君の本音が聞きたいんだ!

君の本音が聞きたいんだ!

作者 福山慶

https://kakuyomu.jp/works/16816927860006035148


 人の心が読める相模零は裏では残酷なことを考えているため、人間嫌いになっていた。が、心の読めない渡会天音から友達になってくれるよう声をかけられ、「悪口を言う人が嫌い」な彼女を信じて友達となり、食事デートする。天音の友達から自分の悪口を聞いて逃げ出した零を天音は追いかけ、注意する勇気がなくて傷つけてごめんと謝る彼女。彼女の心が読めず不安になりながらも、零は彼女と友達でいることを望む。熱を出したとき、ラブコメ漫画を読んで天音に恋していることに気づき、電話で告白。一カ月後、再度告白して二人は付き合うこととなる話。

 

 恋愛もの。

 相手を信じて好きになっていく流れが素敵。

 誰しも相手の心の声は聞こえないからこそ、聞こえる人が聞こえない相手の本音を知りたいと願う思いは、読んでいて迫るものがある。


 主人公は一年三組の男子高校生の相模零。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 中学一年の十月、主人公の相模零は超能力が発言し、人の心の声がわかるようになる。みんな優しい顔をしながら残酷なことを考えているため、一人で静かに生きていくことを決める。

 高校一年の秋、紅葉に色づく坂道で主人公は前方不注意で渡会天音とぶつかり、友達になってくれるよう声をかけられる。

 なぜ友達になりたいのか聞くと、友達がいた負が楽しいからと同情される。人の悪口を言う人が嫌いと答えた彼女と友達となり、休日一緒にファミレスでの食事デートをする。

 中間試験が終わった十一月、渡会天音は小学生からの友達たちと歩きながら自分の悪口をいわれているのを聞いて、相模零は逃げ出す。追いかけてきた天音は、「人を注意したりする勇気が昔から持てなくて私のせいで相模くんを傷つけちゃうことになって、ほんとに、ごめんなさい」泣きながら謝る。

 雨の日、友達の家が分からず困っている小学生を助けた相模零と天音。彼に傘を渡し、相模零は天音と東屋で昼間の話の続きをする。

 彼女に謝り、「僕はさ、なんとなく人の本音がわかるんだ」超能力のことは濁して言う。「でも、なんでかな。君の本音はさっぱりわからない。だから、怖いんだ。僕のことを本当は見下してるんじゃないかって。陰口を言ってるんじゃないかって」

 否定する彼女を信じることにしたと答え、雨音の激しい中、意を決して「僕とまだ、友達でいてくれますか……!」と告げる。彼女は泣きながら「これからも友達でいようね」と笑顔がこぼれた。

 翌日、熱を出して寝込み、彼女のことを思いつつ、ラブコメ漫画を読む。主人公のことが好きなサブヒロインが、自分の感情を押し殺しながら問答を繰り広げ、主人公がヒロインに向けている感情に気づく場面をよみながら、これまでの自分を振り返り、渡会天音に恋していたことに気づく。そんなとき、彼女からメッセージが届き、〈今、電話してもいい?〉と彼女に送る。

 彼女と電話で「渡会さんと話したい気分だったから」「君が好きだって気づいたから」「好きです。僕は渡会さんのことが好きです」と告白する。彼女は、『恋愛感情とかは、私よくわかんなくて……でも昨日のことがあってさ。私も相模くんのことちょっとは意識してるかもしれない、というかなんというか』『その、もう少しだけ返事を待ってもらっていいですか!』と返事をもらって電話が切れる。フラレたと思い、睡魔に襲われ深い眠りについた。

 告白から一カ月過ぎた冬休み。進展はないが、相模零に友達ができ、渡会天音も揶揄するサエコに注意するようになっていた。サトルからは、以前悪口を言っていたことを謝られる。

 渡会天音に一緒にお昼を食べようと誘われて、学校の中庭へ行く。相模零は先に伝えたいことがあるといって、「僕は渡会さんが好きです。よければ僕とお付き合いをしていただけませんか」彼女は、

「私さ、恋愛とか昔からよくわからなくて、男の子と仲良くなっても恋人にしたいとか思ったことなかったの。だから今まで告白されたことは何度かあっても全部断ってきてた。申し訳ないなって思ってた。でも、相模くんから告白されたとき、凄くドキドキしちゃってさ。こんなこと今までになくて、私自身、よくわかんなくなっちゃって。だからあの日、返事を待ってって言ったの。今日話があるっていうのはその返事をしようと思って」

 そう告げた彼女の返事は、「こんな私でもいいのなら、よろしくお願いします!」だった。

 抱きしめ、好きかどうかわからないと言った彼女に「いつかさ、君に本心から僕のことを好きだって言ってもらえるように努力するよ」と恥ずかしげに告げる。彼女は笑ってくれたから、良しとするのだった。


 恋愛ものなので、出会い→深め合い→不安→トラブル→ライバル→別れ→結末の流れで書かれている。


「僕はもう、人を好きになることはないんじゃないのかと思っていた。嗜虐心を嘘で固めたこの世界に飽きていたのだ」主人公の叫びのような書き出しに、読み手に対する強い引きを感じる。

 こんな残虐なことを、みんな腹の中で考えている世の中を生きていくことすら、もう嫌になっている。

 絶望している主人公は、人なんて好きになんかならないとさえ思っていた。「――君と出会うまでは」

 よほどの人物、どんな子なのだろう、と読み手は思って読み進める。

 主人公の名前、性別、年齢、どんなところに住んでいて、どんな高校なのかもすぐに分かり、さらに相模零は超能力を持っていて、そのせいで人を避けている様子が描かれていく。


「ため息をすると幸せが逃げる、なんていう言説を漫画で見た気がする」どんな漫画かはわからないけれど、「ため息は人生の鉋」という言葉がありまして、ため息をつく度に、人生が一日ずつ削られていくという譬えがあり、そこから派生したものなのではと考える。

 幸せというのは、宝くじに当たるような、偶然に起きるものなの。

「あとどれだけの幸せが残っているのだろう」と呟いているのは、「自分は不幸だ」と呟いているのと同じ。

 ため息から連想されるネガティブな発想のせいで、ヒロインとぶつかってしまう。


 ぶつかって出会うのはベタな展開かもしれない。でも、人の心が聞こえるのを避けるように音楽を聞きながらうつむいて歩いて、ため息をしてはネガティブな事を考えていたからぶつかってしまうのは、当然な状況だから、ちっともベタではない。


 ヒロインの描写が、くどくなく、それでいて素敵に描けている。

「亜麻色の髪を肩で揃えた彼女は女性にしてはやや背が高く、勢い良く謝るところを見るに天真爛漫という印象を覚えた」

 ただ、女性にしてはやや高く、が難しい。

 高校一年生の女性平均身長が、一般的に読者が把握してるならいいいのだけれど、最近は背の高い女子が多いので、そんな子達を想像すると、渡会天音の身長は更に高く想像してしまいそう。

 主人公よりも高いのかもしれない。

 あとで心の声を聞いたとき、チビと言われている。

 主人公は背が低いに違いない。


「周りには男女が3人いて、皆一斉に僕へ侮蔑の視線を浴びせた」

 小学生から仲のいいサトルたちだろう。

 この段階から、さり気なく登場させているのが良い。

 このときに『なんだこのチビ』『前髪ながっ! 冴えない男子だなあ』『ふふっ、おどおどしてるの面白い』心の声が聞こえる。

 主人公は、こういう毎日をくり返し過ごしてきたのだ。

 悪口を耳にすると、たとえ自分のことではなくとも心が傷ついていく。いやなことがあれば耳を塞げばいいけれど、塞いでもきこえるのだろう。

 世の中が嫌になるのも当然である。

 

 わからないのが、ヒロインが主人公に「私と友達になりませんか!」というところ。

 同じクラスで、いつも一人なところを見ていて、友達がいたほうが楽しいよと同情から声をかけたのだけれども。(本作のはじまりは、夏休み以降の秋)

 彼女の理屈だと、べつに主人公でなくとも、クラスの全員、学年の子たちと仲良くなろうと広がっていきそうな気もする。

 席替えで隣になるので、そのときに「友達になろう」と声をかける流れの方が友達になれそうな気がする。

 そう書いていないのは、小学生から仲が良かった子達の前で主人公と友達になろうとするのを見せるためだし、主人公スムーズに友達にならないようにするためだったのではと邪推する。

 

「私個人が相模くんと仲良くなりたいと思ってるのはホントだよ」同情ではなく個人的に仲良くなりたかった理由はわからない。

 わからないのだけれども、告白の返事をする時に「恋愛とか今もよくわからなくて、相模くんのことも好きなのかどうか実はよくわからない。でも一緒にいるとドキドキしたり安心したりするの」とある。

 個人的に仲良くなろうと思う前に、主人公を見ていたら、ドキッとしたのかもしれない。恋愛はわからないけど、ドキッとしたから友達になってみようかなと思い、行動に移したのではと邪推する。

 そう考えると、彼女は一目惚れしたのかもしれない。

 だから、主人公を追いかけるストーカーみたいなことをしたり、食事デートしたり、小学生からの友達が悪口言っているのを聞いて逃げ出した主人公を追いかけることができるのだろう。


 ラブコメ漫画を読んで告白する流れが面白い。

 主人公が、心が読めるキャラだから、参考にできたのだと思う。

 漫画のキャラクターは、心のなかで思っていることを吹き出しでよく書き込まれている。

 主人公にとっては、漫画に登場するキャラクターは自分と同じ。

 同族だとみることができるため、彼女彼らがしている恋愛を読む行為は、主人公にとって恋愛相談をしているようなもの。

 だから参考にできるし、学びもあり、天音に告白しようと思えたのだ。

 たしかに、風邪を引いて熱に浮かされ、冷静な判断ができなくなっていたことも要因にあるかもしれない。

 熱を出していたことで、普段の理性が働かず、押さえてきた感情が露出している状態になっていた。だから素直に、自分の気持ちも彼女に伝えることができたのだろう。


 読み終えて、なかなかいい話。

 タイトルが良かった。

 心の声が聞こえる主人公だからこそ、大好きな天音の本音を聞きたいと、より強く思ったのだ。

 彼女が心から主人公のことを好きだと言える日が早く来ることを、切に願う。

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