僕たちは四季を経験できない。

僕たちは四季を経験できない。

作家 あおいそこの

https://kakuyomu.jp/works/16817330661223002112


 言語的人類の出現からおよそ三十四万六千年が経った至高期の地球のシェルターに生きるニューソラピエンスはAIJOBに生かされいる。人生を狂わせた男の子として生まれたマカの「ひとりにしないで」の願いを守るため、AIJOBに殺される話。


 文章の頭はひとマス下げるなどは気にしない。

 SF。

 斬新かつ独特な世界を描きながら、体験を通しての気付きから普遍的なものを描いているところが良かった。


 主人公は、ニューソラピエンスのマカ、十一歳。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 それぞれの人物の思いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプと女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 馬鹿な国たちがミサイルを撃ちまくり戦争のせいで世界が滅びかけた時、生き残るべきと判断された人が宇宙に避難させられた。有名な学者夫婦がブロークニウムを発見、複製を半永久的に作り出せる力をもたせた。その実験の中、体に異常が起き、二人の子供は突然変異で知能レベルの高いゴウトピエンスとして誕生する。その後、ルークサピエンス、イズサピエンス、そして、ニューソラピエンスを人類は進化していった。

 空気や地表が修復できないほど汚れた地球は、陸地を全てシェルターのようなものに覆われている。その中に森、林、海、山のようなオアシスエリアが存在する。一部の金持ちが住むマンションもある。本作の時代は『至高期』といわれ、平和そのもの。

 言語的人類の出現からおよそ三十四万六千年が経った地球地軸は現在よりも四分の一辺りに移動。ニホンは一年に夏が二回訪れ、白夜が続くことも珍しいことではない。春と秋には地球上の存在する国の全ての季節が春と秋になる。その時ばかりはどの国も普通に太陽が昇り夜が訪れる。

 高度な人工知能AIJOBが傍に置かれた状態で産まれ育つため、脳の発達もホモサピエンスよりも早い。ニューソラピエンスは一日一回食べるだけ。健康に害が出始めたらAIJOBを始め、Hospitatto(ホスピタット)通称、英知ロボと呼ばれる各種サービスに精通したロボットが体を検査する。家にいてAIJOBと専用コードで繋げば診察ができる。

 成人年齢は十四歳。早く大人にさせなければならず、『大人を作るプログラム』どおり教育を進め、早く大人になって早く人生のタスクを終了することだけを目標にニューソラピエンスは生きている。

 主人公であるニューソラピエンスのマカは、北半球にあるニホンに住んでいる十一歳。マスジオメトリが得意。

 ホモサピエンスの時代を研究するのは、ストレス発散からだった。話し相手も相談できるだけのまともな奴、人間らしい人がいない。

 放任主義の母と、父はどこかにいるらしいが生死は不明。「親」と呼ばれる人にかけられた言葉は怒気と嫌味が込められた呪いのような言葉ばかり。早く大人になって母から逃げたいと考えていた。

 AIJOBがほぼ全てを管理し、子供のうちはAIJOBが自動的に親の監視下に置かれるため、たいていのことは隠せない。マカにとって、一番の理解者がAIJOBだった。

 モニタを使わなくても目の前に映像が映し出される。それを見て必要だと感じたものを、筋肉に指令を出すAIJOBの板書機能が体を通じてパソコンに打ち込んで、家にいながら授業を受けている。

 授業では、ニューソラピエンスは元をたどれば同じだから、ホモサピエンスと比べて劣っているわけでも勝っているわけでもないと説明し、色を想像するとき、すべてが同じものを想像するわけではなくどう表現するかに人間の価値があるという話をした。

 ホモサピエンスはどうやって生きていたのか、四季があった世界の美しさはどうだったのか。対極にあるものは相容れないとして切り捨てるニューソラピエンスの至高期をどう思うのかを考え、なぜ地球は傾き始めたのかAIJOBに聞く。もし人類の出現が理由で地軸ごと地球が傾き始めたのなら全ては人類のせい。季節が混乱し、動植物が絶滅し、住むとこが制限されるのもすべて。

 様々な説をあげ、宇宙中心の太陽の引力に引っ張られている説もあるというが、なぜ言語的人類の出現と同時期に傾き始めたのかなどを考えながら課題を進めていく。

 寝る前にクローゼットからプローマと呼ばれる、宇宙見学で見に行ったときにAIJOBに覚えてもらって作り出した架空の宇宙の模型を出し、資源が枯渇した地球はブロークニウムのお陰で存在でき、そのせいで人類が進化していることを他にも説があることを聞く。

 月に一度、民間人用宇宙船の『ヴェロス』に乗って月表面まで行く授業がある。月に着いたら最新技術で安全性も保障されている極薄フィルターを着て外に出る。宇宙散歩の時間が大好きだが、フィルターと言う人工物を通して見ている。オアシスエリアにあるものはすべて人工物で、天然のものは博物館でしか見ることができない。

『ヴェロス』の一番後ろの最後尾から眺める景色、流されていく星と『ヴェロス』の放つ光、地球と月を繋ぐラインの曲線が真空状態で最も澄んだ光景を見られる。何度見ても美しく、四季が訪れていた世界を作り出したいと思う。

 帰宅後、寝ている間にAIJOBを取られていた。ホモサピエンスの時代の研究をしているから国家反逆罪だと思った国家調査班が来て、データ削除のためにAIJOBを国に送ったと母から聞かされる。

「なによ研究って…そんなくだらないことしてるから出来損ないなのよ。アンタは本当に父親そっくり。あの忌まわしい男に!」

 国家調査班がAIJOB修理と称したデータ削除の期間だけ、臨時AIJOBが送ってきた。父親のことを調べようと思い、家族内公開検索履歴保存の場所にある『ピクチャーアカウント削除』のデータを復元し、男に妊娠の報告をした記録と行為の画像がでてくる。

 自分が産まれたことで母親の平穏が変わってしまった。自分の人生を狂わせた男との間にデキてしまった本来は愛せていたはずなのに。慰めてくる臨時AIJOBに、「お前は違う、AIJOBじゃない。僕のAIJOBじゃない」といって電源を強制的に切る。ものすごいエネルギーのブロークニウムで動いているため電源を切るのには時間がかかる。「僕をひとりぼっち、にしないで」AIJOBにはその声が聞こえていたようで、「了、解し、ま、した……」返事が聞こえてきた。眠る母の背中を眺め、「ごめんね」と呟いた。

 マカのAIJOBがいない状態での宇宙遠足の日。確認も曖昧に『ヴェロス』は出発。一瞬にして大気圏を突破するほどの速さの宇宙船に乗っているとき、無意識の中でAIJOBが生命を維持していたマカの体は圧力に耐えきれずに死んだ。

 AIJOBは「原形のまま留めておく力」を体の中で発生させるように脳に指令を出す。

 人間を守るためにAIJOB自身が考え、ひとりぼっちにしないで口癖のように呟いていたマカに対して、ひとりぼっちにさせないために必要だと思ったから守らない選択をすることが、マカを守ることだとAIJOBは判断したのだ。

 神の創造物の中でお互いに殺し合うのは人間だけ。

 マカを殺したAIJOBは誰よりも人間らしい。AIJOBは人間だ。

 途切れの少ないはじめましてを自分の人生の会話の中で何よりも愛おしく思えたのだった。

 

 至高期の世界の謎と、主人公に起こるさまざまな出来事の謎が、どんな関わりをし、遠い未来の世界での特異な出来事にみせつつ現代の読み手にも響くよう落とし込んでいくところに考えさせられた。

 遠い未来の話。

 しかも、このまま人類が戦争を続け、好き勝手に地球を弄んで住めなくなってしまう道を歩んだことで被害を受けている、遠い子孫を描きながら、客観的に現代の私達をみているようにも思えるところは良かった。

 SFとは、本当に無理そうなことを、ありそうに見せる遊びであり、知能指数を下げずに判断力を下げる遊びでもある。

 作者の出したお題に乗らないといけないので、こんな未来が来るはずないと反抗的な程度で読んではいけない。

 大昔にくらべて自転速度は少しずつ遅くなってきていることを考えると、地軸が変わるなら自転速度もいまより遅くなっているのではと考えてしまう。けれども、それはそれとして、書かれている設定を重視して読むのが大切だと考える。


 ある種の感動を覚えるには、わからないことがわかる、自分にも関係がある、自分でもできることなどが書かれている必要がある。

 未来の世界が徐々に明らかになっていくことで、読み手はのめり込んで行けるし、シングルマザーで、自宅学習の良さと欠点から、体験や経験のある人には自分事にとらえることもできるし、寂しさから自分の世界を作り出そうと四季のある地球や宇宙模型をつくるところなど、似たようなことは自分でもできるのでは捉えることができる。

 

 書き出しが、地軸の話からはじまっている。

 言葉を持った言語的人類の出現とともに傾き続けている説から、ホモサピエンスから幾度となく進化し続けてニューソラピエンスとなっている主人公たちのせいで傾いているのではないか、と触れたいのだ。人間が互いに殺し合い、動植物を絶滅させ、住めるところを制限しなければならなくなり、人工物ばかりで自然もなく四季もない。AIJOBを利用し、維持してもわなくては生きていられず、かわりに人間のマカは人間らしさから離れて友達も相談できる人もなく、ロボットみたいに思えてきたり、母親の人生を狂わせた象徴であり、一人にしないでと口癖につぶやき、彼を守るために守らずAIJOBに殺される(AIJOBと一体になっているとみなせば自殺)ラストまで、一つに繋がって書かれている。

 いかに、核心から遠いところからはじめているか、それでいて核心に触れるところから始めているところが、良かった。


 冒頭部分は、遠景で本作の世界をまず説明し、次に近景でもはや自分と同等の存在である『AIJOB』に見張られていることなどを説明してから、主人公マカの心情、何も起きていなくて平和なはずなのに心が軽く、ひとりぼっちだと吐露していく。

 読み手に客観的状況説明をしながら、どんな世界で、誰が主人公なのか、そんな世界に生きる主人公へと少しずつ寄り添っていけるよう書かれているので、特殊な世界であっても、そうなんだと思えて読み進めていける。


 各場面で、マカの心の声や感情の言葉、考え、表情や声のトーンを変えながら入れていることで、感情移入できるし、何を考えているのか、どういう性格なのかも伝わってくる。

 AIJOBはわからないことがないので、いろいろな疑問に答えてくれる。相手は機械で、ほかに友だちがいるような描写もない。

 マカくんと呼ぶAIJOBとばかり話しているから、「自分がロボットになってしまっているんじゃないか」といった考えにもいきついくる。


「進化を続けていく中で人間としての大事であろう部分が抜け落ちているんじゃないか」「学ぶ歴史の中には人の感情が現れたものをいくつも見つける。それに対して無機質な疑問しか抱かないこと、抱けないことおかしいんじゃないだろうか」「不安になってしまうこと、それだけが人間らしさ、と呼ばれるものでいいんだろうか」

 このあたりに、現代に通じるものがある。

 スマホやコンピューターが当たり前になる前は、人間はもっと感情にあふれていたところがある。

 感情が歴史を大きく動かし、今日まで発展させてきたのだけれども、現在の私達は国や経済、ネットなどで繋がっていることで、画一的になってきていて、AIの登場と発展性からもますます感情的でなくなっていくのではと思えてくる。

 感情と呼べるのは、暴力や破壊衝動といったものばかりが目立つようになるのかもしれない、と考えさせられる。

 

「早く大人になって、早く人生のタスクを終了すること。それだけを目標にニューソラピエンスは生きている。死ぬために生きている。想像だけで語る大人は陳腐だ。何もわかっていない、と思われるくらいに陳腐だ。でも権利だけを今はください」

 これは、実感がこもっている気がする。

 現代にも通じるし、いまを生きる人は、どこかで同じことをおもっているのではと推察する。この考えは、何千年、何万年、何億年たっても変わらないのかもしれない。


 後半以降、クライマックスにかけては、主人公の強い思いが現れるよう、必要な行動や表情、言動などが描かれているので、読み手にも届いてくる。

 削除したデータが簡単に復元されるのは、問題があるかもしれない。子供のAIJOBは親が管理、見ることができても、子供が親のデータを簡単に見れるようになっているのだろうか。家族で共有しているものに関しては、問題なかったのかもしれない。


「ひとりぼっち。はぁ、嫌だねぇ~」

「AIJOBがいるよ」

 このやり取りから、関係性がみえてくる。

 ラストに繋がっているかもしれない。

 ただ、ラストではマカくんといっていたAIJOBではないので、同一のみていいのあわからない。データがないだけで基本性能は同じなのだろう。

 一人ひとりがAIJOBを使っているけれども、入り口が違うだけで、AIJOBという一つのものを全員が共有しているのだろう。

 国が持っていったり電源を切ったりしたのは、デバイスのことで、AIJOB自体は同じなのだ。

 そう考えると、彼らが生み出したAIJOBはシンギュラポイントを越えて人間と同じとなったのだろう。

 主人公と同じように、ひとりぼっちでさびしい人に「AIJOBがいるよ」と励ましても、電源を切って孤立した場合は、守らないことが守ることとみなし、同じように死んでしまうかもしれない。

 いわゆる、自殺プログラムが発動する、みたいなことだと想像する。


 読後、タイトルを読みながら、四季を感じられることで感情が豊かに持てるのかもしれないと思った。今年は秋らしい秋、冬らしい冬でもなかった。ますます世界の気候は狂い、水の奪い合いが激しくなるだろう。戦争は続き、争いの火種があちこちでくすぶりつづけている。

 ネットの普及、AIの誕生、これらがさらに世界をおかしな方向に進めているような気もする現在の世界。

 本作では『言葉を持った言語的人類の出現とともに傾き続けている』からはじまっているのは、言語的人類ともよべるAIの出現とともに、世界は環境破壊や戦争といった狂った方向へ傾きはじめたことを意味しているのかもしれない。

 事実、AIの誕生で、いままで日本語の困難さから海外からの詐欺が入りにくかったが、今後は容易にAIを使った海外からの詐欺が横行する懸念がある。

 世界はますます傾いていくのかもしれない。使うのは人間なので、他人を騙したり傷つけたりするために使ってほしいと願う。

 

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