青は見えないけれどね

青は見えないけれどね

作者 各務あやめ

https://kakuyomu.jp/works/16817330661131301879


 松下恵麻の親友である、数学と理科だけがずば抜けて天才な変人の鮫島真唯は、県主催のコンクールで入賞した入江流星の研究に興味が湧いて質問し、彼からガーネットの石をもらい、「入江くんが、せっかく私にくれたんだからね」と大事そうに撫でる話。


 ちょっとした恋愛もの。素敵な作品。

 人は見かけによらないよりも、見かけで判断してしまうことが多いことを思い出させてくれる。

 

 三人称、女子高生の松下恵麻視点と神視点で、友達の鮫島真唯のことが書かれている。

 恋愛要素のある作品なので、「出会い→深め合い→不安→トラブル→ライバル→別れ→結末」の流れに準じて書かれている。


 絡め取り話法で書かれている。

 高校の有名人である鮫島真唯は「数学と理科は自分の相棒だ」と真顔で言うほど、二教科だけはずば抜けて天才な「変人」として有名である。そんな彼女と唯一の友達が松下恵麻。

 ある日の授業で、県主催のコンクールで入賞した入江流星が、自分の近所の地質調査をした内容をまとめた模造紙を黒板に掲示し、クラスメイトの前で発表を行った。発表後、拍手される中で「質問があるのですが」と真唯が手を上げ、「その調査結果は、根拠が足りないと思うのですが、他に何か実験をしたのでしょうか。あと、その数値の出し方では正しい調査とは言えないと思います」と具体的に一つ一ひとつしていしていき、話が終わるころには彼はしゅんとしてしまってなにもいえなくなってしまった。

 授業後、恵麻は真唯に「言い過ぎだよ」咎めると、真唯はきょとんとして「でも、言わないと次の研究に繋がらないよ」「私、あの研究はすごく面白いと思って、興味も湧いた。もっと細かく、どういう考えでああいう結論に至ったのか、どういう経緯で調査をしたのか、知りたかったの」単純に彼の研究自体に興味を持ったのだ。

 すごいねと恵麻がいうと、「ううん、確かに言い過ぎだった。謝ってくる」真唯は彼の元へ行き、一言二言何か言うと、彼はすぐに穏やかな表情になって笑って話していた。

 真唯は席に戻ってくると、「いいものもらっちゃった」と嬉しそうにガーネットの石を恵麻に見せてくれた。

 その後も、真唯は相変わらずで「昨夜、本を読んでいたらいつの間にか朝になっていた」と、目の隈の濃さと顔色の悪さといったらひどいもので、焦点の定まらない目をしていて、フラフラとおぼつかない足取りで席に着く。

「今日、国語と歴史だよ? 冗談抜きで、真唯、留年しちゃうよ!」

 鞄の中には『フェルマーの最終定理解説本!』と、数学の問題週しかない。でも今日は数学の授業はない。

「今からでも、これだけ覚えて‼」恵麻は自分のノートを差し出し、通りかかった入江も手伝いに参加し、彼女に教える。後日、「赤点だけは免れたよー」「これで留年しないよ、ありがとう恵麻」とお礼を言って、すぐにノートの計算式に戻ってしまう。

 ある日、恵麻にクラスメイトの一人が話しかけてきて、「鮫島さんさ、最近、流星くんと仲良いでしょ? なんていうか、ちょっと気を付けた方がいいと思って」と声をかけてくる。真唯が妬まれていて悪い噂が出ているらしい。「鮫島さんと仲いい女子って、恵麻くらいしか思いつかなくて……。その分、余計に心配というか……。な、何かあったら相談して」

 女子は怖い。面倒くさい人間関係に関わるのもいただけど、画工にいる限る持ち続けなくてはいけない。そう考えていると、いつだってストレスフリーの真唯が、性別的には悪口を言う女子たちと同じなのが不思議に思えてしまう。

 真唯と一緒に家に帰ることが多かったが、この日は一人で帰りたい気分だった。真唯は人間関係に鈍感で興味がないと思っていたけれど、もしかしたら気にしているのなら、それを流し続けてきた自分はなにをしてきたのかと考えていると、教室に弁当箱をお際sれていたことに気づく。

 取りに戻ると、真唯クラスの女子三人と真唯が対峙している場面に出くわす。真唯の隣に立つと、呼び捨てで話しかけてきた女子が、ちゃんづけて話しかけてきた。

 恵麻は彼女の目を見つめ「私に本当の事を話してくれたことは、感謝してる。でも、これはなしじゃない?」一語一語はっきりと言った。他の二人にも顔を向けると、さっと視線を逸らされる。

 そのとき真唯は、「恵麻、違うんだよ。この三人にはね、私から話しかけたんだよ。ちょっと相談したいことがあって」と話し出す。

 三人の女子も、そうだよね、とにこにこと頷き合う。

「ね、ほら何も無いって。……木下さん、武田さん、斉藤さん、ありがとう。もう行っていいよ」と真唯がいうと、三人は振り返るまもなく教室を出ていった。

 本当のことを聞くと、「私は何も話してないよ? ―ただ、あの子たちが突っかかってきただけで」「私、恋愛とか分かんないからさー、ノーコメントでいかせてもらったよ。女の子って話すのが好きみたいだからさ、こういう時は黙ってるのが一番だよ」と乾いた笑いをする。

 もしこなかったらどうするつもりだったのか尋ねると、「うーん、分からない。恵麻、来てくれてありがとうね」といわれ、鈍感ではなく全部わかっていたことを知る。

「その身軽な感じ、私に分けてくれないかな」

「私が身軽なのは、恵麻のおかげだけどね。さすがに一人じゃ、怖い」真顔で答える彼女に、恵麻は笑う。

 からかい半分で「ねえ真唯、流星くんの石、私にちょうだいよ」と言ってみると、「あげるわけないじゃん、入江くんの石だよ?」「入江くんが、せっかく私にくれたんだからね」とガーネットの石を見せてきた。

 案外、人は見かけによらないらしい。大事そうに撫でられている石は、以前よりも少し磨かれたように見えたのだった。


 書き出しが、本作はどういう話なのか、端的に読者にわからせてくれているところがいい。

 高校の有名人である鮫島真唯は、どんな子なのかを語りますよと、わかりやすく伝えている。

 とはいえ、見た目の描写ではなく、彼女から感じる印象や雰囲気描き、つぎに性格。その後で「美人で有名だとか、人気者だとか、そういうことではない」と、見た目ではないことが書かれ、「基本的に『変人』として有名だ」と、酷い言われようをしている。

 

「この高校きっての変人。もう少し正確に言うと、頭のネジが何本も、何十本も抜けた天才。天才だからこその馬鹿」と、褒めていない。軽く悪意を感じる。

 

 本作は一人称ではなく三人称なので、冒頭部分は神視点であるものの、親友の松下恵麻を含めた周囲の人間、クラスメイトが彼女に抱いている総意の印象だと考えられる。

 みんなの心のなかでは、数学と理科はズバ抜けていても、他がからっきしじゃね、とバカにして笑っているのかもしれない。


 ただ、数学や理科は問題文は文章で書かれているので、読解力は必要である。入江流星のコンクール入賞作も、地質学なので計算能力だけではない部分も出来なければならない。

 だから、国語はもう少し点数が取れていてもいい気がする。

「数学満点、理科満点、国語10点、その他文系科目は全て赤点」とあるけれど、国語10点は赤点なので、素直に「数学と理科は満点だが、他全ては赤点である」といい切ってしまったほうが、むしろ清々しい。


「次々と発表の穴を浮き彫りにされた彼は、真唯の話が終わる頃には、しゅんとしてしまっていた」は、ちょっと可愛そう。

「真唯を見た彼は、ぎょっとしていて、恵麻はハラハラしたが、真唯が一言二言何か言うとすぐに穏やかな表情になって、笑って話していた」

 真唯は彼になんといったのだろう。

 おそらく、恵麻が言った言葉を口にしたのだろう。

「言い過ぎでした」と謝って、先程恵麻に話したように、「私、あの研究はすごく面白いと思って、興味も湧いた。もっと細かく、どういう考えでああいう結論に至ったのか、どういう経緯で調査をしたのか、知りたかったの」と伝えたのだろう。

 だから彼も、笑って話をしてくれるようになったのだろう。

 その後、ガーネットをくれたり、国語のテストのために教えてくれたり、彼は彼女との接点を持つようになっていくのだ。

 このあたりのやり取りが微笑ましい。

 

「私が身軽なのは、恵麻のおかげだけどね。さすがに一人じゃ、怖い」と真唯がいっているように、恵麻を世渡りの物差しにしている気がする。

 人間関係には興味はないし、常識が欠けている。でもその自覚は持っている。嫌な思いをしたくない、と当然思っている。でも常識がないので思ったとおりに行動すると、そうじゃないと恵麻が助言をくれるから修正できる。

 入江流星と仲良くなれたのも、恵麻のおかげなのだ。

 恵麻自身、そこまで気がついているかどうか。

「ねえ真唯、流星くんの石、私にちょうだいよ」と、からかい半分で言っているところを見ると、気づいているに違いない。

 恵麻は彼に興味がないから真唯と仲良くしても気にしないけど、わたしの誕生石のガーネットをもらっていいな、という気持ちはあると思う。


 真唯は、ガーネットが誕生石だということを知っている。しかも親友の恵麻の誕生石だと。

 数学と理科以外にも興味がある子だと、すでに前半で書かれているのだ。

 しかも、絡んできた三人を怒っている様子の恵麻から、自分から声をかけたのだと庇うような行動をとっている。

 場の空気を読み、敵を作らないような術を身につけているのが伺える。

 三人の女子が教室から出ていった後、「恵麻は思う。私は真唯を、どこか勘違いしていたのかもしれない。多分、真唯は鈍感なんかじゃない。きっと全部、分かってるんだ」と気がつくまで、他のクラスメイトと同じように、真唯は天才の変人で他ができない馬鹿だと決めつけていたのだ。

 親友だったら、そうじゃないところにも、いち早く気づいてしかるべきなのに。

  

 恵麻を呼び捨てにして「鮫島さんさ、最近、流星くんと仲良いでしょ? なんていうか、ちょっと気を付けた方がいいと思って」と声をかけ、教室で「恵麻ちゃん、どうしたの」とちゃん付けで微笑んだのは、木下さん、武田さん、斉藤さんのうち、誰だったのかしらん。

 誰だかはわからないけど、その女子が入江流星に片思いをしていて、真唯に仲良くしないよう釘刺しに来たのだろう。


 最後、真唯は大事そうに、入江流星からもらったガーネット石を撫でている姿が可愛い。「小さな石だけれど、以前より少し磨かれたように見えた」ということは、ときどき撫でているということ。

 数学と理科以外で、彼に初めて興味をもったのかもしれない。


 ガーネットの宝石言葉は「友情」「友愛」。

 彼女たちにはピッタリに思える。

 

 読み終わって、タイトルを読むと、「青は見えないけれどね」というのは恵麻の気持ちなのかしらん。青は見えないけれど、親友の真唯にとっては彼からもらったガーネットの赤い石が青春の結晶だといいたいのかもしれない。

 青春の形は人ぞれぞれなのだから、色だって関係ない。

 真唯の青春が実りますように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る