4 seasons for BC 〜ある放送部の軌跡〜

4 seasons for BC 〜ある放送部の軌跡〜

作者 ミンイチ

https://kakuyomu.jp/works/16817330648282652792


 新設された高校の、はじまりから閉校を経て大学校祭が行われた放送室の話。


 放送室も、学校とともに利用する生徒たちを見守りながら送り出してきたことに気づかせてくれる作品。

 利用する人間だけでなく、利用される場所も数々の思い出をもっているものである。


 主人公は、高校の階段横に作られた放送室。一人称、僕・私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。

 春は開校したばかりの年、夏は開校してから■年か経過してからの年、秋は開校してから▲年経過して年、冬は開校してからかなりの年月が過ぎ生徒数も減り、今年で閉校が決まった年、最後は閉校後から何年か過ぎたある日、大学校祭が行われる、起承転結の順番で描かれている。

 放送室が主人公だからだろう、機材に関する情景描写は書かれているけれど、人物描写はあまりない。

 

 それぞれの人物の思いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプと、絡め取り話法とメロドラマの中心軌道に沿って書かれている。

 新たに開校した新しい高校の階段横のスペースに造られた放送室は、高校を利用する人たちへ放送を届けるためにある。

 午後からの授業も頑張っていくため、初代放送部部長は幼馴染に声をかけて副部長になってもらい、放送部を盛り上げていく。

 放課後、放送室に集まってミーティングが行われ、疲れた部長は座ったまま眠っている副部長は頬に口を近づけようとするもやめて部屋を出ていく。目を開け、真っ赤にした部長は急いで部屋を出ていく。

 ■年後の夏休み前の最後の放送日。機材担当の二年生は、一年時にとある放送コンテストの朗読部門で、各都道府県大会の決勝にまで進んだ子。放課後のミーティングのあと、ネットとリクエストされた曲のチェックをしていく先輩に後輩は飛びつく。後輩は先輩との幼馴染であり、二人だけになる機会がなかったと伝え、告白する。照れた後輩は何も言わず飛び出し、先輩は二人分の荷物を持って走っていく。

 高校が新設されて▲年後の文化祭の朝。三日間開催予定の最初の二日間は一、二年生が、最後の三日目は三年生がそれぞれ催しを発表し、軽音学部のライブで幕を閉じる。放送部は各クラスの紹介やレポート、アナウンスなどを行ない、初日は部長と副部長の担当だった。

 文化祭も終わり、校内掃除が行われている。放送部は清掃が終わりと後祭りの開催を知らせるため、機材とアナウンスの担当である部長と副部長が残っている。どちらも喋ることが苦手だが、手をつなぎながら寝転っていると掃除終了の時間となる。アナウンスした後、二人は同時に告白し、手を繋いで最初のデートである学校ライブへ向かった。

 閉校が決まった年の冬。受験のために三年生は引退し、一年生一人が放送室で昼放送を行う。冬休み前の放課後、鞄からは『転校のお願い』のプリントがはみ出ていた。泣きつかれて寝てしまった子は日が沈み、見回りに来た先生が迎えを呼んで、起こさないように放送室を後にした。

 閉校してから何年か過ぎたある日、半年ほどの修繕を経て最初に行われる『大学校祭』に大勢の人が集まり、放送室から「みなさん、おはようございます!」校舎全体に声が響きわたる。

 イベントの総まとめ役である学校祭実行委員長と副委員長はこの祭を最初に考え、いろいろな人を巻き込んだ張本人である、どこかカリスマ性を持った二人の老夫婦である、初代の部長と副部長。

 イベントの広報は、開校から■年後に放送部員だった幼馴染の夫婦。会計は何も言わなくても分かり合える、開校から▲年後の放送部員だったカップルがリーダー。今回の最初のアナウンスを行うのは学校の放送部最後の部長。「それでは、大! 学園祭を始めます‼」と宣言された。

 三日間の祭りが終わった後、キャンプファイヤーの開始を告げるために宣言を行った彼女が部屋に残っている。「やっぱりこの学校が、この部屋が好きだな〜」と呟いた彼女に放送室は、『ありがとう』と感謝の言葉を述べる。彼女は少し考えた後、満点の笑顔をしたあと、連絡を受けて「準備が完了しました。これより、キャンプファイヤーを開始します」とアナウンスをする。

 放送室からみえる炎を彼女と見ながら、この校舎とともに人々に忘れられるまで残り続けるだろうと放送室は思うのだった。


 人間以外が主人公な作品は珍しい。

 だから書き出しのセリフ「明るい声が、僕──放送室の中から学校の至る所に響き渡る」は、斬新に感じた。

 主人公が放送室なので、移動はできないし、窓から見えるようすで外も確認できるけれども、室内で起きていることしか把握できない。

 放送室の視点で書かれているところは面白い。

 

 毎日やることは同じなので、それぞれの季節の、違う年代の様子を断片的に切り取った様子を読んでいても、大きな出来事がある訳ではないけれども、彼女彼らはその後どうなったの? 興味や期待を少しずつさせられていく描き方は、読んでいる側としてはじれったい。

 でも、このじれったさは、動けない放送室のじれったさを味わっているのだ。

 毎日、いろんな生徒が放送の仕事をしては何気ない会話をし、昨日のあの話の続きはどうなったのかなと思っても、別の話を次から次にするから、感情移入できない。

 できないから、もっと単純な、あの子たちのその後はどうなったのかなという部分に意識が向いてしまう。


 冬のとき閉校が決まり、放送部の部長が一年生ということは、二年生はもういないのだろう。それだけ生徒数が少なくなってしまった。最後の部長が一人で放送室で泣く悲しみはよく伝わる。

 

 閉校後の大学校祭が行われるとき、かつての放送部の部長や部員たちがイベントの企画運営に携わっているのは素敵だなと思った。

 どちらかといえば、放送という仕事は学校行事の裏方に当たるので、同じ生徒であっても、学校内の見え方が違う。

 生徒会や教師たちともまた違った視点、本作の主人公である放送室とおなじ視点に立てるのが放送部員だから。

 彼女彼らの気持ちとしては、放送室も一緒に卒業させてあげたいのだろう。だけど、そんなことはできないので、イベントをしようと思えたのだろう。


 最後、放送室の「これでこの祭は終わるが、私はこの校舎とともに、人々に忘れられるまで残り続けるのだろう」と気持ちが語られて終わっている。

 人称が、「僕」から「私」になっている。

 放送室もそれだけ年を取ったことを、表しているのかもしれない。


 読後、BCは「Broadcasting Classroom」の頭文字から来ていると考える。

 学校に放送するために作られた教室、すなわち放送室のこと。

 つまり、放送室のための四季、といった意味合いが込められているのだろう。

 素敵なタイトルである。

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