好きなもの

好きなもの

作者 Renon

https://kakuyomu.jp/works/16817330663463368892


 友達である彼女の横にいたい私は、好きな人ができてきれいになった彼女を追いかけるようにメイクやコスメで着飾った。彼女と一緒にいても上辺の嬉しさしかなく溜息がこぼれる。自分の好きなキーホルダーを見つけて購入。控えめなメイクをして登校し、私として彼女の横にいる話。


 現代ドラマ。

 友達と一緒にいたい気持ちの中で、私らしさを見つけていく作品。

 いまの若者を良く表し、時代性や普遍性を感じられる。


 主人公は、たぶん女子高生(女子中学生の可能性もある)。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 絡め取り話法で書かれている。

 主人公は、友人の彼女と仲が良かったが、彼女に好きな人ができてからメイクをするようになってきれいになった。いままで話した事のないクラスの女子に囲まれる彼女をみながら、自分もあの女みたいに可愛くなれたら、また横にいられるのかと考え、『初心者必見! 一から可愛くなる方法!』のサイトを見つける。

 カフェに行こうという彼女の誘いを断り、スマホ片手にコスメやスキンケア用品が並ぶ店内をうろつく。店員に声をかけられて説明を聞く。

 翌朝、サイトで確認したヘアアイロンをかけ、仕上げにヘアオイルをつける。「今日なんか髪、綺麗だね! 可愛い」といってくれた彼女。もっと彼女みたいになりたい、と彼女の背中を追いかけ綺麗になろうとしていく。

 頑張りはじめて一カ月。今の自分なら彼女の横にいても見劣りしないだろう。だけど、彼女は毎日どんどんか可愛くなっていく。

 店い足を運んでは、スマホと商品に視線を往復させ、彼女も使っている淡いピンクのネイルを購入。帰路につくと、「今週末、二人でどっか行かない?」彼女からの連絡に喜ぶも、急いで来た道を戻る。

 なにかできることはとサイトのタブを開き、『可愛いを身につけよう! ファッション特集!』から、彼女に似た服を探す。韓国コーデだと知り、店の人に韓国コーデっていうのに挑戦してみたいんですけど」と助けを求める。

 お店の人にすすめてもらったものをあわせて購入し、「いいよ! 遊びに行こう」と彼女に連絡を返した。

 待ち合わせた場所で彼女に「今日も可愛いね」と伝える。「ありがとう」の返事は以前よりも言い慣れていて「早く行こ!」という明るい声に飲まれていった。先を急ぐ彼女の背中を、笑顔を作って追いかける。

 流行りの恋愛映画、おしゃれなカフェ、買い物。女の子らしいおしゃれな一日は、これまでなかった。「ねぇ、これ可愛くない⁉」と韓国系の洋服を体に合わせて見せる彼女。無邪気な笑顔をはじめてみた。

 通り過ぎる客が「あの子達可愛いね」とつぶやくのが聞こえる。彼女の横にいられるくらい可愛くなれた。願っていたはずなのに、上辺だけの喜びが残る。

 彼女と別れた後、ため息を付きながら疲れた足取りで歩き出す。満たされない心で歩いていると、存在感のある雑貨屋が目にとまる。中に入って「気になるものでもありました?」店員に聞かれて指さしたのは、ガラスの中に青の花がいくつか閉じ込められた、丸いガラスのキーホルダー。新作と言う割に店の端に追いやられている。他のものに比べると人気じゃないらしい。それでもポップも目を惹く装飾もないキーホルダーから目が離せなかった。

 翌朝、毛先だけ巻いたハーフアップに、オレンジ色の控えめなアイシャドウのメイクをして、ガラスのキーホルダーをトートバックにつけて登校。先に来ていた彼女に「おはよー!」と手を振る。

「あ、あぁ、おはよ、なんか、雰囲気違うね。好み変わった?」

「うん、そうかも」

 彼女の横にいたい、それだけだった。遠回りしたけれど、そんな自分もいまは少し好きになれたのだった。


 友人が急に可愛くなった謎と、主人公に起こるさまざまな出来事の謎がどのように関係していき、時代性を描きながら、普遍性である私らしさを見つけていく展開がすごく良かった。

 

 友人が急に可愛くなった、という書き出しがいい。

 直感で気づき、「最近、雰囲気変わったよね」と言語化して気持ちを伝え、彼女の様子を説明しての「嬉しい」と微笑む様子を見て、「やっぱりどこか、前と違う」と主人公の心情が語られる。

 主人公の胸に深く届いた思いは同時に、読み手にも届き、共感しては物語に入っていける。

 読者を物語の先へ先へと誘っていく書き方は上手い。 


 主人公と彼女の関係、あるいは彼女とクラスの女子との関係に焦点を当てて描かれていくなかで、主人公の心の声や感情の言葉が多く書き込まれながら、彼女の見た目の描写や、クラスの女子たちの声といった、視覚と聴覚をつかった書き方のおかえで具体的に場面が状況を伝えてくれているので、読み手も感情移入できる。

 場所が教室なのかどうかはっきりしないところもあるが、コスメ商品や韓国コーデ、雑貨店など、買い物をするときは主人公はどこにいるのかだったり、彼女からの連絡をもらったとき、住んでいるマンションのエレベータにいるであろう感じが描かれていたり、ドラマが起きている場面がどこなのか、わかるように書いてくれているところも良かった。


 主人公や友人の名前、中学か高校かなど、具体性が乏しく抽象部分もある。ただ、作者の中では何を描きたいのかはっきりしているのだろう。主人公の心情をメインにしつつ、メリハリを付けて、コスメやメイクについては力を入れて書いているところも良かった。


 作品からは、現代を生きている女子高生(女子中学生?)の空気を感じられる。

 友人に好きな人ができたから綺麗になり、そんな彼女と一緒にいたいからと、釣り合いの取れるように自分もコスメやメイクを勉強して身につけていくといった行動や気持ちが、非常に良く伝わってくる。それだけ、言葉を選んで書いているからこそ、読み手に届くのだ。


 グリッターは、ラメよりも大きいやつですね。

 主人公が、「グリッターってどういう物なんだろう」と、メイクに関しての知識がまったくなかったけれども、一カ月かけて少しずつ変化し、韓国コーデにまで手を出すようになっていく流れは、変化を感じられる。

「最初にビクビク怯えながら入っていた頃の自分が可愛らしく思う。スマホをポッケにしまうと、丁度、壁に貼られた大きな鏡に自分が映る。毛先の巻いたポニーテールに、二回折られたスカート。足首の見える靴下。彼女みたいになりたくて、頑張り始めてから、一ヶ月程度。前は二時間も早く起きていたのに、最近はいつも通りの時間で間に合うくらい準備も早くなった」

 こういった、以前の自分と比較して現在を描いているのがいい。

 どう変化したのか、具体的わかる。

 中盤の主人公のいいところは、他人との比較をせずに、過去と今の自分を比較しているところ。他人と比較すると、劣っているところばかり目がいってしまい、惨めになる。

 過去と現在の自分を比べると、できなかったことができるようになっている事に気づけて、成長を感じられ、自信へとつながる。

 だから友人の彼女と比較して、どんどん可愛くなっていく友人をみて、ため息がもれてしまう。

 もっと頑張らないと、と焦る。

 この気持ちがあるから、遊びに行こうと誘われたとき、彼女と釣り合いを取ろうと、韓国コーデに買いに走るわけだ。

 いっしょに遊んでは、これまでみたことのない友人の笑顔をみつけ、まわりから、あの子達可愛いといわれても、何かが足らないと思ってしまい、一人になってため息をつく「なんか……疲れたな……」となる感情の起伏の書き方がすごくいい。

 

 雑貨屋さんは、比喩になっている。

 ようするに主人公は、「小さなウサギのぬいぐるみが付いた可愛いバッグチャーム。“人気No.1“」である友人を追いかけて、同じようになろうとした。でもそこには自分らしさがない。だから疲れてしまった。人気じゃないけど新商品の「ガラスの中に青の花がいくつか閉じ込められた、丸いガラスのキーホルダー」を見つけ手にするのは、友人とはちがうけれども、自分らしく新しい主人公になることを描いている。

 登校したら印象が変わって友人は驚くけれど、それでも彼女の横にいたい気持ちに変わりない主人公。

 きれいになって友人の横に立てるけど、自分らしさのある新しい自分になれて、これまでの努力や時間は無駄ではなかったし、こんな自分を少しは好きになれたのだ。

 こうして女子は、少しずつ大人になっていくのである。

 

 読後、好きなものあることは大事だと、改めて痛感する。相手に合わせるために好きなものを手放すのは、自分らしさを手放すことだし、いままでの自分を否定することでもある。そうしなければ前に進めない場合もあるけれども、それをするには、努力は必要だし、ストレスも溜め込んでしまう。

 全部捨てる必要はないから、これだけはどうしてもなくしたくない、というものだけ手放さないようにすれば、新しい自分になりながらも自分らしく進めるだろう。

 そんなことを、作品から学べた。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る