世界1可愛い魔法使い

世界1可愛い魔法使い

作者 天井 萌花

https://kakuyomu.jp/works/16817330661971435925

 

 自分はブスだと思っている東堂日華梨は、超人気JKインフルエンサー『まりり』が地味子とクラスで呼ばれている伏見茉莉子だと知り驚く。彼女からメイクを教わり楽しさを知って仲良くなるも、クラスの子達にまりりだと知られてしまう。日華梨は、落ち込んでいる彼女に教えてもらったメイクを施す話。


 誤字脱字、疑問符感嘆符のあとはひとマスあける等気にしない。

 現代に、魔法使いはいたのだ。

 現代魔法のメイクの魅力が、ギュッと描かれている。

 日々、多くの動画や写真を目にして生活する現代だからこそ、自信は外見から生まれることに世の人々(とくに女の子)は気づいている。興味はあるけど逡巡している子にとって、メイクをしてみようと踏み出すきっかけを与えてくれる作品。

 

 主人公は、女子高生の東堂日華梨。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られ、現在過去未来の順で書かれている。

 メイクの蘊蓄、手順など描かれている。


 メロドラマと女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 主人公の東堂日華梨は小さい頃から自分がブスだと自覚のある子だった。小学生のときにママの口紅を借りて塗ってみるも、可愛くなれない。メイクして可愛くなるのはきれいな子だけなのだと思ってきた。そんな日華梨は、キラキラとした素敵なスイーツやコスメやファッションを日々発信しているアカウントフォロワー五万人、超人気JKインフルエンサー『まりり』に憧れている。

 ある日、近所のショッピングモールのトイレで、いつも黒縁メガネをかけている地味子こと、クラスメイトの伏見茉莉子を見かける。化粧直し用の鏡を見てメイクしている姿を見て、彼女でもメイクするのだと思いながら個室へ入る。

 個室を出て手洗い場で洗っていると、鏡越しにメイクの終わった伏見茉莉子は髪をいじっている。覗き見ておもわず、「ま、まりりちゃ⁉」と叫んでいた。

 憧れのまりりに会えてはしゃぐ日華梨に、自分がまりりだということをとくに学校の人達には内緒にしてほしいという。何でもするからと言われ、持っている写真集にサインをしてほしいと頼む。 まりりを家に招き、お菓子と飲み物を出しては写真集にサインしてもらう。

 普段メイクするか聞かれ、しないと答える。メイクは好きだけど可愛い子がするもので自分みたいなブスにする資格はないというと、メイクは自分に自信がない子も可愛くして自信をくれるものだとまりりは語り、「お願い、私にメイクさせて! このリップ絶対似合うから。私が日華梨の事、日華梨が胸を張れるくらい可愛くしてみせる。メイクは日華梨のためにもあるって証明する! だから、自分の事、ブスなんて言わないで」と強く念を押される。

 髪を上げて顔パックし、顔をマッサージする。顔の余分な油分をとってから下地を塗っていく。つぎにコンシーラを塗ってニキビをカバーし、ブラシでぼかして小顔にみせ、小鼻の赤みを隠していく。ファンデーションとフェイスパウダーをパフでポンポンと叩きながら解説していくまりり。

 なぜメイクを好きになったのか尋ねると、自分が大嫌いだったけど従兄弟のお姉ちゃんがメイクしてくれて可愛くなり、メイク後からはすごいと思ってから、なりたい顔にメイクしてまりりの顔になった。自信をくれたコスメたちが大好きだと話すまりり。

 ベースメイクが完成したあと、ポイントメイクに入る。顔の輪郭と鼻周りをブラシでシェーディングし、チークはオレンジを選んでブラシで頬と鼻の頭を撫でる。アイブロウペンシルとパウダーで眉を整えて、アイシャドウを施す。アイラインをいれて、ビューラーで睫毛を挟む。マスカラはして最後はリップ。スティックタイプのリップバームで色付けしていく。

 出来上がった顔を鏡で見たとき、涙が流れる。メイク前の写真と比較すると自分じゃないみたいに可愛かった。「日華梨、世界一可愛いよ」

 自分みたいなブスでもきれいになれる素敵な魔法をかけてくれたメイクを教えてと、彼女に頼んでいた。以来二カ月、すっかり中のいい友達になった。放課後、ドラッグストアにコスメを一緒に買いに行ったり、日華梨の家でメイクしたり。いまではなかなかの数のコスメを持つまでになっていた。

 ある日曜日、少し遠くにある大型ショッピングモールで家族三人で出かけ、コスメショップを見つける。日頃の感謝を込めて、茉莉子に素敵なコスメをプレゼントしたいと思い、手頃なサイズの五色入りアイシャドウパレットを購入。

 すると、まりりのSNSに昨日一緒にケーキを食べに行った写真が投稿されていた。彼女が一緒に写って欲しがったときは、恥ずかしくて遠慮しようと思ったのだが、メイクで可愛くなった自分が更に可愛く写っていた。まりりちゃんの投稿にいいねして、茉莉子には『すごく可愛く撮れてる! ありがとう!』と返信。

 まりりちゃんの『親友と一緒に話題のケーキ食べてきたっ!』からはじまる店やケーキの紹介コメントとともに投稿された写真を微笑ましく見つめる。

 翌日、長引いてしまった文化委員会の仕事を終わらせ、茉莉子の待つ教室へ向かう途中、なんだか視線を感じる。歩いてくるクラスメイトの女子が見ているスマホを覗き見ると、昨日のまりりの投稿が映っていた。

 四階の六組の教室に入ると、独りぼっちの教室に、色とりどりのコスメが突っ込まれたゴミ箱の前にへたり込んでいる茉莉子。彼女の周りには、茉莉子の物と思われる大量のコスメが散らばっていた。

 散らばっているだけの物は丁寧に拾いながら近づくと、「……私がまりりだって、バレちゃった。まりりがこんなつまんない奴だって、知られちゃった」涙を浮かべていた。「散らかすだけじゃなくて、ご丁寧に使い物にならないようにしてくれちゃってさ。まりりの正体は私だって、今頃拡散してるんでしょ? 次にスマホを見る頃には、まりりの居場所なんてなくなってるんでしょ? ほんと、陰湿だよね。こうなるから、学校では大好きなメイクも我慢して、隠してたのに……!」

 掛ける言葉が見つからず、あの写真に自分が写ったのが悪かったと思い、「日華梨は悪くないよ。気をつけられなかった私が悪い。私こそごめんね」彼女をぎゅっと抱きしめる。

「茉莉子はまりりちゃんそのままの、明るくて可愛くて面白い、素敵な子だよ。つまらない隠キャなんて思わなかったよ」

 自分と似ている気がして、昔の私にまりりが評価されたみたいで嬉しく、日華梨とメイクの話するのは楽しかったと話す茉莉子に、「私、正確悪いからかな。茉莉子のこと知った時、まりりちゃんのこともっと好きになったよ。頑張って自分磨きしたら私でも可愛くなれるんだって教えてもらって、まりりちゃんは雲の上の人じゃないんだって知って、元気もらっちゃったんだ」今一度強く抱きしめて、ママの口紅を借りて自分の顔を鏡で見た可哀想な自分と、目の前の茉莉子は同じ顔をしていることに気がつく。

 思い出して鞄から昨日買ったアイシャドウを取り出す。メイクの楽しさを教えてくれた茉莉子にお礼したいと伝え、「今から私にメイクさせてくれない?茉莉子ほど上手くできないと思うけど壊れてないコスメと、このアイシャドウを使って、私が茉莉子を可愛くする。いつもの茉莉子でも、まりりちゃんでもなくて、可愛くメイクした茉莉子にするよ。だから自分のこと、ブスなんて言わないで」言葉をかける。

 まだメイク歴の浅い見習い魔法使いだけれども、彼女に魔法をかけ、メイクができたら『――茉莉子、世界1可愛いよ』と囁やこうと思うのだった。


 三幕八場の構成で書かれている。

 一幕一場のはじまりは、ショッピングモールのメイクルームでクラスの伏見茉莉子がメイクしているのに気づき、再度見ると憧れの超人気JKインフルエンサー『まりり』になっていた。

 二場の主人公の目的は、何でもするからまわりの子達に絶対内緒にするよう頼まれ、言わない約束をして、写真集にサインをしてほしいとお願いする。

 二幕三場の最初の課題では、自宅にまりりを招き、ジュースとお菓子を出して、写真集にサインをしてもらう。

 四場の重い課題では、自分はブスだからメイクをしないと伝えたら、「違うよ」と否定され、普段の自分は日華梨よりかわいくないけど、メイクは楽しいし自分のためにあると思っていると語り、「日華梨が胸を張れるくらい可愛くしてみせる」と彼女にメイクしてもらうことになる。

 五場の状況の再整備、転換点では、メイク前の顔パックからはじまるベースメイクをしてもらう。

 六場の最大の課題で、メイクしてもらった自分の顔はとても可愛くなっていた。魔法みたいだと涙を流し、茉莉子にメイクを教えてと頼み、仲良くなる。

 三幕七場の最後の課題、どんでん返しでは、茉莉子と一緒にコスメ買ったりメイクしたりして友達となって二カ月たったある日曜日、家族と遠出して大型ショッピングモールのコスメショップで茉莉子にプレゼントするコスメを買う。まりりのSNSに、一緒にケーキを食べにいったとき二人で撮った写真が投稿されていた。自分も可愛いけれど憧れの彼女は何倍も可愛かった。翌日、クラスの女子が自分を見ているのに気づき、SNSに投稿された写真のまりりの隣にいるのが自分だとバレたことに気づく。

 八場のエピローグでは、メイク道具が散乱する教室で、まりりの正体がバレて落ち込んでしまっている彼女に、自分が写真に写ったからバレたから自分が悪いと謝り、「茉莉子はまりりちゃんそのままの、明るくて可愛くて面白い、素敵な子だよ。つまらない隠キャなんて思わなかったよ」と励まして、メイクを教えてくれたお礼に買ってきたアイシャドウを渡し、教わったメイクと壊れてないコスメとアイシャドウで「可愛くメイクした茉莉子にするから、自分のこと、ブスなんて言わないで」と声をかけ、メイクをしていく。


 構成と展開がいい。

 特に冒頭部分がいい。

「メイクとは魔法である。CMや動画でそんな言葉をよく耳にする。私もその通りだと思う。メイクとは人をより輝かせる魔法で、コスメは心を躍らせる魔道具である」

 多くの人が、そうだねと頷けるし、最近はファンタジー作品が乱立しているから、魔法という表現に馴染みがある。

 だから、メイクに興味がない人でも受け入れやすい書き方がされていて、どんな話なんだろうと興味を持ちやすいと考える。


 主人公の私は、魔法は好きじゃない、メイクは嫌いだといっている。小さい子はともかく、メイクしない女の子はいないのではと思える中で、なぜ嫌いなのだろうと読み手は興味を持つ。


「美人で、優しくて、可愛くて、いい子で、誰もが憧れるヒロインしか、魔法を受けることは許されない」

 なるほどね、と納得しまう理由が書かれている。


「御伽話に出てくるお姫様達は魔法なんてなくても最初から可愛くて。シンデレラでさえも、環境に恵まれていないだけで、初めから可愛かった」

 ディズニーの映画のヒロインをみてもわかるように、大概きれいに描かれている。

 最近のおとぎ話の絵本、漫画やアニメも、ヒロインは美人で綺麗に描かれている。元が綺麗なのに加えてメイクするからさらに美人になれる。だから「私のようなブスには可愛いの魔法はかからない」と思っても致し方ない。

 世の女子も、そうだよねと同意すると思う。

 共感しかない。

 そんなときに「――違うよ」と落ち込んだ考えを否定する美人できれいな魔法使いが、素敵になれる魔法をかけてくれたら嬉しいし、浮かれるのも当然。

 ドラえもんがひみつ道具を出してくれて、あんな夢やこんなことを叶えてくれるのと同じくらいに、みんなが夢見ていると思う。

 作品に興味を持ってもらう書き出しとしては最高だ。


 疑問に思うのは、ショッピングモールのメイクルームで『まりり』のメイクをしていた点。

 ショッピングモールのトイレは広いし明るい、なにより大きな鏡もある。メイクできる場所を確保しているところもあるから、購入したメイクを試そうとおもったのかと想像はできる。

 けれども、クラスメイトに絶対にバレたくないと思っているのなら、不特定多数が利用するショッピングモールでメイクをしていたら、主人公に出会ったように誰かに見られる可能性がある。

 今回が初めてではなく、きっとこれまでにも、同じショッピングモールでメイクしたことが何回かあるに違いない。

 どうして家でしないのかしらん。

 仲良くなってからも、日華梨の家でメイクしている。

 住んでいるのがショピングモールが近いので、学校帰りや休みの日にコスメを買って、すぐにメイクするために日華梨の家を利用していたのだと思う。

 思うけれど、モヤッとする。

 茉莉子は。「うわー日華梨の家めっちゃ綺麗だね! 散らかり放題のうちとは大違い」と話していることから、家ではできない環境にあるのかもしれない。

 メイクばかりしてと親に怒られたり、メイクしたあと写真を投稿したくても、生活感あふれる家の中を背景にすると綺麗に撮れないからという現実的な問題があるのかもしれない。

 コスプレイヤーがトイレで着替えるのと同じかもしれない。


 あと気になるのは、「まりりちゃんが去年ネットで販売した約五十ページの本のこと。まりりちゃんがそれまでアップしてきた写真に加えてそこでしかみられない写真もたくさんある、とっても可愛い本だ」と、写真集を出している点。

「これは去年の、これは半年前の、こっちなんて二年も前のだ! と目を輝かせて眺めている茉莉子に一声かけてから茶菓子を取りにキッチンへ向かう」から、少なくともまりりとしての活動は二年前からしているのがわかる。

 茉莉子が高校何年生かはわからないけれども、受験勉強に勤しんでいる感じに見られないので、高一か高二と仮定すると、中学からメイクして『まりり』として投稿していたことになる。

 出版社から販売とかではなく、スマートフォン専用アプリをつかって本のサイズやページ数、載せたい写真をデザインテンプレートから選び、表紙デザインなどをガイドに従って選んでいくだけで写真集を注文することが出来る印刷所のサイトを利用するとか、画質にこだわりたいなら、手に出しやすい範囲内で高画質で作ってくれる印刷所を利用するなどで自作した写真集を、SNSから限定販売したのではと考える。

 メイクだけではなく、コスプレイヤーとして活動もしていそうだし、コミケにも顔を出しているのではと邪推したくなる。


 本作のウリは、メイクにある。

 きれいな人をより綺麗にするだけでなく、美人じゃなくても見違えるほどの可愛らしさと自信をもたせてくれるのがメイクだと主人公がメイクされることで、読者も追体験できるよう書かれているところがいい。

 メイクに興味はあるけれど、やったことがないとか、詳しく知らないとかいう子も、本作を読むことでメイクしてみようかなと意欲ときっかけを与えてくれるにちがいない。

 化粧する前に顔パックしてマッサージをしてほぐすからはじまる手順は、現実味がある。

 口紅塗っておしまい、ではないのだ。

 茉莉子がもっているコスメや、メイクしていく手順の描写がよくかけているので、メイクをしてもらっている感がよく出ている。


「これで余計な油分をとってくれるんだよ。今日外出る予定ある?」と聞いて、首を横に振ったら、「じゃあ日焼け止めはいっか」という細かなやりとりから、茉莉子の性格、メイクできれいになってもらうための気配りというか、妥協したくない気持ちが垣間見えるような気がして、おろそかにせず書いているところが良い。

 ただメイクするだけなら、こんなやり取りは必要ないはず。

 しかも、メイクするときに順番を話しながらだけでなく、「これは皮脂吸着してテカリも押さえてくれる優れ物」とか「コンシーラーはニキビとか隈とかの肌悩みを隠してくれるんだよ」「ファンデとフェイスパウダーも一〇〇均で見つけたの。クオリティめちゃいいんだよ」といった具合に、蘊蓄や効果、どこで買ったのかの情報までセールス的に話していく。

 どこのプロですか、といいたくなるくらいの知識と手際の良さ。

 そんな彼女の姿に、「茉莉子はどうしてそんなにメイクが好きになったの?」と聞くのもうなずける。


 まりりのメイクの説明、アドバイスなどが現実的なおかげで、作品自体の現実味が増すだけでなく、自分もやってみようかなという気持ちにさせてくれる。

 しかも、「日華梨がとっても可愛い子だって、気づいてくれますように」とか「怖がらないで。日華梨は可愛いよ。私が、まりりが保証するから、ね?」とか、メイク前の写真と比較して、「日華梨、世界一可愛いよ」と見た目だけでなく気持ちまでも変えさせていくまりりの優しさを呼んでいると、読者はメイクされていないのだけれども、一緒になってメイクされているような気持ちにどんどんなっていく。

 まさに、魔法である。

 

 メイク後の、「肌荒れのひとつもない綺麗な肌、綺麗に整った眉。すっと通った鼻、ほんのり色付いた頬。いつもより大きな目とそれを縁取る長い睫毛、ラメの輝くぷっくりとした涙袋。――そして、コーラルピンクに色付いたぷるぷるの唇」の描写がいい。

 実に可愛らしい。

 できるなら、メイク前の写真を描いてからメイク後の描写をすると、より変化が際立つ。

 主人公やまりりは主人公の顔を見ているので、メイクで変化したとわかる。

 けれど、読者は見てない。自分でブスだと思っていて、ニキビがあるんだ、くらいしかわからないので、どれだけ可愛くなったのか感じにくいのが少し残念な気がした。

 

 お礼にコスメをプレゼントしよう、とするのは素敵。

 共に、綺麗に可愛くおしゃれしていく仲になれてよかったなと思える。

 

「二カ月前とは別人のように、私の自己肯定感は上がりまくっている。学校でもメイクをしていくとなんだか足が軽くて、勉強にだって集中できる気がした」プラスに働いているのはいい。

 教師は学校の勉強に差し障るから禁止とか、大人は学業と関係ない無駄なものにお金を使ってと怒ることもあるけれど、むしろ学校でメイクの授業を正しく学ばせたほうが、社会に出たときも役立つし気分も上がる、

 教えるときは、相手のためもそうだけれども、自分が元気になるためにメイクすることを教えたらいいなと考える。

 身だしなみとは礼儀だし、贅沢は尊敬の現れでもある。

 たった一人に贈る花束や、手をかけた料理、本人直々の出迎え、清潔で美しい服装、心からの笑顔、精一杯のもてなし、打ち解けた会話。

 相手を本当にかけがえなく思うからこそ、自分と相手の接点に贅沢を施す。

 メイクもその一つなのだ。

 

 ブズな陰キャがまりりをやっているのが許せないと思って、大事にしているコスメを駄目にするクラスの女子の考えは実にさもしい。

 いかに茉莉子を蔑んでいるかがわかる。

 

 茉莉子はバレたくない、とはじめ言っていたのにもかかわらず、主人公と一緒にケーキを食べに行ったときの写真をSNSに投稿してしまったのはなぜか。

 それだけ茉莉子は日華梨を大切な友達だと思ったからこそ、一緒に過ごした写真を投稿するのが、敬意の表れでもあった。

 主人公は、きれいになったとはいえ、別人になっているくらいに変化しているわけではなかったから、すぐに気づかれたのだろう。

 同じようにエクステしたり、服装変えたり、気を使わなくては行けなかったのかもしれない。


「今度は私が、茉莉子の魔法使いになる番だ」と教わったメイクで、友達の茉莉子を元気にしようとするラストの展開が素晴らしい。

 誰かのために、持てるすべてを使って元気にしようとする人の姿は、見習うべきところだろう。


 読後、タイトルをみながら、世界一かわいい魔法使いとは、メイクしているすべての女の子のことを指しているのではと思えてくる。

 小さい男の子は変身ヒーローに、女の子は変身ヒロインに憧れる。憧れたとしてもなれないので、女の子はアイドルを選ぶ話を聞いたことがある。

 その根底にあるのは、綺麗に変身することだろう。

 アイドルになるのは難しい。

 でも、メイクで綺麗になれるなら変身したい。現実世界にも魔法はあるんだと知って救われる子は、きっとたくさんいるに違いない。

 こうして女の子は可愛く元気になったらいいな、と切に願う。


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