フットステップ

フットステップ

作者 如月風斗

https://kakuyomu.jp/works/16816927862945488759


 物心つくころから嘘をついた人の足音が聞こえる琴葉は、人と距離を取るようになっていた。学校内で起こる事件を辿りながら、人との距離を縮めていく話。


 疑問符感嘆符は全角にする等は気にしない。

 現代ファンタジーなミステリー。

 嘘をつくと足音が聞こえる発想が斬新でよかった。


 三人称、高校二年女子、天文部の琴葉視点で書かれた文体。 謎解きのワクワク感を抱かせる型として、奇妙な出来事→推測1→推測2→推測3→答えといった流れに準じている。


 女性神話と、メロドラマと同じ中心軌道に沿って書かれている。

 嘘つきの足音はそこに残り、辿ればその人にたどり着く。大抵の人には聞くことのできないが、琴葉は物心がついたときからずっと、足音が聞こえていた。小さい頃はいつも母と一緒で怖くなかったが、学校に通うになってから足音を避けて、人から距離を取るようになっていった。十七年も生きていればなれると思っていたが、いまはむしろくっきり聞こえる。

 速さや音の大きさで誰の物なのかも、どんな嘘なのかも大抵想像がついてしまうようになった。嫌な嘘はやっぱり嫌な音がするし、優しい嘘は優しい音がする。しかし音を聞き分けるのには中々の労力が必要となり、無数の音が飛び交う学校や街では特に体力を奪われる。

 琴葉が所属する天文部には、一代上の先輩がいないため、同級生でメガネをかけたゲームが生き甲斐の理系男子の小柴が部長をしている。

 一階の昇降口前で練習を始めるサッカー部員達が騒いでいる。そこに置かれた金魚が入っている水槽から足音がする。しかも魚がはねた音も。事務の鍋山さんには聞こえないと知り、調べると金魚がいなくなっていた。翌日、人工芝が敷かれているはずのグランドから忽然と芝が消えていた。サッカー部の瞳矢に聞くと朝練はなかったが昨日の用具の片付けと倉庫の鍵締めは先輩たちが行ったと教えてくれた。足音をたどると屋上の物置前にたどり着くも、調べる勇気はなかった。翌日の放課後、友達の咲花とともに足音をたどり三年四組にたどり着く。サッカー部部長がいると咲花に教えてもらい、厳しい部活動体制に部員が反乱を起こしたと推測したことを咲花に話すと、先生に言ったほうがいいという。そこまでするのは面倒と答えた三日後。物置に積まれた人工芝が見つかり、三年のサッカー部部員の厳しい部活動に対する反乱が動機だとわかる。

 人工芝を屋上へ運ぶ際、水槽をひっくり返したという。少しでも証拠を隠そうと、金魚をバケツに入れ、水槽に絵の具を入れて真緑の水にしたと、金魚の発見とともにわかった。

 真夏まっさかり。整理されていない天文部の棚にはいろいろなものがある。咲花は小柴に許可を得て中を見ていくと、小さな茶色い瓶がみつかる。金属を溶かす液体ではと疑い、試すだけだと小柴は鉄の欠片を試験官に入れ、透明な液体を少し注ぐ。すると、音を立てて鉄が溶けていく。元に戻し「触るべからず」という張り紙をした。自販機で売られているパン屋おにぎりを買いに行くが、サッカー部が騒動の復帰後初の公式試合があるため、サッカー部員や他校の生徒がほとんど買ってしまっていた。商店へ足を運び、おやつも買いたいが財布の中は寂しい。小柴が小遣いもらったばかりだと奢ってくれたが、足音が聞こえる。お小遣いをもらったのは嘘だと知り、申し訳ない気持ちになる。屋上で天文観測する際、咲花が先に言っててと廊下を走っていく。

 翌日、昨日見つけたあの瓶が消えている。咲花に聞けばわかるかもしれないと思うも、午前中で帰ってしまってと知る。昨日、何でもないよと言った咲花からは足音が聞こえていたのだ。

 足音をたどると化学室の前。理科担当であり天文部の顧問、津川は滅多に部活に来ない。面倒な性格で生徒の評判は良くなく、仕事が忙しいのを理由に部活に顔すら出していない。

 先生に彼女が来ていないか尋ねると、机の上に昨日見つけた小瓶を見つける。来ていないと答える先生に小瓶を尋ねると、「昨日天文部の部室からもらってきたんだ。あの張り紙は君たちが? ありがとうな」という。

 翌日、咲花は天文部に顔を出す。天体観測をした日、化学室に行ったか尋ねると、「屋上行こうとしたらあの部屋のドアがちょっと空いててさ、覗いたらあの瓶がおいてあったからなんでかなって」と答える。化学室でなにかがあったと思うも、彼女を責めることはできなかった。夕方、咲花と津川の足音の謎を突き止めようと化学室へ向かうと、「成功するまで、絶対に他人に言うな。昨日も二人が訪ねてきたんだが。お前が言ったわけでは無いよな?」「違います」二人の声がする。「早くしなければ。実行するのは今日の午後六時三十分。五分前にはここに来い。それが終われば、この事は一切無かったことにする」

 そのとき、背後からどうしたのと声をかけてきたのは校長先生。ひとまず部室へ逃げ帰ると、先に天体観測に行くよう小柴に頼み、六時二十五分に「俺がこれをエアコンに仕掛けてくる。お前は部屋の前で見張ってろ」化学室からでてくる二人に追う。津川が校長室に入っていくのを見て、助けるなら今しかないと駆け寄り、「今逃げたらだめなのっ‼」という彼女に自分が解決するからと天文部に連れて行って小柴にまかせると、校長室へ走った。

 長い廊下で津川をみつける。

「君か。本田さんを連れ去ったのは」

「そのままお返しします」

 津川が瓶をわざとらしく手放して割る。「先生は学校にある薬品を使い、毒薬を作って校長室に仕掛けた。理由は知らないが、それを知ってしまった咲花に計画を手伝わせ、校長とともに毒薬の蔓延した部屋に入れるつもりだったんだろ?」

 津川は危険な実験をするのが趣味だが、しまい忘れた薬品を生徒が触り、軽い事故ではすまなかった。が、好著は知っていて口外せず、『君の嘘は隠す。だから代わりに君の物を何でもいいから貸してください』と要求してきたため、このままでは脅されつづけると思い殺そうと実行したと語る。

「それだけの理由で人を殺そうと? そんな酷い真実なら、よっぽどその辺の嘘の方がましだよ。よっぽど静かだよ‼」叫ぶ琴葉。津川は予定外だが君で試すとするかと近づきて手首を握り、「友達を助けようとしたその勇気は褒めてやる。だが、自分が犠牲になるとはよっぽどの阿呆だな」狂気じみた目を向けてくる。ポケットに入っていた懐中電灯を取り出すも、勢いよく投げ捨てられる。

 校長室へと連れて行かれ、背中を押されて扉が締められる。靴音と争う声、何かが倒れる音が聞こえた。扉が空いた音も聞こえたが、琴葉は意識を失った。

 目を開けると校長室のソファーで校長室と対面した。助けてくれたと知る琴葉に校長は「あの時嘘ついたでしょ?」と尋ねる。化学室の前で盗み聞きしていた時の会話かと思い出し、先生も足音が聞こえると知る。

「嘘をつくと足音が刻まれる。だがね、その人の持ち物を持ってその足音を辿ると、それが足音を吸い取ってくれるんだよ。これは津川先生から貸してもらったものだ」と万年筆を出し、見た目以上の重さに驚く。

「これが足音の重さなんですね」

「そうです。同時に罪の重さでもあります」

 騒ぎになるのが嫌で、毎日足音を消していたという。

「情けないだろう。せっかく足音が聞こえるのにね。でも、琴葉さんの姿を見て決めたんです。足音に、向き合ってやろうと」

 津川先生には厳選な処罰を受けてもらうといい、教職解雇。この事件は報道もされ大きな騒ぎとなった。校長先生の殺害を目的としていたとは考え難い。異常な臭気の放つ校長室に自ら飛び込む人間がいるとは思えない。無理やり押し込む気だったのだろうか――。

 おかしくなっていた津川と、彼の本性が一致しないが、真実は彼にしかわからない。

 校長先生が綺麗にした水槽の前で、新しい天文部の顧問には校長先生がいいと答える琴葉。新しい懐中電灯を渡される。

 天文部のみんなと校長先生は流れ星を見る。足跡、嘘はあるべきか尋ねると、正直ない方が嬉しいけど、聞こることが今はちょっと楽しいと校長はは答えた。 

 これからも多くの足音に出会うだろう。どんな足音も自分で確かめなければ、と琴葉は思うのだった。

 

 足音の謎と、主人公に起こるさまざまな出来事の謎が、どのように関わり合いを見せながら、人から遠ざかっていた主人公がどう変化していくのかが描かれている。


 ミステリーなのだけれども、特殊な能力で事件を解決していく作品ではない。物心つくことから、嘘つきの足音が聞こえるという特異な体質のおかげで、足音の騒音に悩まされ、人との距離をとるように生活をしてきた主人公が、日常の嘘に対して、どう向き合って行くのかを描いているところに、面白さと作品の良さがある。


 わからないことがわかるのが、ミステリーの面白さの一つだし、感動できる要素でもある。自分にも関係があると思える「嘘」を題材にしているところもいいし、最後に校長先生が「情けないだろう。せっかく足音が聞こえるのにね。でも、琴葉さんの姿を見て決めたんです。足音に、向き合ってやろうと」と語り、主人公もまた自身の悩みと向き合っていく姿を物語を通して描くことで、読み手である自分も逃げずに向き合うことができると思わせてくれるところに、感動を覚える。そういうところが、本作の良さだと思う。


 冒頭は、主人公が嘘をついた人の足音が聞けること、足音によって人の見分け方もできること、天文部に所属していることなど、人と距離を取ろうとするためか読書するなどの様子を客観的に状況説明する導入から始まり、足音が聞こえてくる主人公の主観から本編がはじまり、客観的視点からのまとめである結末に至る文章のカメラワークをつかって描いて、読み手を楽しませようとしているところも面白さに繋がっている。


 書き出しが、「嘘つきの足音はそこに残り、辿ればその人にたどり着く」実に変わっていて、興味が引かれる。

 嘘つきの足音とはなにか。

 たどればたどり着くとは、警察犬のように、匂いを嗅ぎ取って犯人を見つけていくみたいなものなのか。

 とても興味深く、読み進めたくなる書き出しが良かった。

 騒音に悩まされていたとあり、足音が主人公にしか聞こえない足音なんだとわかる。


「小さな頃はいつも母と一緒で、足音が聞こえていても怖くなかった」けれども、「学校に通うようになってから、琴葉は自然と人から遠ざかって生活するようになった」とある。

 母親は嘘を付く人ではなかったのだろう。母親じゃない人がつく嘘は聞こえていたかもしれない。嘘をつかない人が側にいる、粗rだけで安心できていたと考える。

 学校に行くと、人から遠ざかっていたということは、みんなが嘘をついていたのだろう。大きな嘘から小さな嘘まで。たとえば、宿題や持ち物、約束を忘れたのに忘れてないといったり、本音と建前を使い分けたり、好きなのに本音を隠して嫌いだと言ってみたり。

 嘘や誤魔化しだらけで騒がしくて、それで距離を取るよういなったと想像する。


「十七年も聞いていれば慣れるものだと思っていた琴葉だが、今でもしっかりと、むしろくっきりと聞こえるのだった」とある。

 一定のリズムで心地よものなら、慣れる。セミや虫の音、カエルの鳴き声。うるさいけれども、ずっと聞いていると慣れてしまい、寝ることもできる。

 でも騒音の場合、突然大きな音が聞こえては消え、また別の音が聞こえるといった具合に、ほっと息をつきたい時に静寂を壊すみたいに聞こえれば、慣れるものではない。


「今日は三人。教壇には三人の足音が残っている。全く困ったものだね」

 ちなみに、この嘘はどれくらい残るものなのだろう。

 サッカー部の部員たちの足音は、数日たっても部長のクラスを特定できていた。

 事件解決後、金魚の入っている水槽を校長先生が綺麗にしたと話していたとき、足音が聞こえる描写がない。嘘をついたと明るみになったら消えるのかしらん。

 そうでないと、いつまでたっても足音が聞こえ続けてしまう気がする。


 金魚の跳ねる音が聞こえている。

 聞こえるのは足音だけではなさそう。

 おそらく、水槽をひっくり返したとき、金魚が床に出たときに跳ねた音だと想像する。サッカー部の部員はバレないようにと金魚もバケツに入れて運び、水槽の水をこぼしたことをバレないように、水に色を付けるという嘘をついたからだろう。

 だったら、水槽に水をいれる音も聞こえてもいいのではと考えるのだけれども、聞こえていない。

 つまり、地面や床に残る音が、琴葉や校長先生には聞こえるのだと考える。


 天文部を「文化部では珍しい夜行性の部活動だ」と表現している。

 これは面白い。

 しかも、主人公の性格にもなっている。

 ちょっと他人とは違う着眼点をもった子だと、伝わってくる。

 他にも、小学生からの友達の咲花とのやり取りも面白い。

 瞳矢についてのやり取りで、

「おはよう。なんか嬉しそうだね」

「バレましたか。実はですね、朝、久しぶりに瞳矢に会って話が盛り上がってしまったんですよ」

「ほう、それはおめでたいですねぇ。瞳矢ってサッカー部だよね? 朝練じゃあ無かったんですかい?」

 女子同士の会話っぽくない。サラリーマンのおじさん口調のような言い方をまねているみたいで。

 こういう物の言い方を、たまにしては二人で楽しんでいるのではと想像させられる。

 ここでの会話の仕方が、人工芝がなくなった理由を推理して咲花に話したとき、

「なるほど。じゃあやっぱり先生に言ったほうがいいんじゃないの?」

「そこまでするのは面倒というか、なんというか」

「えぇ〜。琴葉はいつもそんな感じですな〜」

 ここでもちょっと現れる。

 昔からの仲良しさを感じられて、微笑ましい。


 天文部に、津川先生の薬があったのは、天文部の顧問で隠し場所にちょうどよかったからかもしれない。

 

 三人で商店はお昼を買いに行った後、時間が経過して、夕方になり、天体観測になる。

 おそらく、咲花は天文部の部室には戻らず美術室に言ったものと考える。でないと、「廊下を歩いていると、前から人影が現れた。咲花だ」でモヤとしてしまう。事実、「部活終わったの?」と琴葉だと思われる人が声をかけている。

 美術部に行く咲花の姿があったら、違和感なく読めたかもしれない。

 しれないけれども、今回の事件に彼女が絡んできますよという、合図のような違和感だったのかなと考えてしまう。

  

 咲花に化学室に言ったか尋ねた時の会話は、普通の話し方をしている。人工芝の事件のときのような、ふざけたような印象がない。普段と違うことを表していて、普段とそうでない時の差が上手くあらわれていて良かった。

 

 津川が廊下で瓶を割るのは何故なのかしらん。

 彼自身も毒にかかってしまうのでは。

 毒を充満させた校長室に主人公を部屋に放り込んだ後、どうやて救われたのかしらん。

 すぐにドアが開かれて、校長先生に外に連れ出されたと思うけれども、そのあと意識をと取り戻したときは校長室だった。

 主人公を助け出した後、窓を開けて換気をし、部屋を拭き掃除し、そのあとで主人公をソファーに寝かせたのだろう。

 津川先生はその間、どうしているのかしらん。

 警察に通報したのなら、現場の一つである校長室を調べたいから掃除されるのは困るはず。

 校長室とは違う、例えば保健室で話を聞いても良かったのではと邪推してしまう。


 持ち物に足音が集まり、嘘の大きさで重くなるところが、事態の大きさを実感しやすくていいなと思った。

 よく「犯した罪は重い」という言い方をする。

 嘘も悪事も重いのだ。


 事件後、謝る咲花に琴葉は、「気にしなさんな。後半分しかない高校生活、楽しみましょうよ」いつもの話し方で接している。

 ほんとうに気にしないでいいよと伝えている感じが伝わってくるのがいい。


 校長先生に嘘はあるべきか尋ねたとき、「正直無いほうが嬉しいです。でも、聞こえることが今はちょっと楽しいのです」とある。

 琴葉は小柴がついた嘘に、「その音を聞いているととても心地が良かった」と思ったことがある。

 全ての嘘が悪いものとは限らない。

 校長先生の言葉に、すんなりとうなずけたに違いない。


 読後、二〇二二年のときに本作を読んだ覚えがある。確認したのだけれども、そのとき感想を書いてなかったみたい。どうしてだろうと首を傾げつつ、申し訳なく思います。

 アイデアが面白かったのと、謎を解きより、嘘をついた人の足音が聞こえる自分自身とどう向き合っていくのか、その点を描いているところが良かったと思う。

 琴葉に限らず誰であれ、少しずつでいいから、人との距離を歩み寄って縮めて仲良くなっていけたら、素敵だ。

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