事故物件
事故物件
作者 醍醐潤
https://kakuyomu.jp/works/16817330653862693146
住んでいたマンションは事故物件であり、地縛霊が積みついていた。が、どうすればうまくいくかアドバイスを貰ったことで女性取締役に昇進した女性の話。
おどろおどろしいイメージから一転、いい話にまとめられていた。
不思議なことがあるものである。
ホラーっぽさもあるけど、ちょっとしたSFな気がする。
主人公は二十九歳女性。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
それぞれの人物の思いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感すつタイプの中心軌道に沿って書かれている。
駅から近く、都会には十分足らずで行ける立地に建つマンションにも関わらず、家賃は驚くぐらい安かったのは、事故物件だったから。主人公はそうとは知らずに借りて済んでいる二十九歳女性。
地縛霊も同じ二十九歳の女性であり、夜中起こしたのは、成仏できないからであり、同棲生活をするため。
地縛霊が何かと世話をしてくれて楽しく過ごしていたが、仕事でミスを犯した主人公はやけ酒を飲んで帰宅し、地縛霊に愚痴る。
翌朝、占い師をしていたと語った地縛霊は主人公を占い、これからどうすればうまくいくのかアドバイスをしてもらう。おかげで会社で史上最年少かつ初の女性取締役となり、収入が安定したことで一年前に引っ越した。
以来、地縛霊とはあっていない。どうして彼女は自殺なんてしたのだろう。どうして人のことは救えるのに、自分は成仏できないのかと思いながら、お盆を迎えるのだった。
書き出しから、不穏な気配を漂わせている所がいい。
なんだろうと読み手に興味を持たせてはじまっていくので、読み続けていくことができる。
「私は数十年に一度しか出さない、とてつもなく大きな勇気を振り絞り、壁の方を向いていた顔を反対方向へ向けた」でモヤッとした。
数十年に一度とはどのくらいを意味するのか。
意味合いとしては、数十年とは、二、三十年くらいが一般的だと思われる。五十年に一度も八十年に一度も、数十年のくくりで使えなくもないけれども、一般的な認識からすると、二、三十年くらいが無難。
のちに主人公は二十九歳だとわかるので、いままで生きてきた中ではじめて出すくらいの勇気を振り絞って、「壁の方を向いていた顔を反対方向へ向けた」となる。
変質者に追いかけられ後か、怖い目にあったことがこれまで一度もなく過ごしてきたのだろう。
よほど勇気を振り絞った行動をしてこなかったのだ。
それほどまでに、初めての怖さを体験していると想像する。
ただ、二十九歳でマンション借りて一人暮らしをしたから、初めて怖い目にあったと思われる。それまでは親と同居していたのか、同棲していたのか、結婚していて、離婚して一人暮らしをすることになったのか。わからないけれども、いままでは誰かと一緒で、怖い目に遭うような生活をしていなかったのだろう。
二十九歳はアラサーではない。
単なる間違いなのか、意図的なものなのか。
おそらく、意図的な気がする。
主人公も地縛霊も二十九歳なのだけれども、二人には時間のズレがあることを意味しているのでは、と邪推する。ちょっとした時間のズレが、二人を出会わせたのだと考えてしまう。
勇気を振り絞った割には、相手の地縛霊から怖さを感じない。
部屋の電気をつけた後も、ふつうに話をしている。
しかも、地縛霊が食事を作ってくれたり、家事をしてくれたりするので、幽霊のわりに実体があるところが、ますます怖さを感じさせない。
地縛霊と表現しているけれど、地縛霊ではないのかもしれない。
家に帰ったら化け猫が料理や家事一切をして、面倒を見てくれている感じと変わらない。
主人公にとっては、マンションのオプションで便利な家政婦がついてきたみたいなもので、「食事とお風呂が用意されている。お互い打ち解けられ、会話はタメ口だ。毎日が楽しくなった。一緒にテレビを見たり、ゲームをしたりと退屈することがなくなった」と、満喫している様子がうかがえる。
ある日、仕事でミスしておこらえて、やけ酒飲んで帰宅し、地縛霊にぼやくのだ。
「彼女は泣いている私をそっと抱きしめ、慰めてくれた。その優しさに包まれながら、いつの間にか私は眠っていた」とある。
実によくわかっている地縛霊だ。
女性が泣いてぼやいて愚痴っているときは、そばで黙って聞いてあげて、褒めて励ます。それが大事なのだ。変なアドバイスはいらない。
同性だから、主人公の気持ちがわかったのだろう。
また同時に、主人公と地縛霊は対になっていると考える。
「どうして彼女は自殺なんてしたのだろう。どうして人のことは救えるのに、自分は成仏できないのか」
乱暴な考え方をすると、主人公と地縛霊は同じ人物。
だけど、時間軸がズレている。地縛霊のほうが先に生きていて、仕事でミスをしたことでやけ酒を飲み、挙げ句自殺してしまったのだろう。
そうやって死んでしまった時間軸と、主人公が生きている世界の時間軸が、マンションの部屋を中心に重なってしまったと邪推する。
地縛霊が占いで主人公のことを「怖いぐらい、自分に当てはまるものだらけだった」のは当然であり、地縛霊自身のことを語ったのだ。
なので、過去に犯した自分自身の過ちを知っているので、そうならないための回避手段を自分自身である主人公へと地縛霊は伝えたのだ。
「住んでいた部屋は、ある程度、収入が安定すれば引っ越してもいいという助言のもと、一年前に去った」とある。
この助言は地縛霊から受けたものだろう。
マンションを出ることを、地縛霊も承諾していたことになる。
主人公がマンションを出たことで、地縛霊の役目は終わったと考える。だから、「楽しかった思い出しかない。久しぶりに会いたくなった」といってマンションを訪れても、おそらくもう地縛霊には会えない。
お盆を迎える度に、上手く行かなかったもう一人の自分の弔いをしながら感謝することを、主人公はしていけばいいと思う。
読後にタイトルを見て、自殺した部屋という意味の事故物件だけでなはなく、時空のズレによる事故がマンションの部屋で起きたことで、偶然出会ったという二つの意味があるのではと考える。
ホラーっぽいけど、ちょっとしたSFでもある作品だとおもった。
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