反射代名詞
反射代名詞
作者 菅原 或サ
https://kakuyomu.jp/works/16817330653390583539
無月は太陽が登っている時間、有月は太陽が沈んでいる時間しか起きていられない一卵性双生児。日食の日、姉は太陽だから自分が月になると有月は崖から飛び降り、姉に明るい満月を見せる話。
誤字脱字等は気にしない。
現代ファンタジー。
暖かくも物悲しい。
前半の主人公は、二十二歳の無月。一人称、私で書かれた文体。後半は、二十二歳の有月。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。現在→過去→未来の順に書かれている。
女性神話の中心軌道に沿って書かれている。
有月と無月は二〇〇〇年五月四日、仙台市の病院で生まれた。母のお腹の中には一人しかいないと思われていたが、出産時に二人いつことがわかる。無事出産するも、母は一時間後に命を落とす。その後双子を検査すると、『性別の違う一卵性双生児』『無月は太陽が登っている時間、有月は太陽が沈んでいる時間、のみしか意識を保つことができない』とわかる。原因は不明だが、それ以外はこれといった症状はなかった。
父親は会社の製薬会社の重役で世界中をとびまわっており、どこにいるかもわからない。だから父は名前しか残さなかった。有月と無月。輝く月を見ることができるから有月。くすんだ月しか見れないから無月。
また、物心つくまでの記憶は世話をしてくれた佳代子さん(父親がお金を払って雇った)が、医者から聞いたことを伝えてくれたおかげで、事情は知っている。
中学生二年生の時、日食が起きて一度だけ、文化祭の用意に夢中になりすぎて通学路で意識を失ったことがあったが、幸い有月が気づいて運んでくれたので大事にならずに済んだ。
学校が終わって帰宅すると、自室でその日の授業を書き記したノートを隣の有月の部屋においておく。その後、余裕があったらご飯を食べて風呂に入り、布団で一日の終わりを待つ。有月は起き次第、そのノートを見て勉強をする。部屋に筋トレの本とヨガマットで運動はしていた。
一緒に住んで仕事をしていく上で会話は必要なので、毎日仕事が終わった後に、その日あったことや伝えたいことをカメラに向かって話すことにした。物心がついた時からビデオメッセージを送りあっていた。
有月の方が、全てにおいて上回っている。テストの点数、顔やスタイルも良かった。唯一勝っていると思っていた運動でさえ、少しのトレーニングで軽々と飛び越え、その全てを逐一報告した。姉に褒めてもらいたい一心でしていることはわかっていたが、姉としては先を走っていたかった。弟がいなければと思うこともあったが、最終的にはすべて名前のせいだと思ってきた。
現在二人は、仙台市のJR仙山線東照宮駅から徒歩十五分のとおろにある1LDKの二階建てアパートで暮している。どちらか片方は常に寝ているので、狭いと感じたことはなく、料理はしないから、キッチンには冷蔵庫も食器も調味料もない。殺風景を体現しているような部屋で、依頼を受けてする「なんでも屋」をしている。
ネット上には、何でも屋の依頼フォームがあるだけ。でも、口コミで広がったからなのか、週の半分以上は仕事が入る。二人合わせれば朝も夜も関係なく、受付も調査もできる。ときにはタンテまがいのこともし、もらった顔写真を元に尾行し、証拠――食事をしているところやホテルに入って行くところ――の写真を撮り、依頼者に結果と料金表を一緒に送って終わり。その後、家庭内でどんな展開がされるかは預かり知らぬこと。
日の出とともに目を覚ました無月は、スーツのまま寝ている弟を着替えさせて、メッセージ動画を見る。
有月の調査で、西野夫は事務の小林さん、二十二歳と付き合っていたことがわかり、調査書を送っておいたからチャックして報告をお願いされる。メール受信ボックスから添付ファイルを確認、依頼者の西野さんへ転送する。
森脇さんから猫探しの依頼があり、近所の神社を探してほしいtのこと。明日は皆既日食で、外は暑いし、佐賀sなら午後に家を出た方がいいとメッセー動画を見終える。
午後に神社を訪れる。時刻は午後五時十四分。日没まで二時間を切る。神社内を探すも見つからず、日没まで一時間を切る。「なぜ依頼主は、猫がこの神社にいるとわかったのだろう」何かがおかしい。今日の動画を思い出すと、有月はしつこく、暑いからと午後に出発するようにも言ってきた。今日有月の服を脱がせた時、汗の匂いが全くしなかった。下着に至っては、湿ってもいなかった。今日の動画の撮影場所は車の中だった。このあと行く場所があるとも言っていた。そして思い出す、今日は日食だと。
太陽に月が覆いかぶさり、意識が遠のいていく。
午後六時四十五分。部屋で目を覚ました有月は、パンツ一枚歯科きていない自分に驚き、スーツに着替えす。外に出る。夏の匂いが鼻をつく。空は夕陽に照らされて真っ赤に色づいている。
神社に行き、無月のもとに来て息をしていることを確認。台頭が暗くなり、月が太陽を完全に飲み込む。
八年前の部分日食のとき、夕日をみた有月は姉の話せるかもしれないとおもって部屋に行くも姿がない。まだ学校かもしれないとおもって通学路を行けば、途中で倒れている姉を見つけて連れ帰って調べると、姉は少しの日食で眠気に襲われ、 電信柱にぶつけて気絶。日没が終わっても目を覚まさなかった。『日食の時、姉は意識を保っていられない』『どちらかが気を失った場合、無条件でもう一人の目が覚める』ことを発見する。
小さい頃に姉が話す昼の話が好きで、とくに夕日が沈む瞬間の話が好きだった。
夕日をみて、太陽が存在していたことに気付く。明日こそ上をむいて、頑張って起きよう、人生捨てたもんじゃない、明日も生きてみようと勇気が湧き、太陽と約束して眠りにつく。でも次の日、みんなは忘れてしまって、太陽が挨拶しても見向きもしない。無視されても、太陽は一所懸命、光を与えてくれる。誰かが挨拶してくれるかもしれないと信じているから。無条件で愛し、心の底から信じてくれる存在のが太陽だと。太陽に会えない有月は、自分のことを見てくれるのか、姉に質問した。
姉はもちろんといい、『太陽は夜には見えないけど、太陽が用意した魔法の鏡があるから、遠くにいても、いつでも有月のことを見れるし声を聞けるから、有月が心配することは何もない』と答えた。
以来、月の光が暖かく感じるようになった。その話をきいて、今まで生きてこれた有月。自分にとって姉は太陽だった。だから姉の光を夜に映し出す月になる、またねといって、日食が終わるタイミングで地面を蹴って崖から飛び降りていく。
満月の夜。ベッドから起きてコーヒーを作るとベッドに戻り、満月を見て「おはよう、有月」と声をかけると、少しだけ喜んでいる気がした。
太陽と月の謎と、主人公たちに起こるさまざまん出来事の謎が、二つの天体が重なることでどんなことが起こるのか、引力の如くに興味が引かれた。
現代ファンタジーといっても、太陽と月というそれぞれの時間しか起きてられない双子の話は、ちょっと不思議な印象をおぼえる。実際、私達が暮している世界のなかで共に存在しているように感じさせるために、現実味を感じられる書き方をされている点は、共感や感情移入しやすかった。
冒頭部分は現在の視点から過去回想をして自身の生い立ちや現在を客観的状況説明をしているところからはじまる導入、つぎにビデオメッセージをみてから猫探しをする無月の主観、有月視点など客観的視点のまとめの結末という、文章のカメラワークを使って読者を作品へ導いている。
独特な世界を生きている二人の説明が多いので、主観が少なく感じられるものの、わからないことがわかっていく過程に、興味が引かれるし、ある種の感動を覚える。
具体的な場面を描き、起承転結の流れの中で5W1Hを使って、主人公がしていることを細かく書きつつ、主人公たちの心の声や感情の言葉、表情や声のトーンを入れて、読み絵に想像しやすくしているので、感情移入しやすい。
書き出しの「驚いた。月のこんな姿が存在したなんて」は、ちょっとした衝撃が合った。倒置法で強調されている。
主人公は月を見たことないのかなと、読み手に思わせてくる。
しかも、「こんな姿」とはどんな姿なのか。
日頃見ている月とは別の月が存在するかもしれない。一体どういうことだろうと、興味を引いて読ませていく。
読んでいくと、輝いている欠けていない満月に驚いている話が出てくる。
子供は早寝早起きをする、そんな育て方をされてきたから、実際の月を見たことがなかったのかもしれないとも考えられた。
モヤッとしたのは六年生ではなく、もっと早い段階で、書籍やテレビ、アニメやドラマ、映画など、満月を見なかったのかと考えてしまう。小学六年よりも、小学二、三年くらいなら、明るい満月をみたことがなくても説得力があったのでは、と考える。
小学生は、ホームルームという言葉は使わない。帰りの会でいいのでは。
冒頭で語られている満月の話は過去回想なので、気にしなくてもいいのかなと考えもするけれども、急いで帰宅する様子や、満月の動画をJAXAの動画で見るなどこだわりがみられるので細かいことにこだわってほしい。
弟の有月のことについてのくだりに、「一秒の間に四人が生まれ二人が死ぬ」とドキッとするようなことが混ざっている。0.5秒の間に二人が生まれて一人が死ぬと考えると、この後で語られる出産直後になくなった母親のことを暗示させているのでは、と邪推してしまう。
シャワーを浴びて着替えたり、量販店で購入したものだったり、ど子に住んでいて、家具はどんな物を置き、どんな生活をしているのかといったことが細かく書かれている。
そこまで書く必要はあるのだろうか、とも考える。
父は製薬会社の重役として忙しく仕事をしているけれども、すでに大人の主人公たちは何でも屋として生活しているので、親の援助を受けていないことを、それとなく伝えたいのかしらん。
二階建てアパートの一階か二階、どちらに住んでいるかしらん。
有月のほうが優秀だとある。
学校が終わると、授業を書き写したノートを弟に渡している。
弟は学校に通っていなかったのかしらん。
義務教育中、彼は姉の勉強ノートから独学で学んでいったのだろうか。夜間学校に通わなかったのか。
無月の視点だから自分のことはいろいろ細かく書かれているせいで、大人になるまでどう過ごし、何でも屋をはじめる事になったのか、その辺りがポッカリ空いているように感じる。
子供の頃は、佳代子さんに世話をしてもらっていたので食事などは問題なかったとは思うけれども、大人になってからはどうだろう。メールのやり取りをするくらいなのかしらん。
料理はしない。
外食なのかしらん。
食器の類がないので、コンビニで買って家で食べることさえしているのかどうかわからない。ただ、弟は鍛えているので、それなりの栄養バランスを考えた食事を撮っていたものと考える。
日の出と日の入りで二人の活動時間が入れ替わり、無月の意識がなくなると有月が起きていられるとあった。
片方をまる一日寝かすことができたなら、もう一人は一日中起きていられることになる。有月が昼間に活動できたり、無月が満月をのんびり眺めたりできる。
同じように、無月を日が沈まない地域、白夜の場所へと連れて行くと、一日中起きていられるにちがいない。
日の出と日の入りの気にしていたけれども、周辺を山に囲まれた場所だと、はやく日が沈むので、毎日発表されている日の出と日の入りの時刻どおりに起きたり眠ったりするわけではないのでは、と邪推してしまう。
仮にそうならば、超高層ビルの最上階に無月が住んでいれば、地上よりも若干日の出は早く日の入りは遅くみえる。住んでいる場所によっても活動できる時間が変わるのではと考えてしまう。
厳密に線引は難しい。
一人だと思っていたら双子だったという点にモヤッとした。
検査でわからなかったのかしらん。
製薬会社に務めていつ父親が名前をつけた後、佳代子さんに世話をまかせっきりで姿が出てこないところに穿った見方をしてしまう。
つまり、なにかしらの人体実験の結果、本来は一人だった子供が双子として産まれた。もしくは太陽と月、それぞれの時間帯にのみ活動できる人間を会えて作ろうとした。あるいは、別の目的で実験していたが予想とはちがう子供が産まれたのか。
そんなふうにも考えられるのでは、とあやこれやと想像させられる。
姉の語った「夕日が沈む瞬間の話」は良かったと思う。
昔はお天道様と言って、感謝したのだけれども。当たり前と思ってしまっているかもしれない、と考えさせられた。
何より良かったのは、「誰かが世界のどこかで、一歩前に進む瞬間を、待っているの。太陽はね、私達を無条件で愛し、心の底から信じてくれる存在なの」という、無償の愛の象徴のようだと語っているところが良かった。
月は、「太陽が用意した魔法の鏡」の詩的な表現もいい。
実際、月が輝いているのは太陽の光を受けて反射しているから。まさに鏡である。
間接的に太陽の光を浴びているようなもの。月光浴も、実際にある。太陽の光が二人の活動時間を決めているわけではないのも、何となくわかる。
わかるけれども、日食で月に隠されると、無月は意識をなくしてしまう。光というより、同時に存在するのが駄目なのかしらん。
だけど昼間でも白い月がみられるときがある。
そのときはどうだったのだろう。
無月が活動できないのなら、冒頭で輝く月を見て驚けない。おそらく日中に浮かぶ白いぼんやりとした月を見たことがあるから驚けたのだと考えられるから。
やはり太陽の光が大事で、その強さが活動できるかどうか決めているのだと推測される。
月に反射した程度の光では、意識をなくしてしまうのだ。
弟の「その日から、月の光が暖かく感じるようになったんだ。あんなに冷たく見えたのに。部屋に差し込んでくる光が、寄り添ってくれるようになったんだよ。そう、その話を聞いたから、俺は今まで生きて来れたんだ。嘘じゃないよ。寂しくて、惨めで、情けない夜は何度も訪れた。その度に何度も姉ちゃんの話を聞いた。何度も何度も何度も何度も」言葉から、姉と違って夜にいっしょに遊んでくれる人はいないし、一人で過ごさなくてはいけなかったから寂しかったのだ。
徹夜している大人もいるけれども、外で遊び歩いている人はいないし、子供のときに出歩くこともできなかっただろう。オンラインゲームをする以外は、ずっと一人だったのではないか。
だから、姉に褒めたもらいたいとか、姉と話したいとか、無月よりも強く思っていたのだろう。
神社の林を抜けた先で崖を見て、「有月が! 有月が!」「気づけなかったんだ、有月の思いにも、葛藤にも、何一つとして。私は、私は……」「ご、めん、ね……」といって意識をなくしていく場面がある。
このときに、無月は弟の考えに気がついたのだろう。
自殺を考えている、と。
崖から落ちていく時の様子は、彼が何をしているのか、その動きを主観で細かく描いて見せ、実際はどうなっていくのかを読み手に想像させる書き方をしているところが良かった。はっきり書かないほうが、より伝わる。
無月が意識をなくしたところは、崖のそばだったので、「右足を前に出す。体を支えるはずの地面はもうそこにはない。残った足で地面を蹴る」行動をすればどうなるのか想像がつく。
どうして日食のタイミングを選んだのだろう。
夜の時間帯に行うことも出来ただろうけれども、勝手にいなくなっては姉を悲しませてしまうから。姉に見えるところでする必要があったのかもしれない。それだったらビデオメッセージで遺言を残せたのでは、とも考える。実際、弟が独白していることは読み手には伝わるけれども、意識のない姉には何も届かないので、ビデオメッセージに自分の気持ちを伝えてあげてもよかったのではと、少し思った。
料理はしないとあったのに、ラストでは大量の調味料とコーヒーはある。ケトルや以前、海外に旅行した時に買った骨董品のドリッパー、マグがある。
有月がいなくなってから歳月が経過したことを表しているのだろう。
読み終えて、月の明かりの物悲しさを感じた。
タイトルが一番目を引く。読む前は、なんだろうと思った。
意味だけ考えると、反射代名詞とは、一人称・二人称・三人称の別に関係なく実体そのものをさすもので、「彼(私・あなた)は自分(おのれ)の愚かさに気付いた」の「自分」「おのれ」などのように、動作が動作主自身にかえることを表わす代名詞のこと。
この意味を知ったところで作品の内容がわかるわけではない。
ただし、読み終えたあとは、実に素敵なタイトルだと思えた。
作中では月のことを、彼やソレで表し、弟に語った月は太陽の魔法の鏡という話、日が沈んでいる時間に起きている有月が月になったことを、上手い具合に表現されたタイトルだと感じられた。
まさに太陽の強い光ではなく、月光の柔らかい光のようだった。
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