彼女は意外な清楚系ライオン
彼女は意外な清楚系ライオン
作者 御厨カイト
https://kakuyomu.jp/works/16817330660414412072
付き合って半年の澪と試験後の帰宅途中で雨に降られて家に招くも、大胆にも彼女からキスを迫ってきた話。
疑問符感嘆符の後はひとマス開ける云々は気にしない。
彼女の豹変ぶりが、よく書けている所が良い。
主人公は男子学生。一人称、俺で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
それぞれの人物の思いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。
清楚で利発な澪と付き合って半年が経つ主人公は、学校の試験が終わった日の帰り、一緒に帰宅していると突然雨に降られる。
傘を持っていない二人は屋根があるところまで避難し、主人公の家が近いため、主人公の家へと彼女を連れて行こうとするのは、このままでは風邪を引くと思ったから。
家につくと親はおらず、とにかく自分のジャージを彼女に渡して先にオフロに入ってもらう。彼女がでてきた後、主人公も塩ヒロヲに入り、でてきた後は二人ソファーに座る。いつもはしないことをしてみようと、彼女の手を握ると、彼女は指を絡めてくる。驚いている間に、彼女が迫り、もう少しで顔がぶつかるという距離まで詰めてくる。
彼女の豹変ぶりに慌てるも、静かにしてと微笑んで顔を近づけてくる。そんなとき、母親が帰宅。「これはお取込みだったようね。邪魔者は退散します」と引っ込む母。ドアの方へ向かいあっけにとられていると「キス、出来なくて残念です。また機会がありましたら」と彼女は微笑む。
主人公は、清楚の皮を被った肉食獣だと確信するのだった。
澪の人物描写を軽く描いて、清楚で利発、「外面だけでなく勿論内面も凄く優しく、非常に頭が良い」と、主人公も頑張って勉強しているのになかなか彼女には敵わない様子が早々と描かれている。
それでいて「私も今回は結構ミスしている気がするので良い勝負だと思いますよ。それにあんなに一緒に勉強したんですから大丈夫です!」と、主人公を立てている。
すでに、主人公は彼女の掌の中にいる感じが描かれている。
それに対して、「……澪は本当に優しいな、ありがとう。今回も結果が帰ってきたら一緒に見よう?」違和感なく受け入れている主人公。
そんなふたりにハプニングが起きる。
「その瞬間『ザー!!!』という音と共にまるでバケツをひっくり返した様な雨が降ってくる」と雨の凄さを表現されている。
バケツを引っくり返したような、という表現を、独自の別のいい方にすると、作者の個性が出てくると思われる。
おそらく、わかりやすさを選んでこの表現にしたのだと推測する。
表現にこだわるよりも、描きたいことは別にあるという証かもしれない。
澪が「あっ、えっと、わ、私は良いんですけど、き、君の方こそ良いんですか?」と遠回しに聞いているのに、「うん? 何が?」と返すところからもわかるように、主人公が彼女を家に招くのに下心がないことを表している。
純粋に「このままだとマジで風邪引いちゃうからさ。シャワーとか着替えとかも貸すし」と彼女を気遣っての行動なのだ。
澪の瞬きしてため息をつく場面は、複雑な彼女の心情を表しているのだろう。
半年も付き合っていて、下心もない、それでいて自分のことを大事に思っていてくれるのはありがたいのだけれども、これでなにもないのならこの先、二人の関係は進展しないかもしれないと悩んでいると邪推する。このときに、決意まで行かないまでも意識したのだろう。
風呂上がりに、澪はぼおっとリビングを見ている。「いや、そうなんだけどちょっと物珍しくて……」「そうなんだけど、リビングを見るのは初めてだったから」いつも家にお邪魔するときとは違うシチュエーションだったので、感慨深くなっているのだろう。
このときまでは、まだ行動に移そうまでは考えていなかったと思う。
主人公が澪の手に触れて、ギュッと握り、驚きながらも彼女の中ではある程度覚悟を決めていたから、「いきなり彼女の方から手をスルリと絡めてくる」ことができたのだ。
主人公は、意を決して頑張って手を繋いだつもりだけど、澪にしてみたら、家に招かれたときから覚悟していたから、積極的に行動に移せたのだろう。
覚悟を決めた澪は、「『逃がさない』と言わんばかりの気迫を感じ」る行動を移し、キスまであと少しと迫るのだ。
母親が気を利かせてドアを閉めるのがいい。
でも、「目の前で繰り広げられているこの状況を見てスゥーとすぐにドアを閉める。『……これはお取込みだったようね。邪魔者は退散します』」と閉めたあとで、母親のセリフがきている。
「目の前で繰り広げられているこの状況を見て『……これはお取込みだったようね。邪魔者は退散します』スゥーとすぐにドアを閉める」の順番の方がいい気がする。
母親が去ってから二人きりになったとき、「キス、出来なくて残念です。また機会がありましたら」と澪が背後でささやく。
彼女としては、覚悟を決めて行動したのだからあとには引けないので、このまま突き進んでいくしかない。
それを、清楚の皮を被った肉食獣と表現する主人公は、気づいていないのだ。澪を変貌させてしまったのは、主人公自身のせいだということに。
半年も付き合っているのに、進展していなかったのが根底にある理由だろう。
読後、タイトルを読みながら、ライオンにしたのは主人公のせいだろうとツッコミたくなった。意外でもなんでもなくて、ラノベ主人公特有の優柔不断な性格が原因だと思う。
今後の彼の行動に期待したい。
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