サキュバスさん伏線を張る
その日は夜の配信だった。
異世界も現代も星空は似たようなものだが、遠くから聞こえてくる獣の遠吠えがリスナーにとっては心地良いASMRみたいなものらしい。
・これって犬?
・犬ってか狼?
・可愛い遠吠えに聞こえても俺たちが出会ったら殺されるくね?
・陸地のサメみたいなもんだろ。出会った瞬間バラバラだわ絶対に
・今日も二人を見れて幸せだわ
・リルアちゃんマジで可愛い
相変わらずコメント欄は大きく盛り上がっており、同時接続も安定の三万人を突破しているくらいだ。
ちょうど同時刻に超大手のアイドル系Vtuberの生誕祭配信がやっているようだが、そちらは十万人を突破しているとのことでやはり有名どころはとてつもない数字を叩き出している。
「やっぱり大手のVtuberってのは凄いな。別にそこまでの数字を狙っているわけじゃないけど、中々出来るもんじゃないな」
「Vtuberって何ですか?」
「自分とは違う別のキャラの皮を被る……じゃなくて、これに関してはまた詳しく教えてやるよ」
「はい! ありがとうございます!」
・サキュバスさん危ない!
・今の発言はちょっとヤバいぞw
・でも間違ってなくね?
・いまだによく分からんVtuberアンチは居るから危ない発言よ
・絵なんかにスパチャばっかしてる気狂いの多い界隈ww
・文字風情がなんか言ってるわ
・自分じゃ有名になれないから嫉妬してんのよ
サキアの発言を皮切りに少しばかりコメント欄が香ばしくなってしまい、サキアは諭すように口を開いた。
「ま、色んな考えの人が居るとはいえ他人が嫌がることは書かないでくれな? そっちだと誹謗中傷とか対立煽りとか色々大変らしいし」
「……お姉さま凄く詳しいですね」
サキアの秘密を知らないからこそ、リルアとしても不思議な気持ちだ。
ちなみにリルアはサキアのことを全面的に信頼しており、サキアが言ったことはどんな言葉でも正である――たとえ分かりやすく違いがあったとしても、サキアが口にしたことは全てが正……なので完全に心酔している。
「見る機会はあったからな。何かを目標として頑張っている人の配信にも空気の読めない言葉を残したり、面白がって荒らしたりとか……生憎とそいつらの思考回路はマジで理解出来ん」
「なるほど……確かに傷つく言葉を言うくらいなら殴って来いって感じですもんねこっちだと。生きるか、死ぬか……こっちだととても分かりやすいです」
・生きるか死ぬか……怖いよ異世界
・誹謗中傷した奴は例外なく逮捕されればいいんだよ
・普通に嫌うだけなら良いんだよ。それを表に出さなければ
・まあでも、確かに誹謗中傷する奴の思考回路はマジで分からん
・最近ネットも厳しくなったのに続ける馬鹿居るしな
どうやらリスナーの人たちも考えることがあったようだ。
それからしばらくいつもと同じように雑談を楽しんでいたところ、木に背中を預けるサキアはリルアを抱き寄せた。
彼女を股の間に座らせるようにすることで、サキアに背中を預けるリルアがリスナーには届けられている。
「さてと、ここからはリルアに頑張ってもらうか」
「あ、そういうことですか! 分かりました!」
実は今日も少し変わり種の配信がしたいということで、リスナーが気になることに対してリルアが中心となって答える質問コーナーを設けようと考えたのだ。
本日の趣旨を説明すると、多くの遠慮の無い質問が飛び交う。
・リルアちゃんは彼氏いないの?
「お姉さまが居ますもん!
・リルアちゃんはサキュバスさんのどんな所が好きなの?
「全部です!」
・そっちの世界で女性を襲う魔物って居るの?
「居ますよ。ゴブリンやオークなんかは女性を求めて徘徊していますし、運悪く捕まってしまって逃げられなかったら苗床確定です」
・そうなるとサキュバスって大変じゃない?
「それが全然大丈夫なんですよ。彼らよりリルアたちの方が性欲が強いので、逆に怖がられて襲われないんです」
・どれだけ性欲強いの?
「お姉さま相手なら三日三晩寝ずとも行けます!」
・どんな体位が好きなの?
「体位……? やっぱり正面から抱き合いながらキスも一緒にされるのがとても大好きです!」
・リルアちゃんは今まで何人と経験――
っと、その辺りでサキアは質問コーナーを終わらせた。
別に何でもかんでも答えていいものだが、リルアは聞かれたことに全て答えてしまう……それは悪いことではないけれど、サキュバスである以上普通の人間が持つ羞恥心がないため、そのうち放送禁止用語さえもぶっこみそうになると思ったからだ。
「あっとそうだ――なあリスナーのみんな。俺たちが本物のサキュバスかどうかに限らず、もし会えるとしたら嬉しいか?
・え……?
・どういうこと!?
・会えるの!?
・俺たちが異世界に行くのか!?
・転生の時が来たか
・会いたい!
とまあ、当たり前のように会いたいという言葉で埋め尽くされる。
まあ基本的にこういう問いかけを普通の配信者然り、Vtuberがしたりすると決まってこんな流れにはなるのだが、そのテンプレを見てサキアは微笑む。
「もしかしたら……くくっ、色々と出来るかもしれないからなぁ」
「お手伝いしますよお姉さま!」
その日、リスナーのみんなは何かを感じ取った。
それはサキアとリルアが何かを仕出かしてくれるのではないか、何か伝説と言う名の革命を起こしてくれるのではないか……そんなことを思わせたのだ。
そして、それは全ての人々に伝わるものではないが……確かな現実として彼らはそれを体験することとなる。
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