サキュバスさん時代の変化を感じる
「……うん?」
「すぅ……すぅ……」
朝になりサキアは目を覚ました。
すぐ傍には裸のまま、サキアに寄り添うアリスの姿……彼女を見た時、サキアは明確に昨晩のことを思い出した。
偶には精気を吸わねばということで、アリスをご馳走になったのである。
「……本来なら記憶を消すところなんだがな」
サキュバスは人間との行為の後は基本的に記憶を消す。
それはサキアにとっても同様のことで今回、アリスとの行為の後に消そうとしたがそれを拒んだのがアリスだった。
『覚えていたいのです……ダメでしょうか?』
その言葉を聞いてサキアは少し考えたが、分かったと頷いて今に至る。
「……あれ?」
「起きたか」
眠たそうに目元を擦りながら状態を起こしたアリス。
彼女は自身が何も着ていないことを思い出したのか胸元を手で隠したものの、その程度で隠せるようなものでもない。
普段の服装では分からなかったが、アリスは意外と気痩せするタイプだ。
「は、恥ずかしいです……」
「……一応女だがな」
「確かにサキア様は女です……でも! サキュバス特有の魔法とかで……その、アレをアレして私を貫いて!」
「だってそっちの方が良いだろうに。俺もそっちの方が良いからな」
アレがアレして貫くについては詳しく説明はしない。
というよりサキアとしては貴族令嬢を傷物にしてしまったのと変わらないが、これについてはアリスが望んだから考えないようにしている。
「それでどうだった? サキュバスを相手にするのは」
「……私、初めてでしたけど……あんなに凄いとは思いませんでしたわ」
「他の人間とまたしたくなったか?」
「なりません! あのような行為はサキア様意外となど!!」
……これは少々、面倒なスイッチを押してしまったかもしれない。
サキアはため息を吐いた後、アリスに風呂場に案内してもらう――そこでもまた一悶着あったが、体を綺麗にした二人は朝食のために広間に集まった。
「おはようアリス。サキア殿も」
「おはよう二人とも」
ジュゲムとアリシアに挨拶をした後、美味い朝食へとありついた。
貴族の嗜みも教育も備わっていないサキアからすれば、アリスたちのように綺麗な食べ方なんて出来ない。
まあ汚すような食べ方ではないが、気品あるかと言われたらそんなことはない。
しかしながらそんなサキアに注意する者は居らず、逆にみんながみんなサキアを見て微笑んでいる。
「美味しそうに食べてくれるなサキア殿は。料理長もさぞ鼻が高いだろう」
「だってマジで美味いからさ。出来るなら毎日食いたいくらいだ」
「ふふっ、彼にも伝えておきましょう。きっと喜びます」
傍に控えるメイド長もこの通りだ。
そんなこんなで朝食を済ませたサキアだったが、ジュゲムの口からどこか他人事とは思えない話を聞いた。
「先日から王城が騒がしくてな。なんでも勇者に関わる何かだそうだ」
「あら、勇者様に何かあったの?」
「詳しくは知らないが……魔族を狩ることに疑問を呈したらしく、それで王を含め王女や側近たちが何事かと騒いでいる」
「……そのようなことが」
おやっとサキアは首を傾げた。
勇者とは以前にリルアと温泉に入っていた際に降ってきた彼のことだが、ちょろっと話しただけの彼が今話題らしい。
(あいつ……何かあったのか?)
別に死んだとか病気になったわけではないようだが、確かに魔族を討つために選抜された勇者がその目的に疑問を持つというのは中々あり得ないことだ。
ジュゲムとアリシアは驚いているものの、アリスに驚きの様子はない……というかジュゲムとアリシアもこのような言葉を続けたではないか。
「魔族は滅するもの……頭ごなしにそれが正しいのか分からなくなってきたな私も」
「そうね……どうしてこんなことを考えるのかしら」
それは間違いなく彼らの中にも変化が起きたことを意味している。
とはいえサキアはその原因が自分であることに気付いていないため、争いがなくなるならそれはそれで構わないとしか思っていない。
さて、勇者の話はこれで終わりだ。
お次の話題についてもサキアは少し耳を傾けることになる。
「それともう一つ、とある娼館の評判が上がっているらしい」
「娼館……?」
「ま、待てアリシア! 別に興味があるとかではなくてだな! 貴族の中でも噂が広がっているだけで耳に入るからだ!」
「分かっておりますとも」
ホッと息を吐いた後、ジュゲムは続ける。
「貴族の利用者が増えているようだ。その娼館に勤めている女性たちがあまりにも美しくなったとか、類い稀なる魅力を発揮するようになったらしい……しかも何やら名も知らぬ女性を崇めているらしく、その女性のようになりたいと強い心を持ち始めたのが変化のきっかけらしいのだ」
「……ふ~ん?」
娼館の女性……これもサキアにとっては記憶に新しいものだ。
以前に助けた女性たち……まさか彼女たちがと思ったが、現時点でそれを確かめる術はない。
(……何かが大きく動いている気がするな)
各地で何かが動いている……その胎動をサキアは明確に感じ取っていた。
ただ、その中心に居るのが自分であると気付くのは果たしていつになるのか……案外最後まで気付かない方がサキアにとっては幸せかもしれないが。
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