晩夏の延長線

晩夏の延長線

作者 見咲影弥

https://kakuyomu.jp/works/16817330660817009054


「親友の怜をなくした夏」と「怜の兄と『檻』で過ごした夏」を経て小説家になる道を選んだ爽は、自分の言葉で二つの夏の続きの物語を描きだす話。 


 現代ドラマ。青春もの。ミステリー要素もある。

 人生の生き方についての考え方を、今一度見つめ直すきっかけになるかもしれない。


 主人公は、高校三年生の爽。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 男性神話と女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

主人公の爽は何の取り柄もなく、少しだけ文章が得意。作文を褒められたことで、小説もどきを書くようになった。

 クラスメイトの一人に、何でもできる怜という男子がいた。模試は全国ランキングに乗り、トレーニングしてないのに県の陸上大会の選手に選ばれたこともあった。クラスから一目置かれていたけれど、実際は非常にお茶目だった。

 二人は隣の席となり、仲良くなる。 

 親に行ってはいけないと言われた小屋のようなゴミ捨て場を『檻』と呼び、人を喰う恐ろしい獣を飼っている奴がいて、人を『檻』に引きずり込んで八つ裂きにして喰う、嘘八百のストーリーをでっち上げては通人たちを騙し、肝試し当日には二人でシーツを被っては、来る人を驚かせた。

 シーツの中で怜は、ここは閉ざされた匣で狭い檻しか見ていない、世界はもっと広いのに、と悲しげに遠くを見る。「でもね、君がいるから世界が鮮やかに見える。たとえちっぽけでも狭くとも、深くて綺麗なんだ」君だけは変わらないでね、と約束した。

 真夏日、怜と数人とで森を探検して渓流を見つけ遊んだ。

 このまま続けばいいという彼に、主人公は人は変わる、怜はなんだってできるから自分とは釣り合いが取れない、「僕らが親友?笑える。何だよ、それ。そんな言葉、軽々しく使わないでくれよ」と口走ってしまう。ないている彼を追いかけて、「さっきは、ごめん。言い過ぎた。その、本心じゃないから……」としつこく絡むと、「分かった。分かったから。ごめん、今日は、独りにしてほしい」

 それだけ返事が帰ってきて、またなというと「またな」力なく笑った彼を置いて帰った。

 翌日、母から亡くなった知らせを聞く。渓流の下流辺りに引っかかっていたらしい。岩場から足を踏み外し、流れに巻き込まれてしまった不慮の事故。自分のせいで彼は死んだのでは、と責める声が聞こえてきそうな気がして苛んでいた。

 通夜、彼の母親に「どうか、最後に怜に会ってやって」と震える声をかけられる。ごめんとは言えなかった。言うのが怖かった。仲良くしてくれて本当にありがとうね、怜の分まで生きてねと何度も言った。とうとう最後まで非難の言葉はなかった。その夜一晩かけて泣いた。泣くと楽だった。自分の思い総ての代弁をしてくれているみたいで。

 暑さが和らいできた頃、怜の兄貴が形見分けで、怜の私物をもってきた。渡してくれたのはペンダント。怜のお気に入りのものらしく、よく着けていたものだった。こんな高そうなもの貰えないと言うと「爽くんのこと、怜がよく教えてくれたんだ。怜もきっと喜ぶと思うから、どうか貰ってやってほしい」首にそれをかけた。

 十七歳になっている主人公は、冷房の効き過ぎた部屋で、進路担当の飛鳥先生と進路相談を受けていた。学力が会っても、夢中になっるものがなかった。「人生のヒントはそこかしこに落ちてるんだ。夢なんてその気になれば、簡単に見つけられるはずさ。一週間後また面談するから、その時に聞かせてくれ」「俺はお前の味方だから。期待してるよ」

 主人公は、自転車のペダルをこいで帰宅していた。

 家に近づくも遠回りしたい気分だった。思い出に浸りながら『檻』に近づくと、中に寝転がっている人がいた。携帯電話を握りしめて誰かと尋ねると、さあねと返事。彼はスーツを着ていた。「此処が落ち着くからさ。まるで俺たち、社会から見捨てられたゴミみたいじゃないかい」「いっそお前なんて何の価値もないって言われたほうがよっぽど楽だろう?」

 胃が痛み、急いで自転車にのって走り出した。

「気をつけて帰れよ」背後から聞こえた。彼を恐ろしく感じた。まるで心の内を見透かしているようで、怖かった。

 翌朝、進路相談はどうだったか聞く母は、「そろそろ進路をちゃんと決めておかないとね」「母さんは、貴方なら何だってできるって信じてるわ」という。やりたいことはなく、最初から人生のレールが決まっていれば苦しまずにすむのにと思った。

 受験生だからとまっすぐ帰宅したがやる気が起きず、棚の一番下にあるノートに目が行く。小学生のとき、怜と主人公の二人で『夏の大冒険』という小説を考えて書いていた「大きな翼を持つ鳥に乗ってどこまでも旅をする、なんてのはどう?」彼の意見を採用して読んでもらっては書いていた。が、あの事件を境に書くのをやめた。

 彼は不器用だった。空を上手に飛べず墜死し、大人になることはなかった。でもそのたった一つが人生にずっと影を落としている。あの夏という檻に囚われているのは彼だけではない。自分もだと思うと、無性に檻に行きたくなった。

 翌日の放課後、ゴミ捨て場を訪れると、この前の彼がいた。中に入るよう言われ、スーツを着ている彼に仕事しているのか聞くと、人並みにと返事。「やりがいなんて微塵も感じてないし、淡々とただ与えられた課題をこなしてるだけだから、俺的にはあれは仕事というより作業かな」美味しいのかと手に持つ缶を指させば、渡してくる。オッサンと関節キスは嫌だというと、飲酒は二十歳になってからと言って断ってよと言われ、酒は少しでも気を楽にしてくれるという。時刻は八時を回っていた。また来ると言って男と別れた。

 暑い五時間目、美術担任の飛鳥先生の「自分の作品に集中すれば、暑さなんてすぐに忘れられる」の言葉に余計暑苦しく感じる。評価はすでについているため、卒業制作は成績に関係なく自分らしさを表現してほしいと言われる。絵画を選び、白紙を見て自分の未来だと思ってしまう。未来は真っ白のまま。白さが怖いけれど、一歩を踏み出す勇気が湧かず、白紙に溺れた。

 土曜日は怜の命日。ペンダントを身につけて夕方、墓参りに行く。新しい仏花が供えられ、綺麗にされていた。サイダー缶を石段において手を合わせる。もう一度お前の笑顔が見たい、悔やんでもくやみきれないとおもっていると、何かが転がりはっとする。足元には檻で出会った男が飲んでいた酎ハイ缶が倒れ、中身がこぼれていた。

 何故ここにと思い『檻』に向かうと、男がいた。怜の兄貴だろと聞けば、そうだという。「此処に来ると、怜に会えるような気がするから」中に入るよう促され、彼の話に付き合う。

 父が会社の社長で、自分は長男。後をついで社長になる。小さい頃から期待をかけられていた。友達が嬉々として夢を語るのをみて、心底羨ましいと思った。どうして自分の意思で夢を持ってはいけないのか考える内に勉強が手につかなくなり、家族仲も悪くなっていった。家に居場所がなかったが、唯一怜とは心を通わせられた。親父と口論して部屋に閉じこもっていたとき、怜に外へ連れ出されてい『檻』に来て肝試しをして楽しかったこと、親友ができた弟が嬉しくて救われたような気になった。そんな怜に「案外ゴミクズくらいに思われてた方が、何でもできちゃいそうじゃない?」と弟なりに理解して励ましてくれた気がする。ここに来ると弟を思い出し、会いたくなる。それが『檻』に来る理由だと語った。

 墓前に同じ酎ハイ缶があったからわかったと告げると、首から下げているペンダントを見て「ペアネックレスなんだ。あいつの誕生日に、ちょっと奮発して買ってやったやつ」と、彼も首から下げていた。

 あの日、礼に酷い子をしたと語る。突き放したから彼は死んだのではないか。自分に親友なんて言葉はふさわしくない、

「君と怜が最後の最後に喧嘩したとして、そのせいであいつが死んだわけじゃない。あいつはドジって、足を滑らせただけだ。君が気に病むことじゃないよ。……それに、たった一回の喧嘩ぐらいで絶縁してしまえるような奴のことを、あいつは親友だなんて呼ばない。これは俺が保証するぜ」「あいつは、いっつも君のことを自慢げに話してくれたんだ。だから、胸を張って、あいつの親友だったって、言ってやって欲しい」エゴかもしれないけどさ、と照れくさそうに鼻を掻いて言った彼の言葉を聞いて、ずっと戒め、檻に封印してきたけれども、怜のことが大好きで親友だったと、六年間封印してきた思いが溢れ出てきた。

 夕食時、母に小説家になりたいと告げる。「母さんは、あなたのこと信じてるから」と声をかけてくれた。

 飛鳥先生にも告げると呆れた顔をしていた。進学する意思はみせたものの、小説家だけで食っていけるのはごく一部、才能は必要だと言われ、「才能がなかったら、何かに挑戦しちゃいけないんですか」と言い返す。持ってないけど「自分を磨かないまま誰かに嫉妬ばっかりしてるような卑屈な人間にはならない。なりたくないから。凡人は凡人なりに、泥臭く足掻いてやる。それの何がいけないんですか。何で赤の他人に僕の限界を決められなきゃならないんですか」「先生、あんた、僕の味方って言いましたよね。だったら、僕の夢をあんたの軽々しい言葉で潰そうとしないでください」「次の面談、楽しみにしてますね」飛び切りの笑顔で退席した。

 晩夏。夕方、サイダー缶を持参して『檻』に行くと彼がいた。本社に転勤することになり、ここに来るのが最後だという。「親父にあんなに懇願されたら、断るに断れなくてさ」

 主人公が小説家になりたい理由を聞かれ、「紡ぎたいと思ったから。自分の言葉で、自分自身を」と気持ちを語る。もし苦しくなったら、社員として雇ってやると言われ、頼らずよもやってのけると照れくささと寂しさを紛らわせる強がりを言った。

 主人子は原稿用紙を前にして、ゴミ捨て場で偶然出会った彼との物語と、懐かしいあの夏の物語、二つの物語の先を作ろうとしていた。誰かを救うなんていう素晴らしいことはできっこないけれど、傍に寄り添えるような、優しい物語を書きたい。あの夏とこの晩夏の延長線を、自分の言葉で紡いでいくのだった。


 夏の謎と、主人公に起こるさまざまな出来事の謎が、どう関わっていくのか、六年という時を経て足を踏み入れた『檻』と向き合うことで、何を閉じ込めていたのかが明らかになる展開に、ひと夏の成長を感じられる。

 いわゆる青春もの。未清算の過去から逃げてきた主人公は自分自身で心にブレーキを掛け『殻』に閉じこもっている状態から、どのように殻を破っていくのか、そのためには抑圧されていた自分と向き合わなくてはならない。

 その姿を、怜の命日に、彼の兄の前で告白することで告解となり、兄の言葉受けて許されたような思いとなり、ようやく前へと踏み出していける展開から、ちょっとだけ大人になれた感じがして、いいなと思う。


 書き出しの「いっせーので進み始めたはずの足並みはいつの頃からだったろう、少しずつズレ始めた」は、作品全体を暗示させるようで、それでいてよくわからない。だからこそ読み手はあれこれ想像し、興味を持つ。

 遠景ではじまった後、近景で歩調の違いについて書かれ、世の中にはいろんなやつがいると距離感を描いてから、主人公の心情、「気づいたときには手遅れだった。僕の周りには誰もいなくなっていた」とあれやこれやと深く内面が開かれて、沈んでいく。

 こうして深みにはまっていく主人公の心情とともに、読み手の共感していく。

 こういう読み手を意識した書き出しがいい。

 それでいて、暗いままでは読み勧めていけないので、「無我夢中でペダルを踏み込み、自転車を走らせる。エアコンの鋭い冷気よりも、爽やかに吹き抜けてゆく夏風の方が幾分マシ」と、疾走感と爽やかなイメージを想像させる、動きのある場面を見せてくれる強弱の付け方も良い。


 主人公自身の客観的状況説明である導入から始まり、『檻』を訪れることからはじまり回想を交えながら自分と向き合っていく主観の本編、最後の客観的視点からのまとめ。文章のカメラワークが意識されて書かれている構成だからこそ、わからないことがわかっていくし、進路について自分も関係があると思えるし、主人公の行動を通して読み手も過去の自分と向き合って前に進むことができると、ある種の感動をおぼえることができるから面白さも味わえる。


 進路について、母親が寛大な気がする。

 季節は夏、主人公は高校三年生。いまだに進路が決まっていない状態で「そろそろ進路をちゃんと決めておかないとね」というのは、のんびりしすぎている。

 成績がいいらしいので、その点は心配していないのだと思う。

 思うけれども、大学進学には費用がかかるので、自分の子供がやりたいことを進んでいってもらいたい気持ちと、現実的な問題が親にはあるので、内心はすごく気にしているはず。

 親が焦っても仕方がないので、早くね、としかいいようがないのだろう。


 ゴミ捨て場を、『檻』と名付けているところが、象徴的で良いと思う。

「小屋のようなゴミ捨て場がある。僕らはそこを『檻』と呼び」「サイドはコンクリ壁、光が入ってくるのは金網ドアだけだ。あまりに暗いので、彼の様子さえもよく見えない」と書かれている。

 壁がブロック塀みたいになっていて屋根が有り、正面の一方のドアだけが金編みになっている。

 カラスや雨雪対策で設けられているのだろう。こういう場所は実際に見かけるので現実味があり、想像しやすい。

 主人公が封印してきたものが、怜のことが大好きで親友だと思っていた気持ちであり、肝試しをしては語り合った特別な場所でもあるので、『檻』そのものが、主人公の心を表している。 

 主人公の心とは、十七歳になった受験生の彼にとっては、まさに未清算の過去であり、心の殻に閉じ込めた抑圧された自分自身。

 進路相談の帰りに、遠回りをして立ち寄ろうとするのは、自分にとっては忘れがたい場所であると同時に、進路を決めるためにも自分と向き合う必要がある。

 物理的に行動することで、内面の変化も同時に描いている。

 そうやっていけば、主人公が『檻』を訪れるのは、自分自身の心の『殻』少しずつ、ヒビを入れていく行為でもある。


『檻』に訪れるから、過去を少しずつ思い出せる。

 ちょっとずつヒビを入れていく。

 この書き方がすばらしい。


 怜の兄に促されるように主人公が『檻』に入っていくのは、自分からはまだ入れないから。

 殻を割るきっかけを、怜の兄が与えているというのも、また象徴的でいい。

 主人公は怜と向き合わなくてはいけないから、怜の側にいた人物である兄に招いてもらわなくては、自分からは行動できるほどの勇気がない。

 本作の前半終わりくらいの位置で、殻を破るきっかけが起きるのがタイミングとしても素晴らしい。


 兄が、親の会社を継ぐ話がある。会社を継ぐとは別に、やりたいことや夢を持ってもいいのに、それが出来ないと思いkんでいるのはどうしてなのだろう。

 では、他の子が自由に夢を持って語るのを聞いて、うらやましと思うのならば、兄は会社を継ぐ以外に何をしたかったのか、それが書かれていないので、いまひとつわからない。

 ないものねだりをしているだけで、他人の言葉や考え方を鵜呑みにして、自分には自由がないと思いこんでしまっているだけな気がする。

 親の会社を継ぎながら、やりたいことを別にやっても良い。

 働きながら、スポーツしてもいい。研究しても良い。やりたいことをやっても問題ない。人の倍すればいい。

 プロ選手並みに才能があるとか、科学者になるくらい物理や化学が得意とかなら、親の跡を継がなければいけないからと断念してしまってふさぎ込むのはわかる。警察官や医者になりたい夢を抱いていたなら、諦めなくてはいけなくなったと落ち込むのもわかる。

 ただ、周りの子達みたいに夢を語れないから羨ましい、というのでは、なにか違う気がする。

 アインシュタインが相対性理論を発表したときは、特許庁の事務をしていた。

 仕事とプライベートは別。

 プライベートの夢を語れば良い。

 また、親の会社の仕事を活用して、自分のやりたいことの実現をするでもいい。そもそも、なにかするにはお金がいる。

 小説家になる夢を語ってもいいけど、執筆だけでは食べていけない。出版社は、仕事をしているなら仕事をやめずに執筆するよう勧める。

 小説や漫画、舞台、音楽、芸術に関する職種は、それ一つだけで食べていける世界では、もはやない。普通に働いたほうが、収入も安定しているし生活できる。それでも、印税という響きや、他人からの称賛に憧れる。それはわかる。わかるけれども、決まったレールがあって何が悪いのだろう。

 世の中、親のコネで会社に入る人もいるし、世襲で後を継ぐ人もいる。親からすると、子供に苦労をさせたくないから。一代で財を築いた人は、子供には自分がした苦労をかけたくないと思っている。

 子供のときに、幸せだと思える経験があるならわかるはず。

 その幸せは親や周りの人たちが、子供には心配させないように苦労した結果の贈り物だということを。

 すべての兄がそうだとはいわないけれども、少なくとも怜の兄は、「総領の甚六」とよばれるように、大事に育てられて世間知らずというか、世の中をわかっていない気がする。

 怜が「俺らには狭い檻の中しか見えてない、世界はもっと広いのにね、何処か悲しげに遠くの方を見やった」とあり、これは兄に対しての言葉だと思われる。


 主人公が、「ずっとこのまま、なんて、そんな都合よくいかないよ。人間は変わるものなんだから」「君は何だってできる天才だろ? 僕なんかとじゃ釣り合わないよ。君と僕は、見ている世界が違うんだから」と語る。

 だからといって、友達ではないという理由にはならない。

「その日は、丁度虫の居所が悪かったのだ。朝から上手くいかないこと、それも至極小さなことが細々とあって、僕は少し苛ついていた」「日々感じていた劣等感の現れ」「友への嫉妬」が原因だとあるけれども、場所が悪かった気がする。

 渓流は、水が流れるところ。

 ここで怜が「いつまでも一緒だよね」といっても、水は流れていくから、一緒にはいられないよと勢いで口に出てしまってもしょうがない。


 怜はどうして一人で死んでしまったのか。

 主人公に何でもできるといわれたけど、塞ぎ込んでいる兄に元気づける言葉は駆けられても、人生をどうにかすることは出来ないし、他の子達からも、何でもできるからといって距離を取られていて、相談できる人が主人公以外にいなかったのかもしれない。

 この日の怜は、心が弱っていたのかもしれない。

 主人公が「ずっと一緒だよ」といってくれたら、それだけで救われたのかもしれない。


 読後。タイトルを見直しながら、止まっていた時間がようやく動き出した感じがした。エピローグのプロローグが良い。原稿用紙と万年筆、形から入っていくところから性格をうかがえる。

「傍に寄り添えるような、優しい物語を書きたい。そんなこと僕にできるだろうか。――きっと、できる」

 これまでの経験から学んだ、彼だけの生き方であり、文章スタイル。怜との思い出を忘れない限り、きっと書き続けていけるだろう。

 

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