サキュバスさん真実を知る

「なるほど、それでつまり……この国では幼い頃より、魔物は滅ぼすべき存在だと認識そのものを植え付けるのか」

「そうね……魔族であればたとえ赤子であっても殺すべきというのが私たちも教わったものなの」

「……へぇ」


 我らがサキアさん。

 既に王女レイナを懐柔し、自身が膝枕をする形でレイナを甘やかしている。


・一瞬してサキュバスさんに王女さんが絆された件について

・いやでも変わりようがおかしいだろww

・人が変わったみたいだもんな

・目の色も変わっただろ……なんか洗脳でもされてたんじゃね?


 それはリスナーの目からも少しばかり異様な光景だったのかもしれない。

 まあ別にサキアが懐柔したとは言ったが特別なことをしたわけではなく、単純にちょっぴり話をしたらこうなっただけだ。


「魔族は確かに危険な奴の方が多いけど、みんながみんな他種族を滅ぼそうと躍起になっているわけじゃない」

「そうね。それはあなたを見ていればわかるわ……今となっては冷静に物事を考えることが出来るもの」


 今までは一切考えるようなことをしなかった……否、考えられなかった。

 この王国に生まれた人間に対して行われる措置のようなものは邪悪そのものであることは分かったが、魔族を滅ぼすモノだと思い込ませること自体はあながち間違いでもないのだが。


「ところでレイナ」

「なに?」

「詳しいことは自分でも分かってないんだが、もしかしたら俺には他人の認識を元に戻す何かがあるのかもしれん」

「それは……確かにそうかもね。あなたを見た瞬間、自分の中で何かが変わったのを感じたもの」


 その結果が変態化とは誰も思うまい。

 今回の出来事を通じてサキアは自分の放つ何かが他人を変える、或いは認識を塗り替える力があることを知った。

 元々サキュバスは放つ魅力がとてつもないことと合わせ、サキア自体が特別だからというのが大きいのだが、流石にサキュバスとしての生が長いせいでその特異性は既に彼女の中では当たり前のことであり気付くのが遅れてしまったのだ。


「以前に勇者にも会ったが……そういうことなのか」

「あ、それでなのね! まあでも今となっては……」


 勇者に関してのこともこれで合点が行った。

 そもそも王都に住む人間がこのような考えである時点で、その人類の希望として勇者に祭り上げられた彼がそうでないわけがない……しかも力がある時点ですぐにサキアに襲い掛かって来てもおかしくはなかった。

 だというのに襲い掛かることはなく話し合いが出来たのだから。


「疑問は解決か……意外と呆気なかったな」


 認識の齟齬として発生した原因が分かった今、サキアとしてはあまりにも簡単に事が済んだことに拍子抜けしている。

 まあこの認識の齟齬の原因が分かったところでサキアとしては何が出来るわけでもないし、そもそも面倒なことをするくらいなら配信をするというのが彼女のスタンスだ。


「これって大丈夫なのか? そういう教えっつうか、そのことに疑問を抱いた時点で何かしら問題が発生したりは?」

「教会としては動くでしょうね。かつてからの在り方に異議を唱えたり、或いは教えを脅かすものは異端だもの」

「……なるほど」


 それならやはり、アリスたちに伝えておいたことは無駄でなかったなとサキアはホッと息を吐く。


「……けれど良い機会なのかもしれないわね。この終わりのない戦いの連鎖、それをどうにか出来る可能性もあるわけだし……そもそも、勇者様が今の在り方に乗り気じゃない時点でね」

「ふ~ん?」

「もしかしたら勇者を起点に何か起こるかもしれないわ。とはいえ、教会がほぼトップに立つような在り方に関してはお父さまやお母さまも常々疑問を抱いているからある意味ちょうど良いのかもしれないわ」

「ほ~」


 その時、サキアは強く閃いた。

 国が傾くような出来事に発展する可能性が無きにしも非ずだが、それはそれで楽しい絵が取れるのではないかとサキアの困った感性が騒ぎ出す。

 魔族はそもそも人間を困らせてなんぼだし、現状もっとも魔族に対して敵意を剥き出しにしているのが王国であるため、その脅威がなくなることは魔王も望んでいるだろう。


(かといって容易に攻め込めるとして手を出されるのもな……アリスを含めて中々面白い人間たちが多く居る場所だ。そこは俺が直々に魔王に言ってみるか)


 そう考えたサキアは話を聞かせてくれた礼だと言って、レイナの頬に手を当てる。

 そのまま伸縮自在の尻尾が彼女に巻き付き、強い力で空中へと持ち上げ……言葉で言い表すならば、とても卑猥な光景が出来上がった。


「な、何をするのよサキア!」

「名前呼びも板についてきたなレイナ――いやなに、話を聞かせてくれた礼にお前が望んでいることをしてやろうと思っただけだ」

「望み……っ♪」


 レイナの頬に赤みが増し、その瞳は期待に満ちてサキアを見つめる。

 彼女の体に巻き付く尻尾は彼女の股を撫で、更には胸の谷間を通過するようにウネウネと動き、尻尾の先端はレイナの口の前で今か今かと侵入の機会を窺っている。


「俺は男より女の方が好きだからだなぁ……ま、嫌な気分にはさせないさ」

「あっ♪」


 ということで、王都で更にサキアの協力者が生まれることとなるのだった。

 かくして王都の人々に何が起きているのかを知ることが出来たサキアだが、彼女の本質はやはり配信活動を楽しむことにある。

 これからどうなるかを期待しつつ、ついでにもっとかき回してやろうと帰り際に王と王妃が住まう寝室にも彼女は現れるのだった。


・一番楽しんでるのがサキュバスさんな件について

・誰もエロには勝てないんだ

・というか画面真っ暗つうか見えなかったけど……

・王女様の喘ぎ声ヤバかったな……

・何回イッ……絶頂したの?

・言い直した意味ないだろww

・チャンネル登録しました!


 この日、サキアの登録者数は爆伸びしたのは言うまでもない。

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