サキュバスさん学院へ行く

 諸々が終わって落ち着いた頃……と言ってもサキアがマウストン家の問題並びに娼婦たちを綺麗にしたあの夜から二日後でしかないのだが、サキアはアリスに頼る形で動き出した。


「なあアリス」

「なんですか?」


 もうすっかりとマウストン家の一員とまではいかないが、アリスを含めジュゲムとアリシアから絶大の信頼をサキアは勝ち取っており、客人ではあるが屋敷内での行動制限は全く課されていない。


「アリスが通っている王立学院についてなんだが」

「はい。なんでもお聞きしてくださいまし♪」


 飼い主に懐く犬のように視線を合わせてくるアリス。

 随分懐かれたものだなとサキアは苦笑し、当初の目的でもある配信活動の説明もしながら相談を切り出した。

 最初はアリスもよく分からなそうに首を傾げていたものの、やはり彼女は頭が良いのもあるし何よりサキアのことを好いている……それが大きかったようですぐに理解し頷いた。


「サキア様がやりたい配信活動――簡単に言うとサキア様が扱える魔法によって外部にありのままの光景を映像として届けることが出来る……それで王立学院の様子を見せたいということですのね?」

「そういうことだ」

「もちろん構わないと思いますわ。サキア様のやることですもの!」

「……外部っつうか、他所の世界って部分も簡単に信じたな?」

「だってサキア様ですもの! 私、サキア様の言葉は全て正だと思っていますわ!」


 ……これは信じるというレベルより心酔のレベルでは?

 サキアは訝しんだがそれで害があるわけでもなく困りもしないので、まあ良いかとありがたくその好意を受け取ることにするのだった。


「具体的にはどうするのですか?」

「考えているのは魔法で気配を消し、自由に散策しようと思ってる。特に困ることはないと思うけど、何か気になったものがあった時に聞ける相手が居ると助かる。それでアリスに伝えたわけだ」

「なるほど……ちょっとお待ちになってくださいね」


 アリスは何かを考えるように顎に手を当てた。

 今日は学院があるので彼女は制服姿であり、よくよく考えればサキアにとって学院生をこんなにも間近で見たのは初めてだったりする。


(全体的に白い制服だけど胸元の部分が黒いのか……なんつうか、よく見る胸のラインが分かりやすい服だな)


 なんてことを考えていると、まさかの提案がアリスからされるのだった。


「もしもなのですが……サキア様がよろしければ、一緒に学院に向かいませんか?」

「……え?」

「体験入学というのが出来るのです。通うつもりがなかったとしても貴族の紹介であれば可能でして……その、私が学院でもサキア様と一緒に居たいだけなのですが……どうですか?」

「……ふむ」


 それはつまり魔法で気配を消すことなく、アリスの知り合いでありただの人間として学院に堂々と忍び込むということだ。

 面倒なことが起きそうな予感はひしひしと感じるが、それはそれで面白そうじゃないかとサキアは少し考え……そしてその提案に乗ることを決めた。


「楽しいことは大好きだからな。それも良さそうだ」

「分かりましたわ! それでは早速用意しましょう!」


 パンパンとアリスが手を叩くと屋敷の使用人たちがすぐに跳んできた。

 執事が居るということはメイドも控えており、サキアは彼らとも絶妙なまでに仲良くなっている。


「サキア様に制服の準備を!」

「お嬢様、既に万事整っております」

「いつか見せていただきたいと思い用意をしておりました」

「私は一目見ただけで相手のサイズを把握することが出来ますので完璧です」

「流石はメイド長!」


 ……変人ばかりかな?

 目にも留まらぬ速さで入室してきたメイド長を含む四人のメイドたちはサキアを取り囲み、すたこらさっさとサキアを学院生へと変貌させた。


「おぉ……」


 出来上がったのはエロいドレス姿からかけ離れ、キッチリと制服を着込み抑えきれないエロスを悶々と漂わせるサキアが完成した。

 白を基調とした部分は清楚な雰囲気を漂わせているものの、大きすぎる胸を包み込む胸部から形の良い尻のラインはこれでもかと女を意識させ、間違いなく他の男の視線を奪い去ること間違いなしだ。


(……女子の制服か……まさかこんなことになるとはな)


 女装の趣味はないが、それでも今のサキアは女である。

 サキュバスとしての生もそれなりに長く、サキュバスの生き方を受け入れているということは女の恰好をすることに抵抗はない……つまり、サキアは今の制服姿の自分を見て中々良いじゃないかと満足していた。


「す、凄いですわぁ……サキア様ぁ♪」

「おい。鼻血出てるぞアリス……ってアリスだけじゃねえ!?」


 アリスとメイドたちは揃ってその鼻から大量の赤を噴出させていた。

 主人が主人ならメイドもメイドだと呆れるサキアが部屋から出ると、すぐに鼻血を拭いてアリスが合流した。


「失礼しましたわサキア様」

「あぁ……」


 まあでも気持ちは分からないでもなかった。

 自分自身にサキアが興奮することはないが、やはり人間のまま出会ったらどうなるか想像に難くないためである。

 ジュゲムとアリシアにも事情を説明した後、サキアはアリスと共に学院へと向かうのだった。


(くくっ、めっちゃ楽しみだぜ!!)


 配信にとって良い取れ高がありそうだと期待に胸を膨らませるサキア。

 彼女が学院に着いた時、早速一つの事件が起こった。


「一目見ただけでこの胸の高鳴り……あぁそうか! これが真実の愛!」

「何言ってんだ」

「何言ってるんですか」

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