「史たん」と「おかたん」の愉快なへげへげ生活

ほむひ

0日目:誕生!「ふみたん」

 微睡みを破ったスマホの着信は、無情にも遅きに失したことを告げていた。



 言い訳にはなるが、有給早退が取りづらい会社の中で、中々の業務量を受持たされている身としては、かなり頑張って切り上げたつもりだった。ホント、マジで。


 今でいう、半ブラック企業(半か?いや、当時は半ってことで、納得していたが、今思うと、どうだろう?『黒寄りのグレーだよねぇ』なんて、社内ではよく笑い話をしていたのも懐かしい思い出だ。)であった某M社。子供が生まれる、なんてのは当然理由としては弱いもので、なんとかかんとか、区切りの付くとこまでやるだけやって、あとは後輩君に丸投げして会社を飛び出したのはもう昼休憩目前という時間。そんで取るものも取りあえず、東京行きの電車に飛び乗ったのがお昼過ぎ。早朝に『陣痛かも?』と言われてから、駆けつけ準備までの時間を考えるとほぼほぼ最速タイムと言っても過言ではない。過言ではないのだが、如何せん横浜からは遠かった。都心から新幹線で3時間。都心まで一時間。乗り継ぎ考えると最低4時間半はかかる道のり。

 初産は長いと聞いていたから、きっと深夜になるだろうと高を、いや、希望に縋っていたのだが、その瞬間は目的の駅まで残り20分というところでやってきてしまった。唐突なスマホの着信。悲しき現実。


 夢うつつの内に受けた電話であったため、全然現実感が伴わないまま、こうしてボクは父となったのであった。


 2016年1月某日。東北の田舎町…とはいえないくらいの大きさの沿岸部の街。冬とはいえ、太平洋側は暖かめの海風によってか雪は少ない。積雪なんて年に数回程度のことらしい。そんな街で、我らが第一子、後に「史たん」と名付けられる子が誕生しました。みんなに祝われて・・・はいたのだけれど、初産の宿命か、お医者さん以外は誰も間に合わなかったという残念過ぎるエピソードを添えて。

 駅を出たボクが目にした光景は、タクシーのいないタクシー乗り場と一面の銀世界。午後6時過ぎの薄闇に浮かぶその光景はどこか幻想的で、それ以上に物悲しく感じたのを覚えている。もしかしたら、泣いていたかもしれない。いや、心は泣いていたのだ、間違いなく。


 この日、晴れて「おとたん」の称号を与えられた「ボク」は、孤軍奮闘頑張った相方の「おかたん」に、この後何度もチクチク言われることになるのだが、それはまぁ、また別のお話。そして、その日たどり着いた病室で、疲れ果てた「おかたん」に『頑張って産まれたのに、周りを見たら誰もいなかったの。この子は祝われてないのかなぁ』と言われて、「ボク」がマジで泣きそうになったのもまた秘密のお話。


 これは「史たん」と「おかたん」、そして「おとたん」の家族3人(?)の物語。


 最初からとちってしまった「ボク」だけど、これから始まる家族の軌跡を面白おかしく、時に涙な感じで紡いでいけたらいいなと思っています。


 物語の紡ぎ手は「ボク」、こと「おとたん」。


 それでは物語の幕開けとさせて頂きます。


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