サキュバスさん愉悦が止まらない
その日、現代は大変な混乱を招いていた。
ニュースにもなってしまうほどの驚きとして、人間ではないサキュバスが現代に現れたというビッグニュースだ。
もちろんこんなものが本当だと信じる人はまだまだそこまで居ないだろうが、映像と目撃者が居ることが何より大きい。
『これは映像の合成ではないのでしょうか? 元々、このサキュバスチャンネルはそういった趣向のチャンネルと聞き及んでいますが』
『違います。彼女はしっかりと自分が異世界の住人であると明言しています。もちろんそれを真正面から信じた人は居ませんでしたが……彼女の配信は動画編集のプロなど、世界各国の人間が検証した結果――あり得ないことに彼女の動画は全て合成でも何でもないという結論が出ているんですよ』
『何を言ってるんですか。この世界に人間以外の喋る存在が居るって? 宇宙人の存在は仄めかされていましたけど、魔法なんて非科学的なものがあるとでも?』
『ではここまで説明された上でお聞かせください――ではこれをどう説明するのでしょうか?』
とまあこのように、テレビの向こう側ではコメンテーターが熱く議論を交わしているわけだ。
『確かに……確かに私を見て手を振ったんです! その……何故かその後すぐに眠ってしまったんですけど、あれは絶対にサキュバスさんでした! というか人間ではありませんでした!!』
サキュバスさんを目撃し、手まで振り返されたという女性のインタビューだ。
女性はサキュバスさんに会えたことを大変嬉しそうにしているあたり、彼女は女性でありながらリスナーのようだ。
もちろん、インタビュー映像だけではない――建物に設置されている監視カメラが空を飛ぶサキュバスさんを捉えている映像も流された……ただ、微妙にぼかしており全貌は見えない。
これは当たり前のことで、日中から彼女のようなエロの権化を映すわけにいかないからである。
『俺が住んでるのは異世界だよ。ほら、その証拠にこんな風にな』
テレビ画面で彼女の配信が流れている……これは許可を取ったのだろうか。
まあそれは置いておくとして、サキュバスさん……サキアが発動する魔法の数々出あったり、現代で見ることの出来ない大地と建物などがこれでもかと映され、全くネットのことを知らない人にさえ彼女は周知された。
『信じる信じないはどうでも良いんだよ。俺は異世界のサキュバス――ちゃんと存在していることが知られればそれでな』
これはもうしばらく、ニュースから彼女の話題が尽きることはなさそうだ。
▽▼
さて、そんな風に異世界からSNSを眺めているサキアはというと……。
「はっは~!! こいつは傑作だな!」
朝一番の温泉に浸かりながら、小さな子供のように足でバタバタと水面を揺らしていた。
サキュバスという存在が現代に現れる……それは今までになかった常識を根本からぶち壊すレベルのもので、多大なる困惑が現代には生まれている。
だがしかし、そんなものはサキアの知ったことではない。
彼女の目的は現代を引っ掻き回し、その上で楽しむことなのだから。
「こいつは今日の配信が楽しみだな……はてさて、どんな配信になるのやら」
とはいえ、サキアからすれば今日はずっとSNSを見ていてもそれだけでお腹がいっぱいになりそうだった。
「お姉さま、とても機嫌が良さそうですね!」
傍に控えているリルアも愛する姉貴分の様子に微笑んでいる。
それだけサキアも機嫌が良いといつもはしないことをしたくなり、リルアのことを思いっきり抱きしめた。
そのままリルアの小柄でありながら豊満な肉体のありとあらゆるところを愛撫し、気付いた頃にはリルアはビクンビクンと体を震わせていた。
「おっと、楽しくてついやっちまった」
「ぜ、全然いいでしゅ……ふみゃぁ♪」
完全に出来上がってはいるが、サキアの愛撫にリルアは身を委ねる。
そんな風にサキアはリルアの体をこねくり回しながら配信内容を考えていた正にその時だった。
「?」
「なん……ですか?」
ピカッと空が光り、何かが流星のように降ってくる。
そこまでの危険を感じなかったのもあるが、強大な力を持つサキアだからこそ慌てる必要がそもそもない。
その流星はそのまま温泉へと着弾し、大きく水しぶきを吹き上げた。
「おぉ……」
「……人?」
そう――流星のように人が降ってきたのだ。
ぷっかぷっかと水面に浮かぶのはボロボロの鎧を纏った幼い少年――このままだと流石に溺死すると思い、サキアは魔法で少年を浮かした。
「どっかで見た顔だな……」
「私もどこかで見たことがありますね」
その少年の顔はどこかで見たことがある……そんな錯覚をサキアは覚えた。
息があるので死んではいないことを確認したところ、リルアがハッとするように大きな声を上げた。
「あ! 勇者ですよこの人!」
「……あ」
勇者……それは魔王を倒すために選ばれた人類の希望だ。
サキアはリルアがそう言ったことで勇者の顔を思い出し、魔法で浮かせている彼をどうしようかと考えるのだった。
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