短夜に見た泡沫

短夜に見た泡沫

作者 @mmnoki

https://kakuyomu.jp/works/16817330660726555688


 一つ年上の山田愁と少女漫画のような運命的出会いをした佐々倉愛夏は同性が好きと彼に伝え、応援されて告白したが振られてしまう。彼は仲のいい同い年の鈴木大和が好きだが、壊れるのが怖く、彼女もいるため告げられずにいた。大学二年の夏、愁は事故でなくなる。自殺と聞いた鈴木は、身勝手なやつだったのかと怒って去ってしまう。愁の気持ちを知る人達は悲しみ痛み、彼を連れていこうと遺骨を分け合い、新しい宝物を探しに生きていこうとする話。


 文章の書き方や誤字脱字等は気にしない。

 人生とはなにかを、描いている。

 いなくなっても時間は進むし、記憶もおぼろげになっていくけれども、人は生きていく。いつかまた会える日が来ることを願って。

 そのことを思い出させてくれた。

 

 主人公は、佐々倉愛夏。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 女性神話と、メロドラマとおなじ中心軌道に沿って書かれている。

 主人公の佐々倉愛夏は中学のとき、図書室で同じ本を取ろうとして全校生徒の密かな憧れの先輩、一つ年上の山田愁と運命的な出会いをし、親友になる。

 高校二年の三月はじめ、親友の愁に、同い年の学校マドンナ世良凛が好きなことを告げると、彼は一番の親友として知っていたと答え、「勇気をだして話してくれてありがとう。俺、応援する!」といわれる。

 空き教室に世良凛を呼び出し告白するも、「なに? キモっ」といって走り去ってしまった。勇気を出したのに酷いと思いながら好きだから怒れず、涙がこぼれていく。

 愁さんに会いたいとおもって、飛び出すと廊下で彼に遭遇。振られたことを告げる。彼についていくとおしゃれな喫茶店にたどり着く。両親が経営していたがなくなって相続したが、親の代から働いている人に任せて、自分は上の部屋で生活しているという。

 部屋でチョコレートケーキとミルクティーを一緒に食べ、振られたことを話す。

 「かっこいいね」「俺はさ、告白する勇気すらないからさ、愛夏はすごいね」と、彼は同じクラスの鈴木大和が好きだと教えてくれた。

 成績優秀でクールな愁と、誰とでも仲がよくスポーツが得意な爽やかなイケメンの鈴木大和の二人は、学校でも有名だった。

 仲がいいのに何故告白しないのか尋ねると、「近くにいすぎて壊れるのが怖くなっちゃった。あと、彼女いるんだ大和」と悲しそうに笑った。互いに好きな人の話を語り合い、主人公は恋の消化ができた。愁もそうだといいなと願った。

 二年後。愁と同じ大学に入学してまた後輩となった主人公には、今川桜という友だちができた。

 愁は鈴木先輩と仲が良いが、鈴木先輩の彼女のなつみが加わった。二人を半歩後ろから微笑んでついていく愁をみるたび、主人公は心がいたんだ。

 桜と愁と三人で過ごすことが増えたある日、愁から、鈴木先輩が愁と主人公が付き合ってると思っているらしく、噂になれば桜も誤解されてしまうかもと申し訳無さそうに話しかけてきた。

「桜は噂なんて信じないし私が愁さんと親友なのをわかってるよ! 問題なのは愁さんが好きな人に誤解されてることの方でしょ⁉」

 そういうと、彼はきれいな目に美しい涙を流して小さくうなづいた。

 大学二年の夏。愁から話して誤解がどけ、愁と主人公の関係は妹みたいな後輩という認識となる。

 バイトに明け暮れた夏の終わり、見知らぬ電話番号からの着信が十件つづいた。その後、愁からの着信に出ると、鈴木大和が愁の電話を借りて連絡してきた。

 病院に駆けつけると愁はなくなっていた。自殺だという。

 喫茶店で働いている人や常連さん、桜、鈴木先輩、みんなで泣いて、たくさん愁の思い出を語って、寂しくないように沢山の手紙や写真、ぬいぐるみを傍において楽しかったねって声をかける。

 警察の話では、愁が車の前に飛び込んだらしい。

 カメラもない細い道、ドライブレコーダーのない車に轢かれた。通報したおばあさんが、気がついたら人が車に向かって飛び出して轢かれたと言ったという。運転手も衝撃で頭を打って記憶が混乱してよく覚えておらず、だから自殺だという。

 人を巻き込むことをする人ではないとみんな入ったが、結果が変わることはないだろうと言って帰っていった。みんなは泣いて、励ましの言葉を掛けるも、鈴木先輩だけは、自分勝手にも程があるだろと怒っていなくなってしまった。

 みんなは、先輩がいなくなった扉を唖然として見つめていた。

 彼は愁を信じることができない人だった、と愁が彼に恋していたことを知るみんながそう思った。でもそれを、言葉にして愁に伝えることはなかった。

 お店の人や常連さん達で小さなお葬式をし、主人公と桜も参加した。姑のつながりを持っていたくて、形見分けをしたため、棺桶にはほとんど入れることができなかった。鈴木先輩はこなかった。

 歳月が過ぎた。

 三十路後半になろうとしていた主人公は、桜と正式に付き合っている。時間があれば二人で愁のお墓参りをし、たくさんお話をする。あの喫茶店は愁を知る人で集まっては、昔話をすることもある。

 だが、現店長が店じまいをするといい、だから最後でみんなで集まろうと話をした。あの時の常連客も、もう半分以下になってしまった。彼がいない世界は驚くほど早く進むし、人は生きていかなくてはいけない。桜がいてよかった、独りだと諦めてしまっていたから。

 店がなくなれば昔話もできない。

 記憶や思い出は宝物だけど、いつまでもしまってはいられないから、箱から出して、ボロボロの愁の遺骨を連れて、新しい宝物を探すことに、桜と店の人たちとともに決めた。

 すがっていたものに別れを告げるのはすごいことだと、あの時のあなたの気持ちがわかった気がする。

 後からわかったことがある。通報してきたおばあさんは認知症が進んでいたこと、運転手が居眠りしていたこと。

 本当のことは愁しかわからない。

 いつかあなたに、沢山のお土産ができるように、桜と共に泡になるまで生きていこうと誓うのだった。

 

 愁の謎と主人公に起こる様々な出来事の謎が、どのような関わりを持って展開され、どう生きていくのかを考えさせてくれる。

 高校時代、大学時代、その後の三部からなる作品。


 なんだろう、と思わせる書き出し。

「私ね、世良さんが、世良凛さんのことがすきなんです」

 主人公は女子で同性が好きなのか、あるいは、凛は男子の名前かもしれない。あるいは、男子が自分のことを私といい、凛という女の子が好きなのか。

 いろいろな組み合わせを考えてしまった。

 しかも、主人公の私が世良さんが好きだと、誰かに打ち明けているのか、それとも世良本人を前に告げているのか。

 とにかく、あれこれ考えてしまって、どういうことなのだろうと冒頭を何度も読み返してしまった。


 秘密の告白を打ち明け、応援をもらってから二人の関係を説明し、主人公の思いを彼女に伝えに行く展開は、遠景から近景へと経て、心情を語っていく流れなので、読み手も興味を持っていく。

 誘っていく書き方がいい。

  同い年の学校マドンナで、「長くて手入れがされた綺麗なミルクティー色の髪がスタイルのいい体や顔」といった、すごくきれいで上品なんだろうなという想像を読者にさせておいてからの、世良の「『なに? キモっ』 バタンッ」反応の早さ。

 主人公の抱いていた印象とのギャップを感じて、振られてしまった場面なのだけれども、ギャグにみたいに見えて笑ってしまう。

 これが、伏線にもなっているのかもしれない。

 事故にあってなくなった愁が自殺、という話を警察から聞いて、

「お前、そんなことしたのかよ。その程度のやつだったのかよ。自分の為に他人利用して満足したのかよ。自分勝手にも程があるだろ」

と吐き捨てて出ていき、葬儀にも現れることなく去っていった事を考えても、主人公と愁は対になっているのだろう。

 恋は盲目というけれども、好きな相手を美化してみてしまっているところは、両者とも良く似ている。

 だから、二人は親友になれたのかもしれない。


 少女漫画でもよくみられる、何かが壊れたあと本音が現れる展開が、本作でも見られる。

 主人公が振られたときと、愁が死んだとき。

 とくに、意外な真実が明るみになる。

 こういう展開はドキッとするし、強い興味を持って読み進めていける。

 

 主人公と愁が出会ったのは中学時代であり、主人公が告白して振られるのは愁が卒業間近というタイミングなので、二人の付き合いは長い。

 中学から世良が好きだったので、愁はそのころから気づいていたことになる。また、対となっているので、愁が鈴木大和を好きになったのも、中学の頃かもしれない。

 そう考えれば、店で働いている人たちが、愁が鈴木大和が好きだということを知っていても違和感がない。

 主人公や桜は同性が好きなので、愁の話は聞けると思う。異性愛者の人には言いづらい話だと思う。親と一緒に喫茶店で働いていた人たちならば、小さい頃から愁を良く知っているはずなので、りかいもあったと思えるから。

 あと常連客も知っているので、やはり、親が経営していたときから利用していたお客で、幼い愁をよく知っているから、子供や孫のように可愛がっていて、理解もあったはず。

 そんな人達が、愁が鈴木大和が好きだと知るタイミングは、高校や大学生以前にあったのではと想像する。


 気になったのは、主人公と愁は長い付き合いなのに、家のことを話していない点。

 彼の家が喫茶店で、両親がなくなって経営は親と一緒に働いていた人が引き継いでいることなど、全部でなくとも一部でも聞いたことはなかったのかしらん。

 愁の性格はクール、とある。

 だから、親友の主人公にも話さなかったのかもしれない。


 愁が自分お話をしたのは、話の流れもあっただろうけれども、自分が応援したせいで失恋してしまったことへの後ろめたさがあるから、話したのだろう。


 主人公が二人目に好きになった、今川桜は、「彼女は明るくていつも私に話しかけてくれてて人と付き合うのが上手くない私を、いつも助けて暖かく包んでくれるとても優しい大切な人」とある。

 外見が素敵だったから世良を好きになって振られた反省を活かして、今度は内面で好きな人を選んだのだろう。

 このあたりに主人公の成長がみられる。

 ただ、それ以外に桜がどういった子なのかというのがあまり書かれていないので想像しにくい。でもそれはしょうがない。

 本作は、主人公と愁の話でもあるから。

 鈴木大和の彼女だったり、喫茶店の従業員や現店長、常連さんなど、名前だけで人物像が描かれていないのも、同じ理由からだろう。

 その分、具体的な場面を、主人公の心の声や感情の言葉を入れて読み手にも想像できる書き方をされている。


 三十代後半になろうとしたころの話になると、主人公の自分語りになり、心情が強く書かれているので、具体的に乏しく、「箱から出して、ボロボロのあなたを連れて歩くんだ」と比喩的に書かれている。おそらく、愁のことを良く思っている人たちとで、遺骨をわけ、小さな入れ物にいれては肌見放さず身につけ、一緒に連れていくのだろうと想像する。

 ただ、この想像が正しいのかがわからない。

 エピローグの部分は、桜と一緒に墓参りをしているので、その時に報告がてら、愁に語っているのかもしれない。

 あるいは、小さな入れ物に入れた愁を握りしめて主人公が心のなかで思っているかもしれない。

 想像できる描写がないのでラストはふわっとした感じがする。


 読後、タイトルの『短夜に見た泡沫』とは、愁がなくなった夜を指しているのかしらん。好きという気持ちは届けられず、自殺ではないと鈴木大和は信じなかった。

 愁の思いは泡と消えてしまった。そう考えると、とても悲しい。

 だけど、主人公や桜、彼を知る人達が引き継いで一緒に歩いていってくれる。救いがあって、ちょっとよかった。

 いつか会う日のために、お土産をたくさんもっていけるよう、生きていきたいものである。

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