天野さんはいつかこの気持ちを伝えたい
天野さんはいつかこの気持ちを伝えたい
作者 柊なのは
https://kakuyomu.jp/works/16817330660459029251
入学式のときヘアピンを探してくれた福原凪を好きになった天野由良だったが話す機会がなかった。が、同じクラスになったことで勇気を出して彼に話しかけ、また明日学校で話そうと約束する。いつか自分の気持ちを伝えたいと思う彼女の話。
これから素敵な物語がはじまっていく予感がする。
いい話である。
主人公は女子高三年生、天野由良。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
女性神話の中心軌道に沿って書かれている。
入学式、天野由良はヘアピンを落とし、福原凪が一緒に探してくれた。そのとき言葉をかわしてから、彼を目で追うようになり、好きになっていった。が、同じく明日になることはなく、何の接点もないまま月日が流れる。
三年生になったとき、彼と同じクラスになり、喜びで声や表情にでてしまう。友達に「何、好きな人と同じクラスにでもなったの?」と聞かれ、「はい……少し気になる人がいました」と答える。
新しいクラスになった一日目の放課後、このままだといつまで立っても彼と仲良くなれないと思い、友達の誘いを断って彼に声をかける。
彼の友達は気を使って、二人きりにしてくれた。
彼は名前を覚えていてくれた。二年前のヘアピンを探してくれたと気のお礼を述べると、「俺の名前、覚えてたりする?」ときかれる。
彼の名前を告げ、お互いに今年一年よろしくと挨拶する。
天野は勇気を出して「もし、福原くんが嫌でなければまたお話ししませんか?」と声をかける。彼は「うん、もちろん。俺も天野さんともっと話したい」「俺は、天野さんに声かけてもらえて嬉しかったよ」といわれ、また明日学校で話そうといって別れる。
いつか彼に、自分の気持ちを伝えられるといいなと思うと、嬉しくなってふふっと笑うのだった。
書き出しから、片思いしている主人公の気持ちが伝わってくる。
しかも、話す機会もなく高校三年生になってしまっている。
接点がないと、話しかけにくいので、時間だけ過ぎてしまうのはしょうがない。このあたりに現実味を感じる。
同じクラスになって、友達に「何、好きな人と同じクラスにでもなったの?」と聞かれて、素直に「はい……少し気になる人がいました」と答える辺りに、主人公の性格が現れている。
大人しくも真面目で、それでいて意志が強い。
「新しいクラスでの1日目。話しかけようと何度か決意しましたが、いざとなると勇気がなくなってしまい話しかけることができなかった」ですます調の文体と、だった調の文体が合わさっている。
別に悪くはない。
主人公の真面目さを垣間見るような書き方で、いいと思う。
「まだ話しかけるチャンスはある。ここで行かなければまた同じことを繰り返すことになる」と意を決したあとで、友達が「由良、一緒に帰ろ」と揺さぶりをかけてくる所がいい。
ここで選択肢が生まれ、主人公はどちらかの決断を迫られる。
自分の意志を曲げないで突き進むことで、挑んでいく姿を描いているところがいい。
しかも「すみません。少し用があるので今日は一緒に帰れません。明日は帰れますので」の言い方がいい。
主人公の覚悟を決めた感じがよく出ている。
とにかく、今日、なにがなんでも彼と話す強い決意の表れである。明日のことはどうなっているのかわからない。ひょっとすると、明日は彼と一緒に帰っているかもしれない。でもまだわからないので、とにかくすべて今日、このときの自分の頑張りで決まると、覚悟しているのが伝わる。
「声をかけると決めたんです。もう私は変な理由をつけて逃げたりしません」と心情が書かれている。
これまで使ってこなかった勇気を、この瞬間にかき集めて、逃げたりしないと好き進んでいく。凛々しい姿が目に浮かんでくる。
「私ら先行っとくよー」
彼の友達が場を離れていく。
男子だけでなく、女子もいたのかもしれない。
彼は人気者、ということを描いているのだろう。
しかも空気が読める人達だということ。
類は友を呼ぶというので、福原凪もその友達も、いい子達なのだろう。
彼は主人公の名前をおぼえている。
入学式のといに名乗ったことをおぼえている、と素直に見ていいのか、同じクラスになったクラスメイトの名前を彼は一日目にしておぼえたのか。
前者なら、彼も主人公のことを気にしていた証になる。
後者なら、クラスメイトの名前を覚えたとき、以前ヘアピンを探したときの彼女だと思い出したのかもしれない。
どちらにしろ、彼は主人公のことをおぼえていたのだ。
だから、そのあとヘアピンの話をして、スムーズに会話が成り立っているのだと思う。
「だよな。今年、一年よろしく」
「はい、よろしくお願いします」
二人の会話が爽やかである。
彼はよろしくねと軽い気持ちだったかもしれない。
主人公が「も、もし、福原くんが嫌でなければまたお話ししませんか?」踏み込んで聞いたとき、彼は優しい笑顔で頷いて、「うん、もちろん。俺も天野さんともっと話したい」と、場馴れした受け答えをしている。
彼には男女の友達がいて、女子と話すことにも慣れていると考える。ひょっとすると、姉妹がいるのかもしれない。
「すみません、お友達と話していたのに声をかけてしまい……」
「いいよ、そんな大した話をしてわけじゃないからさ。俺は、天野さんに声かけてもらえて嬉しかったよ」
気遣いができる彼は素晴らしい。
「じゃあ、また明日学校で話そう」
「はい、また明日、学校で」
二人は別れて、主人公は教室を出て帰っていくと思う。
彼も帰るのだから、いっしょに教室を出たらいいのに。
一緒に出ないのは、先程の友達がまだ教室にいるのかもしれない。
だとすると、他の人の目があったから、ちょっと固めで真面目な挨拶をしていたのではと考える。
主人公がでていった後彼は、あの子とはどこで知り合ったんだと友達に質問攻めにあうのかしらん。
読後、いい話だと思った。
この二人はどうなるのだろう。続きがとっても気になる。
願わくば、二人がうまくいきますように。
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