夢と踊る

夢と踊る

作者 こたこゆ

https://kakuyomu.jp/works/16817330658679487569


 自分の思考、美しさを絵に表現する女子高生の私は、誰かにわかってくれなくてもかまわないからと、様々な夢の世界を思い描いてはたくさんの絵を描き、眠りながら夢と踊る話。


 現代ドラマ。

 主人公が思い描く世界はファンタジー。

 現実と空想の世界、二つの世界が描かれて面白い。

 作品内で描かれている絵は、作者の近況ノートに上げられているので、興味のある方はご覧になってください。

 

 主人公は、女子高校生。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。

 本編は、女子高生が描いた絵の物語。各物語の主人公は少年、半妖少女、一寸法師、幽霊少女に猫。一人称は僕、俺、吾、わたしで書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 作品全体は、女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 主人公の女子高生は、絵という形で思考を表現していた。

 変なやつだと思われて学校でつらい目にあったからといって、自分が大切にしているものを評価して欲しいとは思っていなかった。

 高校一年生からスケッチブックを使いはじめ、中学時代にもらった水彩画で色を塗っていく。


◆初めて描いたのは、一人の少女の絵。

 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプに沿って書かれている。

 三月、少年の家の二階からフードをかぶった金髪で灰色の目の少女を見かけた。一カ月ごとに家の前をとりすぎ、六月に見かけたときは頼りない足取りでやせ細っていた。以来、彼女は家の前を通り過ぎなかった。梅雨の雨に濡れる紫陽花を見るたびに名も知らぬ彼女を思い出すのだった。

 少年と出会った少女は、自分を見つめてくれる彼を好きになり、未練がましく毎月同じ道を通った。『人と違って一途な私たちに、その想いは辛いだけ』と親に言われても無視した。

 お言葉は通じず、互いに行き来できないから人との繋がりはインじられている。それが半妖のルールだった。


◆次に描いたのは、高校の池から思いついたもの。

 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 主人公の隼斗が池のある公立高校の中庭前を通りかかったとき、笛みたいな音が聞こえた。頭のいい友人の海都と真美矢に聞くも二人には聞こえていない。

 しばらくたって、春の日差しの下で、親指姫や一寸法師と同じサイズ感の人が、笛を吹いているのを目撃。その姿は透けていた。冬には笛の音は聞こえなくなる。帰宅後、薄着では寒かろうと、針と糸と、柔らかな布に向き合う。

 一寸法師となる前の幼いころ、笛が好きで姫に披露するのが好きだったが、武術は苦手。父上に燃やされ縁側で泣いていると、天女に会い『そなたは、生まれる場所を間違えた。そなたの才は、こちらでこそ輝こう』と騙され、姫を置き去りにしてしまった。天女の世界と元いた世界と時間の流れが異なり、姫はなくなり、使えていた主人も屋敷も消えるほど歳月が過ぎていく。俗世に浸る一寸法師を天女は見すて、やがて姿は小さく薄くなっていった。

 一寸法師の頭の中には、大切で守りたかったのに老いて言ってしまった、袴を身につけた髪の長い彼女の姿を思い浮かべ、『姫、お慕い申しておりました』と姿が消えてなくなるまで拭き続けるのだった。


◆次は高架橋下の女の子。

 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 猫が小さい頃、遊んでくれる女の子が大好きだった。でもその子は人とは友だちになれなかった。猫が家を尋ねると、赤い光とものすごい音に逃げ出した。

 次の日。幽霊になった少女が初めてした遠出は、四つ隣の町だった。国道の方にあるパン屋と公園に行こうとして雨が降る。濡れるのが嫌だと高架下で雨宿りすると、猫に会う。また夜中にと約束して家に変える少女。

 夜、猫と出かけたのはたくさんのビルが立ち並ぶ都会。はじめての都会はキラキラ輝いていた。ビルの屋上にたどり着き、猫を真似て一緒に柵の上を歩いた。

 春夏秋冬、朝昼夜。猫は一緒にいてくれた。同い年の子たちは大人になって街を出ていった。だから不安になる。猫も老いてしまった。猫は公園に現れず死んでいた。

 幽霊となった猫がニャーとなく。少女は今度はどこへ行きたいと声をかけた。

 

◆土曜日。休日の時間を使って描くのは、一人の少女。窓辺に座る少女の姿はシルエット。そこに宇宙が重なっている。彼女の目の前には、夢の様に美しい青いバラが置かれ、窓の外の月が青白く輝いている。

 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 東京に住んでいた小学生の少年が親の都合で一学期だけ田舎に引っ越したときのこと。

 猫じゃらしを持って歩いていると、橋の上に立って下を眺めるクラスメイトの少女と出会う。いいもの持っていると言われて猫じゃらしを渡し、なにしてるのと声をかけると、飛び降りては猫じゃらしを渡される。どうすればいいのかと声をかける前に少女は橋から飛び降りる。一度やってみたかったと、彼女は笑っていた。

 魚のように橋から飛び出し、空を泳ぐような自由な姿の記憶だけが、いまも記憶に残っているのだった。


 イヤホンをつけっぱなしで寝ていた少女は目を覚まし、曲を再生しては空想の世界へ入って絵を描く。最後に星をちらして仕上げると、ベッドへ倒れ込む。

 誰かにわかってくれなくてもかまわない。美しいは頭の中にあるのだから。殻に閉じこもるように身を丸めながら、主人公は今日も夢と踊るのだった。


 画用紙に描かれた絵の謎と、主人公に起こる出来事の謎が、どのように関連しているのか、複数の物語が語られた先にみえてくることで、一つのお話としてまとまっている構成に、物語性を感じられた。

 主人公が思い描いた夢物語をスケッチブックに描き、その絵がどういうものかを、物語として描いているのが本作なので、たくさんの人物と、それぞれ異なる世界が登場している。


 書き出しで、一人の少女が窓辺に机に向かっているところから始まっている。

 読み手になんだろうと思わせてくれる書き出しから、主人公が画用紙に絵を描いているのがわかる。

 プロローグなので、これからはじまる物語につながることを書く必要がある。この先、読者に読んでいってもらうためにも、読み進めていてもらうような書き方が求められる。

 そのことを作者は理解し、誘っていくように書いてるところが良かった。

 まず、主人公が描いていることを遠景で語り、近景で物を考えて表現する時の方法には様々あり、少女は色に空想を込めて絵で表現すると説明してから、学校で辛いことがあても、少女は自身の理想やあこがれを絵に写しては、空想を描いていく主人公の心情へと落とし込んでいく。

 だから、これからはじまるお話は、主人公の描いた絵の物語だと暗示している。

「微睡む様に、うたうように、少女は空想を描く」という書き方がいい。

 頭の中に浮かぶ情景を見ながら、絵筆を動かして描いていく様子が目に浮かんでくる。

 情景が浮かぶような描き方をしているところも、読んでいこうとする期待に繋がってくるのがいい。


 オムニバス形式の作品とはいえ、それぞれの場面が読み手に伝わるように、5W1Hをつかって起承転結のなかで、主人公の心の声や感情の言葉を書き、必要な行動や表情などを描きながら、想いを強く表現しようとしているので、短い話しながらも、登場人物たちの思いが読み手に伝わってくる。


 共通するのは、互いに思い合いながらもすれ違いを描いている点。

 それぞれ、思いが通じ合っていくのではと思える終わり方をしているので、絵を描いている主人公の思いが現れていると考える。

 つまり、誰にも理解されなくてもいいと思って描いているのだけれども、本音では、誰かにわかって欲しいと願っているのだろう。

 どんな作品も、作者の内面に秘めている思いが表に現れるもの。

 本作の主人公も、自らの夢物語を絵に描いている。

 まさに、彼女の思いそのものが絵なのだ。

 作者の思いが現れない作品など、書く意味がない。

 たとえ表に出ないようにと抑えて作っても、無意識のうちに現れてしまう。それがその人の持つ才能だったりする。

 最後、「殻に閉じこもる様にマットレスに身を丸めながら——今日も私は、夢と踊る」主人公は、夢の中では自分を理解してくれる人が一人でもいいから、自分を見つけてくれることを夢見続けているのではと、思った。

 また、本作品には作者自身の思いが投影されているはずなので同じく、自分の作品をわかってほしい思いがこもっているにちがいない。


 読後、自分が考えたお話をノートいっぱいに書き込んでいたときのことを思い出した。絵を描いて、漫画にしてからお話へと落とし込んでいく書き方をしていたので、本作の主人公の気持ちが少しは想像できるし、理解できる気がする。

 別に、世の中に発表したいとか、一角の人物に大成したいとか、そんな気持ちで創作するのではなく、ただの自己満足かもしれないけれども、自分にしか描けない夢の世界を大事にしたくて形にする。

 似たようなことをしていたな、と本作を読んで懐かしく思い出せたのが良かった。


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