星空を繋ぐ日

星空を繋ぐ日

作者 宇佐見凪

https://kakuyomu.jp/works/16817139557217924165


 互いに困難を乗り越えてきた上川淳也の幼馴染の広田直繋が事故で両親をなくし記憶喪失となる。思い出す協力をしながら、いじめにあっている淳也を助けたことで、中学時代にいじめられていた広田直繋は記憶を取り戻し、二人の絆が再確認される話。


 文章の頭はひとマス下げるは気にしない。

 現代ドラマ。

 絆や友情はそう簡単にはなくならないし、人との繋がりの大切さを教えてくれる。


 三人称、上川淳也視点、神視点で書かれた文体。シンデレレプロット、マイナスからのスタート→失敗の連続→出会いと学び→小さな成功→大きな成功の流れに準じている。


 絡みとり話法と、メロドラマと同じ中心軌道で書かれている。

主人公の高校生、上川淳也は広田直繋と幼稚園からの幼馴染。毎年、年賀状のやり取りをしているが、今年の正月に送られてきたものは今までとは違い、敬語がふんだんに使われ、目上の人にでも出すような馬鹿丁寧な口調。住所も変わっている。不審に思った淳也は連絡を取ろうとスマホのLINEを送るも返事が来ない。LINEの音声通話をするも出る気配がない。電話をかけてみると『――お客様のおかけになりました電話番号は、現在使われておりません。番号をお確かめの上、もう一度おかけ直しください』とアナウンスがなり続けてる。

 翌日、住所を頼りに灰色の壁に囲まれた建物を訪ねると、上川淳也と再会するも彼は記憶喪失になっていた。児童養護施設の秋宮佳枝の話によれば、昨年の十二月、後ろから着た車による追突事故により両親は亡くなり、彼は事故で記憶をなくしたという。「今、直繋君は、記憶を何とか取り戻そうとしている。でも、彼の過去を何も知らない私ではどうしようもないの。だから、淳也君の力を貸してほしい。お願いできるかしら」淳也は協力することにし、一日中彼と過ごす。帰りが遅くなったことで小言を言う母に事情を説明すると、仰天し、小言は消え失せる。

 LINEで直繋とやり取りから、中学校のクラスメイトに連絡を取り、荻原の家を訪ねて中学校時代の直繋の様子を聞く。みんなと普通に仲良くやっていたことくらいしかわからなかったため、これ以上クラスメイトに会うのはやめようと提案。そのかわりに街から離れた山の麓の野原に案内して、二人して満天の星空を見る。「――心が洗い流されるような」直繋が続けた言葉に、淳也は、はっと過去の記憶を探る。「それ、昔に直繋が言ったんだよ。たぶん、中二のときだったと思う」それを聞いて、「やっぱり、淳也君に聞くのがいいよ。ぼくのこと。ずっと一緒にいたんだし、一番ぼくを分かっていると思う。これからも、お願いできる?」と頼まれる。まかせロと答え、あの頃の絆を取り戻せることが嬉しくなる。

 冬休みが明け、学校が再開。まわりが期末試験対策をはじめる中、直繋と遊んでばかりいた。淳也の所属するバドミントン部は、運動部の中でも相当にハードな部活だった。直繋と遊びたくとも、練習で疲弊した重い腕と足を考えると、しぶしぶ断ってしまうことがあった。そんな日には、勉強も何もする気が起きず、ただ早々にベッドへ潜り込んでいた。また、直繋が現在学校に行っていないという。放ってはおけなかったが、それ異常話を聞くことが出来なかった。

 関東一体で大雨が降った日、帰宅すると直繋が来ていた。部活で疲れて苛ついていたためきつい言葉を欠けてしまう。彼はもう変えると言って出ていくと、「直繋君、淳也の誕生日を祝いに来てくれたのよ。プレゼントまで用意してくれて、ちゃんとお礼言ったんでしょうね?」母に言われて驚く。ラッピングされた小包からはバドミントンで有名なブランドのロゴが入ったスポーツタオルとカードが同封されている。

『お誕生日おめでとう! プレゼントに何がいいか迷ったんだけど、これなら間違いないかなって。部活で使ってくれるかな? 最近は一緒に遊んでくれてありがとう。学校がないと結構暇なんだ。部活が忙しいと思うし、遊べないときは断ってくれて構わないから、体を優先してね。これからも、バドミントン頑張れ!』

 言い訳がましいことを思いながら、いまの彼は記憶喪失だと気づき、所詮友達程度で親友と呼べるものじゃないのだからと思っていると涙が流れ、タオルでそっと拭う。

 以来、彼が遊びに来なくなる。LINEの会話は一月下旬で止まったまま。気づけば期末試験は終わりを迎えた。直繋の通っている高校にって彼について聞いてみようと、地元の公立高校を訪ねる。担任の釜村先生に、不登校になっている原因に心当たりはないか尋ねたが、高校には問題はなく、むしろ逆に原因が聞けると思ったといわれる。

 用事が済んで帰る途中、学校でいじめてくる同級生に見つかり付き合いが悪いと絡まれる。そのとき、信号待ちをしている直繋と目が合う。中学の友だちと遊んでいたと答えると、「俺たちの仲より大事だって言うのか」と笑われる。そうだと答えると、腹を蹴られて地面に転がる。そこに助けに来る直繋。殴り合いになりそうなとき、「おい、ここは逃げたほうがいいって。警察でも呼ばれたら、俺たち終わりだぞ」仲間の一人がいって、彼らは去っていった。

「あ、あの、直繋。ありがとう……」と礼を言うも、なぜか彼は突然駆け出していく。急いで追いかけながら、記憶が戻ったのだと思った。野原に来ると直繋がいた。

「なんだか、皮肉だと思わない、淳也。中学時代に、ぼくがクラスからいじめを受けていたことと重なって、記憶が戻るだなんて」

 彼の隣に座り、「直繋、ごめん。あの日、プレゼントまで持ってきてくれたのに、ひどいことを言って。きっと、いろいろ気が滅入っていたんだ。学校でのことも、直繋の変化も。あのころは、いじめも酷くなってきていたし。それで、ちょっと心が弱くなっていたのかもしれない……。それと、今日はありがとな。直繋がああいうことをするなんて、ちょっと驚いた。あんな姿を見せてしまって、恥ずかしいけれど」と謝罪とお礼を言う。

 彼は、「何を言っているの。中学校でいじめられていたぼくを助けてくれたのは、淳也だったじゃないか。初めて淳也がいじめを目にしたとき、あんな風に体格差なんて無視して、相手を投げ飛ばしてくれたよね。本当に、あの瞬間、希望が見えたんだ。記憶をなくしたときだって、頼りにできたのは淳也だけだった。感謝しているのは、ぼくのほうだよ」

 それでもつらくなったとき、二人してよく星を見たことを懐かしむ。記憶がないといもおぼえているというので、年賀状の文面はバカ正直だったけど今思えば直繋らしく、LINEがあるのにまめだなと思ったと話せば、名前に関係していると教えてくれる。

「直繋って名前は、人と人の繋がり、交流を大切にして、直接の関わりを持ってほしいっていう願いが込められているんだ。だから、小さい頃から、それは意識してる。年賀状も、直接ではないけれど、手書きのほうが心がこもると思ってね。……この名前、お父さんがつけてくれたんだ。うちの両親、ちょっと古めかしいところがあって。機械を通したやり取りとか、あんまり好きじゃないんだよ」

 両親がもういないことを思い出し、「ぼく、もう、これからずっと、お父さんとお母さんに会えないんだね」今まで直繋から聞いたどの言葉よりも、重く淳也の心にのしかかった。

「あのな、別に泣いたって、いいんじゃないか。つらいときは、二人で歩こうって、決めただろ。一人で受け止めきれないことも、あるんだから」

 涙する彼を抱きとめ、満天の夜空の下で二人は秘めた思いをさらけ出す。家路につきながら、これからは高校へ通い始めるという。

 淳也の高校でのいじめについても、もちろん話題が上がった。直繋からは、この問題について、親や先生に相談をするべきだと言われた。正直、淳也は誰にも相談しようとは思っていなかったが、二人だけで戦い続けた過去を思い返して頷いた。いじめがすっぱり消えるとは限らないけれど、きっと大丈夫。幼稚園から今日まで、数えきれない困難を経験して乗り越えてきあ。

 二人の絆は簡単に着れるようなものではない。今日という日、それが再確認されたのだった。


 広田直繋の謎と、上川淳也に起こる様々に出来事の謎が、どのように関わり合いながら、互いの信頼関係が復活していく展開がよく描けていた。

 記憶喪失を扱った作品。

 事故により、頭部に強い衝撃が加わる高次脳機能障害。一時的に記憶をなくす人もいれば、事故前後を忘れたり、一部を喪失する人などそれぞれ。広田直繋は十二月末に事故に遭遇しているが、忘れていること以外は大した怪我をしていない。両親はなくなっているので、追突されたことで前の車、あるいは何かしらの障害物にぶつかって出血性ショックでなくなったのかもしれない。


 客観的な状況説明で書かれてはじまる導入、連絡を撮ろうとしてはじめまる淳也の主観の本編、客観的視点のまとめの結末で描かれる文章のカメラワークの良さは、読み手を物語へと誘い、居味を持たせて楽しませようとしているところはよかった。

 書き出しの年賀状の文面は、一見するとおかしなところがないように思えて、よくよく読めば違和感がある。

 なんだろうと読み手に思わせる書き出しがいい。

 ちなみに、年賀状は新年の挨拶なので手紙のような文面を書くものではないとされる。

 それはともかく、かしこまった文面。年上からの年賀状なのかと考えてしまう。なにより平成十八年とある。

 もちろん、本作が平成十八年の世界を描いているのならば何も問題はない。が、その時代にはスマホもLINEも存在していない。

 最初のスマホが日本で販売されたのは二〇〇九年七月一日。HTC製のAndroidスマートフォン「HT-03A」が最初。

 無料通話アプリLINEのサービスが開始したのは、二〇一一年六月二十三日。

 それなのに主人公は、スマホを使い、LINEでメッセージを送ったり通話しようとしたりしている。一体、いまはいつなのかしらん。

 主人公の「……え、なんだこれ」という感覚とは違う意味での、「なんだこれ」を読み手に与えている。

 ここで引っかかり、モヤモヤしてしまった。

 間違いなのか。それとも意図的か。

 おそらく後者だと考える。

 記憶をなくした広田直繋は、今が何年なのかもわからなくなっていた。わからないのならば、平成十八年元旦と書かなければよかったかもしれない。それでも書いているのは、意味があるのだろう。

 本作の物語が二〇二四年の正月からはじまっていると仮定すると、平成十八年は西暦二〇〇六年。今年(二〇二三年)で十七歳になる。

 つまり、これまで生きてきた記憶を忘れたことを表しているのでは、と想像する。

 そう考えると、納得して読み進めることができた。


 かしこまった丁寧な年賀状の謎がわかるといった、わからないことがわかったり、LINEで手軽に連絡したり部活や嫌なことがあって誰かに八つ当たりしてしまうといった自分にも関係することや、いじめにあっている子や困っている子がいたら相談に乗って上げたり助けて上げたりすることは自分にもできるかもしれないと思えることなどが書かれていると興味を持つので、ある種の感動を覚える。


 現代的で、LINEでメッセージを送り、LINE通話を使う。普段の電話機能はよほどでない限りは利用しないところは、現実味を感じる。

 また淳也の部屋の描写で、机の引き出しを開けると、「そこにはよくある汚らしい引き出しの中身がある。その一角に、これまでもらった年賀状がまとめられていた」というのも、ありそうな光景。

 整理して入れていても、ごちゃごちゃっとものを入れてしまう引き出しはどうしても出来てしまう。とりあえずここに入れておこうと思ってものを入れていくと、ついつい汚らしい引き出しができる。

 こういう具体的で想像できる描写はいい。

 ほかにも各場面では、具体的に起承転結で書かれていて、いつどこで誰が何をどのようにどうしたのかといったことを、主人公の心の声や感情の言葉、表情など、想像しやすいように書かれているので主人公に感情移入しやすい。


 中学時代の萩原が、面白い。

「顔は中学時代と変わらないが、その上にはワックスで整えられた長めの金髪が躍る」とあり、高校デビューしてイメチェンしたのがわかる。

 中学時代の話からは「普通」をくり返し使っているところも、現代的というか、いまの高校生をうまく表現できている。

 ボキャブラリーが少ないので、たとえば「ヤバい」「エモい」「キモッ」「ウザッ」みたいに短い言葉で表現するけれども、どのようにという部分がかけている。

 普通に楽しめていた、普通って感じ、普通にやっていたではなく、どのように楽しめていたのか、どのように感じたのか、どのようにっやっていたのかがうまく表現できないのが、現代の若者にみられる傾向だとおもう。そういう子供が大人になっているので、ボキャブラリーの少ない大人も増えているけれども。

 もちろん、萩原はそこまで仲が良かったわけでもなく、なんとなく一緒にいて過ごしていた感じだったのかもしれない。


 直繋は両親をなくしたあと、ずっと施設で暮しているのかしらん。

 一応家はあるはず。親戚はいないのかしらん。

 彼の背景が今ひとつ見えてこない。

 誕生日は、いつ知ったのだろう。

 施設で出会ったときかしらん。それとも遊びに来るようになって、母親に教えてもらったのか。主人公が忘れていたのだから、自分で話して教えるとは考えにくい。

 ひょっとすると母親は、直繋も息子の誕生日を祝ってくれるからと、彼の分の食事も作っていたかもしれない。

 

 主人公がいじめられていたことが唐突で、びっくりした。

 直繋が思い出したのは、淳也が蹴られた後なのか、大将格ととりまきが逃げていった後なのか。

 きっと、助けた後だと考える。「淳也は、直繋が自分を見つめていることに気づいた。立ったままで、淳也を食い入るように見下ろしている。その目は、これまでの直繋とは、何かが違った」これまでというのは、記憶喪失になってからこれまでという意味だろう。

 

 何かが壊れることで、隠されていたものが明らかになるのは少女漫画でもみられる展開で、いじめられていた淳也を助けたことで、自分が中学時代にいじめられていたことを思い出して記憶を取り戻す流れは、説得力があっていいと思う。

 つらい思いを体験し共に経験してきたからこそわかりあえるものがある、それが思い出であり、幼い頃から共に過ごしてきた意味があると思う。

 その意味を、価値を、思い出すことで取り戻せたのは本当に良かった。年賀状から名前のこと、父親の話から両親はもういなくて、涙する彼を抱きしめる流れも無理もない感じでよかった。

 親がなくなってから、まだないていなかったはず。

 思い出せてようやく泣けた。

 しかも友の胸の中で。

 主人公のいじめは、まわりに相談すれば改善するかもしれない。直繋は大変だと思う。もっとたくさんの助けが必要かもしれない。それでも主人公が側にいてくれることが、心の支えになるに違いない。それが確かめることが出来ただけでも、二人は幸せに違いない。


 読後、タイトルを見て、いいなと深く感じ入る。直繋の名前にも繋がっているし、二人でみた星空もそうだし、生きていくには誰かの助けが必要で、困っている人がいたら助けてあげるもの大切。そういうことを改めて教えてくれる作品だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る