星降る夜に、二人は秘め事。

星降る夜に、二人は秘め事。

作者 瑠奈

https://kakuyomu.jp/works/16817330649859881874


 奇病の妹を治すと誓って医者になった星野誠は、中学二年生の三島天音の病気を調べるも流星病という奇病に治療法がなく星となった彼女のことを、流星群をみながら思い出す話。


 現代ファンタジー。

 綺麗でありながら物悲しい。

 奇病の発想がよかった。


 主人公は、大道寺総合病院小児科医の星野誠。一人称、僕で書かれた文体。途中、川西月歌、三島天音の一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。現在→過去→未来の順に書かれている。

 読者の涙を誘う型、苦しい状況→さらに苦しい状況→願望→少し明るくなる→駄目になるの流れに沿っている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプと、女性神話と、メロドラマと同じ中心軌道に沿って書かれている。

 十年以上前。星野誠が高校三年生のとき三歳年下の妹、未姫が病気になり、医者から余命三カ月と言われたが半年経っても生きていた。だから星野は医者になろうと猛勉強して医大に受かる。未姫の病気を研究して絶対に治すと妹に誓うも、大学四年のとき、未姫が遂に亡くなる。あれだけ誓ったのに守れなかったことが悔しかった星野は、全力で患者と向き合い、治っていくのは嬉しかった。

 奇病の治療方法の研究をしながら大道寺総合病院小児科医として働いている。夜勤担当の医師と交代まで残り五分のとき、往診に来てほしいと電話が入る。断れずに夜勤担当医に伝えてから、往診先の三島家を訪ねる。中学ニ年の娘、三島天音は先月に発症したが、どの医者に見てもらっても病気がわからないという。暗い部屋は遮光カーテンがかかり、ベッドを覆うほどの大きな箱が置かれていた。

 暗い部屋のなかに出てきた天音は、左上腕部が何故かぼんやり光っている。左上腕には、銀河のような紫色の痣が浮かんでいた。

「明かりのある場所に行くとこの痣が傷んで、広がっていくんです。だから……ベッドを囲んで真っ暗にしたんです」こんな少女は見たことがなかった。母親に専門外と伝え、一週間後にまた訪ねると、天音の友達の川西月歌と会い、「僕は奇病の治療方法の研究をしててね。だから呼ばれたのかもしれない。でも、天音さんの症状は見たことがない。だから、僕の専門外だからわからないんだ」と話した後、二人で天音と話す。彼女はすごく勉強ができること、中学二年生だということなど。彼女がまた、楽しく生活できるように、奇病を突き止めて治療法を見つけようと心に誓う。

cosmoのライブ限定のアクリルキーホルダーをつけていたことで天音と月歌も好きだとわかり、『ミルキーウェイ』の歌がいいねと盛り上がる。

 月歌は星野先生のことをどう思っているのか天音を尋ね、気遣って触れようとするも、伝染るかもしれないから触らないでと拒まれる。気まずくなった月歌は、学校の行事の準備で忙しくなり、距離を取るようになる。

 天音は小さい頃から誰かに認めてほしかった。勉強を頑張ればお母さんに、テニスを頑張れば学校のみんなに認められ、テニスを頑張っていたから月歌と仲良くなることもできた。なのにどうして自分がこんな目にあうのか。生きている身がないと、窓を開けて月光を浴びていた。助ける星野は「君は僕が絶対治す! 信じて待ってろ‼」といって、冷やそうとすると、伝染るかもしれないからと拒まれる。「――感染ったって構わない。絶対治療法を見つけるから。誓うよ。だから、死のうなんて思わないで。僕は、君に死んでほしくない」「君はまだ中二だろ? 死んでいい年齢じゃない。生きていれば、何だってできるよ」生きることは自分で決めることだと言われた天音は笑う。

 天音と喧嘩して一週間が過ぎ、友達失格だと月歌は塞ぎ込んでいる。その頃、海外の知り合いの医者から取り寄せた論文から、天音の『流星病』は、光が当たると流星状の痣ができることから名付けられた。日本では確認されてなかった奇病。治療法はなく、十五歳の誕生日を迎える前に痣が全身に広がって亡くなっている事がわかる。母親には伝えるも天音本人には言い出せなかった。妹が病気ニア勝ったことがきっかけで医者を目指し、「僕はね、未姫と天音さんを重ねてたんだ。雰囲気がどことなく似ていてつい、ね」と天音を助けたときに呼び捨てにしたことを謝る。

 病気のことを知りたがる天音は食事を取らなくなる。明日話そうと決めたのはペルセウス座流星群が一番良く見える日だった。わかっていることを伝え、六月の誕生日まで一年もないことを知り、ショックを受ける。帰宅すると天音の母親から彼女がいなくなったことを伝えられ、教えてもらった丘に探しに出かける。楓の木の下に寄りかかって座る彼女はの露出している腕や足はほとんど痣で覆われてしまっている。顔や首も三分の二ほどに痣が浮かんでいた。ペルセウス座流星群が見られるのは今回で最後って思ったから、他の医者はすぐ諦めたのに諦めず探してくれて嬉しかった、と彼女は告げる。

 月歌も駆けつけ謝り、去年も流星群を一緒に見たことを語り、「先生……月歌……ありがとう……」涙を流して目を閉じる。天音の体が光り、一際強く輝いたかと思うと光の粒子が一気に生まれ、粒子は空に登っていく。その場には、痣の消えた安らかな寝顔を浮かべる天音が残された。彼女は星になったのだ。

 葬儀は一週間後に執り行われ、葬送曲として選ばれたのは、cosmoの『ミルキーウェイ』だった。彼女が残した星野宛の手紙には、死ぬ前に星を見たかったこと、先生に会えて嬉しかったことが記されていた。

 五年後。大きな病院に移った星野は手術をするようになり、眼鏡からコンタクトに変えた。浜辺で流星群を見た後、バス停に向かっている途中、ワイヤレスイヤホンを落としたと女子高生が届けてくれる。バスに乗って『ミルキーウェイ』を聞きながら流星群を見つめる。バスを降りて町外れまで来ると、ベガとアルタイルを見つけた。街灯も少なく暗い道をスマホのライトを点けて歩く。町外れのお寺に。街灯もない暗い墓地を通り、未姫の墓前で「ペルセウス座流星群が見えるよ。――未姫」と話しかける。未姫の墓参りを終え、金平糖の瓶の蓋を開けて一粒口に入れ、流星群をぼんやりと見つめる。五年前に天音が亡くなった日のことを思い出し、大学一年生になった月歌と再会。二人で天音を思い空を見る。いくつもの流星が空を流れては消えていった。


 流星の謎と、主人公に起こるさまざまな出来事の謎が、どのように関わっていくのか、現在と過去を交互に行き来しながら、星を眺めながら思い出す結末の流れは綺麗にまとまっているところが良かった。

 流星病という奇病を題材にした現代ファンタジーであり実際にはそんな病気はないけれども、奇病扱いにしているところから、ひょっとしたらと思わせてくれるところに現実味を感じられる。

 実際にある流星群や、妹である身内を治そうと思って医者を目指し、患者が元気になるのが嬉しいと思って働いている人もいるだろうと思えるところなどからも、作り話だけれども、ただの作り話に終わらないように書いているところも良かった。

 わからないことがわかっていく展開から、何かしらの感動を得られるし、天音と月歌が喧嘩して離れてしまう場面は似たような体験をした人にとっては関係があると思えるし、謝ったり寄り添ったりすることは自分にもできると感じられることが書かれているので、登場人物の気持ちをも追体験し、心が動かされるのもいい。


 書き出しの「流星群が降る」ではじまり、月歌といっしょに流星群を見て終わる書き方は綺麗にまとまっている感じがしていい。

 主人公の星野が現在から五年前を客観的にみる状況説明からはじまる導入、天音との出会いにより主観で描く本編、ラストは五年後の現在から客観的視点のまとめをしている。文章のカメラワークを用いた描き方は、読み手を物語へ誘い、楽しんでもらおうとする工夫が出来ている。

 間に、現在をはさみながら過去回想していく書き方は、現在パートが情景になっているのがポイント。

 流星群という、言葉に尽くせない情景を眺めながら、過去回想で語らうことで、主人公がおぼえた共感が読者の共感となって届くので忘れない。追体験ができていく。

 途中に月歌の視点が入るのは、その前の先生とのやり取りを情景にして天音との語らいをし、喧嘩になってしまうその気持ちを、読み手にも共感してもらいたい、そういう構造になっている。

 最後、二人が仲直りして星を一緒に見ることで、クライマックスの盛り上がりを演出している。

 それぞれの登場人物の強い思いが、クライマックスでは強く現れるよう必要な行動、必要な表情、仕草などから想いを見せている。だから読み手の、胸にも届くのだ。

 

 月歌と喧嘩し、星野が高校の話をうっかりし、天音は認めて褒めてほしくて頑張ってきたのに奇病になるなんてと塞ぎ込んでは、月光を浴びようと自殺行為をし、星野は病気で死んだ妹の話をする流れが良い。

 なにかが壊れることで、いままで隠されたいたものや、秘めた思い、秘密といったものが明かされていく展開は、クライマックスに向けて盛り上がりをみせてくれている。


 それぞれの場面では、いつ誰がどこで何をどのようにどうしたのかを伝えながら、想像できる描写をし、心の声や感情の言葉や表情を入れて書かれているので、感情移入できる。

 

 医者は病気を治すこともそうなのだけれども、ただ治すだけではなく、患者が望む生き方に寄り添い、付き合っていくのが本来の姿。星野先生は、病気について一生懸命調べ、症例を見つけるも十五歳までしか生きられず治療法がないとわかって、告げるかどうするかで迷っている。

 いまは、隠さず告知するのが主流だけれども、中には心が弱い人もいるので、そういう患者の場合は話さないこともある。

 本作の場合、天音が知りたがっているので話すけれども、治療法がないので難しい。


 まだ病名がわからない段階で、「言ってることがわかんないよ! 君は僕が絶対治す! 信じて待ってろ‼」と言っている。国家資格を持っている医師は治すという言葉は使っていいけれども、まだ良くわからない病気、しかも奇病という段階で、治療法は確立していないことが多いことくらいは知っているはず。なぜなら星野は奇病を研究している医師だから。

 そういう人が、相手を落ち着かせるためとはいえ、勢いもあったかもしれないけれど「絶対治す!」は言わないと思う。

 絶対、はいえない。この世に絶対はないから。

 気持ちはわかる。物語としても、ここでこういうセリフを言うのはいいけれども、医師としては軽率だったのではと考える。


 人はどう死んだかではなく、どう生きたかが大事。

 天音は星が見たかった「今」を生きた。

 彼女は奇病で死んだのではなく、やりたいことを精一杯やって生ききったのだ。

 

 光の粒子が空へと上がって星になるのは、すごかった。意表を突かれて、演出としてよかった。死んだら人は星になるを文字通り描いたみたいで。


 葬儀までなぜ一週間かかっているのだろう。

 今後の治療のために、遺体を調べたから時間がかかったと考える。

 きれいになった体が残されたことから、寄生虫的な病気だったのかもしれない。

 昔、『星虫』というSFがあったことを思い出す。ひょっとすると流星病は、宇宙の何らかの生物の卵みたいなものが人間に寄生し、星明りを浴びることで成長し、光となって巣立っていくのかもしれない。

 流星群は、一定のサイクルでみられる。

 生まれた場所に戻ってきて産卵する魚のようにやってきた何らかの生物が、星の好きな天音の体に卵を産み付けたのではと邪推してみた。きっと天音は星の海を渡る新たな生命になったのかもしれない……と蛇足的なことを考えるのは野暮なのだけれども。


【花吐き病】や【涙石病】

 漫画『花吐き乙女』著:松田奈緒子

 種堂准教授が研究を続けている「嘔吐中枢花被性疾患」通称「花吐き病」。 その症状は、片思いをこじらせて苦しくなると突然花を吐いてしまうというもの。 はるか昔から流行・潜伏を繰り返しながら現代まで続くこの不思議な病気をめぐるせつなくて切実な恋物語。

 花吐き病は、これが元ネタかと思われる。

 TikTok等にある奇病には、

 花吐き病・口から花を吐いてしまう病気。

 星涙病・目から星の涙が出てくる病気。

 天使病・天使のような羽が生えてしまう病気。

 透明病・体の一部などが透けたり消えたりする病気。

 鉱石病・体が鉱石化してしまう病気。

 涙石病・宝石のような涙が出る病気。

 人魚病・鰭が生えて人魚になる病気。

 などがある。

 こういう奇病などを、星野先生は研究していたのかもしれない。


 ラストが星を眺めているところで終わるのが良い。

 誰しも星を見ながら思いを馳せる。それでいて流れ星がみられるのは一瞬で、儚い。まるで私達の命のよう。星を見て、天音を思い、また自分たちのことも見ている。


 タイトルが意味深である。

 読む前は、恋愛のドロドロしたものが書かれているのかと思ったのだけれども、読んでみるとそんなことはなかった。

 読後が寂しく悲しいけれども、きれいな場面で終わっているので、じんわりと良かったなと思えた。いつか星の海で再会しよう、と二人は思っているかもしれない。


 奇病にかかり、十歳まで生きられればいいほうだと医者に言われ、十七歳でなくなった幼馴染がいる私個人としての感想は控えたい。


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