない。
結論、もちろん、逃げますよ?に行きつくわけで、、、だが、あとから考えてみて思ったのだが、Fさんがわざわざ声を掛けてくれたのは「ボク」いや、「史たん」ともう少し親密になりたかったからではないだろうかと。それなら、「ボク」のこの選択はかなり彼女を傷つけてしまったのではないかと。人に声を掛けるのは怖い。拒絶されるのはなおのことである。それを「ボク」が平気でしてしまっていたのであれば、とても悪いことをしたことになるのではないだろうか?
有頂天な気分が一転、今日も今日とて、後悔の念を抱えたまま、「ボク」は眠りにつくのだった。
「史たん」よ、こんな小心者(チキン)な「ボク」を見習ってはいけないよ?
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