何をやっても空回りするドジっ子探偵、でも頑張ります!

何をやっても空回りするドジっ子探偵、でも頑張ります!

作者 もんすたー

https://kakuyomu.jp/works/16817330661902632358


 佐々木宙先輩が好きな新人ドジっ子探偵の千頭和由愛葉は、こころちゃんの飼い猫「たま」の誘拐事件を佐々木先輩と捜査し、犯人確保と「たま」を無事奪還し、猫ちゃん誘拐事件を解決させた話。


 探偵もの。

 読み手を楽しませることを意識し、読みやすくほのぼのした感じ。

 ハラハラドキドキはしないけど、微笑ましく、楽しんで読める。


 主人公は、探偵の千頭和由愛葉。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 探偵事務所の探偵課にいる佐々木宙が、新人の千頭和由愛葉を厳しく仕事を教えているのは、佐々木が先輩であり、千頭和由愛葉はコーヒーこぼし、犯人を逃し、調査書までなくす、正真正銘のドジっ子だからである。

 そんなある日、小学校低学年くらいの少女こころちゃんが「私の猫を探してください」泣きながら訪れてきた。家の窓で日向ぼっこしていると、窓が開いて逃げだし、外に出ると飼い猫のたまがいなくなっていたという。そのときバイクが走っていったと聞いた二人は愉快された可能性が高いと判断。猫の種類はロシアンブルー。

 現場に行こうとする千頭和由愛葉に佐々木もついてくるのは、犯人を取り逃がしたら女の子が大泣きするし、なにかあったら困るからだった。

 こころちゃんに佐々木のことが好きなのを当てられながらも、家の周りを調べると、チャルチュールによく似た猫の餌を見つけ、優希と断言。親御さんに連絡し、防犯カメラの映像をこころちゃんの家のノートパソコンで連れ去る現場映像を確認。「絶対! たまは私が連れてくるから大丈夫! 安心して待っててね!」と、こころちゃんに約束する千頭和由愛葉。

 探偵事務所で映像を詳しく見ると、猫が餌に釣られて窓から飛び出す様子や猫を素早くゲージに入れて、バイクで去っていく様子、肝心のナンバープレートや金髪ピアスをした、いかにも犯罪を犯しそうな顔をした人物までくっきりと映っていた。

 ナンバープレートから持ち主を割り出し、住所などを特定。犯人の家へ向かいながら、いつもはドジっ子と言っている佐々木は「お前は探偵に向いてるぞ」と、たまには良いところも伝えようと思って語りだす。「お前は優しいしお人好しだ。人に優しくできる人がこの仕事に向いてないわけない」

 褒められて嬉しくなった千頭和由愛葉は、「佐々ちゃんは、気を配れるし、しっかりしている。時に優しい。これも探偵に向いてると思うよ」と褒めたら、「時には優しいってどんなところだ?」と聞きかえされる。千頭和は、鈍感と頬を膨らませた。

 犯人の自宅前にくると、金髪のピアスの男が動物のゲージを持ってあるいていた。「お前を誘拐犯として逮捕する‼」千頭和由愛葉は男に手錠をかけて、ケージを確認。中には盗まれた猫がいた。

 睨みつけてくる男に「探偵だ。お前の身柄を動物誘拐で拘束させてもらう」「証拠は揃ってるんだよ、言い逃れなんてしたらただの苦しいだけの人になるぞ」

 千頭和由愛葉は警察に通報し、数分後、警察に男の身柄の受け渡しが完了。こころちゃんの親御さんにも連絡が取れ、こころちゃんに猫を引き渡して猫ちゃん誘拐事件は解決するのだった。


 主人公、千頭和由愛葉と、登場人物である先輩の佐々木宙の紹介から始まっている。だから、どういう人物で、関係性はどうなのかということはわかってから、物語が進んでいくのは読み手にとっては、読み進めやすい。

 児童文庫でよく見られる書き方をされている。


「私は初任務の時から、ドジっ子と呼ばれるようになっている」

 主人公が下着泥棒を追いかけては捕まえそこね、警察に逮捕してもらう様子が全国放送で流れるのを、自分自身で見ている場面が描かれている。

 主人公がどんなドジっ子なのか、わかる場面があるのは良かった。

 ただ、本人も「私の何がドジっ子なんだろ~」と呟くように、この放送が流れても、ドジっ子が今ひとつわからない。

 この番組を見ている人は、ココアシガレットを咥えながらシャーロック・ホームズの着ているインバネスコートとディアストーカーハットを着た女の人が下着泥棒を追いかけては転んだ姿をみて、コスプレした女の人が自分の下着を取られたから追いかけては転んだ、と見たかも知れない。

 ドジというより変な人、という印象のほうが勝っているのでは。

 おそらくこれが、初任務だったと思われる。

 はじめからうまくいく人なんていない。


 主人公が考えているドジっ子が「朝パンを咥えながら走って、曲がり角でイケメンとぶつかり、パンチラしてる女の子だ」とある。

 かつて少女漫画等でよく見られた、ドジっ子キャラの描き方である。遅刻になりそうだからと、パンをくわえながら走る人はいないし、遅刻しそうな時間にのんきに歩いているイケメンもいない。まして都合よくパンチラなんて、リアルではありえない。

 千頭和由愛葉が「私はそんなことない」と言いたい気持ちはよくわかる。


 人物の外見描写が少なく、佐々木先輩の外見描写がないので、「イヤイヤイヤイヤ! 私は違うよ? あんなカッコよくて、頭良くて、しっかりしてて、優しい人。好きじゃないよ?」というのが読者にはわかりづらい。

 佐々木先輩の身長が高いのもセリフでわかる。「まず服装は、お前がそのおかしな格好してるだけだ、そして、上から目線は身長の問題だ。あとは俺が先輩だからだ」

 最初の登場シーンあたりで、佐々木先輩の見た目や有能さがわかる場面や描写があると、もっと面白くなるのではと考える。


 小学生のこころちゃんが、飼い猫「たま」がいなくなったのを、探偵に相談に来ているのが、すごい。

 ご近所では有名な探偵事務所なのかも知れない。

 

「えっとぉ~外に出た時、バイクがぶーんって走っていった」と聞いて、誘拐された可能性を考えている点が探偵らしい。

  

 佐々木先輩が二人を車で運転している。もし、先輩が同行しなければ、こころちゃんの家まで歩いていくつもりだったのかも知れない。こころちゃんは探偵事務所まで歩いていいているだろうから、そんなに遠くに住んでいるのではないだろう。


 こころちゃんに先輩が好きなことを当てられた後の、「クソ……一回り以上の年下にまで言われてしまったではないか……しかも好きバレしてるし」が面白い。

 誰がじゃい、も面白い。

 口の汚いところは、主人公の素の部分かもしれない。

 ひょっとすると、こころちゃんには探偵の素質があるかもしれない。


 こころちゃんの家は防犯カメラがあって金持ちみたいなくだりがある「え、お金持ちすぎない? どうりで家がおっきーわけだ」

 お金持ちの家にも防犯カメラはあるけれど、自衛でカメラを付けている家もいまはあるので、一概に言えない。

 家が大きいのも、車でこころちゃんの家に来たときに、どれほどの大きな家なのかがわかる書き方がされていると、読み手にも伝わると思う。


「フォルダーを探していると、数時間前にバイクで猫が連れ去られいく瞬間が収められている映像があった」と防犯カメラの映像を確認してわかる。

 つまり、こころちゃんは猫がいなくなったとき、両親が仕事でいなかったので、探偵事務所に駆け込んで探してもらおうとおもったことになる。

 なにかお困りのことがあったら気軽にお訪ねください、と周辺の家々にチラシでも配ったり、地域住民との交流を図ったり、あるいはこころちゃんの家と探偵事務所は仲が良かったのかしらん。

 

「飼い猫を連れ去られるなんて、大人でも悲しいのに、子供は尚更だ。私が探偵をしているのは、どんな事件でも、被害者の笑顔を取り戻す。それが仕事であり、私のモットーだ」

 ここの、主人公の探偵に対する思いや理念はすばらしい。


 気になったのは,ナンバープレートから登録情報を割り出し、持ち主を特定するところ。主人公たちは探偵であり、警察ではない。

 その後、犯人逮捕にも向かっている。

 探偵は警察ではない。

 たしかに一般市民にも、現行犯逮捕に限って逮捕権はある。でも捜査権はないので、ナンバープレートから持ち主を割り出すのは容易ではないはず。

 警察関係者に頼めるとは思えないし、闇に流れているナンバープレートの登録データーが存在し、それを活用したのかしらん。この辺は深く考えて引けないのかも知れない。


 犯人は、飼い猫を盗んでどうするつもりだったのだろう。

 雑種ではない、人気の種類の猫を欲しがる人はいる。やはり、転売目的だったのか。あるいは、彼女が猫好きで、買ってとせびられるも高くて変えないから盗んだのか。

 もしくは、自分自身が猫好きだったのか。

 ペットだろうと、他人の持ち物を勝手にとってはいけない。


 読後、なにをやっても空回りしてるわけではない気がする。空回りしているのは、佐々木先輩との恋の関係だろう。事件を解決しながら、少しずつ先輩との仲を深めていくことを願います。


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