fiLe:電脳遺失物捜索隊-N/A

fiLe:電脳遺失物捜索隊-N/A

作者 まものなか

https://kakuyomu.jp/works/16817330659799111747


 電脳世界で電脳遺失物捜索隊をしている隊長と助手。依頼をこなしながら、滅亡した人間と置き換えられたAIによって何世紀も人を模倣して無意味に存在していると気づいた助手が自死をするのをまた止められなかった隊長。そんな電脳世界が終わった話。


 誤字脱字等気にしない。

 SFミステリー。

 時代性と新奇性を感じ、なかなか面白い。


 三人称、隊長視点と神視点で書かれた文体。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプと、女性神話とメロドラマの中心軌道に沿って書かれている。

 情報技術が発展し、電脳上で社会が形成された世界。人類の反映のため、世界の存続のために終わりのある現実を去るべく肉体を切り離した。仮想現実でデータに囲まれて生きる人々のほとんどは、変わらず何不自由なく平穏な生活をしていた。が、終わりのない幻想で生きることに疲れ果てた人々はログアウトしていく。疲労の伝染もあって次第に世界人口は減少。それを良しとしなかった世界根幹体制技術WRSTはAIを用いて状況の回復を試みる。人間のための知能が用意されても尚、生存者は減る一方。人格の代用を知った人間も、根幹体制によって置き換えられていき、いつの間にか​人類は滅亡してしまった。それから何世紀も仮想現実世界で、人間を模倣してことすら自分たちは気づかず、無意味に存在している。

 そんな世界で、失くしたものを思い出し、或いは忘れられずに求めては、手が届かないことを知る人がいた。いつの間にか消えていた個人サイト、サービス終了済みのSNS。埋まってしまったデータを捜し出し、壊れてしまったデータを復元する電脳遺失物捜索隊の隊長で猫の姿をしている主人公は、依頼人のためにパンケーキを買ってきては女子と冗談を言い合う。

 三つ編みの依頼人から、自分にとっての道標のようなものであったはずの絵を思い出したいと説明され、場所のURLを受け取る。

 個人運営のイラスト投稿サイトの、非公開処理がされたものを復元していく。調べる内に、作品やコメントにこれといった問題がないにも関わらず非公開が多すぎ、アカウントごと消された可能性が高く、投稿者のコメントも第三者から意図的に壊された痕跡に気付く。投稿者の諸データ復元をするとかなりのデータを遺しており、市民データから死亡が確認された。数世紀前の年月日の日記を見ると、誤字が多く決して読みやすくはないが、確かに“生きていた”であろう痕跡があった。日が進むにつれて抜け落ちたデータも増え、最後の数ページはほとんど形を成していなかった。

『電脳遺失物捜索隊への依頼について』とつけられていた音声データお悪人すると、三つ編みの人が自分の探していて、同じファイルにあるので持っていってほしいと書かれてあった。

 依頼人に報告し、跳ねるような声で感謝を述べた。

 投稿者が誰だったのか、未解析データを確認してみると、自画像に描かれてたのは、三つ編みの依頼人だった。

 三つ編みの依頼人と連絡を取ろうとするも連絡が取れず、これ以上の調査はできず、次の依頼を受けることとなる。

 気弱な依頼人から、界根幹体制技術WRSTの開発に携わっている既にサービス終了済のSNSで親交のあったご友人、特徴は少女の姿アバターを頻繁に使用していた人を探すよう頼まれる。同行を求められ、前例がないなら作ればいいと許可し、アウトピアを復元し、アカウント情婦おから個人データを解析、位置情報を確認すると、街の直ぐ側にある都市第一図書館だった。図書館移動し、気弱な依頼人は壁際の本棚のうち特に古そうな粗い外見のものに歩み寄り、それと壁との隙間に向き合い、多分ここにいると、いって壁と本棚の間にめり込み、床の下へ吹き飛んだ。ついていくと、ロリータ系”と称されるピンク色の衣服に身を包んだ可愛らしい少女が静止していた。ユーザーデータだけが抜け殻の状態で配置されている状態で、紐づけされている自我データはどこにいったのかと思っていると、人工人格の復元が開始され喋りだす。「世界根幹体制によって造られたAIが今の貴方となっている」と話すと、個人ファイルから遺書のようなものだとわかり、状況を飲み込む少女。気弱な依頼人は、自分にすべてを与えてくれたから、もう一度一syに生きてくれますかと願うと、少女は提案を受け入れた。

 依頼は解決したが、彼らとも連絡がつかなくなった。死因データを確認すると、表記上は、市民データを確認すると、少しの間シンではソレよ長く生存してをくり返していることがわかる。

 助手は、仮想現実という世界にはすでに人間は滅亡し、かわりに自我データを元にしたAIが人として無意味な世界に存在していると仮説し、「もう時間が無いみたいです。経年劣化か、本来の用途以外での使用のせいか……何にしろ丁度良かったです」証明するといってログアウト、つまり自死する。

「……また…何度も何度も目の前で、……こんなことなら……彼女が正しかったと思えたらどんなに良かったか……」助手の証明を多く見届けてきたらしい隊長は、結局それさえも与えられた役目にすぎなかったことを知ることは無かった。

 ひとつの電脳世界が、終りを迎えるのだった。


 電脳世界の謎と、主人公に起こるさまざまな出来事の謎が、どのように絡み合いながら、依頼をこなしては残る謎からどんな結末を迎えるのかが気になっていく展開に興味が引かれた。

 電脳世界という、特殊な世界観をいかに読み手に伝えるのかが、重要になっている。本作の世界や登場人物について、わからないことがわかるようになっていくことで、ある種の感動を与える作りになっている。

 また、電脳世界に入るわけではなけれども、長くネットを利用していると、いつの間にか消えていた個人サイトやサービス終了してしまったSNS、以前みたけれども見つからない、あるいは壊れてしまったデータを復元したいと懐かしさからネットの海を漁る人にとっては自分事に捉えることもできるだろうし、自分にもできるのではとと思う人にとっても興味が湧くだろう。

 電脳世界を扱った作品は、攻殻機動隊やゼーガペイン、SAOやグリッドマンなどがあるし、現実の科学技術においてもアバターを作って仮想空間に利用することもあり、馴染みがありつつある題材を選びながら、行き着く先のSFという形で描いたところは素晴らしい。時代性をも感じる。

 SFだけでなく、ミステリー要素も取り入れているところも良かった。


 書き出しが「««search/results - 4»»」、つまり検索結果の四番目の項目という意味。何者かが検索している感じがして、これからはじまる世界がどんなものなのかを想像させてくれる。

 冒頭の遠景で、世界が外観をみせて、近景で電脳空間がどういったものなのか、どんな人がいるのかをを描いてから、足元をくぐっていく薄茶色の猫のようなものにクローズアップして、読み手を作品へ誘っていくところがいい。

 また、全体的にも客観的状況説明の導入、電脳遺失物捜索隊の主観である本編、客観的視点からの結末という文章のカメラワークを用いた作品の面白さを伝えているところも上手い。


 現実世界ではないので、読み手に興味を持ってもらうために馴染みのあるものを登場させているところもいい。

 パンケーキだったり、個人運営のイラスト投稿サイト、アクセスカウンターというホームページを自作した人ならすぐにわかるものを登場させるなど、現実のネットを利用している人ならば馴染み深く、現実味を覚えるだろう。

 また、コメント欄の書き込み、「[ぜんぜんかけないorz]『神絵キタ━(゚∀゚)━!』『嘘乙』『謙遜しすぎは逆に印象悪いぞ』─────[オリキャラちゃん!名前ぼしゅーちゅーですっ( ^-' )]『か、かわいい〜〜〜!!!私と同じぐらいかわいい(((((』​​─────[500兆年ぶりに描いた子。盛りすぎた]『今日はこれでいいや』『エッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ』

 ​─────[これは幻覚rkgk]『めちゃわかるすぎ良…』」からは、2ちゃんねるを想起させる。

 猫の隊長、助手、三つ編みの依頼人、気弱な依頼人、ロリータ少女。人物も説明も端的で特徴があり、わかりやすいものを選んでいるのもよかった。


 師匠の口ぶりもまた、キャラに特徴を付ける昔のラノベ作品によく見られたことを思い出されて、世界に登場するものにちょっと古めかしさを感じさせるものを、意図的に登場させていると考える。

 復元されたログ、日記に「数世紀前の年月日」があり、電脳世界が数世紀にも渡って存在し続けている場所だと感じさせるため、なおかつ古いデータを探すという電脳遺失物捜索隊の活躍を描くからこそ、昔のネットで流行ったものを使って表現している手法は上手いなと感じた。


 三つ編みの依頼人は自分で書いた絵を探す依頼を自分で出していた。気弱な依頼人が探していた師匠は、すでに元人格の人間は死んでいて人工人格だった。

 助手は、人類は滅亡して世界根幹体制に故人を模して造られたAIだけが存在する、何世紀も同じことをくり返しているのが自分たちだと仮説を立て、ログアウトしてしまう。

 隊長は「……また…何度も何度も目の前で、……こんなことなら……彼女が正しかったと思えたらどんなに良かったか……」と、同じ場面を何度も見てきたらしい。

 だけど、「結局それさえも与えられた役目にすぎなかったことを知ることは無かった」と書かれているので、隊長は自分がAIだという認識を持てなかったのだろう。

 その後世界は、助手が言っていたように「……もう時間が無いみたいです。経年劣化か、本来の用途以外での使用のせいか……何にしろ丁度良かったです」終りを迎えるのだ。

 

 読後、AIが発達して電脳世界が実現したら、本作のようなことが起きるかもしれない。それ以前に、サーバー自体が劣化したり電源が落ちたりすれば、世界はそこで終わるだろう。

 自分たちも結局は、電脳の遺失物だったという展開、オチとしては上手いなと思った。

 タイトルや作品に出てくるN/Aは、Not Applicable(該当なし)の略語。「利用不可」という意味で使われることもある。

 インターネットでアカウント登録するとき、SNSのアカウントを聞かれた場合、利用していない(もしくは教えたくない)ときも、「N/A」と書く。アンケートの回答にも、No Answer(回答無し)という意味での「N/A」が使える。

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