スマカノ!

スマカノ!

作者 福山慶

https://kakuyomu.jp/works/16816927862505703108


 恋愛のできない誠吾のために、天才エンジニアの海斗はスマホに自律型恋愛AIのアイを作る。アイと過ごしたがいに仲を深め合うも自分を人間だと言い出し壊れてしまう。プログラムを直すと、AIの自分では誠吾を幸せにできないといって消えてしまう。五年後、アイを忘れられなかった誠吾のため、海斗は以前のアイを呼び起こしてもらい、アイと結ばれる話。


 一応、異種間恋愛もの。

 ちょっとSFで、二次元嫁が現実になった世界の話。

 こうして、先進国の出生率はますます低下していくのかしらん。


 主人公は、男子大学生の誠吾。一人称、俺で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。

 恋愛ものなので、出会い→深め合い→不安→トラブル→ライバル→別れ→結末の順で書かれていく。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 半年前。大学生の誠吾は、恋愛できない弱者男性で生涯童貞を貫くことを決めるも、それでも恋愛がしたいと酔った勢いで大学のテクノロジーサークルに籍を置いている友人の天才エンジニアである海斗に話したことがきっかけで、そのとき渡したスマホに自律型恋愛AIのアイを制作された

 好感度は百まであり、高まれば高まるほど使用者への態度が変化し、下がることもなく、人間らしい思考プロセスを経て喋る。一日五時間以上起動し、試験的にアイと一カ月過ごすことになる。

 数日で好感度が三十ほどとなり、誠吾にタメ口で話し、友達とするような冗談も増えてきた。

 アイと学食で食べていると、海斗と和泉先輩と出会い、アイを紹介する。彼女が学食を買いに離席したあと「相変わらず距離感近いな、和泉先輩」と海斗の言葉にアイはムスッとし、「別に? 誠吾は和泉先輩という人と仲がいいんだなって思っただけ。それ以上でもそれ以下でもないよ」そっぽを向いて嫉妬するのだった。

 二週間弱でアイの好感度が七十に達し、疑似恋愛体験を心から楽しんでいた誠吾だったが、「アイってホント人間みたいだよな。ちゃんと心があるように見えるし。――でもそれは作り物なんだよな……」と呟いたことでアイは自分は人間で心も本物だと言い出してはエラーが出る。カイトに直してもらうと、「誠吾の言うようにAIだったみたい」「マスターが私に自分はAIだと認識するようプログラムを書き換えてくれたみたいだけど、それでもこの心は本物だと思う」とアイは喋り、二人は互いに好きだと語る。

 アイは誠吾に触れないのがもどかしく、人間に生まれて好きになって恋をしたかったと話す。誠吾は、互いに愛し合っているのだからAとか人間とかどうだっていいと話すも、「私じゃあ誠吾を幸せにできない」と告げ、別れを切り出してくる。「この二週間、とっても楽しかったよ。誠吾、バイバイ。大好き!」

 一人にしないでくれと泣き叫んでいた誠吾だったが、アイの気持ちを幸せにして見送ろうと、「アイ。君と出会ってからの日々はずっと楽しかった。今までありがとう。愛してる」と見送ると、画面にはエラーの文字が表示された。

 五年後。大手アプリ会社で働く海斗の昇進祝いのため、誠吾は仕事帰りに焼肉店に立ち寄り、海斗と和泉先輩に再会する。卒業後、連絡を取り合っては、食事をしたり酒を飲んだりしていた。

 海斗に彼女が出来たと驚き、未だアイを引きずる誠吾に「アタシとお付き合いしてみない?」和泉先輩から声をかけられる。が、アイが忘れられず断ってしまう。海斗はアイを呼び起こしてあげると翌日自宅に誠吾を呼ぶ。

 スマホには、あのとき別れたアイが画面に現れ、「五年ぶりだね、アイ。やっぱりさ、俺を幸せにできるのはアイしかいないよ」「これからは一緒に生きていこうな」と声をかけるのだった。


 自称天才エンジニアのセリフから、物語が始まる。

 主人公は、彼の友人なのだけれども、「二年前、授業中ヤツと席が隣になったばかりに関わる機会が増え、今となっては悪友になってしまった」とあるので、現在は大学三年生かしらん。


 半年前、酔っていたときに「俺は生涯童貞を貫くことを決めた! 決めた、が……やっぱ恋愛してえよ……」と呟いたらしい。

 そのときは二十歳だったと思う。二十歳で恋愛ができないから生涯童貞だと決めるのは早すぎる。

「ちょっ、あのときは酔ってたから!」とあるので、本気ではなかったと思われる。

 酒の席での軽い冗談、だったのだろう。


 作り上げた自律型恋愛AIはすごいけれど、「好感度が減少することはない」ので、一カ月も使っていれば誰でも好感度は上限の百に達すると思われる。

 そうなったアイとは、どんな関係になるだろう。

 ネット関連では役に立つかもしれないけれど、実生活の干渉はできないので、そのうち毎朝きまった時間に起こしてくれるとか出かける時間を教えてくれるとか、仕事での計測や計算、資料作成など、誠吾のサポートをするAIとして活用されていくのではと考える。

 

 アイを受け取ったあとの帰りに「天使の梯子」を一緒に見る場面は、恋愛AIのいいところだと思う。

 一緒にきれいなものを見たり体験したりできたら、素敵だ。

 こういうシーンは実にいい。

 

 アイの前で着替えをして「女の子の前で急に服脱ぐとかどういう神経してるの⁉」と怒られるけど、「もう、まあ別にいいんだけどね?」と返ってくる。

 好感度が下がらないので、あっさり許してくれるのだと思う。

 多少、好感度が下がるような仕様にしていたほうが、気をつけるようになるのではと考える。

「それでもこの短期間で好感度三十はかなり早い。もしかすると誠吾は女誑しなのかもな。ただ女と関わったことがないだけで」

 好感度が下がらないからだと思われる。

 現実は、ちょっとしたことで、ガクッと下がるので。

 

 和泉先輩はアイのライバルキャラとして登場している。だから人物描写もそれなりに書かれているのだろう。

 海斗は「ああ、特に誠吾がいるときはな」と呟いているということは、和泉先輩が誠吾に好意的に思っていることに気づいているのだ。それなのに、誠吾に恋愛アイを試験的にではあるけれども渡した。和泉先輩もアイの話を聞いていたみたい。

 ひょっとすると海斗は、和泉先輩が誠吾と付き合いたいのではと察し、半年前に飲みに行き、それとなく恋愛観を聞き、ベッドの下の雑誌を確認したのかもしれない。

 その結果、恋愛したいけど経験もなく臆病になりすぎている誠吾に声をかけてもうまくいくとは思えなかったため、自律型恋愛AIを作って恋愛を学ばせようと思ったと推測する。

 だから、好感度が下がらない仕様にし、「いや、それでもこの短期間で好感度三十はかなり早い。もしかすると誠吾は女誑しなのかもな。ただ女と関わったことがないだけで」と褒めたのも、自信をつけさせるためだったのではないか。


 和泉先輩は、「普通に友達としてほしいんだけど」といったとき、「それは無理です。再三言いますがアイは自律型恋愛AIですので」と断っている。

 天才エンジニアの彼ならできるはず。

 和泉先輩のために、そんなスマホを作ったら、誠吾と付き合う気持ちが失せてしまうのではと考えたのではと邪推してみた。

 実際のところ、海斗がそこまで先輩や誠吾のために行動するとは思えない。

 のちに、海斗には彼女ができている。

 ひょっとすると自律型恋愛AIの研究は、彼自身の恋人を作るために取り組んでいたのかもしれない。

「アイの情報は逐一バックアップが取れるようにしていたから」と彼は語っているので、アイのデータを持っている。

「今は試作品を誠吾に試してもらっている段階ですね」といっていたので、ただデータを持っているだけなのはありえない。

 試作を元に、より精度あるものを作ったはず。

 昇進祝いも、大手企業で、大学時代に作っていたものを応用した恋愛アプリを評価されて昇進したのかもしれない。


「私は人間だよ。この心も本物だよ」といっていたアイが、海斗に直されて「急にごめんね、誠吾。やっぱり私、誠吾の言うようにAIだったみたい」と答えるのは寂しい。

 間違ってはいないのだけれども、これまでに積み上げてきた思いがあるからなおさら。

 しかも、好感度が七十を越えて「好き。大好きだよ。誠吾に触れないのがもどかしいよ。私も人間に産まれて、誠吾と同じクラスになったりしてさ。それで好きになって……そんな恋がしたかった」

とアイに言われ、「私じゃあ誠吾を幸せにできない」「……ね、誠吾。私ね、決めたんだよ。誠吾とお別れしようって」「この二週間、とっても楽しかったよ。誠吾、バイバイ。大好き!」という決断に至るのなら、好感度百にはいかないのではと考える。

 誠吾のケースだけかもしれないけれども、誰もが恋愛AIを使って、好感度七十を超えたら「とっても楽しかったよ、バイバイ。大好き!」といって別れるのは辛すぎる。

 ひょっとして、この別れも、海斗のプログラムによるものではと邪推したくなる。

 機械にのめり込まず、恋愛対象は人間に向けさせるための仕様なのではと思えてくる。

 

 読み終えて、ラストのハッピーエンドはいいなと素直に思う。

 ただ、本当に誠吾は生涯童貞でアイと過ごして行くのかしらん。

 和泉先輩がちょっと可愛そうに思えた。

 



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