美味しい食事

セルベリアに殴られた後、ズキズキと痛む体を引きずりながら薄汚い店で夕食を買って階層の端にある自分の家へと帰ってきた。家といっても昔何かに使われていた小さい事務所跡で、窓は割れて扉もほとんど機能を果たしておらず部屋の中もボロボロのソファーにテーブルのみ、広さも人が二人居たら動けないだろう。

 ベット代わりに寝ているソファーに座って買ってきた銀色の包みに入っている黒いプロテインバーのようなものとベチャベチャの茶色いペースト状のような物を手掴みで食べる。

 味は双方ともに不味く量も少ないため食べた気にならないが今日は食べられるだけマシだ。

 ひどい時は飯を買う金もなくそこら辺に歩いているネズミや虫を手づかみで食べなければならない、味はどちらも変わらないが少なくとも前者の方は最低限の栄養はある分マシだろう。

 こんな生活をしてもう7年近くになる。普通の人間からしてみれば到底耐えられるものではないが幼少の彼からしてみればこれが現実で、この生活しか知らないため他の人間と比べることもできない。上層階の人間や兵士は美味しいものを食べているんだろうなぁとただ漠然と想像するだけだ。


「明日は来ないでほしい・・・」


 それがセルベリアに対しての言葉なのか、それとも別の何かに対しての言葉なのかは誰にもわからない。

 もう寝てしまおうかとソファーに丸くなっていると扉がコンコンっと鳴り見てみるとそこにはブレンが顔だけをひょっこりと覗かせていた。


「今大丈夫か?」

「寝ようかなって思ってたとこだよ、なんか用事?」


 ブレンは手招きをして彼を外に誘うと家の屋根へと上り端へと座りユイクもそれに続く。

 するとブレンの懐からは包み紙に入った小麦色のパンを取り出した。


「お前これどこで!」


 驚くユイクにブレンはニコニコと笑いながらパンを半分にちぎって手渡した。


「いや、パンなんて高級品もらえないよ」

「実は買ったはいいけど傷が痛んで全部食えそうにないんだ。だから半分食ってくれ」


 それが嘘だということはさすがにユイクでもわかる。

 アンダーワールドでは上層で普通に流通している何の変哲もないパンはかなり値が張り、それこと一つでユイクが先ほど食べていた食事一週間分の値段になる。


「お前が食わないなら捨てちまうかぁ!」

「わぁー!待て待て食べるよ!」


 投げ捨てようとしていたパンを受け取って口に含むと、いつもの食事とは違うふんわりとした触感と小麦の良い匂いが鼻を通る。

夢中で頬張ってあっという間にパンは彼の胃袋の中へと入っていった。


「俺初めてパンなんて食べたよ!なんかふわふわで、いい匂いがしてすっげえ美味いんだな!」

「ああ、でも世の中にはもっと美味いもんが沢山あるんだぞ?」

「そっかぁ、良いなぁ上の人間は。みんな毎日腹いっぱい食べてるんだろうなぁ。俺

なんて今日初めて腹いっぱいになったのに」


人生で初めて満腹になった彼は心地良さに身を任せて屋根に寝そべりながら笑う。

ブレンはよく外のことを教えてくれていてユイクもそれを聞いて外の世界へと思いを馳せる。見たことの無い空はどんな色か、宇宙はどんなところか、世の中にどんな食べ物があるのか。


「まあ俺には関係ないや」


だがいつも最後には辛い現実へと連れ戻されてしまう。

きっと数年もすれば外の世界へ思いを馳せることも無くなるのだろうとユイクは何となく考えていた。


「そうだユイク、今日落ちてきた棒なんだけどな。聞いた話によるとそりゃエクスブレードって言うらしいぞ」

「エクスブレード?」

「エクスオーダーっていうエクセリア連邦に居るカルト集団で、エクスブレードはそいつらが使う特別な武器だ。なんちゃらっていう力を信奉してて、今では連邦軍の将軍も兼任してるらしい」

「へぇー、ブレードって言うけど刃なんてどこにもないぞ?」


懐から取り出して改めて見るがやはりどこにも刃はなくとても剣と言える代物ではない。


「なんか気合いみたいなやつで刃を出すらしいぞ」

「ブラスターでよくね?」

「そうだよなぁ〜」


2人でケラケラと笑い合うユイクとブレン。

種族は違うが他から見ればまるで親子のようだった。


「さて、そろそろ帰るとするよ」

「じゃあ俺も部屋戻るか」

「ああ、そうだユイク」


しばらく歩いたところでブレンが再びユイクを呼び止めた。


「お前はまだ若い、こんな掃き溜めに居て俺みたいになっちゃいけない」

「またその話?そんなこと言っても」

「大丈夫、お前は絶対ここから出られる」


ブレンは何故か一度もユイクの方を見ずそのまま帰って行った。

ユイクは少し不思議に思ったが満腹になったからか急に眠くなってしまいさっさと眠ってしまった。

その翌日、ユイクは大寝坊をしてしまい急いで身支度を済ませ中心街へ向かうと










街は炎に包まれていた。

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