10-10

10-10

作者 おもち

https://kakuyomu.jp/works/16817330662277641934


 楽そうだからと選んだ卓球部で出会った池本隼斗にセンスがあると言われた白瀬は、戦術で勝敗が決まるから卓球は面白いことを教わりながら励み、高校引退戦でデュースにまでもつれ込む試合をした話。


 現代ドラマ。

 卓球の面白さがどこにあるのかを教えてくれる。

 やってみようかなと思わせてくれるところが良い。

 

 主人公は、白瀬。一人称、おれで書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。現在→過去→未来の順に書かれている。


 男性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 主人公の白瀬は、中学に入ったとき親から運動部には入れと言われて、楽そうな卓球部を選んだ。閑散として緩いとこだったが、部活初日に初めて顔を合わした部内唯一の同級生の池本隼人は、常にラケットいじってるヘンな卓球オタクから最初のラリーで「お前、センスあるな」と言われる。池本は初心者だったが、真面目に向き合っている彼に不満を抱く。一緒に帰るとき、卓球の面白さがどこにあるのか聞かれ、適当に「打ち合い?」と答えると、「駆け引き」だと教えてくれた。他のスポーツに比べて身体能力の差がつきにくいため、癖のある相手に対してどう立ち向かうのか考え、戦術で勝敗が決まるから、誰もが平等に戦えて熱中すると語った。

 池本は昔から他旧感染が趣味で、イメージトレニングをくり返していたらしい。主人公が一人で練習していると試合を申し込んでくることが度々あり、卓球は戦術だから、白瀬の戦術を見せてくれよと、事あるごとにいわれた。主人公の戦術が、ぼんやりとではあったが確実に現れていく。

 試合をする中で、池本の言葉『卓球の面白さは、色々な戦術』を思い出す。将棋やチェスのように、考えることでラリーの主導権を握り、さらにその先を読むことでラリーを制する力が求められる。

 ボールをネット近くへ落とし、池本の動揺を誘う。これまで早いペースで打っていたが極端に遅い球を打ち込まれたら、対応は難しい。

 池本は落ちた場所とは対角線上のネット近くに緩やかな返してきたが、大きく浮いてしまっている。思い出す基礎練習。先輩に習ったとおりに大きく腕を引いて、一歩踏み込み、慎重に、けれども思いきったフォームで、ボールの真上を素早く打ち抜く。鋭く飛んでいったボールは、隼人のコートの端すれすれでバウンドすると、そのまま脇をすり抜けて飛んでいった。

 いまの良かったなと池本が笑いかけてくれた。

 結局負けたが、自力で三点も取ることができた。「やっぱ俺の目に狂いはなかったな。お前、センスあるよ」と彼に言われる。まだ良くわからないが、「卓球、面白いな」というと、池本は喜んで飛びついてくる。「俺の見立ては正しかったよ、な、これからも頑張ろうな」帰宅したらビデオを見ようという彼の言葉を聞いて、自分も動画サイトで調べるくらいはするかと思った。

 二年後、引退戦を再来週の土曜日に迎え、池本が早くないかとつぶやく。三年間を大事にしておけばよかったという。高校はもう少しくいのない時間を過ごしたいと主人公がいうと、高校に行っても卓球を続けるのか聞かれる。当然と答え、どこへ行くのか聞かれる。「俺は遠くの方が良いかな。違うところ行ってみたい」と答えた。

 歳月が流れる。

 高校の卓球部引退戦が目の前に迫っていた。中学卒業後、近くの高校に入学。当然部活は卓球を選んで今までがむしゃらにやってきた。高校はそれなりに設備もよく、部員もそこそこいてレベルも高かった。腕は上達、六年続けてきた卓球は常に面白い。

 新しく部長となった後輩から送られてきたトーナメント表をみる。シードらしきものも無く、初戦からしっかり組まれている。軽く対戦相手を確認。名の知れた高校名は見当たらない。それなりに勝ち進めるだろうかとみていうと、池本の名を見つける。アイツのいった高校だった。互いに二回勝てば対戦できる、引退戦というこの上ない場所で。自分で考えだした自分自身の戦術で、今度こそ勝てると思った。

 デュースにまでもつれ込んだ試合の後。練習時間までまだ時間があったので、池本のスマホで試合の動画を見ていた。2-2までもつれ込み、5ゲーム目もほぼ同点。ひたすら速い球を打てば良いわけではない。自分にできる最大のプレーを相手にぶつけるところが卓球の魅力であり、一番ワクワクするところだと、何度も言われてきたことを行け元に言われる。試合はデュースまでもつれ込み、サーブする手前の選手に、二人は画面に釘付けになるのだった。

 

 デュースとは、 最終得点前に同点(10-10)になった状態のこと。

  デュースになってからはサーブは一本づつ交代し、連続して得点を得た(二点差がつく)方がそのゲームに勝利する。


 デュースの謎と、主人公に起こるさまざまな出来事の謎が、卓球を通してどうかかわっていくのか、試合の結果よりも戦術で戦い合うことに焦点をおいて書かれている。


 冒頭は客観的な導入、主人公の主観の本編、結末はスマホの動画で試合を見るという客観的視点からのまとめ、といった文章のカメラワークを考えて書かれている。

 ゆえに、ドキュメンタリーのような印象を、作品から感じられる。

 内容も、卓球の試合の中で考えがめぐらされる駆け引きなどが現実的に書かれているため、卓球をしているすべての人達が、主人公のように戦略を楽しんでプレイしているのだと思わせてくれるところが、本作の良いところだろう。


 卓球の話である。

 一度くらいはプレイしたことがあるだろうし、知らない人は少ない競技の一つ。

 だから、知っているけれども、どこが面白いのがわかっている人は少ないのでは、と考える。

 ラリーが続くのが面白いとも聞くが、それは遊ぶときの面白さであって、試合の面白さは本作で語られているように駆け引きや戦術だと、主人公の体験を通して教えてくれているところが良かった。


 感動するには、わからないことがわかる、自分にも関係がある、自分でもできるが描かれていることが大切であり、本作にもそれらが描かれている。

 卓球に関心のない読者であって、戦術が面白いとわかることで主市区感じられるだろう。

 卓球だけでなく、テニスにしろバドミントン、囲碁や将棋などでも駆け引きは大事だし、スポーツに限らず、普段の生活の中でも、一対一で相手と対峙するときには少なからず、駆け引きが必要になる。

 自分とどこか関係があるのではと思って読むこともでき、本作を読むことで自分も駆け引きを楽しめるのでは、と思えるかもしれない。

 試合結果に重かず、過程を描いているのは意図的だろう。勝ち負けではなく、戦術や駆け引き、卓球の面白さを読み手に伝えたい、そんな思いを作品から感じられる。


 書き出しは、「10-10デュースだ」の遠景からはじまる。

 なにかの試合で拮抗しているのだ。詳しい人は卓球だと気付くかもしれないけれども、そこまで詳しくない人は、とにかく緊迫した状況なのだろうと想像できる。

 ただ、主人公が当事者なのか、試合を見ている観客なのかまではわからない。更に詳しく知ろうとするため、近景で主人公が汗を流しながらスコアボードに釘付けになっている様子が書かれている。

 この段階でも、まだ主人公がプレイしているのか、汗を流しながら試合を見守っているのかわからない。

 試合状況が書かれ、相手の様子、目が開い、見つめ合って、互いに目をそらしてうつむく。視界に映る、卓球台の深く澄んだ青色。

 そして主人公の心情、「絶対に、こいつには負けたくない」。

 主人公は緊迫した試合をしている最中であり、相手に絶対に負けたくないと強く思う石が伝わってくる。

 この書き出しで、読み手は主人公に興味を持ち、読み進めていける。しかも、ピンポン玉を打つときの状況描写がすばらしい。

 読み手の頭の中に光景が浮かび上がるような、具体的な書き方がされている。

 とくに卓球の試合に関しては、よく描かれている。


 具体的な場面を、いつ、どこで、だれが、なにを、どのようにどうしたのかを主人公の心の声や感情の言葉を入れて、ときに表情あ声の大きさ、行動やしぐさなど、想像できるよう具体的に書かれているので、親から中学になったら運動部に入れと言われて、楽そうだからという理由で入った主人公が、池本隼人と出会って変わっていく様子がよくわかる。

 

 池本隼人は、良いやつだと思う。

 卓球の試合をよく見るだけで、初心者なのに「お前、センスあるな」と褒めるのだ。試合をよく見ることで、相手を観察する目が養われていたから、気づいたのだろう。

 どのあたりが良かったのか。

 書かれていないのだけれども、池本は卓球の面白さは戦術であり、「なあ、見せてくれよ、お前の戦術。俺、ずっと楽しみにしてんだぜ」から類推すると、最初にラリーをしたとき主人公は、深く考えていなかったけれども戦術をつかったような打ち方を池本にしたのだろう。

 それが、「センスあるな」と感じたのだと想像する。


 卓球の面白さに気づいた後、二年後の中学三年生の引退戦を再来週に控えた場面に飛び、その後さらに三年の月日が流れて高校三年生になった主人公が引退戦をかねた大会に話が飛ぶ。

 半分以上を、卓球の面白さを伝えてくれた池本と励んで来たことを描き、クライマックスではライバルでもある池本と試合で、自分で考えた戦術をもって、「今度こそ、勝てる」挑んでいく。

 楽そうだからと選んだ卓球だったはずなのに、ライバルの池本に自分の戦略で勝てると、引退戦の場所で独自の才能を掴みとろうとするまでに成長した姿には、胸を打たれ、目を見張るものがある。


 問題はラスト、「練習時間までまだ時間があったので、隼人のスマホで試合の動画を見ていた」はいつのことなのだろう。

 二人の関係を描いている話なので、冒頭が池本と対戦しているところなら、ラストは、引退戦で二人が試合し終えた後だと想像する。

 どちらが勝ったのかは、「練習時間までまだ時間があった」とあるので主人公が勝ち、練習時間までの合間に池本と久しぶり会って話をしている、そんな場面なのかもしれない。

 卓球の面白さを教えられ、共に励んできた池本に勝つために、違う高校の卓球部に入って大会で戦うことを主人公は選んだと思うので、勝って終わるのもいいけれども、書きたいのは駆け引きや戦術の面白さが卓球の醍醐味ということなので、この終わり方でいいのではと考える。


 読後。作品の内容にあった、いいタイトルだと思った。しかも、なんだろうと思わせるところがよかった。

 おそらく卓球の話なのだろう、と気づいたので、わかる人にはどんな内容か、わかったかもしれない。それでも、ちょっと変わった、目を引くようなタイトルを付けたのは作者のセンスがいい。

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