鴉と懐中時計

鴉と懐中時計

作者 黒潮梶木

https://kakuyomu.jp/works/16817330659491648506


 精巧な時計を作る心優しい町の時計屋のおじいさんは、近くの森に住む賢いカラスのビリーに時計の読み方を教え、兄弟カラスたちにも伝える。死期を前にしたおじいさんは、カラスたちにお礼と限られた時間をどう使うか考えることで楽しく生きられると伝える。残された時計屋は綺麗に掃除され、柿の実とカラスの羽が置かれてあった話。


 文章の頭はひとマスあける等は気にしない。

 優しさに満ちた心温まるいいお話である。


 三人称、時計屋を営むおじいさん視点、神視点で書かれた文体。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプと、メロドラマと同じ中心軌道に沿って書かれている。

 ある町の森の中に時計屋を営むおじいさんが住んでいる。からくり時計が得意て心優しい人柄だった。森には五匹のカラスが住み、毎朝七時に時計屋を尋ねるのは、ある秋の日に時計屋の近くの柿の木の実を食べあさるのをみて、おじいさんは毎日カラスたちに食べ物を与えるようになったから。

 五匹の中の一番小さいカラスは賢く、おじいさんはビリーと名付ける。自分が昔使っていた古い懐中時計をみつけ、カラスの絵をビリーと彫り、ビリーの首にかけたとき、時計の味方を教え、「明日の朝、この短い針が6を指す時にここにおいで。そしたら、他の兄弟よりも多いご飯をあげよう」

 翌日、六時にやってきたビリーにりんごを与えた。

「ビリー、お前は本当に賢いカラスだ。だけどその知恵を独り占めしてしまうと、いつかバチが当たる。そこで、お前の兄弟たちに時計の見方を教えてあげたらどうだい? そうすれば楽しい食事の時間が長引くんじゃないかな?」

 次の日から兄弟たちも六時に来るようになり、さらに時計の読み方、一時間は六十分、一分は六十秒、と教え、半年もすればすかり理解しているようだった。予め時間を教えておくと、ビリーが教えてくれるのが面白く、他の人に話すも誰も信じてはくれなかった。

 おじいさんの友達で、街で医者をしている男は、混み合う待合室をどうしたものかと考え、からくり時計を置くことにした。トリノ箱をイメージした時計で、時間に酔っては色々な鳥が出てきては、いろんな歌を歌う面白い仕掛けだった。夕方六時にはカラスが夕焼け小焼けを歌い、ビリーがモデル担っていて、いつもは朝にしか会えないから、と、ビリーのカラスがみられる時間に、時々病院を訪ねるようになる。

 ある冬の日、病院に懐中時計を付けたカラスが現れ、慌てようからおじいさんになにかあったと思い駆けつける。倒れていたおじいさんに救急処置をし、大きな病院に運ばれて助かるも、長くないと告げられる。一日一回、病院に来ることを条件に帰してもらう。

 家でビリーと会い、自分がもう長くないことを伝える。しばらくカラスたちは姿を現さなくなった。一週間がすぎいよいよ近いと悟って入院する。と、カラスたちが柿やりんご、オレンジなとを持って現れる。

 お礼をいい、限りがあることをしっているカラスたちに、お前たちがこれからこの限られた時間をどう使うか、それをこれからしっかりと考えなさい。どこかで恋人を作るもよし、美味しそうな食べ物を探すもよし、そうすれば私が居なくても楽しく生きられるはずだ。頑張って生きるんだよ」「ビリー、お前には心の底から感謝している。お前が時間を知らなかったら、このプレゼントも出来なかっただろう。お前は私の自慢だよ。私が居なくなっても、兄弟達と仲良くするんだよ」

 ビリーの目からちさなしずくが流れ、悲しげな声が病室に響き、カラスたちは朝日に向かって飛び立っていった。その日の午後六時、おじいさんは静かに眠りについた。

 その後、おじいさんのお墓は時計屋の前の柿の木に立てられ、時計屋は壊されずのこされることに。街の人が掃除しにくると、綺麗に掃除され、かわりに赤く染まった柿の実と黒いカラスの羽がひとつ置かれてあった。

 

 ある町の森の中にある時計屋を営むおじいさんの謎と、持ちに住む五匹のカラスの兄弟の謎とが関わり合いながら、読者の予想を裏切ることが起きては、予想通りの結末にたどり着くから、面白くも感動できる。


 感動できるお話であり、読者に涙を誘う構造になっている。

 カラスに時計を教え、さらに兄弟へも伝えるという、苦しい状況をそれぞれ経て、さらに時間を教えてカラスとは思えない行動をする願望が描かれ、友達の町医者にからくり時計を依頼されるといった状況を描きながら老いをみせ、倒れたところをからのビリーが発見して助かるといった少し明るい場面を描くも、先が長くなく、最後にカラスたちにお礼と教えを伝えてなくなる展開は、非常によく書かれている。


 なにより、読者を感情移入させるために、それぞれの具体的な場面を、起承転結と5w1Hを意識し、登場人物の心の声や感情の言葉、表情や声のトーンにこだわり、想像させるように描かれているところが良かった。


 カラスの知能は三歳児並みといわれるので、時計の読み方を理解できるかもしれない。だから、時計が読めれば時間も理解できると思えるので、物語全体の話に共感ができ、読み進めていけた。


 おじいさんが作ったからくり時計は、凄いなと思う。

 時間によって、違う鳥が出てきては違う曲が流れる。

 しかも、午後六時にビリーを模したカラスが出て、夕焼け小焼けが流れるのも良かった。いつもは朝の六時に現れるのだから、からくり時計も朝の六時でいい気もするけれども、カラスは夕方というイメージがあるからだろう。

 なにより、朝早くに出てきても、病院はまだ営業時間外だろうから、見ることができない、ということもあったのかもしれない。

 

 長くないと告げられて、「一日一回病院に来ることを条件」は、大変だと思う。毎日病院に行くだけでも疲れてしまう。


 おじいさんの思いや、ビリーたちカラスの思いがクライマックスで強く想いが伝わるために必要な行動、表情、言葉などが湯よく描いているから胸を打つのだ。


 もうすぐお別れだよとおじいさんにいわれたあと、カラスたちは一旦は姿を見せなくなる。もう出てこないかなと思わせて、たくさんの果物をもってきて病室に現れる展開は、感動してしまう。

 悲しげな声だけで十分で、涙を流す必要はなかったと思うけれども、時計が読めて時間を理解できるほど賢いビリーだからこそ、最後に涙を流してよかったと思う。


 時計屋を掃除したのは、やはりビリーだろう。

 きっと、なくなったあと、一匹で掃除したのかもしれない。


 本作に感動を覚えるのは、おじいさんとビリーの体験を描いた物語を通して、自分にも関係があると気づきがあり、現実社会を生きるに当たってどうしていえばいいのか、普遍的な意味合いを見出せるものだからだ。

 おじいさんは、ビリーたちカラスに語る。

「限られた時間をどう使うか、それをこれからしっかりと考えなさい。どこかで恋人を作るもよし、美味しそうな食べ物を探すもよし、そうすれば私が居なくても楽しく生きられるはずだ。頑張って生きるんだよ」

 与えられた限られた時間、どう使うかは自分自身。

 大事なのは、どう死んだかではなく、どう生きたか。

 実にいい作品だった。



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