多分だけど、屋上にいる

多分だけど、屋上にいる

作者 缶詰パスタ

https://kakuyomu.jp/works/16817330661370009196


 志望校決めに中高一貫の文化祭を訪ねた片山奏は非公開の部活、屋上出張文芸部の尾刈と出会い、不思議な体験を求められる。小学四年のとき北海道旅行で体験したことを語ると彼女は小説にまとめ、あとがきに考察を書き記す。面白かったとお礼を述べ、文芸部を探している双子に、「多分だけど、屋上にいる」と告げる話。


 疑問符感嘆符のあとはひとマスあける云々は気にしない。

 ホラーを題材にしたミステリー。

 落ちもある。怖さはないけど、不思議さに満ちている。


 主人公は中学一年生の片上奏。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。

 屋上出張文芸部の尾刈についてと、主人公の不思議体験の解説は対になっていると考える。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 三年前の夏、山好きだった小学四年生の主人公は家族で北海道旅行へ行き、レンタカーで山登りをする。廃村をみつけて周り、『お昼を食べて山登りを再開しようとしたとき祠を見つける。お参りをすると、山に通じる道が開き、主人公は父と山へ昇っていく。

 ピンクの花畑を通り、モノクロの日光東照宮の御殿を見つけたとき、「振り返るな」「ここから逃げろ」と、恐怖の殺意を感じて慌てて逃げ帰る。廃村のデーターは全て破損し、母が用意した弁当にはくろいヘドロのようなものが詰まっていて、祠や御殿はなんだったのかわからない不思議な体験をした。

 母親には志望校決めの参考にしろと言われて中高一貫校の文化祭に来た主人公は、屋上に通じる階段に立入禁止と書かれた紙が貼ってあるカラーコーンが置かれていた。埃に足跡をみつけて屋上へ行くと、「屋上出張文芸部へようこそ。歓迎するよ。柿の種は好きかい?」高校の制服を着ている黒髪を肩まで伸ばした女は尾刈と名乗り、非公開の部活だといい、「聞いて、書く。それだけだよ。文化祭特別仕様さ。君の不思議な体験、怖い夢、奇妙な出来事。不明瞭な言葉でいい。それを語ってくれたら、私がそれを世にも素晴らしい小説に仕立て上げるというわけだ」不思議な体験を求められる。

 小学四年生の体験を当たると、小説に書き起こすため一時間後に来るよう言われる。

 一時間後、屋上へ入る前のところに原稿用紙が置かれていた。語った話が小説となっていたが、彼女の書いたあとがきに目を引く。 「私は文芸部だ。探偵部などという推理小説好きサークルの一員では断じてない。が、君の知的好奇心の為にここに記しておく」として、不思議な体験の考察、黄泉国に心底嫌気が差していた蛇が黄泉国に心底嫌気が差したから黄泉国とあべこべに住処を創った世界へ迷い込んだのではと、書かれていた。

 読み終えて「面白かったです!」というと、くっくっくっと笑い声が聞こえた。ありがとうと叫んで帰ろうとすると文芸部を探している双子とすれ違う。普段はこんなことはしないのだが、「多分タブーだけど、屋上にいる」と満面の笑みを浮かべて教えるのだった。


 書き出しが良かった。

 どんな季節でいつなのか、どんな場所なのかを、読者に興味をもたせるように書かれている。

 アスファルトの熱と、学生たちの活気の熱を結び受けてから、何をしているのか、文化祭をしているとつながる。

 中学一年生の主人公は、母親のすすめで、志望校決めの参考に中間一貫校の文化祭を訪ねている。もう、どこの高校へ入りたいのかを見学していることなんて、すごい。母親は教育熱心なのかしらん。

 それとも、「図書館が狭いと聞いた時点で特に期待はしていない」とあるので、主人公自身も勉学に意欲のある子かもしれない。


 文化祭の様子が描かれながら、主人公の名前が明かされ、階段を上がっていく。学校見学を兼ねて一般公開の文化祭に来ているのに、主人公は集団から外れるように屋上へと向かっている。

 彼は一人できたのがわかるし、図書館が狭い=本が少ない、から志望校候補としては除外したのだろう。

「少し休憩したらトイレに籠って早押しクイズでもするか」からもわかるように、本当は早く帰りたいけど、来たばかりなのでどこかで時間を潰そうと思っているのだ。


 主人公は集団が嫌いで人見知り。

 だけど、仲間には飢えている。

 物好きな性格だから、同じ物好きな人と仲間になりたい。

 それで屋上へ行くのだけれど、「あの足跡は不良が休憩時間にタバコを吸った跡なのかも」と想像するように、必ずしも自分と同じもの好きがいるとは限らない。

 人見知りなのだけれども、怖いもの知らずなのかもしれない。


「ドアノブをガチャガチャと回し、扉を四回ノックする。二回のノックはトイレでの不在確認になってしまうので厳禁である」

 面接でならったのだろう。よく知っている。こういうところかも、主人公の性格が透けて見える。


「合言葉は?」は、来る人みんなに声をかけているのかしらん。

 屋上からだと、ドアの向こうにいるのは誰かわからないはず。


 屋上には大量の大型室外機が設置されており、「室外機の裏は生活感に溢れていた。置いてある机の上には大量の原稿用紙が白紙で積んであり、その横には徳用柿の種が無雑作に置かれていた」とある。

 このあたりでモヤッとした。

 校内のエアコンの室外機かしらん。

 ただでさえ、本作の今日はアスファルトがかすかに熱を帯びるほど暑い九月初旬。稼働している室外機の排熱で、周辺はかなり暑いはず。

 水分を取られそうな徳用柿の種より、ミネラルウォーターや日傘などがないと、熱中症で倒れてしまう。

「彼女は室外機の上に腰を降ろした」ともあり、座るのは難しいのではと考えてしまう。

 だから、尾刈と名乗った彼女は、人間なのかどうか怪しい。

 そもそも屋上自体が、非日常空間なのかもしれない。

 あとで主人公が語る不思議体験のあとがきに書かれた考察で、

 イザナミの朽ちた姿を見て黄泉比良坂から逃げ帰ることになったイザナギに似ているが、全てが逆で便宜上、逆黄泉国として語られているところがある。

 その話と対になっていて、彼女のいる屋上が逆黄泉国で、彼女は蛇なのだろう。

「全てを黄泉国とあべこべに住処を創ったのは、黄泉国に心底嫌気が差していたからだろうね」と書いているので、同じ理由から尾刈は屋上に「屋上出張文芸部」を作ったと邪推する。

 平たくいえば、主人公と同じで「集団に属していない事を実感させられるのは息が詰まるほど苦しい」と感じての行動かもしれない。


「もちろんだよ。わざわざ屋上まで上がりに来る人間が不思議な話を持っていない訳が無い。例年そうなんだ」

 もし彼女が人間ならば、高校生で、文化祭ごとに屋上で密かに文芸部の活動をしていたのかもしれない。

 人間でないのなら、人外のものとして、毎年文化祭の時期に、こっそり開催しているのだろう。

 屋上へ訪れる人間も、自ら人と関わりに来ておいて孤独を選ぶ稀有な才能を持ち、タブーを自分の興味で超えることで何かを呼びよせることができるという。

 彼女は「気付いていながら止められない、か……」と主人公を語って指摘しているとおり、主人公は不思議体験を現にしていた。

 見通していたのではと邪推したくなる。


 柿の種を進められて、「柿アレルギーなんで」と断るのは、ギャグかもしれない。

 実際、柿アレルギーはあるので、片山は真面目に答えたのかもしれない。

 あるいは、落花生や小麦、卵などのアレルギーがあり、総称として「柿アレルギーなんで」と答えた可能性も考えられる。


「そこに山があるから」といった登山家はジョージ・マロリー。

 一九二三年、ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで「なぜエベレストに登るのか」という質問に、"Because it is there."(そこにそれがあるから)と答えた。

"it"(それ)とは「処女峰エベレスト」を指す。が、日本では藤木九三によって「そこに山があるから」と訳された。

 

 あとがきに「私は文芸部だ。探偵部などという推理小説好きサークルの一員では断じてない。が、君の知的好奇心の為にここに記しておく」として、不思議体験の考察をしてくれている。

 彼女の見解なので、信憑性は不明。

 だけど、主人公の知的好奇心のためとはいえ、なぜ彼女はあとがきを書いたのだろう。

「私の話した事を突拍子もないと笑ってくれたら幸いだ。なぜなら私とて書き手の端くれ。私の綴った文章が人を笑わせられたのであれば、これに勝る歓びはないからね。作家冥利に尽きるというものだ」と最後に書かれているので、主人公を楽しませるためだったのかもしれない。

 つまり、遠回しにいって文芸部への勧誘が目的だったのだと想像する。


 彼女が蛇だったとして、不思議な体験をしなかったなら、怒りを買ったに違いない。でも主人公は体験を話し、相手を笑わすような話にまと馬手あとがきを綴ることができた。

 そのできの良さから、「面白かったです!」「ありがとう!」と伝えているので、彼女としては非常に満足したに違いない。


 主人公を階段を降りて出口へむかっていると、文芸部を探す双子とすれ違う。彼女らに教えるとき、多分とタブーをかけて「屋上にいる」と告げている。

 響きが似てるというのもあるけれども、屋上から出口のある地上へ折りてきたので、タブーとルールが逆転したのだ。

 屋上ではルールだったけど、地上ではタブー、つまり屋上出張文芸部の存在は教えてはいけないのだ。

 多分ね。


 読後、タイトルの意味がわかってなるほどと思った。

 読みはじめる前はどんな話になるのか、タイトルからでは想像できなかった。

 不思議な体験を読みながら、この物語はどこへ向かっていくのだろうと思っていたけど、読後はモヤが晴れたようなさっぱりした気になったところはよかった。

 オチがついているのがいいね。

 果たして片山奏は、この学校を志望校に選ぶのかしらん。

 尾刈が高校二年だとすると、主人公は中学一年だと思われるので、高校進学から入ってきても、彼女はいない。

 やはり、人外なのかしらん。

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