焦点絞って

焦点絞って

作者 のーと

https://kakuyomu.jp/works/16817330663455941047


 成績優秀だけど初等魔法が苦手な短田は、美術室の額縁の少女に魔法をかけて相談相手になってもらっていた。絵の作者は美術室で出会って好きになった目のきれいな兵郷であり、千里眼の持ち主の彼は、未来で見た一番大好きな人である短田を描いたと告白する話。


 文章の頭はひとマスあけるは気にしない。

 恋愛ファンタジー作品。

 未来の自分のお陰で、二人の仲が結ばれるみたいな発想や見せ方は良かった。


 主人公は、短田。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。読点が少なく一文が長い。後半の一部で主人公が、兵郷展。一人称、僕で書かれた文体。

 恋愛ものなので、出会い→深め合い→不安→トラブル→ライバル→別れ→結末の順に書かれている。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 魔法使いになりたくない兵郷は未来が見える千里眼をもっている。この目のおかげで夢中になれず、魔力で映すよりも自ら筆をとり、モチーフに夢中になって描いていた。

 美術室にある額縁の絵は彼の作で、千里眼で未来を見た中で一番好きな人――短田をキャンパスに描いていた。

 主人公の短田は、大抵のことは少し頑張ればできたおかげで成績優良者だが初等魔法が使えず、魔法の実技試験をクリアできずに再テストを受けることとなる。

 相談できるのは美術室にある額縁の中に描かれた彼女だけ。主人公が魔法をかけたときだけ、横顔の彼女は正面を向く。

 気分がむしゃくしゃして額縁の裏を覗くと、一般科の「兵郷 展」と名前が書かれていた。絵の彼女から、彼は魔法を使わずに絵がかけると聞いて驚く。

 ある日の放課後、美術室に先客がいた。大きいキャンパスとにらめっこする、よく光を集めて綺麗な目をした彼に声をかける。彼は日向ぼっこをしたくて来たという。大きな窓から差し込む光の元、主人公もいっしょに日向ぼっこすることになる。

 そんな日々が過ぎ、まっさらだったキャンパスは黄土色一色に染まっていた。再テストはからっきしの主人公は、彼に絵をうまく書くコツを教えてもらう。「モチーフに夢中になること」彼は額縁の絵を愛おしそうに見ながら「夢中。愛してる」と喋る。

 彼のいない放課後、額縁の少女に念写が上手くできたことを伝え、夢中になるのって素敵、と話す。

 次の放課後、絵を描く彼のジャージに施された「兵郷」の刺繍をみて、絵の作者なのかと確かめる。いつもお世話になっているからと、額縁の少女に魔法をかける。「流石、成績優良者は伊達じゃないや」と彼に褒められる。誰の絵か尋ねると「僕の好きな人の絵」と答えた。

 念写ができなくなり、彼のいないタイミングを見計らっては額縁の少女に話に来る。「ウジウジしててどうしようもない。その重い前髪も切ったら絶対可愛いのに」

 ポケットからスマートフォンを手癖で出し「先帰るね」とバレー部の友達に送っては、美容院に予約し、髪を切りにいく。

 彼は額縁の少女から、もう少しまともに告白できないのか、あなたに見えているものは多くの人には視えてないといわれる。

 彼がいないはずと思って美術室にいくと、彼は自分の目に筆を突き立てるところを目撃し、「私も君の目が好きだから」と叫ぶ。傷つけたのは僕だろという彼に、元気だから大丈夫と伝え、ようやく筆をおろしてくれた。「僕が描いたのは君だ。僕の目には未来が映る。僕が見た未来の中で君が一番すき、だから。勝手にキャンパスに閉じ込めた」といわれて、「なんだ、そっか。センスあんじゃん。次はもっと可愛く描いてね」と伝える。彼は、目を傷つけるようなことは、もうしなかった。


 恋愛ものとしての流れや三幕構成で書かれている点や、額縁の少女の謎と主人公に起こる様々な出来事の謎が関係しながら互いの思いが伝わる展開は、良くてきていて面白いと思う。

 主人公がどこにいて、どういう状況なのかを読者に伝える描写より、主人公の心の声や感情の言葉がよく書かれているため、場面の様子がやや想像しにくいところがあり、ふわっとした印象がある。


 作者によれば、元々出そうと思っていたお話の挿話として書いていた話、元となる世界観から発生したスピンオフみたいなもの、が本作だという。


 冒頭での、主人公とやり取りしている相手は、美術室の額縁の少女だと思われる。読んでいけば、何となくわかる。

「コンパクトに写る自分の顔を見つめる彼女はまるで真面目に取り合ってくれない。角度を変える度揺れるショートカットは悔しいことに滅茶苦茶絵になる」から、絵の作者である兵郷が千里眼でみた、主人公の短田の姿をモチーフにしたことがわかるように、額縁の処女がショートカットになっている。

 今後の展開を、結末を想起させるものを忍ばせているところや、情報を小出しにしていったり、どんでん返しもあったり、お話としてよく書けていると思う。


 主人公の年齢やどこにいるのか、物語の世界観などがもう少し書かれていると、全体像が想像しやすくなる。

 視力の悪い人がメガネを掛けていない状態で世界を見ているように、半径一メートル以内で起きていることを描いているのでは、と考える。

 主人公が、成績は良いけど初等魔法も使えず再テストを受けなくてはいけない状態にあるので、劣等生でもあるので、いつもうつむいては世界が小さく見えているのを表しているのかもしれない。

 そうだとしても冒頭では、話し相手が額縁少女と書かずとも、美術室にいることや、時間はいつなのか(おそらく放課後)伝えてくれると、読み手も今以上に楽しんで読める気がする。


 魔法学校に通っているのだと思われるけれども、(一般科があるので、主人公は魔法科に所属しているかもしれない)どんな学校なのかしらん。

 魔法があるかとおもえば、後半にスマートフォンがでてくる。

 科学と魔法が交差する学園都市みたいな世界、と思うし、成績優秀な主人公だけれども初等魔法が使えなかったり、そのくせ額縁に魔法をかけては話ができたり。基礎ができていないわりには魔法が使えるなど、チグハグな感じがする。

 ホウキを動かす実技試験からも、主人公は魔法学校に来たばかりのハリー・ポッターみたいな、あるいはハーマイオニーみたいな感じかなと想像する。

 机上での試験は満点だけど、実技は苦手なのだ。


 再テストはからっきし、と答えては、念写がうまくいったできるようになったと件がでてくる。夢中になって好きな彼を思い浮かべることでできるようになった、と、主人公の思いが伝わるのはとてもいい。

 この勢いで再テストも合格してもよかったのかなと、考える。

 上手く魔法が使えるようになったから後半、額縁少女にずっと魔法がかけられっぱなしになって、彼も額縁少女と話せる、と繋がっていくとよかったのではと考える。

 それとは別に、失恋して念写がまたできなくなっても、それ以前に額縁に魔法をかけていれば継続していても違和感なく受け入れられるのではと考えてみた。


 読み終わってタイトルを読むと、作品全体の出来を含めて、うまく言い表しているように感じた。

 作品を楽しめるのは、情景を眺めながらの語らいでおぼえが共感が、読者の共感にもなるから。二人で日向ぼっこしながら話をしたり、額縁少女を見ながら語らったりしたときなどに感じたことは、読み手にも伝わってくる。

 千里眼でみた大好きな子を絵に描いた、それが主人公だったという展開は面白かった。

 そう考えると、主人公は自分に相談したりぼやいたり愚痴ったりしてきたことになる。

 自分自身だったから、良きアドバイスをもらえたのだ。


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