サキュバスさん世界の秘密に近付く
「……一体何が起きていると言うの?」
魔法での通話が終わった後、王女レイナはそう呟いた。
王族の一員に恥じない美しい容姿を持った彼女は王国の王女であり、いずれは勇者と結婚することが決まっている。
「……勇者様が魔族討伐に関して異を唱えるですって? そんなことあっていいはずがないのに……魔族を葬ることこそが今を生きる私たちの使命だというのに」
勇者の突然の変化に戸惑いを隠せないのがレイナだ。
勇者が旅に出る時、彼は必ず魔族を葬ると宣言した――どんなものであっても、戦う力を持たずとも魔に属する者は必ず滅するのだと。
そもそも、戦う力を持たないレイナでさえ魔族は滅ぼす者だと教えられている。
それは今を生きる人間に与えられた使命なのだと……聖女を擁する教会、そして今の王国のトップでもある両親からの言葉なのだから。
「……まあ、かといって旅を止めるわけでもなさそうですし良いでしょう。それよりも、今はこの王都における不思議な現象について究明せねば」
つい先日、教会よりこのような文面が王族に届いたのだ。
『王都に魔族が侵入した形跡あり』
それはレイナだけでなく、王族全てに激震を起こした。
魔に属する者は基本的に王国内に入ることは出来ない……何故なら魔を弾く結界が張ってあるからだ。
どんな力ある存在でも素通りすることは出来ない結界――通ることが出来るのは人間の心を持つ人間……ややこしいが、人間であれば通れるとい極シンプルなものだ。
だからこそ、魔族が入れるわけがない……だというのに、魔の存在が検知されたというのだから大慌てというわけだ。
「……一体何者? 入れないだけならまだしも、聖女の魔法が発動している結界内なのよ? 人間でないならダメージを負うはず……魔族ならそうなるのに……魔族なのに良い魔族とでも言うの?」
それは王女が抱く……抱いてしまった疑問だった。
魔族に良い者は居ない……それは絶対の事実であり、決して魔族に対し心を許すようなことがあってはならないということも教えられているのだ。
「……争いは争いを呼び、人間と魔族の争いはずっと続いている。傷付かない方法があるのならそれを選びたい……魔族に話が通じるのであれば……いいえ、そんなことあり得ないわね」
いや、実はそんな魔族が居るんですよ。
というか割と多く居るんですよとどこかから声が聞こえてくるほどに、どうやらこの国の人々は魔族に対して意図的に閉鎖的な情報を与えられているようだ。
「とにかく早い段階で見つけねば……民たちを守るために」
王女は誓う――全ては民のために。
▽▼
「……あまりにも異常だな」
さて、王女がどうしたものかと悩んでいる最中――原因の中心人物であるサキアは王都の中で情報収集を行っていた。
ジュゲムやアリシアの様子から何かを感じたためだ。
それで王都の街で色々と魔族について聞いた結果、ジュゲムたちと一切関りのない住民との間に認識の齟齬が発生していた。
「……いや、それにしてはジュゲムとアリシアは今日になってからだ。アリスは最初から俺を受け入れはしてくれたが」
とはいえ、こういう時に役立つのが前世の知識だった。
そもそも転生してきた時点でサキアはこの世界の人間や、他の魔族とは考え方と物事の受け取り方が違う。
その時点でこれがおかしいと思えばおかしいと思えるし、何かが違うと思えばそれが違うと考えられる――決してこうだからそうなのだという思考停止に陥ったことはなかった。
「魔族は必ず滅ぼす存在として語り継ぐこと、それが狙いなのか? まるで魔族を邪魔に思う存在が居て、それが無理やりにでも人間たちの認識を固定したような感じさえするな」
何か強大な力が……それこそ恐るべき何かが潜んでいるかもしれない。
それを考えた時にサキアは決してビビることはなく、むしろそれを解き明かしてやろうと好奇心が働く。
サキアはサキュバス……だが転生者であるが故に強力な能力を秘めている。
だからこそ恐れることなク行動することが出来るのだ。
「そうだな……思い切ってこの国のトップを観察してみるか?」
そう言ってサキアが目を向けたのは王城だ。
この国のトップ、つまり王族たちが住んでいる場所……果たして何が出てくるのか楽しみだが、同時に異世界転生っぽいじゃないかとサキアは嗤う。
結局のところ、サキアはとにかく引っ掻き回したいのだ。
異世界から現代に向けて配信をすることで、現代そのものを引っ掻き回すことに快楽を感じるのはもちろん……それは今生きているこの世界も同様だった。
「今夜は王城を映して生配信だな……くくっ、面白いことになりそうだぜ」
ちなみに、サキアのことを唯一知るアリスには気を付けるように伝えている。
元々違和感を感じた時点で魔族に関する認識の違いで周りの人間と言い合いになるなと伝えたが、彼女は最初から分かっていたように頷いた。
『もちろんですよ。サキア様のことしか考えていませんでしたけど、後になって今まで教えは何だったんだろうとここまでの違和感を感じること……これがおかしなことだと分かりますから』
やはり、彼女はサキアが絡めば頼りになる女性だった。
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