名探偵は二人いる
名探偵は二人いる
作者 天野月影
https://kakuyomu.jp/works/16817330660057721669
教室から吹奏楽部の部費がなくなる事件が起き、学園探偵AIの名推理で事件は無事解決する話。
誤字脱字等は気にしない。
推理もの。
面白かった。
名探偵が二人登場し、展開やどんでん返し、見せ方にこだわりを感じた。
なにより、読者を楽しませようとする書き方が良かった。
主人公は、私立如月高等学校二年五組の白理有。一人称、僕・俺で書かれた文体。
面白さの条件としての、どきり、びっくり、うらぎりの三つの「り」が描かれている。
それぞれの人物の思いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプと、メロドラマと、女性神話の中心軌道に沿って書かれている。
主人公の白理有は解離性同一性障害である。過去のトラウマから逃れるためのスケープゴートとして六歳のとき、主人格の白理有は別人格を作り、意識を失ったときと助けを求めたときだけ入れ替わる。裏人格の彼はこの街に出没する怪盗『JOKER』であり、予告状を出さず、犯罪に手を染めた者から金目のものを盗むため義賊とも呼ばれている。が、貧民に分け与えた話はないため普通の盗賊と変わりない。
県内随一の偏差値を誇る進学校である私立如月高等学校には、学園で起こった事件を解決する学園探偵AIがいる。
昨年の数学オリンピック金メダリストで、可愛らしい雰囲気の改造制服に身を包まれた二年十四組の豊崎菜穂と、黒髪に青色インナーカラー、黒ぶちの眼鏡を付けた純粋な制服を着る二年十三組図書委員の月見宙。
一年前、佐藤先生が殺された殺人現場に居合わせ、犯行時間が被ったことで犯人候補になっていた主人公の白理有と霧島ミノルは容疑者として疑われた。クラスの皆に疑いの目を向けられ死にたくなるような孤独感を味わっていたところ、学園探偵AIに出会い、警察が見つけられなかった証拠を探し出し本当の犯人を見つけ出してくれたおかげで容疑が晴れ、事件は解決した。以降、学園の鍵は全て職員室で所有することとなり、借りる際は名簿に名前を書かなければならなくなる。
二年五組の委員長で生徒会副会長をしている霧島ミノルは、昨年の事件以来、人を信じたいのに信じることができなくなっていた。彼は自分がみんなに愛されていると確かめるために、三時間目の前の休み時間に吹奏楽部の部費を集める荒川美代の手伝いをしながら、事件を引き起こすことを思いつく。
彼女は四時間目前の休み時間に回収を終え、体育の授業に行く前に机の上に封筒を置く。鍵当番の安藤亮と霧島ミノルが最後に教室を出たとき、ミノルは後ろの扉を閉めなかった。
主人公の白理有は四時間目の体育の時間、サッカーボールが顔面に当たって鼻血が出たため、別校舎につながるところにある保健室へ向かう。軽めの熱中症と診断され、四時間目が終わるまで保険汁のベッドで寝ていた。別校舎から通ったほうが近いため、近道をしていると月見宙に出会い、一年前のお礼を言う。
体育の授業が終わり、いち早く教室にたどり着いたミノルは部費を隠し、「鍵が空いていないから」とあとから来た他のみんなに話しては、扉の前で鍵を持っている安藤亮を待つ。
遅れてやってきた安藤によって教室が開けられ、部費の入った封筒が紛失していることがわかって騒動となる。
ミノルの提案で鞄の中を確認することになる。成績優秀でスポーツ抜群、誰にでも丁寧語で、親しくなると砕けた感じに話し、男女問わず人望がある雰囲気イケメンの彼の提案に異議を唱えるものはいなかった。
白理有は自分のカバンの中に見慣れない茶封筒を見つけるや裏人格に助けを求めて入れ替わる。裏人格はとっさに大きな封筒の中に入れて隠した。
結果、部費が紛失。海瀬靖国が学園探偵AIに頼ろうといい出し、ミノルも同意。旧校舎の図書館を利用している彼女たちに会いに行き、依頼する。教室へ移動しながらミノルは豊崎菜穂を説明し、白理有は月見宙に一年前のお礼をすると、「……そう、本当に何度も言うのね」といわれる。
荒川美代が机の上に置いて置いたという証言から、女子の犯行の線が消え、男子の誰かによる犯行が証明されたことで男子の何人かは美代に怒りを露わにする。白理有が豊崎菜穂に助けを求め、「この中に犯人はいません!」といって、黒板の時系列を書いて説明し、換気のために開いている窓から入ってくる風に封筒は吹き飛ばされたと言い出し、ミノルは棚をどけるなどして探し出す。他のクラスメイトたちも探しはじめ、一人のクラスメイトが声を上げる。
女子生徒の手には、縦長の長方形の茶色い封筒があった。封止めにねこのシールが貼られている。美代が中身を確認して、「うわぁ本当に良かった、ありがとう菜穂ちゃん!」と喜び事件は解決する。
「貴方って、結構いじわるよね。探偵に謎解きをさせないだなんて」
月見宙は白理有に、理解はできるけどそんなにクラスの平穏が大切かと小さく呟いた。相方として気分が悪いからと放課後、事件の犯人を当てるといって教室を出ていく。
放課後、月見宙は白理有の前で教室に霧島ミノルを呼んで真相を披露する。事件の推理と犯行動機も言い当て、ミノルの気持ちもわかるから「だからわざわざ皆の前で言わずにここで言ったのよ。それと、貴方には精神科に行くことをお勧めするわ。元々容疑者のアフターケアも警察の役目なのだろうけど……」と声をかける彼女。でも「気持ちは理解できるけど、共感は出来ないわ。――誰かを陥れるやり方は卑怯よ」と呟く。
ミノルは「――すまなかった。有。お前も……同じだったのにな」と言い残して、教室を出ていった。
帰り道、隣を歩く月見宙に別人格だと指摘される。一年前に会ったときから、ときどき仕草が芝居っぽくなるところがあるといわれる。旧校舎で偶然、主人格の白理有に会っていることを告げられ、鞄検査で封筒が入っていたときとっさに隠した方法を伝え、主人格と別人格の関係を話す。
「とっさの機転といい、犯人が霧島ミノルだと、どうせ最初から分かってたのでしょう? 幾ら裏人格と言えど、そんなの普通の学生が出来る事では無い――貴方、何者?」
「もし――俺が『JOKER』だとしたら、どうする?」
彼女はなにか呟くが無視して、「また会おうぜ探偵さん――思ったより期待以上の推理だったぜ」家の門扉をくぐった。
三幕八場の構成で作られている。
一幕一場のはじまりは、私立如月高校に通う二年五組の白理有は四時間目の体育の授業中、サッカーボールが当たり保健室で休んでいた。授業が終わって教室へいくと、鍵が空いていない。鍵当番の安藤亮がサッカーを続けていたせいだった。鍵を開けて着替えようとするも、女子に「着替えるならトイレで着替えなさいよ!」といわれ、渋々トイレへ。着替え終わって教室へ戻ると、吹奏楽部の部費がなくなっていた。
二場の主人公の目的は、委員長のミノルがクラスのみんなの鞄を確かめるも出てこない。そこで学園探偵AIの力を借りることとなり、彼女たちがいる旧校舎の図書館へ向かうことになる。
二幕三場の最初の課題では、名探偵の二人に会って状況を説明し、現場を見てもらうこととなる。四場の重い課題では、教室で状況を確認する名探偵。換気を開けて常に開いている窓から突風でカーテンがなびくなか、豊崎菜穂の推理が始まる。
五場の状況の再整備、転換点では、豊崎菜穂が時系列に事件をまとめて可能性を潰していき、事件ではなく事故、風の仕業として無事に部費が発見されて解決する。が、月見宙にはお見通しだった。
六場の最大の課題では、放課後の教室に読んだ犯人が来る間に、月見宙の推理が白理有に語られ、密室トリックも解明し、唯一得した人物が犯人だとする。
三幕七場の最後の課題、どんでん返しでは、教室にやってきた霧島ミノルが犯人だとし、密室トリックを説明してアリバイを崩し、犯行動機も言い当て、気持ちは理解できるとしながら誰かを陥れるやり方は卑怯であり、共感できないと月見宙はミノルに言う。
八場のエピローグで、月見宙に、白理有は解離性同一性障害であると言い当てられた裏人格の白理有は、三野津が盗んだ部費の封筒が鞄に入っていたためとっさに隠したことを話すと、彼女から部費の封筒を落とすところを見られていたことを教えられる。裏人格とはいえ機転が利きすぎることを怪しむ彼女に「JOKERだったらどうする?」と聞き返し、「思ったより期待以上の推理だったぜ」と帰宅するのだった。
構成や展開が、うまく考えられて作られている。なにより、読者を楽しませる書き方がされているところがよかった。
書き出しは、本作の舞台がどこなのかを最初に描いている。
私立・如月高等学校とはどんな学校かを伝えつつ、「ここには様々な迷信や、有名人がいるが、その中でも最たるものがある。この学園には――」と、意味ありげに、含みのある書き方をしている。
さまざまな迷信とはいったいなんだったのだろう。
学校にある七つの怪談みたいなものも、如月高校にはあるのかもしれない。
主人公にサッカーボールが当たって怪我をして、保健室へ行くところから物語がはじまっていくところが良い。
動きのある場面がらはじまると、読者としても読み進めやすい。
ミステリーものには、最初に登場する人物は犯人だというジンクスがある。一行目から犯人を出せとよく言われるからだけれども。
主人公が犯人なのか、オレンジ髪の海瀬靖国が怪しいのかなと勘ぐってしまう。
保健室から教室に戻るときに、学校の特殊さを描いている。
このあと事件は起きるし、一年前の教師が殺害されるという事件があり、主人公は容疑者に疑われ、無実だったと事件を解決した学園探偵AIの存在が描かれては彼女たちが登場するので、如月高校は普通の学校じゃないんだよと、くり返しアピールするための特殊さだと考える。
ミステリーはフィクションであり、特殊で奇抜なことが起きるから、読者が共感できるよう、どこかに現実味を感じる場面が必要である。
その一つが、女子は専用の更衣室で着替え、男子は教室……だけどトイレで着替えろといわれてしぶしぶ各自トイレへ向かうところだろう。
少なくとも、如月高校には女子更衣室があるのがわかる。
大概、体育の授業は隣のクラスと合同で行うと思うので、男子と女子、それぞれ教室にわかれて着替えることもあるだろう。
普通コースと特進コースに別れているなら、コース内でも別れたり、更衣室といいながら空き教室を利用して着替えるなど、学校によって異なると思われる。
着替えが遅いと、汗臭いからどこかで着替えてきてと男子は女子にいわれ、しょうがないからと言われたとおりに従うのが常。
だから、こういうところに現実味を感じる。
白理有がミノルが怪しいと気がついたのは、茶封筒が鞄にあって気絶して、裏人格にかわってカバンを開けては大きな封筒に隠してから中身を見せたとき「『……無い』ミノルはじっくりと僕の鞄を覗き見る。そう言った彼の顔は少し驚いた顔をしていた」ときしかない。
じっくり見るのは、ミノルが鞄に入っていることを知っているからだと察して、こいつが犯人だと思ったのだろう。
私立如月高校の図書館には、児童文学も置いているという。
普通コースと特進コースと特待クラスがあり、県下有数の進学校だったら、勉強に特化した書籍で埋まっているはず。壁一面に赤本が並んでいるとか、辞書や参考書の類など。一般文芸の小説はあるにはあっても少ないはず。
考えられるのは、昔は普通科の学校だったか、中高一貫校だったか。その名残で現在も、児童文学が置いてあるのかもしれない。
学園探偵AIのAIは、どこからきているのかしらん。
豊崎美穂と月見宙の名前の頭文字ではなさそう。
人工知能AIからきているのかもしれない。
部費の盗難事件なのに、一年前の教師殺害事件や怪盗JOKERなど、いろいろな話が出てくる。
そちらの事件のほうが面白そうで興味が湧く。
話が大きくなるし、読者の視線を揺さぶってくる書き方がいい。
佐藤先生を殺害した犯人は誰だったのだろう。
豊崎美穂は、机の上に置いた部費を突風が運んだと推理し、裏人格の白理有も同じことを考えていて、自分のカバンの中に入っていた茶封筒をさりげなく教室のどこかに置いたのだろう。
白理有が彼女の推理に合わせただけなのだけれども、豊崎美穂には気がついていたのかしらん。
「昨年の数学オリンピック金メダリスト」が説明になっているのかもしれない。与えられた状況から判断して答えを導き出すのは得意だけれども、提示されていなければ気づけ無い欠点があるのかもしれない。
その辺りを裏人格の白理有は利用し、月見宙は気がついて「――貴方って、結構いじわるよね。探偵に謎解きをさせないだなんて」「でもあの子をダシにするのは相方として気分が悪いわ。探偵としての矜持もあるし……」といったのだろう。
ミノルには、病院の治療が必要だろう。
彼の性格から考えると、荒川美代にすべてを打ち明けて謝ると思う。一年前に疑われたことも含めて。
部費も無事にみつかったし、お互いに好意を抱いているとは思うので、そのあとどうなるかは美代次第だろう。
月見は白理有の席の半分を占領するように座っていた中で、裏人格の白理有は、鞄から部費の入った茶封筒を取り出しては教室の何処かに落とす。それを彼女に見られていた。
「素直にビビった。あの場にいる全員の視線を切ったタイミングで手放したはずなのに」「ずっと俺の方を見ていたって事か?」と驚いているけれど、隣にいたら気づかれるのではと思えてしまう。
ただ、「――馬鹿言わないで欲しいわね。本当に、そんな訳無いじゃないバカバカしい」と言っていることから、気になしていたのがわかる。
顔が赤いのは、白理有が気になるからだと思う。
問題は、主人格か裏人格か、どちらに気があるのだろう。
おまけに気になるのは好意なのか、探偵として謎がある彼に興味があるのか。
今後の展開がすごく気になる。
「広大な庭に、豪華な家――いや、館と言えば簡単に伝わるか。木製の表札には墨で『白理』と書かれてある」と、白理有は金持ちで裕福で、それでいてしつけも厳しそうな家の子供だと明かされる。
部費を集める時期だから封筒を忘れた子のために、常備している優しさをもっているも、六歳から裏人格を作り、その裏人格は義賊といわれながらもただの盗賊のJOKERという設定は、なかなか興味深い。
読後、続きがあるなら今後がすごく気になる。
探偵が二人登場し、それぞれ見せ場があるけれども、豊崎美穂は狂言回しっぽさがある。次回があるなら、豊崎美穂がメインで大活躍する話も読んでみたい。
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