サキュバスさんサキュバスについて語る
「それではお姉さま……」
「あぁ。まあそんな顔をするな――いつでも来い」
「あ……はい!」
飛び付いてきたリルアをサキアは抱きしめた。
リルアがどうしてこんな様子なのかと言うと、これから彼女はサキュバスの里に戻るからだ――定期連絡を含め、しっかりと組織に属する彼女が永遠に席を空けておくわけにもいかない。
「よしよし、じゃあな」
「……また絶対来ますからね!」
離れたリルアは絶対に振り向かないという固い意志を漂わせていた。
本当に最後の瞬間まで振り返ることなく魔法陣でリルアは転移し、その瞬間に訪れたのは騒がしさのない静寂……ちょっとだけサキアは寂しさを抱く。
「やれやれ、一人旅には慣れたつもりだったんだが……ま、あの様子だとまたすぐに会うことにはなりそうだ」
サキアもその場から離れるように見晴らしの良い高台に向かった。
早速魔法を発動することで配信の準備を開始し、待ちに待ったリスナーたちの反応を見る瞬間がやってきた。
「おっす~。今日もやってくぞ~」
いつもと同じ雰囲気で始まったサキアによる配信だが、やっぱりコメント欄の流れはいつも以上に爆速だ。
・待ってました!
・サキュバスさんって実在したのか!?
・ニュースになってたよ!
・異世界って本当にあるの!?
・最初からそう言ってんだろサキュバスさんは!
・俺は信じない
・あり得るわけがない
・ま~だ信じられない人が居ます
・まあこればっかりは仕方ないって。でも俺は信じてる
・私も信じてる!!
「盛り上がってるねぇ。まあ色々と騒ぎになってるのは承知してるけど、俺自身は本物のサキュバスとしか言えないわけだ。つってもまさか、本当にそっちの世界に行けるとは思わなかったけど」
どういう経緯で現代に移動したのかを話すと、現代の人間も異世界に行けるのかという質問が多発したが、それについては分からないしやる気もないと伝え、更には今のところそれが出来るのは自分だけとも伝えた。
「信じる信じないかはリスナーの自由だ。まあSNSでよく見る持病が悪化して余命宣告されたから金を配るっつうホラ吹きなんぞよりは信じて良いと思うぞ」
・あんなの引っ掛かる奴居ねえよ
・ところがどっこいリプもリツイートも大量に居ます
・あれってネタとしてやってるんじゃないのか?
・信じてる奴はいないと思いたいねぇ……
・あんなの詐欺って分かるのに恥ずかしげもなく引っ掛かる奴居るからな
・あんなのよりサキュバスさんみたいなエロいのを信じた方が良いって
・それな!
現代には色々な人がSNSを活用しているため、サキアが口にしたような例でなくとも詐欺を働く人間は多い。
そんな分かりやすい嘘を信じるよりも、俺のことを信じろと言わんばかりのサキアの言葉に、リスナーの大半が頷いているというのも中々凄い光景だ。
「あぁあと、リルアはしばらく配信には出ないと思う」
・え……
・俺の天使が……
・リルアたん……
・どうしてだよおおおおおおおお!!
・もうだめだぁおしまいだぁ……
・草
・気持ちは分かる! 幼いサキュバスのリルアちゃんはアイドルやった!
「馬鹿言うなよ。見た目は幼いがあいつは年齢だけなら大分上だぞ」
・ろりばばぁ……ってやつ!?
・魔族ともなると何百歳ってレベルだろうしな
・それはそれでありでは?
・むしろ自分より幼い見た目の女の子に手取り足取り……
・ごくり
・でも実際、サキュバスの人たちがそういうことをしてくれる店とかあったらめっちゃ繁盛しそう
「そういう店が意外とないんだなこれが。人間が運営する娼館はもちろん存在はしてるけど、サキュバス……というより魔族と人間が争い続けてるから難しいんだよ」
だがと、サキアは少しだけ考えてみた。
サキュバスの中には個性などはもちろんあるが、エロ方面に関する技などについては種族本能的な部分で染み付いている。
サキュバスとの行為で人間が不快感を感じることは極稀であり、ほぼ全ての人間が良い夢を見たと翌日を頑張れるくらいなのだから。
「現代の方だとエロ本とかで耐性とか憧れはあるんだもんな――リスナーの男たちなら目の前にサキュバスが現れても怖がる……かもしれんが、すぐに受け入れるか」
・もちろん!
・サキュバスさんとかリルアさんに相手してもらいたい!
・絶対したいに決まってる
・でも実際問題、人じゃない存在が現れたら怖いかも
・魔法とか使われたら速攻で殺されそうだし
・あ……確かに
本当に賑やかなコメント欄だとサキアは笑う。
「まあでも、実際にサキュバスに相手してもらうってなったら彼女とか奥さんを持ってる人はやめた方がいい。サキュバスは相手とする時、とにかく相手を溶かすほどの快楽を与えて幸せにするんだ――愛は消えずとも、絶対に普通の人間が相手だと物足らなくなるからな」
そこまで言うとコメント欄の動きが少し止まった。
今のは嘘でも何でもなく、意外と異世界でも起こっている現象の一つでサキュバスクイーンが最後に記憶を消すように口酸っぱく言うほどなのだから。
「よっぽどサキュバスの腹が減ってる場合、まだ出なくても強制的に出させたりする時もあるらしいからまあやめとけ。そっちの世界に人間しか居ないのを喜んでおくべきだぜ」
それでも怖いもの見たさというか、それで破滅しても良い人間ってのは居るらしく変にまたコメントは盛り上がるのだった。
「……はてさて、今度はもう少し長くそっち側で配信とか……或いはリスナーと話をする瞬間でも流せば嫌でも信じられるだろうし、もっともっとかき回せるだろうな」
それは新たなサキアの野望だった。
サキュバスとしての彼女はもっともっと現代を侵食し、凄まじいほどの爪痕を残すことになる……それが本当に楽しみでたまらないと、彼女は獰猛な笑みを浮かべて来たる日に期待するのだった。
【あとがき】
こちらの作品はあくまで短編みたいなものなので、後数話でおそらく終わります!
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