飾って透明人間

飾って透明人間

作者 睡眠欲求

https://kakuyomu.jp/works/16817330650229809011


 義父に虐待を受けている結菜は透明人間のカフカと出会って結婚の約束をし、駆け落ちするも結菜を守るために事故に遭ってしまう話。


 文章の頭はひとマス下げるは気にしない。

 現代ファンタジー。

 タイトルからは想像できない。

 映画を見ているかのような作品。

 ラストは読者の判断に委ねられているのかしらん。


 三人称、結菜視点、カフカ視点、女性視点、神視点で書かれた文体。恋愛ものなので、出会い→深め合い→不安→トラブル→ライバル→別れ→結末の流れで書かれている。


 女性神話とメロドラマと同じ中心軌道に沿って書かれている。

 結菜の父親は十二年前に事故死した。母は毎日酒を飲んでは泣き、帰ってこない日が増えて、知らない男が寝てたりした。

 二年前、新しい父だといって知らない男を連れてきた。結婚して数週間後、酒がないと結菜を殴り、ご飯が用意されてなければ起こる。母も殴られ、怯えて生活。警察に行っても対応してくれなかった。母は様態が悪化し、男が入院させず、母は死んだ。高校にも行けず就職もできず、あの男の奴隷として働カなくてはならなかった。

 冬の嵐の夜、アパートの廊下に座っていると、スーツ姿の透明人間と出会い、部屋に入れてスープをもらう。カフカと名乗った人の部屋に一晩停めてもらい、いつでも来ていいからと言われてから、訪ねるようになる。

 カフカが休日の日には来るようになる。

 死んだ父親と見た映画の続編が、今度公開される。結菜は身の上話を語ると、今度一緒に見に行こうと言われる。

 一緒に映画を見に行き、「ねぇカフカ。私の人生を飾って? 私と結ばれて」結菜は告げると、『僕は君にとって毒虫だ。僕と生活すれば不自由な事も多いだろう。それが僕には耐えられない。君が苦しむのが耐えられないんだ。それに君は僕を見たことがない。一度も。君はそれで幸せだと感じられるのかい?』「私は……私は……あなたと。カフカと、一緒に生きたい」結菜の言葉に、『君の人生を飾らせてほしい。これが君への愛の言葉だ』とノートに書き込んだ。

 帰宅後、義父からどこへ言っていたかと聞かれる。映画と答えると、「映画を見に行ってたから、飯も風呂も何もやってなかったと? 映画に行くことは誰が許可した?」「外で男でも作ってその家に行ってんのか? お前誰のおかげで生活できてると思ってる?」大きな声を上げ、結菜はトイレに閉じ込められる。

 ここからでなければ、彼との約束を破ってしまう。外で何か引きずる音がしてゆっくりとドアノブが捻られ、音を立てずドアが開いた。見えない透明なカフカだった。「わたし……わたし……どうしようもなくて……」

 カフカがゆっくり抱きしめてくれたが、義父の「何してる」の声ににらみつける。台所に置きっぱなしになっていた包丁を手に取り刺そうとするもカフカに止められる。

 義父は結菜の腕を離さず、怯えながらそこにいるのは誰だ、一歩でも近づいたら警察を呼ぶとリモコンを握って威嚇する。

「私を攫って透明人間!」

 義父には理解できなかった。キッチンに置かれていた皿が、義父に向かって飛んでいく。結菜は床に落ちた包丁を拾って、義父に馬乗りになって突き刺そうとする。カフカは手を伸ばすも届かない。包丁は顔まで十センチほどの床に突き刺さり、義父は失神した。

「私はもう断ち切ったの。だから、ねぇ飾ってよ透明人間。不幸な私を攫って透明人間」

 カフカは結菜の手を握り走り出す。交差点に差し掛かったところで、角から来る光の正体に気づいたカフカは全力で走り、「邨占除!」と叫んで、結菜は体を押された。

 車が来て鈍い音がなり、数メートル先で止まる。「おい! 危ねぇだろ!」走り去り、倒れたカフカに駆け寄る結菜。いまだけは紙を信じるから、と天を仰ぎ、

「あなたが先に死んじゃったら、私は耐えられない。それならあなたより先になくなりたい」「約束したじゃない。私の人生を飾ってよ。ねぇカフカ笑って、お願いだから笑って。そんな悲しい顔しないで」「死んじゃいやだよ。透明人間」

 北イタリアの避暑地。美しい黒髪を靡かせ様々な店をまわり、必要なものを買い揃えてウォルター・ミティの果物屋を訪ねる。女性は流暢なイタリア語で二つちょうだいと桃を購入。旦那はと聞いてくる店主にまだ寝てると答える。客が彼女は毛痕しているのか店主に尋ねると、旦那を見たことがないという。だが二人分、いつも買っていく。

 家についた女性は桃を丁寧に剥いてフォークを二つ添えて桃が乗った皿を運んだ。裏口から出るとウッドデッキと二脚の椅子があり、机に桃が乗った皿を置いた。「ほら桃買ってきたよ」なにもない椅子に向かって話し、向かい側の椅子に座って桃を一つ口に運ぶ。日差しは木にぶつかり木漏れ日となって降り注ぐのだった。


 透明人間の謎と、主人公に起こるさまざまん出来事の謎が、関わり合いながら、どんな最後を迎えるのかが気になる展開で描かれていたところが良かった。

 一本のイタリア映画をみているような作品。

 イタリア映画の特徴としては、「人間の心情や人間関係を繊細に描写」「社会的な内容を取り扱っている」「リアリティを追求した作品が多い」「短編映画が多い」といったところ。

 本作では、結菜を中心に心情や人間関係が繊細に描かれているし、貧困に陥り親から虐待を受ける社会問題も含んでいる。

 透明人間は現実には存在しない。 

 けれども、本作ではアパートの部屋を借りて生活する世界として描かれた中で、現実味を感じさせてくれる作品にまとめているところが斬新で良かった。

 しいてあげるなら、透明人間カフカの背景がよくわからない。

 年齢は二十歳らしいけど、彼は働いているのか。

 働いているのなら、どのように、どんな仕事先なのか。

 他の人間関係はどうなっているのか。

 どうやって部屋を借りられたのだろう。

 そうした物語に関係しないことでも、作者の中では整合性が取れるような設定を考えて書いているのかしらん。


 三人称の利点は、客観的に描くことに長けているところ。結菜の視点だけでなくカフカの視点に切り替えることで、一人の視点でみていてはわからない部分も描ける。

 読む側としては、各話がはじまるときなど、視点が変わるタイミングがわかりやすいと迷わずにすむ。

 一文が短く、読みやすく書かれているところも良かった。途中、一文が長いところが見受けられる。読点を入れたほうが読みやすく感じた。


 結菜視点だけで話を進めていくのなら、カフカの部分はわからないとして描くこともできただろうけど、カフカ視点に切り替えて途中描いているので、もう少し深掘りして書いてくれていたらいいのにと感じた。


 わからなかったところがわかる用になる部分と、自分にも関係があるのではと思えるところ、自分にもできると思えるところで、読者は感動を覚えるから、万人に受け入れられるかどうか難しいところもあるけれども、恋愛ものとしてみたとき、多くの人に感動を与える作品のでは、と考えられる。


 物語に感情移入できるのは、ドラマの各場面を具体的に描けているから。起承転結のなかで5W1Hを読み手が想像できるよう五感も使って書かれているから。

 登場人物の心の声や感情の言葉、表情や声の大きさにも気を配り、読み手に伝えてくれている。

 後半以降、クライマックスの主人公の強い思いが、必要な行動や表情など、強く現れるように描けているため、読んでいても胸迫るものがある。


 スープを作るところは細かく書かれている。

 普段から料理をしていて、生活感を感じられる。

 結菜がカフカの料理するところを見ているのは、家で家事をやらされているから。他人の料理するのを見るのははじめてだったかもしれない。

 料理は、生きていくことに繋がる行為なので、生を感じられる場面。アパートの廊下は冬の嵐であり、死の象徴だった。

 死から生へ描くのと同時に、カフカが生の象徴としても描かれている。だから彼と一緒に生きていくために逃避行へと繋がっていくのだ。

 また、ラストで桃を切って食べるところへに帰結している。

 カフカは車にはねられて死んでしまったかもしれないが、どうなったかは描かれていない。

 ラスト、話は北イタリアの避暑地に飛ぶ。

 黒髪の女性は結菜と思われるけれども、食べるという行為をしているので、生の象徴。 だから、見えないけれども、カフカは目の前にいるのだと考える。


 他の可能性としては、二人で見に行った映画の内容を描いている場合が考えられる。

 昔、父親と一緒に見た映画は「北イタリアの避暑地での恋物語なんだけど、すごく美しかった」とあり、この続編を二人で観た。

 父とみたとき、「すべてが綺麗だったの。恋や景色や雰囲気やすべてが。私もいつか行ってみたい。住んでみたいの」と憧れていた。その映画の続編を、ラストに持ってきている可能性も考えられる。

 どちらを選ぶのかは、読者の判断に委ねられているのだろう。


「死んだお父さんと行った映画は楽しかった。ポップコーン買ってくれて暗い映画館で見るのがすごくすごく楽しかった」

 結菜はそういって、カフカと映画を観る。

 結菜にとってはカフカは、父親みたいな感じだったのかもしれない。かなりうがった邪推をすると、透明人間は死んだ父親の生まれ変わりなのかしらん。

 そう思うと、カフカという名前や、結菜を見守るように助けてしまう流れなどに説明がつく気がする。

 

 カフカが叫んだ「邨占除!」は、文字化けで「結菜!」である。

 発音はわからないけれども。


 読後、短編映画やアニメや漫画、他の媒体にしたものを見たくなる。できるなら映画でみたい。

 

 

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