エクスの少女

 惑星コルタナ階層レベル100

 アンダーワールドの境目にあるこの階層は闇市や違法カジノ、犯罪者が跋扈する危険な階層だ。

 ここから下のアンダーワールドには政府の許可もしくはここを取り仕切る犯罪シンジゲートのグエゼンローダーに賄賂を支払うしかない。そもそも政府の許可など下りるわけもなく実質グエゼンローダー達に多額の賄賂を支払うしかないのが現状だ。

 しかし未だに発見されていない古代の遺物などが発掘される場合もあるため時折闇商人が護衛を連れてアンダーワールドへ降りて行くが帰ってくるのは一握りらしい。

 そんな階層に似つかわしくない可憐な少女がため息をつきながら紫色の肌を持つ顔がイカのようなエイリアンと歩いていた。


「ゲジュル、使える船とハンガーは見つかりそう?」

「だめだな。上層のハンガーは全部帝国軍が抑えててとてもじゃないが突破できない」

「なら下層のハンガーはどうなの?ギャングに金でも握らせればなんとか」

「とんでもない金額を吹っ掛けられるぞ。それにあいつらが帝国に密告しないとも限らない。帝国将校とギャングはずぶずぶの関係だからな。まぁその辺は連邦も変わらんが」

「一緒にしないで、エクセリア連邦の将校たちはそんなことしないわ!」

「落ち着けノーラ。ここで騒いでローダー達にエクスだってばれたら面倒だぞ」


 ノーラと呼ばれた青い髪の少女は渋々ながら言う通り引き下がる。

 昨晩ヴァルキリアドライブに切られた腹部がまたジンジンと痛み始め顔を歪めた。

 コルタナに潜伏して情報収集をしている連邦軍のスパイたちと合流して脱出の機会を伺っているのだが予想以上に警戒が厳しく中々動くことができずにいた。

 同じく任務にあたっていたはずのエクスとも連絡が取れずどうなっているのか全く現状が分からず動くに動けない状態で彼女自身苛立ちを積もらせている。


「それにしてもローダー達今日はずっと騒がしいわね。なんかあったのかしら」

「アンダーワールドで何か起きたらしい。詳細は知らんが」

「まだ見つからないのかおい!」


 怒号が聞こえ二人は人込みに紛れながら様子を伺うとローダー達を叱責する欠損した右腕に包帯を巻いた金髪の女がいた。その女はあまりにも怒り狂っておりローダーの一人を八つ当たりのように蹴り飛ばしている。品のない女だと鼻で笑うノーラだが、そばにいるゲジュルは驚いたような顔をしていた。


「あの女、どっかで見たことあると思ったらセルベリアか!?」

「知ってるの?あのデカチチ女」

「バカっ!あいつはここを仕切ってるグエゼンローダーのボスの娘だ!」

「そんな奴がなんでこんなところで右腕無くしてんのよ」

「ローダー達が騒いでたのはこれだったのか...そりゃ一大事なわけだ」


 グエゼンローダーといえば泣く子も黙る銀河中で一二を争う巨大シンジゲート。

 ボスのグエゼン・キューベルは一代で組織を立ち上げ巨大組織に立ち上げた人間で、人身売買や薬物取引だけでなく積み荷を襲う海賊行為や暗殺なども請け負う冷血な人物と知られている。

 その一人娘であるセルベリアも父に似て冷酷無比で名が通っており弱い人間をいじめ、労働者を虐待し遊び感覚で殺すという見た目の美しさとはかけ離れた凶暴な女である。

 そんな女に喧嘩を売ったやつがいるなど信じられないというのがゲジュルの感想だった。


「まぁまぁお嬢落ち着いてくださいや、デブリのガキなんてすぐ見つかりますって」


 カウボーイハットを被ったおそらく幹部であろうエイリアンの男がそう軽口をたたくとセルベリアは男の顔面に残った左腕で肘打ちを食らわせ転倒した男の顔面を踏みつけた。


「何舐めた口叩いてんだ?そんなくだらないこと言ってないでさっさと探しに行けよボンクラ!デコに生えてる触覚引きちぎるぞてめぇ!」


 セルベリアに蹴り飛ばされた男はそそくさと何人かの部下を連れてその場を離れていった。


「いいかよく聞けよ!身長150くらいの瘦せ型、髪の色は黒で目の色は青!薄手のロングパーカー着た汚いガキだ!光る変な剣とあたしのブラスターで武装してる!あのガキは簡単には殺さない、生け捕りにしてあたしの前に持ってこいコラァ!」


 その言葉を聞いてローダー達は一斉に散らばっていきセルベリアは何人かの部下に連れられポータルの中へと入っていった。おそらく腕の治療を行うのだろう。

 ノーラは彼女の言葉の中で一つ気になったことがある。

 光る変な剣、それはもしかしてエクスブレードで追われているのは自分と同じエクスではないのか。

 そんな疑問がノーラの頭の中でぐるぐると回る。

 もし追われているのがエクスだとすればこのまま放っておくわけにはいかない、助け出せばこの惑星を脱出する戦力になるはずだ。


「ゲジュル、私たちもその男の子探すわよ!きっと任務にあたってたエクスだわ!」

「わかった。仲間たちに共有しておく。無茶するなよ!」


 ノーラも少年を探して走り出した。

 これ以上同じエクスを失ってたまるものか。

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