検索してはいけない日記

検索してはいけない日記

作者 花宮零

https://kakuyomu.jp/works/16817330653507215721


 合コンで知り合った女子に好意を持った男子大学生は、誘われてセミナーに参加。新興宗教だと気づき彼女を救い出そうと告白するも運営側にいる彼女は自分は搾取する側であり、一回寝ただけで勘違いするとかキモい、さっさと帰れと振られた日記を検索してはいけない理由がわかったかなと呼びかける話。


 疑問符感嘆符のあとはひとマスあけるは気にしない。

 大学生は、生徒でなく学生。

 ホラーっぽい現代ドラマ。

 時代性や社会性を感じられる。

 大学内の新興宗教の勧誘は行われているかもしれないと、思えるような作品だった。


 主人公は、男子大学二年生。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で日記が綴られている。エピローグはプロローグを書いた人物とは別。新興宗教側の誰か。自分語りで綴られている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 主人公は大学生。なんとなく受験し、なんとなく入学し、なんとなく学校制圧を送っている。親友も彼女もいない。

 六月、宗教関連の講義では、頭のいい人ほど新興宗教にハマりやすい傾向があるらしいと聞く。平凡な自分を褒め、大学の図書館で関連書籍を読み、ネットで調べてみる。カルトの目的は「金」「政治」「女」。肉慾や自己的欲求によって成り立っており、信者が崇める神はいない。

 テレビで『カルトに洗脳された女の十年』という番組宣伝を見て録画予約するも、リアルタイムで見る。内容は、宗主の男に恋をした女は男の宗教に入信、マインドコントロールで支配下に置かれる。女が男の元を離れたのは、洗脳により姉を殺害しようとして逮捕されたから。他人から見て不幸でも、愛に溺れ幸せなら幸福な人生なのだろうかと考える。

 数合わせで合コンに参加。一人の女子が連絡先の交換を求めてきたので交換する。翌日、互いに暇だったのでカフェで落ち合う。その後も頻繁に彼女から通知が届き、『今日はありがとう。とても楽しかった。また是非話したいな』のまたに心を踊らせ、また会いたいという主旨の返事をして寝る。

 不在着信が続いて彼女からの助けを求める通知が届く。折り返すと、ストーカーに付きまとわれていてというので、迎えに行くからというと、近くにいるから大丈夫という。電話を切り、五分後に彼女は現れるも、いつ彼女に住所を教えたのか不思議に思う。先日の飲み会で酔ったはずみで教えたらしい。彼女は別れた彼につきまとわれ、家の前で見かけ怖くて主人公に連絡したという。彼女と一度寝る。

 講義ではメジャーな宗教の説明に入る。メジャーな宗教の特徴に当てはまらないものはすべて、新興宗教と判別できるらしいが、過激な新興宗教を学ぶことに興味はそそられる。

 彼女とランチをするために大学をサボる。彼女は占いが好きらしく、手相の知識を披露してくれた。彼女がしていた数珠のブレスレッドが気になる。知り合いからもらったらしく、構内には数人、つけている人を見かける。

 彼女からセミナー参加に誘われる。宗教系ではなく大学生同士で社会問題に対する意識を高めよう的なもので参加費は五百円かかるという。彼女に恋をし、断れば関わりが終わると思い参加することにする。

 翌日、セミナーに参加。彼女は主催側だった、内容は入ってこなかったが、彼女の声が聞こえるだけで胸が高鳴る。慈愛からは千五百円になるらしかったが、参加予約した。翌日、彼女と感想会を行う。ブレスレッドをもらい、おそろいだねと言われる。彼女が好きだと思うようになった。

 お洒落にこだわり服を購入。洗顔料や化粧水、シャンプ―にもこだわる。中身は大事だと講義は一番前で聞くと教授は「学生が開いているから大丈夫という気持ちでセミナー等に参加するな」と注意喚起していたが耳に入らない。あれだけ素敵な彼女が宗教に関わっているはずなどないのだから。

 大学で三冊ほど育児休暇に関する本や育児の本を借り、j家のセミナーのために勉強をし、スキンケアを念入りにしつつ、着ていく服装を組んで早めに寝る。

 見た目を整うと、周りから声をかけられるようんある。セミナーでは初めて手をあえて発言した。彼女は嬉しそうな顔をしていた。次回の参加費五千五百円を忘れずに振り込んで帰宅した。

 席が隣になった山村という男子に話しかけられる。惚れ込んでいる彼女の話をすると、「お前それ、騙されてるよ」といわれる。彼女のどこに騙している要素があると言うんだ。そう反論すると彼は呆れたように僕の元を去っていった。彼女を悪くいったことを親待ってほしかった。話をするだけで嫉妬されてしまうとは、罪な女性だと思う。

 大学の図書館に足を運び、明日のセミナーに向けて予習していると、同じようなブレスレットを付けている人を見かけ、セミナーに参加しているノアk尋ねると、「特にセミナーには参加していません。これは信仰上の理由でつけています。突然話しかけてきてタメ口だなんて、デリカシーないですね」と早口で捲し立てられ足早に去っていった。「信仰上の理由」と言うのが気になった。彼女には昨日の山村のいうとおり、なにか思惑があるのではと胸につかえる。

 恋愛い溺れてもいいのではと、宗教が絡んでいた場合お金をむしり取られ両親に迷惑をかけてしまうぞよいう葛藤が繰り広げられるも、彼女とのつながりを絶ちたくない一心で、重い足を運んで会場に向かう。セミナーは散々だった。内容が入ってこない。彼女に「このセミナーってもしかして何か宗教とか怪しいものが絡んでる?」と聞けないまま、次回の参加費一万円の振込をされる。次回までに自分の思いを決着つけようとする。

 ブレスレットを画像検索したところ、とある新興宗教が引っかかる。サイトを見ると、あくまで「社会問題に取り組む団体」というスタンスだったが、伊達に宗教の授業を受けてきたわけではない。これは間違いなく新興宗教だ。彼女が関与していたと思うと胸が苦しくなった。一緒にいられれば幸せじゃないか、告白してみろという考えと、好きでも諦めろ新興宗教に絡んでいいことなど一つもないから次のセミナーも不参加にして関係を切るべきだという考えが頭の中で渦巻いていく。

 彼女を新興宗教から救い出すことを決める。大学を休み、計画を考える。彼女に金を巻き上げられるだけと伝え、自分と一緒のほうが幸せになれると告白し、セミナーを抜け出して家に呼ぶ。彼女に渡す花を購入し、部屋を綺麗に掃除する。

 六月三十日。セミナー当日、彼女をみかけると、「このセミナーは新興宗教が開いているものだ。こんなところに君がいるのは危ない。だから僕と一緒に暮らして、幸せになりませんか?」と花束を渡す。すると、「はぁ? 何を言っているの? 新興宗教? そんなの知ってるわよ。でもね、私はあくまで運営側。あなたのような勘違い野郎から搾取する側なの。それに何? 『僕と一緒に暮らして、幸せになりませんか?』って、バカにしてるの? 一回寝ただけでそこまで勘違いするとかほんとキモい。お金は納めてくれただけありがたいわ。わかったらさっさと帰って」彼女が顔を赤らめたのは、怒りによるものだったと遅れて気がついた。

 エピローグでは、日記はフィクションだとし、登場するような人は実在するかもしれず、ポジティブにはなれない内容だとし、「それじゃあまたね、開いてしまったそこのあなた」と呼びかけて終わる。


 日記の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、合コンをきっかけに恋愛と新興宗教にはまっていく様子を描きながら、最後の最後の展開に勧誘の怖さを感じさせられる。

 最近、新興宗教関連のニュースが騒がれていたこともあり、タイミングのいい作品。大学構内での新興宗教の勧誘は昔から行われており、問題になっている。

 また、検索してはいけない日記という体も、フィクションに現実味を与える手法としてよかった。ネット内では、『検索してはいけないサイト』と呼ばれるものがいくつか存在し、忘れたころに話題になるような、オカルト的な扱いをされているもの。知っている人は知っているけど、知らない人はまったく知らない、そんなものを扱いながら、怖いのは人間だと描いている本作はホラーだと思う。

 

 書き出しが、プロローグからはじまっているところが良かった。

「あー。そうか。君はここに辿り着いてしまったんだね」と、呼びかけるような言葉からはじまる。読み手に対して、検索をかけてここまで着たんだねと呼びかけながら、先へ先へと進めていく。

 導入であり、客観的な状況説明をしている。その中で「まあ、そんな君にとって、僕のこの日記は期待外れかもしれない」とある。

 僕といっていて、本編でも人称は、僕でかかれている。

 だから、プロローグを書いたのは、日記の主人公の僕だと考えられる。だから、プロローグの続きとして、感情移入したまま読み進めていくことができる。

 たまに、プロローグと本編の主人公の視点が異なる作品もあるけれども、その場合は、プロローグで読み手が感情移入していたのに、本編で違う人物視点で話が進むと、また新たに感情移入しなければならなくなってしまう。そうなると読み進めていけず、読むこと事態やめてしまうひともいるかもしれない。

 そういう意味でも、本作の書き出しは良かった。


 日記形式なので、主人公の自分語りで進んでいく。風景や人物描写は少ないけれど、主人公の心の声や感情の言葉、考えや葛藤、高揚感など、赤裸々に綴られているので、いつ、どこで、なにを、どのように、どんなことをしたのかがよく伝わってくるので共感しやすい。

「梅雨特有のこの雨の匂いが、僕は好きだ」という具合に、視覚以外の五感を意識した表現をしようともしているのも、想像しやすくしてくれている。


 主人公がいいのは、宗教について学んでいる点である。 

「頭のいい人ほど宗教……カルトと言った方が正しいだろうか。新興宗教にハマりやすい傾向があるらしい」

 オウム真理教というのがありまして、頭のいい人たちが入信し、大きな事件を引き起こしたことがある。

 科学には神が入る余地がなく、数式で成り立つ世界。だから反動で、神という不確かなものに惹かれ、すがってしまう、という考えがある。


 また、「カルトの目的は『金』、『政治』、『女』。結局のところ肉慾や自己的欲求によって成り立っている。つまり信者が崇める『神』なんざいない訳だ」と、早くに本質を学んだ点である。

 結局は新興宗教の女子に引っかかり、セミナーに一万七千五百円も支払ったけれども、深みにハマる前に関係を終わらせることができたのは、講義で主教を学び、自分でも調べていた真面目さに救われたのだと考える。


「教師曰くメジャーな宗教の特徴を知っておくことで、それらに当てはまらないものは全て新興宗教だと判別出来るらしい」も、実に正しい。このときには、主人公は新興宗教を学ぶことに興味が注がれてしまっているものの、メジャーな宗教について学ぶことは、怪しげな人たちと関わらないようにするための防御策になりえる。

 ユダヤ教もキリスト教もイスラム教も、共通して信仰する唯一絶対神の存在があり、三つの源流は一つであるにもかかわらず、自らの正当性を主張して相容れないため、民族紛争の名のもとに、戦争をくり返している。

 旧約聖書と唯一絶対神のヤハウェ、エホバ、イスラム教ではアラー、さらにイエス・キリストに遠因がある。

 キリスト教やイスラム教などが掲げる終末論の元は、ソロアスター教からきている。創始は紀元前十世紀前後といわれ、世界最古の宗教の一つだ。

 新興宗教は、これらとは全く関係ない。


 主人公が合コンに参加することになったのは、「チャラチャラした軍団の一人が胃腸炎になって人数が足りなくなり、頭数合わせのために僕に声をかけてきたから」とある。ここで、彼女に出会うのだから、合コンそのものが新規勧誘の入り口だったと推測する。

 べつに主人公を誘うつもりはなく、同じようにいろいろな男子に声をかけて、たまたま主人公が食いついたというだけだろう。

 このとき参加を促してきた人は、主人公のように、友達もなくて子散るしていて大人しそうな人間をあえて選んでいたに違いない。

 そう考えると、合コンのメンバーが新興宗教の運営側の関係者かもしれない。

 そう考えると、彼女が主人公の住所を知ったのが飲み会で聞き出したというのは、おそらく本当だろう。

 酔わせて聞き出したか、酔っている状態のとき、持ち物から個人情報をしらべたか。

 連絡先の交換をした後、「何かがカチッと動いたような、そんな音が聞こえた気がした」が気になる。

 

 主人公が一夜を共にしたことは、美人局的でハニートラップだったかと感じる。彼女は、過去にも同じような手口で勧誘してきていると考える。

 経験のないような主人公は、恋心を利用してセミナーに引き込んでいく方法が、新興宗教の運営側にはマニュアルとしてあるのだろう。教授が講義で新興宗教の話をしたときに、どういう手口で引き込んでいくのかも話していたら、主人公は警戒を持てたかもしれない。

 仮に話していても、長い講義の中の一部に過ぎないので、すぐわすれてしまうだろうから、いざ自分の身に起きたなら、主人公みたいに警戒などできないだろう。


「教授は『学生が開いているから大丈夫という気持ちでセミナー等に参加するな』などと注意喚起していたが、僕の耳には入らない」とある。大学構内で問題になるほど、大きくなってきているのだろう。


 主人公がおしゃれになっていくのが面白い。

 彼女のセミナーに参加しつつも、自分を磨いていくことを同時に行っている。彼女と付き合えるように異性を意識するだけでなく、多くの人がいるところに参加するため、服装や身だしなみを整え、セミナーの勉強をしていく行動は、恋愛している人間と同じ。

 彼にとっては、恋愛が主ではじまってセミナーに参加している。

 参加の回数が増えるたびに、少しずつ恋愛よりもセミナー参加が主に映っていく描き方が良かった。

 五百円から千五百円はまあ、わかるけど、五千五百円になるのはきついと思う。三倍以上なのだけれども、服装や身だしなみにもお金を使っているので、それと同じだと思えば支払える金額だから出してしまうのだろう。

「育休制度と男性の育児参画」「若者の政治参加について」といった、セミナーの内容自体はまっとうなのだろう。それらについて、勉強していくことについて、主人公にとっては無駄にならない。

 

 見た目が変わったことで、話しかけられることに驚いている。

 いかに、見た目に拘っていなかったのかがわかる。だから、怪しい新興宗教側の彼女にターゲットとして狙われたのだろう。

 山村がいい奴だった。

 忠告してくれた。その後離れたのは、関わり合うと自分も巻き込まれるかもしれないと思ったからだろう。

 

 図書館でみかけたブレスレットをしている人は、新興宗教に入っている人で、セミナー参加で引っかかった人ではなく、親がすでに入信していて二世なのかもしれない。


 彼女を救い出そうとする発想は、彼女のことがそれだけ好きになったからだろう。相談する人もなく、友達もいない主人公にとっては彼女だけなのだ。

 もし、新興宗教の知識がなければ、もっとセミナー参加して抜け出せなくなっていただろう。

 

 彼女が怒って、さっさと帰るように言ってきたのは、彼女の立ち位置が関係していると考えられる。運営側にいると言っても、セミナー参加者を募る下っ端だと思われる。新興宗教だと悟られずにセミナー参加をさせて、抜け出せないところまで信じ込ませてからさらに大金を集める手順のなかで、彼女のような人を集める人間にはノルマが課せられ、ランキング付けされているのだろう。

 主人公みたいな変なやつはさっさと切って、セミナー参加している他の子達や新しい参加者を探すことにしたのだ。


 エピローグでは、「例えば主人公は、一度寝ただけの関係の彼女を好きになるだけでなく、しまいには自分の彼女であるような発言までしていたよね」とかかれているように、プロローグで「僕」とつかっていたのに、使われていない。

 しかも、「この物語はフィクションだけれど」とあり、実際には大学二年生の男子が合コンで知り合った彼女に誘われてセミナー参加し。恋をして抜け出して一緒にしわせになろうと告白するような男の日記そのものが作り話だったといっているのだ。

 最後に、「それじゃあまたね、開いてしまったそこのあなた」と、新興宗教の彼女が返信してきた文言を想起させる「またね」をつかっていることから、検索してはいけない日記そのものは、新興宗教勧誘側が作成したのでは、と邪推したくなる。

 新興宗教はこんな手口であなたを騙してくるんですよ、怖いですね、でもウチはそんなことないですから大丈夫ですよ、みたいなノリで別の新興宗教が読み手を勧誘しようとしている。そんなふうに思えた。


 読後。タイトルの付け方が良かった。人間は怖いもの見たさがあるので、ついつい見てしまう。

 それにしても、げに恐ろしきは人である。

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